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第四章:消えぬ想い
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机に投げられた一通の手紙。それはお店も閉まり後片付けをしている時だった。
「あの、これは?」
椅子に座っていた僕は手紙を持って来た(机を挟み向かいに座る)秋生さんにそう尋ねた。
「読めばわかる」
淡々とした声が答えると僕はとりあえず手紙を手に取り中を見てみる。それが誰からの手紙なのかはすぐに気が付いた。だからこそ前のめりで読み進めあっという間に読み終えてしまったのだ。
「これって……」
「書いてある通りだ。もうあいつと会う事はない」
「そんな急に……」
「諦めろ。あいつはお前のどうこう出来る女じゃない」
「でも僕は――」
「何故あいつがお前のような奴と関係を持ったか分かるか?」
「え? 直接は聞いた事ないですけど、楽しんでくれてくれてました。それに僕の事を……」
脳裏で思い出していた夕顔さんはその声や温もりまでもが鮮明なものだった。
だけどそんな僕を一笑する声が想い出の中から現実へ連れ戻す。
「それがあいつの本音だとでも思ってるのか?」
「どういう意味ですか?」
「あいつはそうやって男を取り込むのが仕事だ。どんな男でもあいつの隣に座れば自分に好意があると思い込む。お前のような男を落とせないと思うか?」
「でも僕にそんな事をして何の得があるんですか?」
「お前は唯一客たちにないモノを持ってる」
「ないモノ?」
「新鮮さだ。誰にも知られないように会うそこら辺の何でもない男。金を持ちの己の欲求の為に来る客とは違う。その新鮮味があいつを引き寄せた。だが人間はいずれ慣れる。それがその証だ」
秋生さんは僕の手にある手紙を指差した。
「あいつはうちの大事な遊女だ。替えは早々きかない。そんなあいつがもう会わないと言ってるんだ。もう二度と近づくな」
僕は手紙に目を落とした。そして頭では最後に会った時の事を思い出していた。夕顔さんの声や表情に手、首の温もり。肩に寄り掛かる幸せの重み。
急ってこともあるけどやっぱりそんなすぐに受け入れられない。もしそうなんだとしてもこんな手紙だけじゃ。
「手紙じゃなくて直接聞きたいです。そしたら諦めます。二度と会いません」
終始刀のようだったその目つきは少しその鋭さを増し僕に突き刺さった。
「勘違いするな。諦めてくれと言ってるんじゃない。決まった事を伝えてるだけだ」
「だとしても僕はそれを彼女の口から聞きたいです」
だけど僕は噛み付くように返していた。本気だと言うように彼の見るだけで怪我をしてしまいそうな双眸へ負けじと視線を向けながら。
「そうか。なら好きにするといい」
「ありが――」
「だが、あのじいさんにとってこの店は全てらしいな。お前もその店で働く身。好きにするのはいいがその責任はとってもらう。それを忘れるな」
「この店は――」
「話は終わりだ。俺はそんなに暇じゃない」
秋生さんは僕の言葉をまともに聞かずそれだけを言い残し店を出ようと立ち上がり歩き出したが丁度、戸が開き源さんが戻ってきた。
「これはこれは吉原屋の楼主様。わざわざこんなところへ。どうかされましたか?」
「いや、もう済んだ」
そう言うと秋生さんは源さんの開けたままの戸から店を出て行った。彼のいなくなった店内に残された沈黙の中、源さんは戸を閉め手紙をまた読んでいた僕の傍で足を止めた。
「なんだそれは?」
僕は答えはせず手紙を源さんに見せた。状況が把握できず眉間に小皺を寄せながら源さんは手紙へ視線を落とした。
「お前、これ……」
言葉を詰まらせた源さんは手紙を僕に返すと嘆息を零し近くの席に腰を下ろした。
「あの、これは?」
椅子に座っていた僕は手紙を持って来た(机を挟み向かいに座る)秋生さんにそう尋ねた。
「読めばわかる」
淡々とした声が答えると僕はとりあえず手紙を手に取り中を見てみる。それが誰からの手紙なのかはすぐに気が付いた。だからこそ前のめりで読み進めあっという間に読み終えてしまったのだ。
「これって……」
「書いてある通りだ。もうあいつと会う事はない」
「そんな急に……」
「諦めろ。あいつはお前のどうこう出来る女じゃない」
「でも僕は――」
「何故あいつがお前のような奴と関係を持ったか分かるか?」
「え? 直接は聞いた事ないですけど、楽しんでくれてくれてました。それに僕の事を……」
脳裏で思い出していた夕顔さんはその声や温もりまでもが鮮明なものだった。
だけどそんな僕を一笑する声が想い出の中から現実へ連れ戻す。
「それがあいつの本音だとでも思ってるのか?」
「どういう意味ですか?」
「あいつはそうやって男を取り込むのが仕事だ。どんな男でもあいつの隣に座れば自分に好意があると思い込む。お前のような男を落とせないと思うか?」
「でも僕にそんな事をして何の得があるんですか?」
「お前は唯一客たちにないモノを持ってる」
「ないモノ?」
「新鮮さだ。誰にも知られないように会うそこら辺の何でもない男。金を持ちの己の欲求の為に来る客とは違う。その新鮮味があいつを引き寄せた。だが人間はいずれ慣れる。それがその証だ」
秋生さんは僕の手にある手紙を指差した。
「あいつはうちの大事な遊女だ。替えは早々きかない。そんなあいつがもう会わないと言ってるんだ。もう二度と近づくな」
僕は手紙に目を落とした。そして頭では最後に会った時の事を思い出していた。夕顔さんの声や表情に手、首の温もり。肩に寄り掛かる幸せの重み。
急ってこともあるけどやっぱりそんなすぐに受け入れられない。もしそうなんだとしてもこんな手紙だけじゃ。
「手紙じゃなくて直接聞きたいです。そしたら諦めます。二度と会いません」
終始刀のようだったその目つきは少しその鋭さを増し僕に突き刺さった。
「勘違いするな。諦めてくれと言ってるんじゃない。決まった事を伝えてるだけだ」
「だとしても僕はそれを彼女の口から聞きたいです」
だけど僕は噛み付くように返していた。本気だと言うように彼の見るだけで怪我をしてしまいそうな双眸へ負けじと視線を向けながら。
「そうか。なら好きにするといい」
「ありが――」
「だが、あのじいさんにとってこの店は全てらしいな。お前もその店で働く身。好きにするのはいいがその責任はとってもらう。それを忘れるな」
「この店は――」
「話は終わりだ。俺はそんなに暇じゃない」
秋生さんは僕の言葉をまともに聞かずそれだけを言い残し店を出ようと立ち上がり歩き出したが丁度、戸が開き源さんが戻ってきた。
「これはこれは吉原屋の楼主様。わざわざこんなところへ。どうかされましたか?」
「いや、もう済んだ」
そう言うと秋生さんは源さんの開けたままの戸から店を出て行った。彼のいなくなった店内に残された沈黙の中、源さんは戸を閉め手紙をまた読んでいた僕の傍で足を止めた。
「なんだそれは?」
僕は答えはせず手紙を源さんに見せた。状況が把握できず眉間に小皺を寄せながら源さんは手紙へ視線を落とした。
「お前、これ……」
言葉を詰まらせた源さんは手紙を僕に返すと嘆息を零し近くの席に腰を下ろした。
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