19 / 78
まだまだ森の中
しおりを挟む
再び歩き始め、しばらく進んだが、迷いのない足取りで、ファリが北に向かっているのに気づく。このまま歩けば森を抜けて王都方面に出られる。
おれは、マップを使っているから北へ向かっているのがわかるが、ファリは?
「迷いなく進んでいるけど、ファリは道を知ってるのか?」
「道自体はわからない。開けた場所を通った時に太陽の方角を確認した。この方角に進めば王都側に出られるだろう」
こちらの世界にも『太陽』にあたるものがあり、大雑把に言うと、陽は東から昇って西へ沈む。元の世界と方角の概念も変わらないようだ。
獣人のファリは身体感覚が鋭く、方角をざっと確認するだけで、大体目的地までたどり着けるらしい。
言語に関しては、この大陸の共通語の他に、国別に母国語も存在するそうだ。
試しにファリが知っている言語を色々使ってもらったが、おれにはどれも同じように理解できた。数カ国語で『おはよう』と言って貰ったが、全部同じように『おはよう』と聞こえたのだ。
元の世界なら『グッド モーニング』だとか『ボン ジュール』だとか、別の言葉で聞こえるはずで。どうやら言葉は自動的に翻訳されているようだ。
勉強しなくても話せるってスバラシイ!
ただ、存在しない概念は、自動翻訳されないらしい。例えば『おはよう』などの挨拶は、同じ言葉ではないが、どちらの世界にも挨拶の概念はあるので、翻訳される。
『テレビ』や『パソコン』など、明らかにこちらの世界に無いものは理解できる言葉として翻訳されない。そんな感じだ。
「あっ!」
慣れない森の中で、考えごとをしながら歩いていたせいか、うっかり木の根に足をひっかけてしまった。
「カズアキッ」
転びそうになった体をとっさにファリが支えてくれる。
「ありがとう」
お礼を言って離れようとしたが、ファリの腕に引き止められて、抱きしめられる。
ほわっ、いー匂い… きもちいー…
そのまま抱え上げられそうになり、つられてファリの首に両手を回してしまいそうになったが、ハタと我にかえる。
…っ! 気持ちいー、じゃねーわっ!ダメだからっ!
…おれって結構誘惑に弱いタイプだったんだなぁ…
そしてファリは過保護に過ぎる。
回そうとした両手でファリを押し返し、体を離す。
「大丈夫、ひとりで歩くよ。おれが弱いから心配させちゃってごめんな。でも、だからこそ鍛えないと」
そう、クエストのこともあり、死にたくなければ鍛える必要がある。またファリに頼ることになり心苦しいけれど、ファリと一緒に居られるうちに、もう少しまともに戦えるように鍛えるのを助けて貰えないだろうか?
「…やはり歳下だと頼りにはして貰えないのか…」
ファリが、しゅんとして、耳と尻尾を垂らした。
年齢を知った途端に抱き込まれるのを拒んだからそう思わせてしまったのか。
「えっ!? 違うよ、反対だろ!? むしろ頼りにし過ぎて申し訳ないくらいだよっ。 ファリには悪いけど、頼りついでにお願いがあるんだけど…」
「! 何でも言ってくれ」
おれの言葉に弾かれるように顔を上げたファリの尻尾が、嬉しそうにパタパタと揺れる。
わがままを言っているのに、快く力になろうとしてくれるファリは、やはり良い人だ。
「レベルを上げるのを手伝って欲しいんだ」
レベルが低いままだと、クエストの解放が遅くなり、解放されても時間が足りず、クリア出来ない事態に陥るかもしれない。ある程度レベルを上げておいて、クエストを解放させておけば、先の予定も立てやすくなるのではないだろうか?
てゆーか、レベルの概念ってあるのかな?
マップやステータスの画面はおれにしか見えないみたいだし…
「…レベル?」
案の定ファリが首を傾げている。
「個人の能力を表す基準みたいなものなんだけど…。魔法とか戦闘が強くなれば上がっていく感じの…」
「戦闘能力を表す基準か? それならば軍には階級が、冒険者はギルドがランク制度を設けているな。但し、軍の場合は身分なども加味されている。冒険者は戦闘能力の他に採取や調合などの技術も反映される。故にどちらも純粋に戦闘能力だけを測るものではないが、目安にはなるだろう」
おおお! 冒険者ギルド!
よく物語に登場してくる、依頼をこなしたら報酬が貰えるっていうアレだよな。それはちょっとわくわくするなっ! なんだか物語の登場人物になったみたいな感じがする。
って、おれ偽者だけど主人公だっけ? 乙女ゲームのだけど…
ステータス画面のおれの名前の横に『主人公』と書かれていたことを思い出して、げんなりとした。
でもファリの口振りからしてやはり、レベルの概念は無さそうな雰囲気だ。少なくともファリには。
「ファリは冒険者ギルドに登録してるのか?」
興味深々で聞いてみる。
「いや、登録していない。カズアキは、冒険者に興味があるのか?」
「うん、どんな感じなのか気になるかな」
できれば登録してみたい。登録したら、ランクとかが記載されているギルドカードなんかを貰えたりするのかな?
「冒険者は危険な仕事だ。ギルドも上品な場所とは言えないだろう。カズアキにはあまり勧められないな」
おれを気遣ってそう言うファリの腕を、両手で握って視線が合うように見上げる。
「そうかもしれないけど、冒険者、カッコイイよね! 見るだけでも見てみたいな」
わくわくが押さえきれず、自分でも目がキラキラしているのがわかる。
「格好良い…」
ファリの耳がピクッと動いた後、ピンと伸びる。
「…わかった。王都に着いたら先ずはわたしが登録してみよう」
おれは、マップを使っているから北へ向かっているのがわかるが、ファリは?
「迷いなく進んでいるけど、ファリは道を知ってるのか?」
「道自体はわからない。開けた場所を通った時に太陽の方角を確認した。この方角に進めば王都側に出られるだろう」
こちらの世界にも『太陽』にあたるものがあり、大雑把に言うと、陽は東から昇って西へ沈む。元の世界と方角の概念も変わらないようだ。
獣人のファリは身体感覚が鋭く、方角をざっと確認するだけで、大体目的地までたどり着けるらしい。
言語に関しては、この大陸の共通語の他に、国別に母国語も存在するそうだ。
試しにファリが知っている言語を色々使ってもらったが、おれにはどれも同じように理解できた。数カ国語で『おはよう』と言って貰ったが、全部同じように『おはよう』と聞こえたのだ。
元の世界なら『グッド モーニング』だとか『ボン ジュール』だとか、別の言葉で聞こえるはずで。どうやら言葉は自動的に翻訳されているようだ。
勉強しなくても話せるってスバラシイ!
ただ、存在しない概念は、自動翻訳されないらしい。例えば『おはよう』などの挨拶は、同じ言葉ではないが、どちらの世界にも挨拶の概念はあるので、翻訳される。
『テレビ』や『パソコン』など、明らかにこちらの世界に無いものは理解できる言葉として翻訳されない。そんな感じだ。
「あっ!」
慣れない森の中で、考えごとをしながら歩いていたせいか、うっかり木の根に足をひっかけてしまった。
「カズアキッ」
転びそうになった体をとっさにファリが支えてくれる。
「ありがとう」
お礼を言って離れようとしたが、ファリの腕に引き止められて、抱きしめられる。
ほわっ、いー匂い… きもちいー…
そのまま抱え上げられそうになり、つられてファリの首に両手を回してしまいそうになったが、ハタと我にかえる。
…っ! 気持ちいー、じゃねーわっ!ダメだからっ!
…おれって結構誘惑に弱いタイプだったんだなぁ…
そしてファリは過保護に過ぎる。
回そうとした両手でファリを押し返し、体を離す。
「大丈夫、ひとりで歩くよ。おれが弱いから心配させちゃってごめんな。でも、だからこそ鍛えないと」
そう、クエストのこともあり、死にたくなければ鍛える必要がある。またファリに頼ることになり心苦しいけれど、ファリと一緒に居られるうちに、もう少しまともに戦えるように鍛えるのを助けて貰えないだろうか?
「…やはり歳下だと頼りにはして貰えないのか…」
ファリが、しゅんとして、耳と尻尾を垂らした。
年齢を知った途端に抱き込まれるのを拒んだからそう思わせてしまったのか。
「えっ!? 違うよ、反対だろ!? むしろ頼りにし過ぎて申し訳ないくらいだよっ。 ファリには悪いけど、頼りついでにお願いがあるんだけど…」
「! 何でも言ってくれ」
おれの言葉に弾かれるように顔を上げたファリの尻尾が、嬉しそうにパタパタと揺れる。
わがままを言っているのに、快く力になろうとしてくれるファリは、やはり良い人だ。
「レベルを上げるのを手伝って欲しいんだ」
レベルが低いままだと、クエストの解放が遅くなり、解放されても時間が足りず、クリア出来ない事態に陥るかもしれない。ある程度レベルを上げておいて、クエストを解放させておけば、先の予定も立てやすくなるのではないだろうか?
てゆーか、レベルの概念ってあるのかな?
マップやステータスの画面はおれにしか見えないみたいだし…
「…レベル?」
案の定ファリが首を傾げている。
「個人の能力を表す基準みたいなものなんだけど…。魔法とか戦闘が強くなれば上がっていく感じの…」
「戦闘能力を表す基準か? それならば軍には階級が、冒険者はギルドがランク制度を設けているな。但し、軍の場合は身分なども加味されている。冒険者は戦闘能力の他に採取や調合などの技術も反映される。故にどちらも純粋に戦闘能力だけを測るものではないが、目安にはなるだろう」
おおお! 冒険者ギルド!
よく物語に登場してくる、依頼をこなしたら報酬が貰えるっていうアレだよな。それはちょっとわくわくするなっ! なんだか物語の登場人物になったみたいな感じがする。
って、おれ偽者だけど主人公だっけ? 乙女ゲームのだけど…
ステータス画面のおれの名前の横に『主人公』と書かれていたことを思い出して、げんなりとした。
でもファリの口振りからしてやはり、レベルの概念は無さそうな雰囲気だ。少なくともファリには。
「ファリは冒険者ギルドに登録してるのか?」
興味深々で聞いてみる。
「いや、登録していない。カズアキは、冒険者に興味があるのか?」
「うん、どんな感じなのか気になるかな」
できれば登録してみたい。登録したら、ランクとかが記載されているギルドカードなんかを貰えたりするのかな?
「冒険者は危険な仕事だ。ギルドも上品な場所とは言えないだろう。カズアキにはあまり勧められないな」
おれを気遣ってそう言うファリの腕を、両手で握って視線が合うように見上げる。
「そうかもしれないけど、冒険者、カッコイイよね! 見るだけでも見てみたいな」
わくわくが押さえきれず、自分でも目がキラキラしているのがわかる。
「格好良い…」
ファリの耳がピクッと動いた後、ピンと伸びる。
「…わかった。王都に着いたら先ずはわたしが登録してみよう」
1
お気に入りに追加
535
あなたにおすすめの小説
悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
断罪フラグを回避したらヒロインの攻略対象者である自分の兄に監禁されました。
慎
BL
あるきっかけで前世の記憶を思い出し、ここが『王宮ラビンス ~冷酷王の熱い眼差しに晒されて』という乙女ゲームの中だと気付く。そのうえ自分がまさかのゲームの中の悪役で、しかも悪役は悪役でもゲームの序盤で死亡予定の超脇役。近いうちに腹違いの兄王に処刑されるという断罪フラグを回避するため兄王の目に入らないよう接触を避け、目立たないようにしてきたのに、断罪フラグを回避できたと思ったら兄王にまさかの監禁されました。
『オーディ… こうして兄を翻弄させるとは、一体どこでそんな技を覚えてきた?』
「ま、待って!待ってください兄上…ッ この鎖は何ですか!?」
ジャラリと音が鳴る足元。どうしてですかね… なんで起きたら足首に鎖が繋いでるんでしょうかッ!?
『ああ、よく似合ってる… 愛しいオーディ…。もう二度と離さない』
すみません。もの凄く別の意味で身の危険を感じるんですが!蕩けるような熱を持った眼差しを向けてくる兄上。…ちょっと待ってください!今の僕、7歳!あなた10歳以上も離れてる兄ですよね…ッ!?しかも同性ですよね!?ショタ?ショタなんですかこの国の王様は!?僕の兄上は!??そもそも、あなたのお相手のヒロインは違うでしょう!?Σちょ、どこ触ってるんですか!?
ゲームの展開と誤差が出始め、やがて国に犯罪の合法化の案を検討し始めた兄王に…。さらにはゲームの裏設定!?なんですか、それ!?国の未来と自分の身の貞操を守るために隙を見て逃げ出した――。
鏡を鑑定したら魔王が僕にロックオン!?
ミクリ21
BL
異世界転生をした元日本人の佐久間 由奈(37)は、ウィリアム・ブラックファイア(15)になっていた。
転生チートとして鑑定スキルを持ち、浮かれて部屋の中の物を鑑定していく。
しかし鏡を鑑定すると明らかに鏡じゃない結果が出て、謎の人物が登場してしまい!?
不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【魔法学園編 突入☆】
はぴねこ
BL
魔法学園編突入! 学園モノは読みたいけど、そこに辿り着くまでの長い話を読むのは大変という方は、魔法学園編の000話をお読みください。これまでのあらすじをまとめてあります。
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。
金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。
享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。
見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。
気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。
幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する!
リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。
カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。
魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。
オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。
ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる