幼馴染みを飛び越えて

三ツ葉りお

文字の大きさ
上 下
4 / 10

ある青年の想い

しおりを挟む
 珍しいと言うか有り得ないものを見て、周囲を注視していると、流石と言うか当たり前と言うか、花ケ崎はながさきさんに気付かれないように五宮いつつのみやの警護が数人、そこかしこに配置されていた。

(ケンカでもしたのかねぇ~?)

 しかし、ここで話しかけねば男じゃない。
今までは五宮が四六時中ベッタリで、それ以外は彼女自身の真面目さ・一生懸命さが起因し、生徒会、部活、行事などでいつも忙しく....ほぼ親しくなる隙がなかった。

「花ケ崎さん!」
「あら、麻宮あさみやくん。おはよう」
「お、おはよう! 君が学園まで歩いてくるなんて、珍しいね」

(ァーー~ーやっぱハンパなく可愛い。
そんじょそこらのアイドルや女優なんて、比較にすら値しない。写真撮影さえ許さないってのは、俺が五宮の立場でもそうするだろうな....)

 ろくに会話したこともない俺の名前さえ、彼女はちゃんと知ってくれていた。
それこそが、彼女を完璧女帝パーフェクトクイーンと呼び慕う所以ゆえんでもあるが.....実質、学園に多額の寄付を行っている皇帝キング.....五宮の影響も大きい。

 どうせ五宮のガキは由緒正しい五宮家の外せない用事などで遅れて来るだけだろうと思って言った俺の言葉で、花ケ崎さんの表情が少し、曇ってしまう。

「...ええ。これからは歩いて通うことになると思うわ」
(え...?)

「今まで送ってくれていた幼馴染みには、婚約者が決まったらしいの。これ以上、幼馴染みというだけで送迎まで甘えるのは、どうかと思って.....」
(マジか....!)

 彼氏面で花ケ崎さんの隣を独占し、近付くものをことごとく排除してきた学園の皇帝・五宮 綠。
 あいつが一方的に花ケ崎さんを追いかけていただけだとは、思わなかった。

(花ケ崎さんも五宮を思っているから、隣を許しているのかと思っていたが...本当に幼馴染みとしての情だけだったなら──────チャンスでは???)

「それはとても良いことだと思うよ! 幼馴染み卒業、素敵だね。応援するよ!」
「ありがとう」

(......っ...)

 春風に舞い上げられた桜の花弁に紛れ、消えてしまいそうなほど儚く、花ケ崎さんが微笑む。

(俺なら、こんな表情、させないのに)
 一瞬で、欲が湧いた。

「じゃあ、今日の放課後、俺と...」
 上げた掌が花ケ崎さんの肩に触れるより早く、慌てた声が彼女の気を逸らした。

「桐香!!!」
「綠....?!」

 声の主を見遣る花ケ崎さんの横顔を見て、俺にはチャンスなんてこれっぽっちも無かったのだと、痛いほど理解した。

(────悔しいけど。あんな顔、されちゃあな....。それに)

 普段は何にも興味ないと言わんばかりで偉そうに、必要最低限の事しか語らない皇帝が、花ケ崎さんの横に立つ俺に慌てて走ってきたという事だけで、何だか満足できてしまった。

「花ケ崎さん、先に教室へ行ってるね」
「えぇ。またね、麻宮くん」

 大股で距離を詰めてくる五宮に場を譲り、彼らに背を向けた俺は、少しだけ痛む胸に気付かぬ振りをしながら、学舎へと歩みを進めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

拝啓、大切なあなたへ

茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。 差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。 そこには、衝撃的な事実が書かれていて─── 手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。 これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。 ※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

【完結】婚約から始まる恋愛結婚

水仙あきら
恋愛
「婚約を解消しましょう。私ではあなたの奥方にはなれそうもありませんから」 貧乏貴族のセレスティアにはものすごく横柄な婚約者がいる。そんな彼も最近ではずいぶん優しくなってきたと思ったら、ある日伯爵令嬢との浮気が発覚。そこでセレスティアは自ら身を引こうとするのだが…?前向き娘とツンデレ男のすれ違い恋物語。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

処理中です...