上 下
21 / 78

魔法って便利だね

しおりを挟む
 ファリから剣術を学び始めて一週間が経った。

 初日は体が筋肉痛でガタガタだったけれど、今はコツを掴んだので、筋肉痛には悩まされていない。

 そんなコツあるの? という疑問は最もだ。
 そこはそれ、ほら、おれって曲がりなりにも聖女だからさ。

 筋肉を鍛えると筋繊維が破壊され傷付き、修復される時に少しづつ太くなる。簡単に説明するとそういう仕組みなわけだ。
 筋肉痛が酷いからといって、筋肉が負った傷を普通にヒールで治してしまったら、ただ傷が修復されるだけで筋肉は太くならない。これでは、元の木阿弥だ。
 なので、最初は我慢していたのだけれど、よくよく考えたら、直接治療するのではなく、自己治癒力自体を促進させたらいいんじゃないの? ということに気付いたワケだ。

 この方法なら、本来修復されるまでに数日かかるところを即時に短縮出来、鍛えられる速度は確実に早まる上に、傷みも感じなくて済む。
 マッチョなバディを手に入れられる日も近いっ!

 ビバ聖女! スゲーな、魔法!

 他にもおれにとっては重大なふたつの懸案事項を魔法が解決してくれた。
 
 ひとつは、風呂問題。
 訓練すると、どーしても汗をかく。しかしここは森の中。当たり前だが、風呂なんて無い。
 毎日入浴を欠かさ無かったおれとしては、汚れたまま汗まみれで寝ないといけないなんて気持ち悪くて仕方がない。

 水魔法を使って水浴び…とかも考えたけれど、冷たい水なのもキツイし、着替えも無いのでずぶ濡れになった後が辛い。
 体が綺麗になったとしても、その後にまた汚れた服を着るのも苦痛だ。

 やはり、あれだ。浄化だろ。
 聖女的には得意ジャンルと言えるんじゃぁないのかな?

 そんな考えの元、着ている洋服ごと身体の浄化を試みたら上手くいった。スッキリ、サッパリ。

 ビバ聖女! スゲーな、魔法!

 テンションが上がって、ファリにも浄化の魔法をかけたら微笑んでお礼を言ってくれた。

 喜んで貰えた! 役に立てて嬉しい!


 そして一番の問題はやっぱりトイレだ。
 ここは危険な森の中だから、ファリに断って周囲を警戒してもらいながら致さねばならないワケだが。
 学校のトイレですら落ち着いて致せないのに、外でなんて以ての外。緊張して出るものも出なくなる。

 …とか、心配していたワケなんだが。

 大どころか小まで全く、もよおさない!

 食べる物もしっかり食べて、癒しの水をいっぱい飲んでいるのにも拘らず、一度ももよおさないって、怖くないか?!

 異世界に来たせいで、体調がおかしくなってしまってるってこと?

 と、かなり不安になっていたんだけれど、おれだけでなく、ファリも用を足していないことに気が付いた。

 えっ?! この世界の住人って、排泄しないの?

 という疑問で頭がいっぱいになる。

 ここは乙女ゲームの世界だし、『アイドルはう◯こしない』的理想がまかり通っていてもおかしくない気もするけれど。

 すっごく気になる。

 気になるけれども、なんかね、うん、そういうことって聞き辛い。
 話題的には勿論だけど、それが常識だった場合、そんな質問をしたら、さすがに記憶喪失では済まされないような気がするんだよな。
 ストレートに聞かず、なんとか上手く聞き出せないものか。

 しばらく悩んでいたが、いきなりシモの話題から攻めようとするから、不自然さが際立つのであって、食べる方からアプローチすれば、上手く聞き出せるんじゃないのか、と思い至り、食事の際に無邪気を装ってファリに疑問をぶつけてみた。

「ファリー、食べたものってどうなるんだっけ? 食べただけ、筋肉つくかなー? おれ、マッチョになりたい」

 モグモグとファリが仕留めた魔獣肉を咀嚼しながら聞いてみる。
 肉体を鍛えているから気になるんだよ、あくまでも筋肉つけるためだよ、決してシモの話題ではないよ、と脳内では少々挙動不審にはなっているが、話の入口としては合格ラインではないだろうか?

「マッチョ?」

 しまった、マッチョは通じなかったか。

「えっと、マッチョっていうのは、こう、体に筋肉が分厚ーーく付いて、逞しく大きな体つきのことかな」

 ゼスチャーで筋肉が盛り上がっているボディを表現して見せながら伝える。

「…残念だがカズアキはマッチョにはなれないだろう」

「えっ!? 何でだよ!?」

 本題とズレ始めているが、思わぬところで否定されて、本気で問い返す。

「マッチョになるには、体質が関係するからだ。鍛えれば誰しもがマッチョになるというならば、わたしも既にマッチョであるはずだし、わたしだけでなく、軍に所属している者や冒険者など、普段から鍛えている者全てがマッチョでないとおかしいだろう」

 ショックだ…
 鍛えたらおれでもマッチョになれると思ってた…

 改めて考えてみれば、ファリの話は尤もなんだけど…

 ショックを受けていたのが顔に出ていたのだろう。ファリが慰めてくれる。

「筋肉は太く大きくなれば良い、というものでもない。カズアキは柔軟性が高い。しなやかに動けるというのは強味になる。鎧のような筋肉をつけるのを目指すのではなく、柔軟性を生かして素早い攻撃や防御が出来るような鍛え方をすれば強くなれる」

 なるほど…
 さすがファリ、的確なご指導ありがとうございます!

 ……って… ハッ! 本来の目的を見失ってしまっていた!

「え…えっと、食べたものが全部筋肉にならなかったら、残りはどこに行くのカナ?」

 大分強引に話を戻してみたが、挙動不審になっていないだろうか? 心配。

「それも体質と体調による。肉体に必要な栄養を使った残りは、魔力機関に分解されて魔力に変換される。魔力機関が発達している者は、分解能力も高いので全て体内で分解される。魔力機関が弱っていたり損傷していたりすると、分解しきれなかった残りは体外に排出されることになる」

 なるほど。
 体調不良じゃなくて、むしろ逆に体調が良いから排泄物が出ないってことなのか。

 ファリの話から察するに、体内に魔力を生成する場所があって、それを魔力機関って呼んでいるってことだなんだろうな。
 で、おれは聖女だから魔力機関も発達してるってこと?
 うーん、でも、おれは元々この世界の住人じゃないのに、魔力機関とかあるのか?
 いや、それを言ったら魔力機関がないのに魔法を使えるのも不自然?
 元々あったけど、元の世界では認識されていなかった…とか?
 それともこちらの世界に来たことで何かが変わった…のか?

 よく分からないけど、考えるだけムダな気もする…

 まぁ、とにかく、結論、魔法のお陰ってことだな!

 ビバ聖女! スゲーな、魔法!

 って、それはもういいっての!
 とりあえずセルフ突っ込みで自分を諌めておいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

BL
公爵家の長女、アイリス 国で一番と言われる第一王子の妻で、周りからは“悪女”と呼ばれている それが「私」……いや、 それが今の「僕」 僕は10年前の事故で行方不明になった姉の代わりに、愛する人の元へ嫁ぐ 前世にプレイしていた乙女ゲームの世界のバグになった僕は、僕の2回目の人生を狂わせた実父である公爵へと復讐を決意する 復讐を遂げるまではなんとか男である事を隠して生き延び、そして、僕の死刑の時には公爵を道連れにする そう思った矢先に、夫の弟である第二王子に正体がバレてしまい……⁉︎ 切なく甘い新感覚転生BL! 下記の内容を含みます ・差別表現 ・嘔吐 ・座薬 ・R-18❇︎ 130話少し前のエリーサイド小説も投稿しています。(百合) 《イラスト》黒咲留時(@black_illust) ※流血表現、死ネタを含みます ※誤字脱字は教えて頂けると嬉しいです ※感想なども頂けると跳んで喜びます! ※恋愛描写は少なめですが、終盤に詰め込む予定です ※若干の百合要素を含みます

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~

てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」 仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。 フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。 銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。 愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。 それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。 オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。 イラスト:imooo様 【二日に一回0時更新】 手元のデータは完結済みです。 ・・・・・・・・・・・・・・ ※以下、各CPのネタバレあらすじです ①竜人✕社畜   異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――? ②魔人✕学生   日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!? ③王子・魔王✕平凡学生  召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。 ④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――? ⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

弟いわく、ここは乙女ゲームの世界らしいです

BL
――‥ 昔、あるとき弟が言った。此処はある乙女ゲームの世界の中だ、と。我が侯爵家 ハワードは今の代で終わりを迎え、父・母の散財により没落貴族に堕ちる、と… 。そして、これまでの悪事が晒され、父・母と共に令息である僕自身も母の息の掛かった婚約者の悪役令嬢と共に公開処刑にて断罪される… と。あの日、珍しく滑舌に喋り出した弟は予言めいた言葉を口にした――‥ 。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...