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出発!年末進行!!
聖なる夜の過ごし方②
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◆◆◆
冬至を越えても、日が沈むのは釣瓶落としの如く早い。
時刻は夕時だというのに、三人は朱美を筆頭に黙々と作業に打ち込んでいた。
クリスマスなのだからもっと盛り上がりそうな音楽でも掛ければいいのに、部屋には誰も見ていないニュース番組だけが流れている。
同人誌の世界のカリスマであるマリメロンも伊藤ちゃんも、この時期は本業が忙しい。それはわかりきったことだ。回避するには一人で頑張るか、新規で誰かを雇うしかないのに、どうも朱美はそのピンチを前者で乗りきろうとする。そしていつも自分一人では収拾がつかなくなるのだ。ヤバくなって素人にヘルプするくらいなら新たなアシスタントを募集すればいいのに、どうしてもそれは気が進まないらしい。
「そういえば…… 」
「なに? 」
数十分に渡る沈黙を破ったのは朱美だった。朱美は椅子の上で立て膝をついた姿勢を正しながら、何かを思い出したかのように息吹こう話しかけた。
「息吹は時差は平気だった? 休日とはいえ、昼間に起きとくのはシンドくない? 今日も午前中から来てもらってるし 」
「ああ…… 私は今月から暫く日勤だから 」
「えっ? 日勤? 」
「うん。まだ、ちょっと時差ボケはしてるけどね 」
「そうなんだ。珍しいね 」
「……ちょっと、サブロクに引っ掛かっちゃって 」
息吹は何だか歯切れの悪い返事をする。息吹の先日の荒れっぷりを察していた野上は、その朱美のブッコミ具合に少しギクリとする。しかし朱美はそんな息吹や野上の様子を気にするようなこともなく、こう話を続けた。
「そうなんだー。でも、ちょうどいいじゃん。息吹はいつも働き過ぎだもん 」
「それは…… まあ、確かに反省はしてるけど 」
「でもさ、ちょっと油断すると直ぐに四十五時間とか超えちゃうよね。私も会社員してたときは、けっこう苦労したよ 」
「えっ? そうなの? 」
「うん、一応売り場は小さかったけど、一応 店長だったから。テナントだったから、助かった感じ。完全退館時間がなかったら、エンドレスで残業してたと思う。本当は駄目なんだけど、こっそり仕事を持って帰ったりもしてたしね。シフトを組むのに、いつも時間が掛かっちゃってさ 」
「えっ! 朱美にも、そんな真面目な時代があったの? 」
「私だって短大卒業してホヤホヤな頃は、それなりには頑張ってたよ? 夜な夜な漫画も描いてたし。あっ、でも真似しちゃ駄目だからね。ご時世的にもコンプライアンスは守らないと 」
「真似するわけないでしょ。つーか、一応私は公務員だから機密情報は持ち出せないし…… 」
「まあ、確かに。それもそっか 」
朱美はアハハと咳払いすると、ニヤニヤと笑みを浮かべる。そんな豪快な朱美の素振りを見て、息吹は仏頂面を決め込んでいた。
そして野上はというと、何か得るものがあったのか 二人の様子を食い入るように凝視していた。
「でもさ、息吹。昼間の方が体も少しは楽でしょ? 夜に暗い部屋で寝るのって、至極幸せだよね 」
「まあ、それはそうだけど…… 」
「それにたまには日勤の方が、野上さんと時間合わせやすくなったんじゃない? 」
「えっ? 」
息吹はハッとした表情を浮かべると、顔を赤らめながら野上の方を確認する。
すると野上も不意討ちな巻き込み攻撃に驚いたのか、一瞬手にしていた面相筆が転がり落ちそうにになっていた。
「あのさあ、朱美…… 」
「なに? 」
息吹は頭を抱えながらも、朱美への反撃を企てる。野上がこの場にいる手前、一方的に攻められるのはどうも癪に感じられた。
「朱美こそ、最近は夜型生活をしてないよね? 今日も普通に日中に起きてるし? 」
「うん、まあ…… 」
「朱美って、ここ数年は夜行性じゃん? 珍しいよね。もしかして今日は完徹ってこと? 」
「いや、そういう訳ではないけど 」
「じゃあ…… 健診で引っ掛かったとか? 」
「ううん、別に健康 」
朱美も何かを察したのか、いつも以上にスットンキョンな言動が増していた。
息吹は野生の嗅覚で、何か面白そうな事情を掻き分ける。
今度はこちらの番だ。こうなったら、こっちも少しはやり返したい。すると息吹はこれはチャンスとばかりに、更に追い討ちをかけた。
「じゃあ、なんで昼間に起きてるの? もしかして吉岡さんに何か言われたとか? 」
「へっ? 」
「え゛っッ!? 吉岡パイセン、生活スタイルまで干渉するんですか? 」
「いや、そんなことはないですけどぉ…… 」
「じゃあ、何故ですか? 」
さっきから控え目だった野上も、流石にこれには食い付いてくる。あちこちから質問攻めにあって、朱美はすっかりタジタジ状態。あっさりと二対一の形勢逆転だった。
「昼夜逆転生活してたら、吉岡に迷惑がかかるから。前は夕方に起きてたけど、今はお昼までには起きるようにしてて。
私が原稿サボらないように、夜は監視されたりするんだけど、それだと吉岡が寝る時間なくなっちゃうから 」
「うわー 吉岡パイセン、エグいですね。めっちゃ体を張ってるじゃないですか 」
「うーん。まあ、私がちゃんと原稿進めないのが全ての元凶なんですけどね 」
今頃 福岡の地にいる吉岡を会話の主役に祭り上げるのは少し申し訳ない気もするが、その方が面白いのだから仕方がない。
野上も息吹もクスクスと笑いを堪えながらも、さらに朱美にこう質問を続けた。
「やっぱり吉岡パイセンって、意外とSっけ強そうですよね。独占欲も凄そうだし 」
「ハアっ? 」
「そうだね…… 朱美のこと心配で大切なんだろうね 」
「いや、それは…… 原稿を持って帰らなくてはいけない編集者としての使命からだと思うけど 」
「で、どうなの朱美? 実際のところは? 」
「えっ? それはその…… 」
完全に茶化されている……
朱美は沸騰した やかんのように急に顔から湯気を出すと、その場で頭を抱え込む。
身から出た錆だ。嘘や誇張は良くない。
だけど吉岡の名誉のためにも、誤解を招くような発言は避けたいところだ。
「否定しないってことは、やっぱりパイセンは押しが強いんですね!? 」
「いや、だから押しというか…… その、攻められる。そう、攻められるんだよね 」
「「攻めらる? 」」
息吹と野上は二人して、朱美の発した単語に子首をかしげる。朱美も自分で言っておきながら、訳がわからない。
……いや、ちょっと待て。
攻められるって、全然フォローになってなくないか?
いや、むしろ言葉の響きとしては悪化しているし、普通に吉岡の名誉を毀損しているではないかっッ。
朱美は青ざめながらも、少し遅れて自分がとんでもない墓穴を掘ったことに気がつくと、不自然な作り笑顔を振り撒いて巻き返しに徹し始めるのだった。
「そう! 吉岡はいつも(仕事に) 貪欲だから、昔から攻めのスタイルを貫いてるの! 」
「「はあ……? 」」
「だから多少の(スケジュール) 拘束は仕方ないかなって。ほら、抑えるとこは押さえとかないとね。私が自由にしちゃったら、お互いに気持ち良く(仕事が) 出来ないじゃない?
こういうのってお互い(漫画家と編集者) の相性が大事だと思うの。ちゃんと息を合わせないと、最後まで完遂出来ないし。
私ってさ、いつも(仕事) は受け身が多いんだよね。それに(仕事に) 没頭しちゃうと、周りが目に入らないというか、それだけに集中しちゃう性質だし。
それじゃ駄目なんだけど、その方が(創作) 行為への情熱を高められるから、つい吉岡に甘えちゃうと言うか。もちろん、それじゃ駄目なのはわかってる。もっと吉岡の期待には応えなきゃいけないから。吉岡(の会社の出世) は、私の頑張り次第で高められると思うし。
だから吉岡は私の(仕事の幅を) 開発をしなきゃいけないって、一生懸命に頑張ってくれるんだと思う。やっぱり(仕事の) 潜在的な部分は、なかなか自分一人の力じゃ気づけないんだよね。
それこそ、じっくり丁寧に教えてもらわないと。いつも吉岡は臆せずに、私の(仕事の) 弱点にいち早く対応してくれるの。とにかく良さそうなコトは手当たり次第にやってくれるし。
でもそれだけじゃなくて……
吉岡は(編集者として才能を発掘する) いろんな(アンテナを張る) 感度が高いんだと思うけど、いつもそれを凄く敏感に感じ取ってくれるの。
それが凄く嬉しい。
だから私も安心して没頭出来るし、頑張ってお返ししたい、応えなきゃって思う。
やっぱり吉岡にしてもらったことは、私も態度で示したいから。
だから私も(漫画を) 最後まで仕上げるためには、手段を選べないの。
確かめたことはないけど、きっと吉岡もそう思ってくれてるんだって感じるし。
やっぱり私の(仕事の可能性の) 奥深くを知り尽くして、最大化できるようにガンガン突いてくれる。普通なら届かなそうなところも、丁寧に時間をかけてね。
もちろん下準備もいつも入念だから、そこも安心できるんだよね。いきなり本題に入らないから、それだけで満足しちゃいそうになる。
そういう吉岡の情熱的なところに、いつも支えられてるんだよね。その無言で私を導いてくれるのが心地がいいの。
吉岡はいつも探求心が半端ないから、あれこれ(仕事を)提案してくれる。私のダメージがないように、慎重に。ときには飛び道具とかも駆使してくれるし、使えるものは何でも使う。手段を選ばないというか。
私は今までそんな技を見たことなかったから、最初は凄く驚いちゃった。勿論、甘えてばっかじゃいけないんだけど、病みつきになりそうでそれは気を付けてるんだけどね。
とにかくっ、吉岡は私が喜ぶ(仕)事を最優先で(アサイン)してくれる。本当に参っちゃう。
ツンデレっていうか、たまに猛烈に優しいからさ。だから私も出来る限りで、(漫画で)吉岡の気持ちに寄り添いたいんだけど……
って、二人ともどうかした? 」
「………… 」
朱美の弁明はちょっとした独壇場というか独白場になっていた。
そして肝心の息吹と野上というと、朱美の渾身の言い訳に呆然と聞き入っていた。
これは全面的に朱美に非があるのは確実だ。
慌てていたのかもしれないが、いくらなんでも文章の主語が欠落し過ぎだ。それに何よりこれらの言葉のチョイスは確実に間違っているし、あらぬ誤解を加速させている。
それから暫く三人が無口になったのは、言わずもがな。
冬至を越えても、日が沈むのは釣瓶落としの如く早い。
時刻は夕時だというのに、三人は朱美を筆頭に黙々と作業に打ち込んでいた。
クリスマスなのだからもっと盛り上がりそうな音楽でも掛ければいいのに、部屋には誰も見ていないニュース番組だけが流れている。
同人誌の世界のカリスマであるマリメロンも伊藤ちゃんも、この時期は本業が忙しい。それはわかりきったことだ。回避するには一人で頑張るか、新規で誰かを雇うしかないのに、どうも朱美はそのピンチを前者で乗りきろうとする。そしていつも自分一人では収拾がつかなくなるのだ。ヤバくなって素人にヘルプするくらいなら新たなアシスタントを募集すればいいのに、どうしてもそれは気が進まないらしい。
「そういえば…… 」
「なに? 」
数十分に渡る沈黙を破ったのは朱美だった。朱美は椅子の上で立て膝をついた姿勢を正しながら、何かを思い出したかのように息吹こう話しかけた。
「息吹は時差は平気だった? 休日とはいえ、昼間に起きとくのはシンドくない? 今日も午前中から来てもらってるし 」
「ああ…… 私は今月から暫く日勤だから 」
「えっ? 日勤? 」
「うん。まだ、ちょっと時差ボケはしてるけどね 」
「そうなんだ。珍しいね 」
「……ちょっと、サブロクに引っ掛かっちゃって 」
息吹は何だか歯切れの悪い返事をする。息吹の先日の荒れっぷりを察していた野上は、その朱美のブッコミ具合に少しギクリとする。しかし朱美はそんな息吹や野上の様子を気にするようなこともなく、こう話を続けた。
「そうなんだー。でも、ちょうどいいじゃん。息吹はいつも働き過ぎだもん 」
「それは…… まあ、確かに反省はしてるけど 」
「でもさ、ちょっと油断すると直ぐに四十五時間とか超えちゃうよね。私も会社員してたときは、けっこう苦労したよ 」
「えっ? そうなの? 」
「うん、一応売り場は小さかったけど、一応 店長だったから。テナントだったから、助かった感じ。完全退館時間がなかったら、エンドレスで残業してたと思う。本当は駄目なんだけど、こっそり仕事を持って帰ったりもしてたしね。シフトを組むのに、いつも時間が掛かっちゃってさ 」
「えっ! 朱美にも、そんな真面目な時代があったの? 」
「私だって短大卒業してホヤホヤな頃は、それなりには頑張ってたよ? 夜な夜な漫画も描いてたし。あっ、でも真似しちゃ駄目だからね。ご時世的にもコンプライアンスは守らないと 」
「真似するわけないでしょ。つーか、一応私は公務員だから機密情報は持ち出せないし…… 」
「まあ、確かに。それもそっか 」
朱美はアハハと咳払いすると、ニヤニヤと笑みを浮かべる。そんな豪快な朱美の素振りを見て、息吹は仏頂面を決め込んでいた。
そして野上はというと、何か得るものがあったのか 二人の様子を食い入るように凝視していた。
「でもさ、息吹。昼間の方が体も少しは楽でしょ? 夜に暗い部屋で寝るのって、至極幸せだよね 」
「まあ、それはそうだけど…… 」
「それにたまには日勤の方が、野上さんと時間合わせやすくなったんじゃない? 」
「えっ? 」
息吹はハッとした表情を浮かべると、顔を赤らめながら野上の方を確認する。
すると野上も不意討ちな巻き込み攻撃に驚いたのか、一瞬手にしていた面相筆が転がり落ちそうにになっていた。
「あのさあ、朱美…… 」
「なに? 」
息吹は頭を抱えながらも、朱美への反撃を企てる。野上がこの場にいる手前、一方的に攻められるのはどうも癪に感じられた。
「朱美こそ、最近は夜型生活をしてないよね? 今日も普通に日中に起きてるし? 」
「うん、まあ…… 」
「朱美って、ここ数年は夜行性じゃん? 珍しいよね。もしかして今日は完徹ってこと? 」
「いや、そういう訳ではないけど 」
「じゃあ…… 健診で引っ掛かったとか? 」
「ううん、別に健康 」
朱美も何かを察したのか、いつも以上にスットンキョンな言動が増していた。
息吹は野生の嗅覚で、何か面白そうな事情を掻き分ける。
今度はこちらの番だ。こうなったら、こっちも少しはやり返したい。すると息吹はこれはチャンスとばかりに、更に追い討ちをかけた。
「じゃあ、なんで昼間に起きてるの? もしかして吉岡さんに何か言われたとか? 」
「へっ? 」
「え゛っッ!? 吉岡パイセン、生活スタイルまで干渉するんですか? 」
「いや、そんなことはないですけどぉ…… 」
「じゃあ、何故ですか? 」
さっきから控え目だった野上も、流石にこれには食い付いてくる。あちこちから質問攻めにあって、朱美はすっかりタジタジ状態。あっさりと二対一の形勢逆転だった。
「昼夜逆転生活してたら、吉岡に迷惑がかかるから。前は夕方に起きてたけど、今はお昼までには起きるようにしてて。
私が原稿サボらないように、夜は監視されたりするんだけど、それだと吉岡が寝る時間なくなっちゃうから 」
「うわー 吉岡パイセン、エグいですね。めっちゃ体を張ってるじゃないですか 」
「うーん。まあ、私がちゃんと原稿進めないのが全ての元凶なんですけどね 」
今頃 福岡の地にいる吉岡を会話の主役に祭り上げるのは少し申し訳ない気もするが、その方が面白いのだから仕方がない。
野上も息吹もクスクスと笑いを堪えながらも、さらに朱美にこう質問を続けた。
「やっぱり吉岡パイセンって、意外とSっけ強そうですよね。独占欲も凄そうだし 」
「ハアっ? 」
「そうだね…… 朱美のこと心配で大切なんだろうね 」
「いや、それは…… 原稿を持って帰らなくてはいけない編集者としての使命からだと思うけど 」
「で、どうなの朱美? 実際のところは? 」
「えっ? それはその…… 」
完全に茶化されている……
朱美は沸騰した やかんのように急に顔から湯気を出すと、その場で頭を抱え込む。
身から出た錆だ。嘘や誇張は良くない。
だけど吉岡の名誉のためにも、誤解を招くような発言は避けたいところだ。
「否定しないってことは、やっぱりパイセンは押しが強いんですね!? 」
「いや、だから押しというか…… その、攻められる。そう、攻められるんだよね 」
「「攻めらる? 」」
息吹と野上は二人して、朱美の発した単語に子首をかしげる。朱美も自分で言っておきながら、訳がわからない。
……いや、ちょっと待て。
攻められるって、全然フォローになってなくないか?
いや、むしろ言葉の響きとしては悪化しているし、普通に吉岡の名誉を毀損しているではないかっッ。
朱美は青ざめながらも、少し遅れて自分がとんでもない墓穴を掘ったことに気がつくと、不自然な作り笑顔を振り撒いて巻き返しに徹し始めるのだった。
「そう! 吉岡はいつも(仕事に) 貪欲だから、昔から攻めのスタイルを貫いてるの! 」
「「はあ……? 」」
「だから多少の(スケジュール) 拘束は仕方ないかなって。ほら、抑えるとこは押さえとかないとね。私が自由にしちゃったら、お互いに気持ち良く(仕事が) 出来ないじゃない?
こういうのってお互い(漫画家と編集者) の相性が大事だと思うの。ちゃんと息を合わせないと、最後まで完遂出来ないし。
私ってさ、いつも(仕事) は受け身が多いんだよね。それに(仕事に) 没頭しちゃうと、周りが目に入らないというか、それだけに集中しちゃう性質だし。
それじゃ駄目なんだけど、その方が(創作) 行為への情熱を高められるから、つい吉岡に甘えちゃうと言うか。もちろん、それじゃ駄目なのはわかってる。もっと吉岡の期待には応えなきゃいけないから。吉岡(の会社の出世) は、私の頑張り次第で高められると思うし。
だから吉岡は私の(仕事の幅を) 開発をしなきゃいけないって、一生懸命に頑張ってくれるんだと思う。やっぱり(仕事の) 潜在的な部分は、なかなか自分一人の力じゃ気づけないんだよね。
それこそ、じっくり丁寧に教えてもらわないと。いつも吉岡は臆せずに、私の(仕事の) 弱点にいち早く対応してくれるの。とにかく良さそうなコトは手当たり次第にやってくれるし。
でもそれだけじゃなくて……
吉岡は(編集者として才能を発掘する) いろんな(アンテナを張る) 感度が高いんだと思うけど、いつもそれを凄く敏感に感じ取ってくれるの。
それが凄く嬉しい。
だから私も安心して没頭出来るし、頑張ってお返ししたい、応えなきゃって思う。
やっぱり吉岡にしてもらったことは、私も態度で示したいから。
だから私も(漫画を) 最後まで仕上げるためには、手段を選べないの。
確かめたことはないけど、きっと吉岡もそう思ってくれてるんだって感じるし。
やっぱり私の(仕事の可能性の) 奥深くを知り尽くして、最大化できるようにガンガン突いてくれる。普通なら届かなそうなところも、丁寧に時間をかけてね。
もちろん下準備もいつも入念だから、そこも安心できるんだよね。いきなり本題に入らないから、それだけで満足しちゃいそうになる。
そういう吉岡の情熱的なところに、いつも支えられてるんだよね。その無言で私を導いてくれるのが心地がいいの。
吉岡はいつも探求心が半端ないから、あれこれ(仕事を)提案してくれる。私のダメージがないように、慎重に。ときには飛び道具とかも駆使してくれるし、使えるものは何でも使う。手段を選ばないというか。
私は今までそんな技を見たことなかったから、最初は凄く驚いちゃった。勿論、甘えてばっかじゃいけないんだけど、病みつきになりそうでそれは気を付けてるんだけどね。
とにかくっ、吉岡は私が喜ぶ(仕)事を最優先で(アサイン)してくれる。本当に参っちゃう。
ツンデレっていうか、たまに猛烈に優しいからさ。だから私も出来る限りで、(漫画で)吉岡の気持ちに寄り添いたいんだけど……
って、二人ともどうかした? 」
「………… 」
朱美の弁明はちょっとした独壇場というか独白場になっていた。
そして肝心の息吹と野上というと、朱美の渾身の言い訳に呆然と聞き入っていた。
これは全面的に朱美に非があるのは確実だ。
慌てていたのかもしれないが、いくらなんでも文章の主語が欠落し過ぎだ。それに何よりこれらの言葉のチョイスは確実に間違っているし、あらぬ誤解を加速させている。
それから暫く三人が無口になったのは、言わずもがな。
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