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まだまだ森の中

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 再び歩き始め、しばらく進んだが、迷いのない足取りで、ファリが北に向かっているのに気づく。このまま歩けば森を抜けて王都方面に出られる。
 おれは、マップを使っているから北へ向かっているのがわかるが、ファリは?

「迷いなく進んでいるけど、ファリは道を知ってるのか?」

「道自体はわからない。開けた場所を通った時に太陽の方角を確認した。この方角に進めば王都側に出られるだろう」

 こちらの世界にも『太陽』にあたるものがあり、大雑把に言うと、陽は東から昇って西へ沈む。元の世界と方角の概念も変わらないようだ。
 獣人のファリは身体感覚が鋭く、方角をざっと確認するだけで、大体目的地までたどり着けるらしい。

 言語に関しては、この大陸の共通語の他に、国別に母国語も存在するそうだ。
 試しにファリが知っている言語を色々使ってもらったが、おれにはどれも同じように理解できた。数カ国語で『おはよう』と言って貰ったが、全部同じように『おはよう』と聞こえたのだ。
 元の世界なら『グッド モーニング』だとか『ボン ジュール』だとか、別の言葉で聞こえるはずで。どうやら言葉は自動的に翻訳されているようだ。
 勉強しなくても話せるってスバラシイ!

 ただ、存在しない概念は、自動翻訳されないらしい。例えば『おはよう』などの挨拶は、同じ言葉ではないが、どちらの世界にも挨拶の概念はあるので、翻訳される。
 『テレビ』や『パソコン』など、明らかにこちらの世界に無いものは理解できる言葉として翻訳されない。そんな感じだ。

「あっ!」

 慣れない森の中で、考えごとをしながら歩いていたせいか、うっかり木の根に足をひっかけてしまった。

「カズアキッ」

 転びそうになった体をとっさにファリが支えてくれる。

「ありがとう」

 お礼を言って離れようとしたが、ファリの腕に引き止められて、抱きしめられる。

 ほわっ、いー匂い… きもちいー…

 そのまま抱え上げられそうになり、つられてファリの首に両手を回してしまいそうになったが、ハタと我にかえる。

 …っ! 気持ちいー、じゃねーわっ!ダメだからっ!
 …おれって結構誘惑に弱いタイプだったんだなぁ…

 そしてファリは過保護に過ぎる。
 回そうとした両手でファリを押し返し、体を離す。

「大丈夫、ひとりで歩くよ。おれが弱いから心配させちゃってごめんな。でも、だからこそ鍛えないと」

 そう、クエストのこともあり、死にたくなければ鍛える必要がある。またファリに頼ることになり心苦しいけれど、ファリと一緒に居られるうちに、もう少しまともに戦えるように鍛えるのを助けて貰えないだろうか?

「…やはり歳下だと頼りにはして貰えないのか…」

 ファリが、しゅんとして、耳と尻尾を垂らした。

 年齢を知った途端に抱き込まれるのを拒んだからそう思わせてしまったのか。

「えっ!? 違うよ、反対だろ!? むしろ頼りにし過ぎて申し訳ないくらいだよっ。 ファリには悪いけど、頼りついでにお願いがあるんだけど…」

「! 何でも言ってくれ」

 おれの言葉に弾かれるように顔を上げたファリの尻尾が、嬉しそうにパタパタと揺れる。
 わがままを言っているのに、快く力になろうとしてくれるファリは、やはり良い人だ。

「レベルを上げるのを手伝って欲しいんだ」

 レベルが低いままだと、クエストの解放が遅くなり、解放されても時間が足りず、クリア出来ない事態に陥るかもしれない。ある程度レベルを上げておいて、クエストを解放させておけば、先の予定も立てやすくなるのではないだろうか?
 てゆーか、レベルの概念ってあるのかな?
 マップやステータスの画面はおれにしか見えないみたいだし…

「…レベル?」

 案の定ファリが首を傾げている。

「個人の能力を表す基準みたいなものなんだけど…。魔法とか戦闘が強くなれば上がっていく感じの…」

「戦闘能力を表す基準か? それならば軍には階級が、冒険者はギルドがランク制度を設けているな。但し、軍の場合は身分なども加味されている。冒険者は戦闘能力の他に採取や調合などの技術も反映される。故にどちらも純粋に戦闘能力だけを測るものではないが、目安にはなるだろう」

 おおお! 冒険者ギルド! 
 よく物語に登場してくる、依頼をこなしたら報酬が貰えるっていうアレだよな。それはちょっとわくわくするなっ! なんだか物語の登場人物になったみたいな感じがする。
 って、おれ偽者だけど主人公だっけ? 乙女ゲームのだけど…

 ステータス画面のおれの名前の横に『主人公』と書かれていたことを思い出して、げんなりとした。

 でもファリの口振りからしてやはり、レベルの概念は無さそうな雰囲気だ。少なくともファリには。

「ファリは冒険者ギルドに登録してるのか?」

 興味深々で聞いてみる。

「いや、登録していない。カズアキは、冒険者に興味があるのか?」

「うん、どんな感じなのか気になるかな」

 できれば登録してみたい。登録したら、ランクとかが記載されているギルドカードなんかを貰えたりするのかな?

「冒険者は危険な仕事だ。ギルドも上品な場所とは言えないだろう。カズアキにはあまり勧められないな」

 おれを気遣ってそう言うファリの腕を、両手で握って視線が合うように見上げる。

「そうかもしれないけど、冒険者、カッコイイよね! 見るだけでも見てみたいな」

 わくわくが押さえきれず、自分でも目がキラキラしているのがわかる。

「格好良い…」

 ファリの耳がピクッと動いた後、ピンと伸びる。

「…わかった。王都に着いたら先ずはわたしが登録してみよう」
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