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しおりを挟む「で、殿下…
よ、良いのですか?ハルレアはお父様に愛されてーー」
戸惑いがちにベルが言葉を発す。
その言葉にかぶせて言う。
「ユトラ。ユトラだ。」
妹のことなどどうでもいい。
それよりも問題はベルが名を呼んでくれないことだ!
俺の名は、ベルのそのふっくらとした可愛らしい唇に鈴のように高く儚い声に呼ばれるためだけにあると言うのに‼︎
あぁ、でもそんな戸惑っているベルも可愛い…
「ユ、ユトラさま…」
はうっ‼︎
可愛いすぎる。恥ずかしそうに顔を赤くして、照れたその顔…
俺のことを殺す気か?
さっきあれだけイラつきうざく感じたことなんて、ベルが名を呼んでくれただけでどこかに飛んでいった。
幸せだ…
ベルがいるだけで幸せだ!
雲の上にいるようにふわふわさせた気持ちでいると、外が少し騒がしくなった。
ノックが聞こえたかと思えば、扉が開いた。そこにはアニデロイド侯爵と、その後ろに目を真っ赤に腫らした妹がいた。
「ユトラ殿下!
私の可愛い娘を泣かすとは!
例え殿下でも、侮辱されては許せません!」
「侯爵。見てもわかる通り、私は今婚約者であるベルリアーナとの大事な時間です。そこに乗り込んでくるとは…
悪いのはその娘の方です。
私が許してもいないのに私の隣に座り、私に触れてきたのです。
その場で首が飛んでも可笑しくはなかったんですよ。護衛に手を出させなかったことを有り難く思うべきでは?」
そう、妹が俺の裾を摘んだ瞬間。
控えていた俺の護衛は、ハルレアを引き剥がそうとした。それを俺が目で制したのだ。
突然だけど、俺も王子なんで!護衛ぐらいいますよ。それに婚約者でも部屋に2人っていうのは無理だからね、何があるかわからないし。
「なっ!まだベルリアーナが婚約者とは決まっていません!ハルレアも殿下の婚約者候補でございます!
多少は許されるはずです!」
本当にアホだなぁ。
俺の婚約者がベルリアーナじゃなきゃいけない理由知ってるはずなんだけど?
だっていつまでもハルレアを。ってうるさいから説明されているはずだしー?
「私の婚約者はベルリアーナで決まりです。理由はわかっていますよね?
侯爵家当主とあろうものが、子供でも理解できることをいつまでも理解できない。なんてこと、あり得ないですよね?」
お前アホだな。と嫌味を言っているつもりだ。
伝わったのか、侯爵は顔を怒りで赤くし、両手を握りしめてプルプルと肩を震わせている。
まあ、伝わったのなら何より。
「陛下からも、顔合わせのすぐ後に書簡が届いているはずです。
あなたが反対しても、これは王命です。逆らうことは許されません。
それに、ベルリアーナの意志も確認した上で陛下に許可をもらっています。
まさか、知らない。というつもりはないですよね?」
「は、はい。申し訳ありません。
アニデロイド侯爵家当主として、ベルリアーナとユトラ殿下の婚約、受けさせていただきます。」
声には屈辱と怒りが孕んでいた。
「初めからそういえば良かったのですよ。今回は特別に許しましょう。
妹君の働いた無礼も…
ベルリアーナの手前なのでね…」
言外に、ベルのおかげでお前ら許されたんだからな。と伝える。
「ユトラさま!どうしてですか?おねえさまよりわたしのほうがずっとかわいいですよ⁉︎」
泣いて怯えていた奴だとは思えない。
すげえな。ある意味。本当に救いようのない馬鹿だな。
「ハ、ハルレア!
そんなことを言うな!
も、申し訳ありません、殿下」
「いいですよ。子供の言葉です。許します。ただ一つだけ。」
びくっと侯爵は肩を跳ねさせる。何を言われるのか怯えているようだった。
「ベルリアーナはこの世界で一番可愛いです。誰よりも。」
これだけは知っていてもらわないと!
ベルは天使なんだから!
侯爵はポカンッと口を開け、目を見張る。そして、心ここに在らず。といった様子で「は、はい。」とだけ答え、まだうるさいハルレアを連れ、「失礼いたしました。」と部屋を出て行った。
「これで安心だね!」
俺は満面の笑みでベルに言った。
ベルも心底驚いた顔をしていたが、状況を理解していったのか、みるみると顔を赤くさせ、
「あ、ありがとうございます。」
と言った。
あぁ、照れてるベルもいつ見ても可愛いなぁ。
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