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フォーエバーフォールインラブ
コトの始まり①
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■■■
「うーん、思い付かないっッッ! 」
「……僕は知りませんよ。先生が奏介引っ張り出して海蘊をピンチにしたんじゃないですか? 」
「それは…… まあ、そうなんだけどー! 」
朱美は頭を抱えながら、目の前のテーブルに大量の資料を並べていた。
お昼間から 朱美と吉岡は 珍しく女子受けしそうな大手町のカフェにいた。アニメ化の関係もあり 朱美が出版社まで出向く形となったので、吉岡が気分転換に外に連れ出したのだが、出されたコーヒーはすっかり覚めきっていた。
「だいたい、好きでもない人とキスとかするとか普通じゃ考えられないもん 」
「じゃあ、何でそういう展開にしたんだよ。回収できるって約束したから、僕はオーケーだしたんですよ 」
主人公が好きじゃない人と危ないシーンを迎える。衝撃の展開に読者のボルテージは盛り上がったが、その後の展開に打開策がなかった。その場しのぎへの代償は大きく、ここ数話は別の登場人物に話を振って持ちこたえていた。
でも肝心の本線の話はここ一ヶ月進んではいない。むしろ焦らされることで読者の期待は最高潮を迎えているような状態で、もはや悪循環を引き起こしていた。
「いちおう、一応ね。十ページだけ考えてみた…… 」
朱美は書類の束の中から クリップで雑多に纏められた紙を引っ張り出すと、目を伏せ勝ちに吉岡へと手渡した。何となくヤバそうな予感がしたが、吉岡はそれを無言で手にする。彼もまた浮かない表情ではあったが、紙をめくるにつれ徐々に目を丸く見開いていった。
「……!? 」
全てに目を通したとき、吉岡は声も出さずに絶句していた。想定はしていた。だけど吉岡の反応に、朱美はさすがに苛立ちを隠せなかった。
「なに、そのドラマみたいな反応っ。嫌なら読まないで、そのまま通してもらってケッコーケッコーコケッコウなんですけどっッ 」
「いや、先生。イヤもへったくれもありませんよ。プロットからまたネーム変わっちゃってるじゃないですかッ。先生、どういうつもりなんですっッ? 」
「だって…… 」
「だいっッたい、何で後ろから傘を差し出されて、あごクイからキスとかなるんですか!? これはつまり僕が男で頭固いから理解できないんですかねぇっッ!?っていうか、こんなシュチェーション現実的にあり得るんですか? 僕には理解できませんけどっッ。それに海蘊には豊のところに戻ってくれなきゃ困るんですよっッッ 」
吉岡は小声ではあったが、一方的に捲し立てると、大きな溜め息を付き 朱美を一蹴した。
恋愛漫画というのは難しい。
このような分野は、特に作者の実体験や理想が色濃く現れる。いま吉岡は禁断の箱を開けてしまった気持ちにもなっていた。
「だって、仕方がなかったんだもん…… 」
「仕方なくって…… 」
吉岡はページの最初の二枚だけ取り外すと、他の八枚は自分の鞄に回収した。吉岡としては、せれは冒頭部分はオーケーという暗黙のサインだった。でめ原稿を受け取った朱美は、何だかもう憔悴しているようにも見えた。
「あと二十二ページってことね…… 」
「はい。先生が大変なのは分かりますけど、僕にも責任があります。もう海蘊たちは先生だけのものじゃないから 」
「……えっ? 」
「言っておきますけど、僕たち出版社のものでもなくて、読者のものでもあるってことです。応援してもらうって そういうことでしょ?
取り敢えず、今日は僕も会社に帰ります。先生もカラーとか アニメ用のイラストが続いてて疲れてるでしょうし、また近いうちに ご自宅に伺いますから。まだ少し時間もあります。先生、今日はお友だちと約束があるんですよね? たまには気分転換をしてきたらどうですか? 」
「ちょっ、吉岡……? 」
吉岡はそう言うと、伝票を手に取ると朱美に頭を下げて会計へと向かった。ちょっと冷たいことを言ってしまったのかもしれない。だけどこのままここにいても、埒が明かないのはわかっていた。
最近の朱美先生は疲れている。間違いなく……
多分、生活の殆どが漫画だけになっていて、凄く狭い世界にしかいられなくなっているのかもしれない。彼女には限られた現実しか許されず、ずっとフィクションの世界でもがき続けている。
いや、そこに彼女を閉じ込めているのは……
俺自身か……
「うーん、思い付かないっッッ! 」
「……僕は知りませんよ。先生が奏介引っ張り出して海蘊をピンチにしたんじゃないですか? 」
「それは…… まあ、そうなんだけどー! 」
朱美は頭を抱えながら、目の前のテーブルに大量の資料を並べていた。
お昼間から 朱美と吉岡は 珍しく女子受けしそうな大手町のカフェにいた。アニメ化の関係もあり 朱美が出版社まで出向く形となったので、吉岡が気分転換に外に連れ出したのだが、出されたコーヒーはすっかり覚めきっていた。
「だいたい、好きでもない人とキスとかするとか普通じゃ考えられないもん 」
「じゃあ、何でそういう展開にしたんだよ。回収できるって約束したから、僕はオーケーだしたんですよ 」
主人公が好きじゃない人と危ないシーンを迎える。衝撃の展開に読者のボルテージは盛り上がったが、その後の展開に打開策がなかった。その場しのぎへの代償は大きく、ここ数話は別の登場人物に話を振って持ちこたえていた。
でも肝心の本線の話はここ一ヶ月進んではいない。むしろ焦らされることで読者の期待は最高潮を迎えているような状態で、もはや悪循環を引き起こしていた。
「いちおう、一応ね。十ページだけ考えてみた…… 」
朱美は書類の束の中から クリップで雑多に纏められた紙を引っ張り出すと、目を伏せ勝ちに吉岡へと手渡した。何となくヤバそうな予感がしたが、吉岡はそれを無言で手にする。彼もまた浮かない表情ではあったが、紙をめくるにつれ徐々に目を丸く見開いていった。
「……!? 」
全てに目を通したとき、吉岡は声も出さずに絶句していた。想定はしていた。だけど吉岡の反応に、朱美はさすがに苛立ちを隠せなかった。
「なに、そのドラマみたいな反応っ。嫌なら読まないで、そのまま通してもらってケッコーケッコーコケッコウなんですけどっッ 」
「いや、先生。イヤもへったくれもありませんよ。プロットからまたネーム変わっちゃってるじゃないですかッ。先生、どういうつもりなんですっッ? 」
「だって…… 」
「だいっッたい、何で後ろから傘を差し出されて、あごクイからキスとかなるんですか!? これはつまり僕が男で頭固いから理解できないんですかねぇっッ!?っていうか、こんなシュチェーション現実的にあり得るんですか? 僕には理解できませんけどっッ。それに海蘊には豊のところに戻ってくれなきゃ困るんですよっッッ 」
吉岡は小声ではあったが、一方的に捲し立てると、大きな溜め息を付き 朱美を一蹴した。
恋愛漫画というのは難しい。
このような分野は、特に作者の実体験や理想が色濃く現れる。いま吉岡は禁断の箱を開けてしまった気持ちにもなっていた。
「だって、仕方がなかったんだもん…… 」
「仕方なくって…… 」
吉岡はページの最初の二枚だけ取り外すと、他の八枚は自分の鞄に回収した。吉岡としては、せれは冒頭部分はオーケーという暗黙のサインだった。でめ原稿を受け取った朱美は、何だかもう憔悴しているようにも見えた。
「あと二十二ページってことね…… 」
「はい。先生が大変なのは分かりますけど、僕にも責任があります。もう海蘊たちは先生だけのものじゃないから 」
「……えっ? 」
「言っておきますけど、僕たち出版社のものでもなくて、読者のものでもあるってことです。応援してもらうって そういうことでしょ?
取り敢えず、今日は僕も会社に帰ります。先生もカラーとか アニメ用のイラストが続いてて疲れてるでしょうし、また近いうちに ご自宅に伺いますから。まだ少し時間もあります。先生、今日はお友だちと約束があるんですよね? たまには気分転換をしてきたらどうですか? 」
「ちょっ、吉岡……? 」
吉岡はそう言うと、伝票を手に取ると朱美に頭を下げて会計へと向かった。ちょっと冷たいことを言ってしまったのかもしれない。だけどこのままここにいても、埒が明かないのはわかっていた。
最近の朱美先生は疲れている。間違いなく……
多分、生活の殆どが漫画だけになっていて、凄く狭い世界にしかいられなくなっているのかもしれない。彼女には限られた現実しか許されず、ずっとフィクションの世界でもがき続けている。
いや、そこに彼女を閉じ込めているのは……
俺自身か……
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