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アクシデント

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 攻撃魔法の練習の前に、魔力自体の制御力を高める為の練習をする事になった。

「水を掬うように両手の端を合わせ軽く指を曲げ、手のひらを上に向けて下さい……はい、そうです」

 おれの手のひらの上に、クールセイオ先生が片手をかざした。

「魔法に変換せず、魔力自体を手のひらの上に、なるべくゆっくりと集めてみて下さい。体内の魔力の流れを意識しながら少しずつ、けれど絶え間無くです」

 言われたように、少しずつゆっくりと、を意識するけれど、手のひらの上が一気に温かくなり、流れを感じるどころか、雑に押し出されている感じがする。

「もっと少しずつです。針穴に糸を通すごとく慎重に。1本の糸のように。……目を閉じて…一度深呼吸してみましょう。そうです。焦らないで心を落ち着けて…目を閉じたまま…魔力の流れを感じて…ゆっくり…ゆっくりです」

 目を閉じて集中すると、さっきよりは幾分か魔力の流れを意識することは出来ている気はするけれど、その魔力は、一本の糸どころか、無骨な石が互いにぶつかり合うように押し出されていて、流れというのもはばかられる。

「一旦中断して目を開けて下さい」

 魔法に変換されない魔力を集めていたからか、手のひらが熱くなってしっとりと汗ばんでいる。

「もしや今までほとんど魔法を使わず生活されていましたか? 普段から使っている人は、無意識のうちにでも魔力の流れを把握しているものですが、ツブラヤ様の場合、経路を把握していないまま、大量の魔力で無理矢理押し出すようにして放出しているように見受けられます」

 うーん、的確だなぁ。
 魔力制御が得意だと、こういうことも分かるんだな。

「はい、つい先日魔法を覚えたばかりで、初心者中の初心者です」

「成る程。魔力量と制御力のバランスがとれていないので、このままですと制御を覚えるのにかなりの時間を要することになります。制御力に対して魔力量の方が多いと余計に制御が難しいですからね」

「そうなんですね。どれくらいかかりそうですか?」

「人によりますが…早くて1ヵ月、遅くて1年くらいでしょうか…」

 ををぅ! ダメだな、おれだと1年コースだ…

「少々無茶をすれば、人によっては直ぐにでも要領を覚えることもできますが…」

「どういう方法ですか?」

「制御に長けた人の魔力を体内の魔力経路に流し込むことで覚える方法です。しかしこの方法は、魔力の相性が合わないと体に負担がかかり、かなり気分が悪くなったりしますので…」

「相性って同じ属性ってことですか?」

「いえ、属性は関係ありません。魔法とは、外に放出する際に目的を達成させられる形となるよう魔力を変換し具現化したものです。その形が何か、というのが属性です。ですから、魔力の質自体の相性とはまた別問題となります」

 魔法ってそういう仕組みだったのか…
 じゃあ、イメージが大事だって感じてたのも、目的をはっきりとさせるという意味で間違いではなかったんだな。

「そうなんですね。試してみたいんですけれど、お願いできますか?」

「試すことはできますが、恐らく魔力の質が合わないと思います。種族が違うと魔力の質が合わない場合の方が多いのです」

「そういう物なんですか? でも合う場合もある?」

「ええ、合う場合もあります。確率は低いですが」

「可能性があるなら、試してみたいです。お願いします」

「…でしたら、先にツブラヤ様が私に魔力を流してみて下さい。それで大丈夫そうなら試みましょう」

 えっ? それって…

「合わなかったら、先生が体調を崩されるんじゃないですか? 先生と違って、上手く制御出来なくて、少しだけ流すとかできないですし。おれの為にそんなことお願いできません」

「いえ、その点は私の方で少量しか通さないよう制御しますから大丈夫ですよ。合わないようでしたら中の方までは通さず、すぐに排出しますし。ツブラヤ様は制御出来ないので直ぐに私の魔力を選り分けて排出できないので不調が続いてしまうのです」

 そっか…先生は制御に長けているから対処できるってことか。

「わかりました。先生、お願いします」

 クールセイオ先生は、片手を上げて手のひらを開いた。

「私の手に手のひらを合わせて、先ほどのように魔力の流れを意識して、手のひらから魔力自体を放出してみて下さい」

 …先生がおれのせいで体調を崩したりしませんように…。

 もし気分が悪そうなら直ぐに手を離せるようにと目を開いたまま先生の様子を見ながら魔力を流してみる。

 手のひらまで流れた魔力は、ほんの少量のみ流れ出し、無駄に多く流れ込もうとしている余剰分が堰き止められているように感じる。

 先生がご自身の魔力を使っておれのをコントロールしてくれているんだな…

 様子を見るが、先生は全く調子を崩しているようには見えない。

「…大丈夫ですね…。珍しい…。どうせならこのまま放出した魔力から意識を離さず、私の中の流れを辿ってみて下さい。ご自身の体内を辿る程ではないですが、ある程度は感覚が掴めるかと」

 良かった。先生とは性質が似ていたのか。

 言われたように、先生に制御されて細い糸のようになった魔力を意識して追う。
 糸のように伸びた魔力は、経路を辿り、先生の魔力を生む魔力機関まで到達し、そこからまた外へと向かう。

 自分だけでは全く掴めなかった感覚がありありと伝わってくる。

 一本の細い糸のような魔力は経路を辿り体中を巡り、入ったのとは反対の手から外へと放出されていった。

「凄い!初めての感覚です!魔力ってこんな風に制御出来るものだったんですねっ」

 切れ切れになっている魔力を強引に押し出しているのとは全く違う。
 魔力が途切れず繋がっているからこそ出来る精密な制御。
 先生達は、魔法として形にする前から魔力自体を意志の力で操っていたのだ。

 思えば、おれがまともに使えている…というか、結果的になんとかなっていた魔法は、聖属性の魔法がほとんどだ。
 『聖』という属性が持つ特性と強力さだけに頼り切り、兎に角ありったけ流し込んで回復や癒しを促すという大雑把なものだった。
 けれど、属性の力だけに頼り切らず、制御力を身につければ、癒し系の魔法も、もっと効率の良いものになるのかもしれない。

「では、今度は私からツブラヤ様に流しますので、しっかりと意識して経路を覚えて感覚を掴んで下さい」

 触れられている所から細い糸のように魔力が流れ込んでくる。
 途端にグラリと視界が回った。

 うっ! 気持ち…悪っ…

 平衡感覚を失って崩れ落ちる。

「ツブラヤ様っ?!」

 おれの名を呼ぶ先生の声と姿が薄れて行き、数秒後にはブツリと意識が途切れてしまった。
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