ときはの代 陰陽師守護紀

naccchi

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第一章 彼誰時~かはたれとき~

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 なぜ、自分だったのか。
 どうして、普通に生きて死ぬことが許されなかったのか。普通に生きるといっても、もういつからこんな生活なのか覚えていない。
 もはや何が普通だったのかわからないくらい、気が遠くなるほどの時間を過ごした気がする。普通が、普通ですらなくなるくらいの長い期間。

 白い装束をまとった人たちが、貼り付けたような笑顔でこちらを崇め奉る。
『我々には貴方様が必要なのだ』

 自分には、あなたたちなんて必要ない。どうして自分だけが。閉じ込められ、崇められ、幾年月。
 そうして崇めてきた者たちが老いて死んでいっても、次の者がまた同じような顔で崇めてくる。
『次も、貴方様です』と、指をさす。

 なぜ自分なのかと問うても、まともな答えは返ってこない。

『もう貴方様しかいないから』
『貴方様がいなくなれば世の中は大変なことになる』

 知らない。勝手に決めて、勝手に崇めて、勝手に閉じ込める。そんなことを幾度も繰り返して。
 ああまたかと、結界の向こうの年若い二人の男女を見る。次はお前らが私を示すんだなと、恨みのこもった眼で睨みつけた。

 だがその二人は、自分を覆う厚い結界を破った。
 自分を指をさすのではなく、自分の手をとって、外に連れ出した。

 二人はまともに走ることも、コミュニケーションをとることもできない自分に笑顔で言った。
 一緒に生きようと。
 もし、一緒に生きるのが難しければ、力を貸すから生きたいように生きていいと。

 貼り付けた笑顔じゃない笑顔だったがそれは確かに、自分の空色の瞳に光が差した瞬間だった。

 でもその光はほんの少しの間、彼女を照らしただけで。

 二人はすぐに、いなくなってしまった。
 自分を白い闇から救ってくれた存在は、あっけなく自分を追いて逝ってしまった。
 二人がどうして死んでしまったのか、わからないけれど。自分のせいなのはわかっていた。こんな思いをしてまで、なんで逃げてるのかもわからない。なにが自分を突き動かすのか、もうとっくにわからないのに。

「だれか…助けて」

 誰に言うでもなく放った言葉はあまりに弱々しいもので、それに呼応する者など、いないはずだった。

「みつけた」

 あのじゃない、男の、声。

 白い人たちから逃げてきたのに、黒い男の人が追ってくる。
 心の奥がざわざわと波打った。この男のそばにいてはいけないと、確証はないのに確信めいた感情が渦を巻いた。
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