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ある青年の想い
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珍しいと言うか有り得ないものを見て、周囲を注視していると、流石と言うか当たり前と言うか、花ケ崎さんに気付かれないように五宮の警護が数人、そこかしこに配置されていた。
(ケンカでもしたのかねぇ~?)
しかし、ここで話しかけねば男じゃない。
今までは五宮が四六時中ベッタリで、それ以外は彼女自身の真面目さ・一生懸命さが起因し、生徒会、部活、行事などでいつも忙しく....ほぼ親しくなる隙がなかった。
「花ケ崎さん!」
「あら、麻宮くん。おはよう」
「お、おはよう! 君が学園まで歩いてくるなんて、珍しいね」
(ァーー~ーやっぱハンパなく可愛い。
そんじょそこらのアイドルや女優なんて、比較にすら値しない。写真撮影さえ許さないってのは、俺が五宮の立場でもそうするだろうな....)
ろくに会話したこともない俺の名前さえ、彼女はちゃんと知ってくれていた。
それこそが、彼女を完璧女帝と呼び慕う所以でもあるが.....実質、学園に多額の寄付を行っている皇帝.....五宮の影響も大きい。
どうせ五宮のガキは由緒正しい五宮家の外せない用事などで遅れて来るだけだろうと思って言った俺の言葉で、花ケ崎さんの表情が少し、曇ってしまう。
「...ええ。これからは歩いて通うことになると思うわ」
(え...?)
「今まで送ってくれていた幼馴染みには、婚約者が決まったらしいの。これ以上、幼馴染みというだけで送迎まで甘えるのは、どうかと思って.....」
(マジか....!)
彼氏面で花ケ崎さんの隣を独占し、近付くものを悉く排除してきた学園の皇帝・五宮 綠。
あいつが一方的に花ケ崎さんを追いかけていただけだとは、思わなかった。
(花ケ崎さんも五宮を思っているから、隣を許しているのかと思っていたが...本当に幼馴染みとしての情だけだったなら──────チャンスでは???)
「それはとても良いことだと思うよ! 幼馴染み卒業、素敵だね。応援するよ!」
「ありがとう」
(......っ...)
春風に舞い上げられた桜の花弁に紛れ、消えてしまいそうなほど儚く、花ケ崎さんが微笑む。
(俺なら、こんな表情、させないのに)
一瞬で、欲が湧いた。
「じゃあ、今日の放課後、俺と...」
上げた掌が花ケ崎さんの肩に触れるより早く、慌てた声が彼女の気を逸らした。
「桐香!!!」
「綠....?!」
声の主を見遣る花ケ崎さんの横顔を見て、俺にはチャンスなんてこれっぽっちも無かったのだと、痛いほど理解した。
(────悔しいけど。あんな顔、されちゃあな....。それに)
普段は何にも興味ないと言わんばかりで偉そうに、必要最低限の事しか語らない皇帝が、花ケ崎さんの横に立つ俺に慌てて走ってきたという事だけで、何だか満足できてしまった。
「花ケ崎さん、先に教室へ行ってるね」
「えぇ。またね、麻宮くん」
大股で距離を詰めてくる五宮に場を譲り、彼らに背を向けた俺は、少しだけ痛む胸に気付かぬ振りをしながら、学舎へと歩みを進めた。
(ケンカでもしたのかねぇ~?)
しかし、ここで話しかけねば男じゃない。
今までは五宮が四六時中ベッタリで、それ以外は彼女自身の真面目さ・一生懸命さが起因し、生徒会、部活、行事などでいつも忙しく....ほぼ親しくなる隙がなかった。
「花ケ崎さん!」
「あら、麻宮くん。おはよう」
「お、おはよう! 君が学園まで歩いてくるなんて、珍しいね」
(ァーー~ーやっぱハンパなく可愛い。
そんじょそこらのアイドルや女優なんて、比較にすら値しない。写真撮影さえ許さないってのは、俺が五宮の立場でもそうするだろうな....)
ろくに会話したこともない俺の名前さえ、彼女はちゃんと知ってくれていた。
それこそが、彼女を完璧女帝と呼び慕う所以でもあるが.....実質、学園に多額の寄付を行っている皇帝.....五宮の影響も大きい。
どうせ五宮のガキは由緒正しい五宮家の外せない用事などで遅れて来るだけだろうと思って言った俺の言葉で、花ケ崎さんの表情が少し、曇ってしまう。
「...ええ。これからは歩いて通うことになると思うわ」
(え...?)
「今まで送ってくれていた幼馴染みには、婚約者が決まったらしいの。これ以上、幼馴染みというだけで送迎まで甘えるのは、どうかと思って.....」
(マジか....!)
彼氏面で花ケ崎さんの隣を独占し、近付くものを悉く排除してきた学園の皇帝・五宮 綠。
あいつが一方的に花ケ崎さんを追いかけていただけだとは、思わなかった。
(花ケ崎さんも五宮を思っているから、隣を許しているのかと思っていたが...本当に幼馴染みとしての情だけだったなら──────チャンスでは???)
「それはとても良いことだと思うよ! 幼馴染み卒業、素敵だね。応援するよ!」
「ありがとう」
(......っ...)
春風に舞い上げられた桜の花弁に紛れ、消えてしまいそうなほど儚く、花ケ崎さんが微笑む。
(俺なら、こんな表情、させないのに)
一瞬で、欲が湧いた。
「じゃあ、今日の放課後、俺と...」
上げた掌が花ケ崎さんの肩に触れるより早く、慌てた声が彼女の気を逸らした。
「桐香!!!」
「綠....?!」
声の主を見遣る花ケ崎さんの横顔を見て、俺にはチャンスなんてこれっぽっちも無かったのだと、痛いほど理解した。
(────悔しいけど。あんな顔、されちゃあな....。それに)
普段は何にも興味ないと言わんばかりで偉そうに、必要最低限の事しか語らない皇帝が、花ケ崎さんの横に立つ俺に慌てて走ってきたという事だけで、何だか満足できてしまった。
「花ケ崎さん、先に教室へ行ってるね」
「えぇ。またね、麻宮くん」
大股で距離を詰めてくる五宮に場を譲り、彼らに背を向けた俺は、少しだけ痛む胸に気付かぬ振りをしながら、学舎へと歩みを進めた。
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