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それ聞いちゃう?!

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 ローゼさんがコホンとひとつ軽い咳払いをしてから話題を切り替える。

「ところで…勘違いでしたら失礼ですが…。先程から気になっていたのですけれど、もしかしてお二人はその…お付き合いされていたりとかします? その…特別な関係という意味で…」

 うはっ、やっぱ分かっちゃう?

 そりゃそうだよな。
 一国の王子がおれの為だけに…とか言っちゃってるし、普通は男同士でずっと手を握り合っていたりしないよな。

 周りから指摘されると、めちゃくちゃ恥ずかしい。
 マジで顔から火が出そう。

「カズアキはわたしが生涯の伴侶と決めた人だ」

 のわっ!?

 人前でも構わず堂々と言い切ったファリの顔をバッと勢い良く振りあおぐと、ローゼさんに向けていた視線をおれに向け、フワリと微笑んでくれた。

 ほわっ!

 生涯の伴侶っ!
 言葉にされると恥ずかしいけれど正直嬉しい。

 あー、あー、あーっ! もうっ、好きっ!

 このままでは好きな気持ちが暴走して大変なことになりそうだったので、慌ててローゼさんに視線を戻す。

 あんな笑顔、ずっと見ていられるけど、そんなおれのアホ面を長々と人様に晒してはおけない。


 ってか、ローゼさんも、どーして突っ込んだっ?!


 元日本人なら恥ずかしい気持ちもわかってくれるだろうし、見て見ぬ振りをして欲しかった!


 大体今、すっげー深刻な話をしているからなっ?!


「円谷くんも…同じ気持ち…なのでしょうか?」

 うへぁ~…まだひっぱる? そして追及するっ?!

 どうあっても確認しておきたいようだ。
 答えるまでは引きそうにないので、斜め下に視線を落としながら頷いた。

「う…うん…」

 こういうの、人に伝えるのは初めてで照れる。
 今絶対、顔、真っ赤だよな…。
 純真なDK心を弄ばないでっ!

「…やはりそうですか…」

 ローゼさんは、がっかりしたみたいな溜め息をひとつこぼす。

 ちょっ…聞いておいてそれは失礼じゃねー?

 ま…まさか、ファリのことを好きになちゃっていたり?!
 そりゃファリはカッコ良すぎるから好きになってもおかしくないけれど。

 条件的には、男で、この世界で生きる上での足場のひとつも無い状態のおれより、公爵令嬢というしっかりとした基盤があって、知識も豊富、美人で女性のローゼさんの方が、断然ファリの相手として相応しいとは思う。

 けど、条件だけじゃ人は幸せになれない。

 ファリを好きな気持ちは誰にも負けないし、ファリもこんなに真っ直ぐおれを生涯の伴侶と認めてくれている。

 気持ちを受け入れて、前に進むと決めたからには、二人で幸せになる為に全力を尽くすつもりだ。

 もちろん、ローゼさんの協力要請にも出来るだけ応えたいとは思っている。ファリと生きていくこの世界の為に。

 だからこそ、ファリだけは駄目だ。
 絶対、ぜーーーったいに譲らないからなっ?!

 ギュッとファリの腕を掴んで引き寄せ、ローゼさんに意志を込めた視線を向ける。

 目が合ったローゼさんが謝罪を口にする。

「ごめんなさい、失礼でしたよね。お二人の邪魔をする気も非難するつもりもないのです。円谷くんはご存知ないかもしれませんが、ここラズデルト王国では同性同士の婚姻が認められています。ラズデルトでは少数派ですが、ヨルラガードではそこそこ多いですし、その点でも心配要りませんよ」

 えっ?! そうだったんだ?

「ただ…わたくしが勝手に期待してしまっていたものだから…」

「期待って…?」

「円谷くんに適性があれば、神になって欲しかったのです」

 ん? んん??

 なんか、さらっと不穏なワードが聞こえた気がするけど、聞き違いだよな?
 『神』なわけないし、髪とか紙だとしても文脈がおかしい…

「ちょっと、よく聞こえなかったんだけど…。何になって欲しかったって……」

「神ですよ、神様。女性でしたら女神ですが、円谷くんは男性なので神でしょう? …あら? 男性でも『聖女』だったのだから、『女神』でいいのかしら?」


 ………。

 はぁあああ?!

 おれに神様になって欲しかったって?!
 いやいやいやいや、何言ってんの?
 神様なんて、なろうと思ってなれるもんじゃないよな?!

 …あっ?! もしかして…

「……異世界ジョーク?」

 あ、ローゼさんの体が一瞬揺れた…。

 何故か『異世界ジョーク』がローゼさんの笑いのツボにクリーンヒットしたらしい。

 んっ、と笑いを堪えて姿勢を正したローゼさんが答える。

「気持ちは分かりますけど、冗談抜きの話なのです。適性があれば是非にと思っていたのですが…」

 冗談じゃないのか。
 職を選ぶみたいに、神様も選択出来ちまう…のか?
 異世界ヤバい…
 だけど、おれが神様なんて、それこそ冗談じゃない。

「適性が無いから、神様になれないってゆーか、ならなくて良いってこと?」

「はい、残念ながら」

 うううっ、マジびびった! 良かった、適性なくて!!
 ほっと胸を撫で下ろす。

「神様になる為の適性ってどういうの?」

 現金にも、自分に関係無いとはっきりした途端、好奇心が湧いてくる。

「適性の前にまず、異世界人であることが絶対条件です」

 えっ? 何で異世界人?

「この世界の神様なんだから、この世界の人の方が良いんじゃないの?」

「いえ、先にも言いましたが、この世界はまだ未熟。世界というのは、例えるなら細胞のように、いくつもの世界が隣り合って連なり存在しているのですが、不安定な世界はバラバラになり易く、他の世界に吸収されたり、崩壊させたりしやすいのです」

 実際、異世界から転移してきたのだから、元の世界やここの他に、色んな世界があるんだろうな、とは漠然と思っていたし、さっき世界が未熟だと聞いて、生き物みたいだな、とも思ったけれど……細胞に例えられると…ちょっとキモいっていうか怖いっていうか…。

「神は、世界を包む細胞膜のような存在です。別の世界とこの世界を隔て、ひとつにまとめる、それが神の役割なのです」

 ……細胞膜。

 どんな役割を果たしているかは、なんとなくイメージとして掴めたけれど、「この世界の細胞膜となって下さい!」と頼んだとして、果たして「オッケー!」と言える人が居るのかというと…特に女の子だと、もっとこう、可愛いらしい要素とか必要な気がする…。

 じゃあ何に例えれば良いかって問われると困るけど…。

 あつあつの餡子を包んで弾けそうになっている大福餅とか…はたまた餡をパンパンに詰められた羽根つきの餃子の皮とか?


 ……ごめんなさい。細胞膜でいいです。

 例えてるの、女性であるローゼさんなんだし、案外女の子の方が現実的なのかもしれないな…。

「同じ世界の者だと、同質の力なので、包み込もうとしても、溶け合ってしまうので、異世界人であることが絶対条件となるのです」

「そんな理由があったんですね」

「ですが、異世界人であれば誰でも良いわけでもありません。根気、慈愛、適応力、求心力、好奇心。それらが強く、全てを合わせ持つ者に異世界に来てもらい、まずは聖女として育てようと女神は考えたのです」

 誰もが神になれるなんて、その方が怖いもんな。
 それに転移させた途端、「貴方が次の女神ね」と言わずに段階を踏んでじっくり育てようという姿勢は悪くはない。

「無理強いもする気はなく、転移して来た時に、帰りたい者は今すぐにでも帰すし、聖女を目指し始めたとしても、帰りたくなったらいつでも帰っても良い、という説明を受けました。元の世界に帰る時は、元の場所、元の時間に戻して貰えるとも」

 すげー良心的。

 まぁ、女神なんて強制してやらせても、世界を守るなんて役割を果たせるとは思えないしな。

「元々好奇心旺盛な人ばかりが選ばれていたので、リスクが少ないならと、その時点で帰ると言う者はひとりも現れませんでした」

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