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episode-4 伯爵の甘い罠
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キルサラ時計塔を後にし、東の方にある伯爵邸に向かっているルナと終夜の二人は、伯爵邸の目と鼻の先まで到達していた。道中には全く人に会わず気配も全くしない。人だけでなく、野生動物の気配すらしない。まるで生物全てが伯爵邸に近づくのを拒んでいるのだろうか。そう思うほどの静けさだった。不思議に思った終夜は立ち止まり、
「…いくら何でもおかしい。ここはかつて多くの生き物が生息していたとされる黒湖付近…この野原も野ウサギが多くいた野原のはずだ。」
と言い辺りを見渡した。目を凝らして遠くを見ると、東の方から人影が見えた。
「終夜、あれって人じゃないか?…かなり慌てているようだけど…」
「ん?あいつは…ローヌ一味の一人だな。ほかにも二人ほどいた気がするが…」
そう話して見ていると、あちらもルナたちに気付いたのだろうか、せわしなく近づいて来た。
「に、人間だ!た、頼むっス!あ…あ、アニキたちを助けてほしいっス!!」
姿を見ると、腕に大量の切り裂き傷と打撲の痣がありやせ細った一五歳ほどの少年だった。ルナと終夜は急いで応急手当をし、非常食を分け与えた。
しばらくすると、落ち着いたのか少年は話し始めた。
「助けてくれてありがとうっス。オイラ、ローヌ一味のミドっス!」
名前を聞くと、終夜は驚いた。
「待て!!俺が知っているローヌ一味のミドはこんな子供の姿じゃなかったぞ!?確か年齢も三〇代手前のはずだ!」
その事実を耳にし、ルナは驚いた。終夜の言っていることが正しければ目の前にいる少年は一体何者なのだと考えてしまった。
「そう!そこなんっスよ!今から事情を話すっス!」
ミドと名乗る少年は事の経路を話し始めた。ゲッテル伯爵邸に侵入し、伯爵に見つかり戦闘をなり敗北して捕まったこと。捕らわれた後、二日に続いて酷い拷問を受けたり、変な実験の実験体にされたこと。自分は仲間の二人が必死に逃がしてくれたことなど、事細かに話してくれた。この少年は間違いなくローヌ一味のミドであると確信を持ったのだが、ルナは一つの点に疑問を抱いた。
「ミド…さん?でいいのかな?実験って何をされたの?」
そう聞かれたミドは下を向いて黙ってしまった。どうやら気を失ってその部分をあんまり覚えていないようだ。しかし一つだけ覚えていることがあるらしい。それは、黒い宝玉に触らされたこと。ほかの記憶は曖昧だが、黒い宝玉に触れたことは鮮明に覚えているらしい。
「やはり黒い宝玉に関係することだったか…ルナ急ぐぞ。ミド、伯爵邸まで案内しろ。ほかの二人を探してやる。」
「ホントっスか!ありがとうっス!」
ルナ・終夜に加えてミドの三人は伯爵邸へと向かった。
数十分後、ついに三人はゲッテル伯爵邸へたどり着いた。そして案の定、正面玄関前の庭には絡繰りの警備員人形が九体ほど配置されていた。
「いいか、作戦はこうだ。」
まず、終夜が絡繰り人形たちを引き付け、その間にルナとミドはこっそりと本邸へ向かう。二人が無事に到達したら合図を送り、終夜が絡繰り人形たちを機能停止させし合流。という内容の作戦だった。ルナは小声でこう聞いた。
「なんて単純な…。私は構わないが、その作戦本当に大丈夫なのか?」
「ざっと見積もって…何もなければ一〇割で成功するだろう。俺が見るに、あの絡繰り共は手入れも全くされていない。錆びた部分を的確に斬れば動かなくなるだろう。」
終夜はそう断言した。彼の言う通り、絡繰り人形たちはいたるところが錆びついていて動きがぎこちなく、いつ壊れてもおかしくない状態だった。彼は到着して数秒で周囲の状況を判断したのだ。ルナはこの時に、彼の洞察力・判断力から、やはり終夜は本物の殺し屋だと改めて確信した。
絡繰り人形の集団に一歩一歩と歩み寄る終夜。無論、絡繰り人形に気付かれ囲まれてしまった。そしてその隙に、こっそりと後ろを通るルナとミド。何とか玄関扉の前まで到達した。ここまでは作戦通り、そして二人は終夜に合図を送ろうとした。ギイィ…ッ!と扉が開いた。次の瞬間、爬虫類のような手が飛び出してきてルナの服の袖とミドの首根っこを鷲掴みにした。二人は驚き慌てて振り払おうとした。しかし、抵抗する間もなくそのまま二人を引きずり込んでいった。
その瞬間を見た終夜は二人の異変に気付き、すぐさま絡繰り人形を斬り壊し、扉へ向かった。彼は自身の影の中に消え影の中を素早く這うように動いた。その圧倒的な速さ扉に着いたが、扉は固く閉ざされていた。必死にこじ開けようと扉を壊す勢いで動かそうとした。すると、後ろから
「無駄ですよ、月影終夜。今はこの扉は何をしても開きませんよ。」
と、あたかも理由を知っているかのように何者かが終夜に向けてそう言った。
「お前は…誰だ?さっきまでいなかったが、いつの間に後ろにいる?只者じゃなさそうだな。名前は?」
不意に話しかけられた終夜は抜刀の構えになっていた。
「そう警戒しないでくださいよ!僕は貴方に危害を加えるつもりはないですよ。僕は黒木 実宣。以前までここで仕えていた者です。貴方たちの計画は、小耳にはさんでいたので知っています。どうやら、あの忌まわしき黒い宝玉を狙っているとか。」
「黒木実宣…聞いたことがある。お前は少し前から捜索依頼されている人間だな。その口だとお前、あれの正体を知っているな?知っているなら教えろ、あれはなんだ?」
終夜は抜刀し構えてそう尋ねた。
「ええ、少々存じ上げていますとも。あれはですね…」
人が人でなくなってしまう悪魔の宝ですよ。
「…いくら何でもおかしい。ここはかつて多くの生き物が生息していたとされる黒湖付近…この野原も野ウサギが多くいた野原のはずだ。」
と言い辺りを見渡した。目を凝らして遠くを見ると、東の方から人影が見えた。
「終夜、あれって人じゃないか?…かなり慌てているようだけど…」
「ん?あいつは…ローヌ一味の一人だな。ほかにも二人ほどいた気がするが…」
そう話して見ていると、あちらもルナたちに気付いたのだろうか、せわしなく近づいて来た。
「に、人間だ!た、頼むっス!あ…あ、アニキたちを助けてほしいっス!!」
姿を見ると、腕に大量の切り裂き傷と打撲の痣がありやせ細った一五歳ほどの少年だった。ルナと終夜は急いで応急手当をし、非常食を分け与えた。
しばらくすると、落ち着いたのか少年は話し始めた。
「助けてくれてありがとうっス。オイラ、ローヌ一味のミドっス!」
名前を聞くと、終夜は驚いた。
「待て!!俺が知っているローヌ一味のミドはこんな子供の姿じゃなかったぞ!?確か年齢も三〇代手前のはずだ!」
その事実を耳にし、ルナは驚いた。終夜の言っていることが正しければ目の前にいる少年は一体何者なのだと考えてしまった。
「そう!そこなんっスよ!今から事情を話すっス!」
ミドと名乗る少年は事の経路を話し始めた。ゲッテル伯爵邸に侵入し、伯爵に見つかり戦闘をなり敗北して捕まったこと。捕らわれた後、二日に続いて酷い拷問を受けたり、変な実験の実験体にされたこと。自分は仲間の二人が必死に逃がしてくれたことなど、事細かに話してくれた。この少年は間違いなくローヌ一味のミドであると確信を持ったのだが、ルナは一つの点に疑問を抱いた。
「ミド…さん?でいいのかな?実験って何をされたの?」
そう聞かれたミドは下を向いて黙ってしまった。どうやら気を失ってその部分をあんまり覚えていないようだ。しかし一つだけ覚えていることがあるらしい。それは、黒い宝玉に触らされたこと。ほかの記憶は曖昧だが、黒い宝玉に触れたことは鮮明に覚えているらしい。
「やはり黒い宝玉に関係することだったか…ルナ急ぐぞ。ミド、伯爵邸まで案内しろ。ほかの二人を探してやる。」
「ホントっスか!ありがとうっス!」
ルナ・終夜に加えてミドの三人は伯爵邸へと向かった。
数十分後、ついに三人はゲッテル伯爵邸へたどり着いた。そして案の定、正面玄関前の庭には絡繰りの警備員人形が九体ほど配置されていた。
「いいか、作戦はこうだ。」
まず、終夜が絡繰り人形たちを引き付け、その間にルナとミドはこっそりと本邸へ向かう。二人が無事に到達したら合図を送り、終夜が絡繰り人形たちを機能停止させし合流。という内容の作戦だった。ルナは小声でこう聞いた。
「なんて単純な…。私は構わないが、その作戦本当に大丈夫なのか?」
「ざっと見積もって…何もなければ一〇割で成功するだろう。俺が見るに、あの絡繰り共は手入れも全くされていない。錆びた部分を的確に斬れば動かなくなるだろう。」
終夜はそう断言した。彼の言う通り、絡繰り人形たちはいたるところが錆びついていて動きがぎこちなく、いつ壊れてもおかしくない状態だった。彼は到着して数秒で周囲の状況を判断したのだ。ルナはこの時に、彼の洞察力・判断力から、やはり終夜は本物の殺し屋だと改めて確信した。
絡繰り人形の集団に一歩一歩と歩み寄る終夜。無論、絡繰り人形に気付かれ囲まれてしまった。そしてその隙に、こっそりと後ろを通るルナとミド。何とか玄関扉の前まで到達した。ここまでは作戦通り、そして二人は終夜に合図を送ろうとした。ギイィ…ッ!と扉が開いた。次の瞬間、爬虫類のような手が飛び出してきてルナの服の袖とミドの首根っこを鷲掴みにした。二人は驚き慌てて振り払おうとした。しかし、抵抗する間もなくそのまま二人を引きずり込んでいった。
その瞬間を見た終夜は二人の異変に気付き、すぐさま絡繰り人形を斬り壊し、扉へ向かった。彼は自身の影の中に消え影の中を素早く這うように動いた。その圧倒的な速さ扉に着いたが、扉は固く閉ざされていた。必死にこじ開けようと扉を壊す勢いで動かそうとした。すると、後ろから
「無駄ですよ、月影終夜。今はこの扉は何をしても開きませんよ。」
と、あたかも理由を知っているかのように何者かが終夜に向けてそう言った。
「お前は…誰だ?さっきまでいなかったが、いつの間に後ろにいる?只者じゃなさそうだな。名前は?」
不意に話しかけられた終夜は抜刀の構えになっていた。
「そう警戒しないでくださいよ!僕は貴方に危害を加えるつもりはないですよ。僕は黒木 実宣。以前までここで仕えていた者です。貴方たちの計画は、小耳にはさんでいたので知っています。どうやら、あの忌まわしき黒い宝玉を狙っているとか。」
「黒木実宣…聞いたことがある。お前は少し前から捜索依頼されている人間だな。その口だとお前、あれの正体を知っているな?知っているなら教えろ、あれはなんだ?」
終夜は抜刀し構えてそう尋ねた。
「ええ、少々存じ上げていますとも。あれはですね…」
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