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第壱幕:人と御伽
【29+滴】作戦成功?2
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「チッ! 一杯食わされみたいだな」
清明と黒山は研究員の情報で第一実験室に来ていた。
「引き続きくまなく探しなさい」
「はっ!」
だが黒山が指示を出している頃には既に優也達は建物の外。
「おい、黒山。これもお前の茶番の続きか?」
「茶番だなんて、私も随分と信用がないようですね」
「お前が何をしようと構わんがあまり俺らを巻き込むなよ」
イラついたようにそう言い残すと清明は第一実験室を去った。
「相変わらず怖いですね」
黒山は去って行く清明の背中を見ながら呟くがその表情は言葉とは違っていた。
「確かに茶番は嫌いではありませんが、私は有益なことしかしませんよ」
最後にそう呟くと不敵な笑みを浮かべた。
走る車の中でレイはニット帽を脱ぎネクタイを緩める。
「ふぅ~。それにしてもアモさんじゃなくてマリねぇが来て魔術でさっと帰らせてくれたほうが早かったんじゃないか?」
「魔女の扱う魔術にも制限などがあるので万能というわけではないのです。それにこちらの方が安全ですから」
「制限? それは知らなかったな」
するとアモはチラッとバックミラーを見た。
「お疲れのようですね」
その言葉でレイは後ろを振り返る。後ろの席では肩を寄せ合ってぐっすり眠る優也とノア。
「そーだな。――さて、コイツの登場がどう影響を及ぼすか楽しみだな……」
そう呟くとレイは静かに笑った。
重い瞼をゆっくり上げた優也はここ最近いつも寝起きしている部屋で目覚めた。起き上がり窓へ目をやるが外からの光が強すぎて何も見えない。それは不自然な程に強い光。
だが不思議とそこまで眩しくはなく、不思議とそれが自然であるように気にならない。そしてその光の所為かどうかは分からないが、部屋もいつもより白っぽく見えていた。だがそれも全く気にならない。いつもと違うが何一つ疑問に思わない優也はベッドから下りると部屋のドアを開けた。
外に出ると左右にはどこまでも伸びる先の見えない廊下。とりあえず他の部屋へ向かう為に左へ進み終りの見えない廊下を歩き続けた。
すると少し歩いた所でいつの間にか目の前は行き止まりになっていた。そしてそこには自分の身長より少し背の高い布のかかった何かが置いてある。
「何だろうこれ」
そう呟きながら引き寄せられるようにその布に手を伸ばすとゆっくりと布を剥がす。布の下から姿を現したのは大きな鏡。当然ながら鏡の中にはもう一人の自分が映っていた。
だが不思議なことに鏡のユウヤは布を手に持っていない。しかし特に気にせず優也は一人布を手放した。布は持っていなかったものの鏡に向かって右手を伸ばせば中のユウヤは鏡映しで左手を伸ばす。そのまま鏡越しに手と手が合わさった。
すると突然、手を着けていた部分を中心に入るヒビ。優也は反射的に手を引くが鏡のユウヤは依然と手を伸ばしたままだった。更によく見ると爪は鋭く伸び、肌は白っぽく、伸びた犬歯は鋭く尖り、その双眸は青く光っている。
その姿に自分もそうなっているのではと思い慌てて自分の爪を確認するが視線を落とした手の爪は綺麗に整えられていた。両腕を見るが肌はいつも通り。指で犬歯を触るが特に変わりない。
とりあえず一安心して顔を上げると鏡のユウヤは右手をポケットに入れていた。そして伸ばしていた左手をゆっくりと動かしていき優也を指差す。その後、口を動かし何か言っているようだがその声は消音にでもされているように聞こえない。
「え? 何? 聞こえないよ」
だがこちらの声も聞こえてないのか口は動き続ける。
そして口の動きが止まると指を差していた手は銃の形へと変わった。その銃口を優也に向けたまま撃つモーションをし効果音を言っているのか口も動かす。それは単なる銃を撃つジェスチャーだったはず。
だがその瞬間、心臓部に痛みを感じた優也は反射的に胸を押さえた。鏡のユウヤはその行動を見たからか薄ら笑いを浮かべている。お世辞にも良いとは言えない笑みを向けられながらも、押さえていた手を離し掌に視線を落としてみるとそこには血が滲んでいた。
次に胸を見ると服に染みを作っていた血は止まるどころか一気に服を濡らすが、それでも止まらず湧水の如く溢れ出す。それに加え口や鼻、目からも血が溢れ出してきた。痛みもどんどん増していき、ついには膝から崩れ落ち倒れる。止まらぬ痛みに悶えながら霞んでいく視界の中で鏡のユウヤは独りでに振り返りいつの間にか変わった背景へ歩き出していた。
そして鏡のユウヤが向こう側へ消えるのと同時に優也の意識も消えていった。
清明と黒山は研究員の情報で第一実験室に来ていた。
「引き続きくまなく探しなさい」
「はっ!」
だが黒山が指示を出している頃には既に優也達は建物の外。
「おい、黒山。これもお前の茶番の続きか?」
「茶番だなんて、私も随分と信用がないようですね」
「お前が何をしようと構わんがあまり俺らを巻き込むなよ」
イラついたようにそう言い残すと清明は第一実験室を去った。
「相変わらず怖いですね」
黒山は去って行く清明の背中を見ながら呟くがその表情は言葉とは違っていた。
「確かに茶番は嫌いではありませんが、私は有益なことしかしませんよ」
最後にそう呟くと不敵な笑みを浮かべた。
走る車の中でレイはニット帽を脱ぎネクタイを緩める。
「ふぅ~。それにしてもアモさんじゃなくてマリねぇが来て魔術でさっと帰らせてくれたほうが早かったんじゃないか?」
「魔女の扱う魔術にも制限などがあるので万能というわけではないのです。それにこちらの方が安全ですから」
「制限? それは知らなかったな」
するとアモはチラッとバックミラーを見た。
「お疲れのようですね」
その言葉でレイは後ろを振り返る。後ろの席では肩を寄せ合ってぐっすり眠る優也とノア。
「そーだな。――さて、コイツの登場がどう影響を及ぼすか楽しみだな……」
そう呟くとレイは静かに笑った。
重い瞼をゆっくり上げた優也はここ最近いつも寝起きしている部屋で目覚めた。起き上がり窓へ目をやるが外からの光が強すぎて何も見えない。それは不自然な程に強い光。
だが不思議とそこまで眩しくはなく、不思議とそれが自然であるように気にならない。そしてその光の所為かどうかは分からないが、部屋もいつもより白っぽく見えていた。だがそれも全く気にならない。いつもと違うが何一つ疑問に思わない優也はベッドから下りると部屋のドアを開けた。
外に出ると左右にはどこまでも伸びる先の見えない廊下。とりあえず他の部屋へ向かう為に左へ進み終りの見えない廊下を歩き続けた。
すると少し歩いた所でいつの間にか目の前は行き止まりになっていた。そしてそこには自分の身長より少し背の高い布のかかった何かが置いてある。
「何だろうこれ」
そう呟きながら引き寄せられるようにその布に手を伸ばすとゆっくりと布を剥がす。布の下から姿を現したのは大きな鏡。当然ながら鏡の中にはもう一人の自分が映っていた。
だが不思議なことに鏡のユウヤは布を手に持っていない。しかし特に気にせず優也は一人布を手放した。布は持っていなかったものの鏡に向かって右手を伸ばせば中のユウヤは鏡映しで左手を伸ばす。そのまま鏡越しに手と手が合わさった。
すると突然、手を着けていた部分を中心に入るヒビ。優也は反射的に手を引くが鏡のユウヤは依然と手を伸ばしたままだった。更によく見ると爪は鋭く伸び、肌は白っぽく、伸びた犬歯は鋭く尖り、その双眸は青く光っている。
その姿に自分もそうなっているのではと思い慌てて自分の爪を確認するが視線を落とした手の爪は綺麗に整えられていた。両腕を見るが肌はいつも通り。指で犬歯を触るが特に変わりない。
とりあえず一安心して顔を上げると鏡のユウヤは右手をポケットに入れていた。そして伸ばしていた左手をゆっくりと動かしていき優也を指差す。その後、口を動かし何か言っているようだがその声は消音にでもされているように聞こえない。
「え? 何? 聞こえないよ」
だがこちらの声も聞こえてないのか口は動き続ける。
そして口の動きが止まると指を差していた手は銃の形へと変わった。その銃口を優也に向けたまま撃つモーションをし効果音を言っているのか口も動かす。それは単なる銃を撃つジェスチャーだったはず。
だがその瞬間、心臓部に痛みを感じた優也は反射的に胸を押さえた。鏡のユウヤはその行動を見たからか薄ら笑いを浮かべている。お世辞にも良いとは言えない笑みを向けられながらも、押さえていた手を離し掌に視線を落としてみるとそこには血が滲んでいた。
次に胸を見ると服に染みを作っていた血は止まるどころか一気に服を濡らすが、それでも止まらず湧水の如く溢れ出す。それに加え口や鼻、目からも血が溢れ出してきた。痛みもどんどん増していき、ついには膝から崩れ落ち倒れる。止まらぬ痛みに悶えながら霞んでいく視界の中で鏡のユウヤは独りでに振り返りいつの間にか変わった背景へ歩き出していた。
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