御伽の住み人

佐武ろく

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第壱幕:人と御伽

【29滴】作戦成功?

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 一方、血液パックを詰めたクーラーバッグを肩に掛け一足先にモノレールへと急いでいたレイは、廊下の角が近づいてくると聞こえてきた研究員の声に足を止めた。そして息を顰めバレないように隠れながらその声に聞き耳を立てる。

「いたか?」
「いや、どこにも見当たらない」
「そういや聞いたか? 今ここに、清明さんがいるらしいぞ」
「清明さんってあの独立部隊iceのだろ?」
「あぁそうだ。スーツとハット帽の男を捜しているらしい」
「そいつも吸血鬼の仲間なのか? まぁ、あの人がいるなら逃げ出した吸血鬼やその男が捕まるのも時間の問題だな」

 研究員達は勝ちを確信したような安心したような様子だった。そんな会話を聞いていたレイは悪い笑みを浮かべ、通信機に小さな声で話しかける。

「モノレールから一番遠い部屋ってどこだ?」
「それなら第一実験室だな」

 それを聞くとレイは慌てた様子を演じつつ角から勢いよく飛び出す。

「おい! 第一実験室の方に吸血鬼とスーツの男が居たらしいぞ!」
「本当か!?」
「あぁ、早く清明さんに知らせてくれ」
「分かった。――何だそれは?」
「吸血鬼の血だ。局長に頼まれたから早く安全なところへ運ばないと」

 レイはクーラーバックを軽く叩いた。

「そうか。運び終えたらお前も合流しろよ」
「あぁ、すぐ行くよ」

 すると研究員達はレイに背を向け走り出そうとした。

「おい。ちょっと待て」

 だが、一人の研究員だけはレイの方を向いており顔を注意深く見始める。

「お前見ない顔だな? 本当にここの職員か?」
「(こいつ他の研究員の顔覚えてるのか? まずいな。どう切り抜ける?)」

 レイは瞬時にこの場を切り抜ける案をいくつか思い浮かべ最善の策を探した。
 だがその時、

「黒山局長が言っていた新人じゃないのか? ほら、たしか局長がスカウトしたって言ってた」
「そ、そう、今日からなんだよ」

 一人の研究員が口にした助け船とも思える情報にレイはすぐさま飛びつく。
 しかしまだ疑ってるのかその研究員は眉を顰めレイをじっと見ていた。レイはもしもの事態を考えつつとにかく今は動揺を悟られぬよう意識を集中させる。
 だが眉間の皺は何の前触れも無しにスッと消えた。

「そうか。悪かったな疑って。十分気を付けて行けよ」
「あぁ、分かってる」

 疑いは晴れなんとか難を逃れたレイは心の中でホッと一息をついた。そして偽の情報を聞いた研究員達はモノレールとは別の方向へ走って行った。

「ふー。しっかし危なかったぜ。だがこれで時間が稼げるな」

 この場で全員を黙らせることも考えていたレイは改めて胸を撫で下ろす。
 そこから少し走るとモノレールへのドアが見えてきた。と同時にその前で待ち構える睡眠銃を持った二人の研究員の姿も視界に入る。
 だが今更二人だけなど脅威ではなく、レイはその研究員達を素早く排除した。

「優也は?」
「もうすぐだ」




「そこを右に曲がって突き当たりを左です」

 指示通りに曲がると見覚えのあるドアが視界に姿を現した。それと近くの壁に横たわる二名の研究員の姿も。
 だがその研究員達を特に気にすることなくドアを通るとそこではレイが二人を待っていた。

「レイ!」
「来たか。無事だったようだな」
「うん。レイも無事でよかった」
「よし。さっさとこんなとこ脱出するぞ」

 レイはそう言うと停車していたモノレールへ向かい優也もその後に続く。モノレールに乗り込むとレイは白衣を脱ぎながら発進させる為に前へ、優也はノアを座席に寝かせた。
 そして本部へ向け走るモノレールの中、座席で眠るノアを向かいの座席から眺めていた優也は自分でも気づかぬうちに虚ろな目をしていた。そんな優也の隣に腰を下ろすレイ。

「大丈夫か? お前」
「え? あぁ……うん」
「疲れちまったか?」
「少し……」
「鍛え足りないようだな」

 レイは少し笑みを浮かべながら肩へ強めに手を置いた。

「また俺がちょくちょく鍛えてやるよ」
「お手柔らかに頼みたいかな」
「前も言っただろ? 手加減は苦手なんだよ」

 それからしばらくして本部に辿り着いたモノレールから降るとエレベーターで上へ。

「俺も服装が少し変っちまってるし何よりお前がそいつを抱えてるからな。あの受付の子には悪いが少し眠ってもらうか」
「言われ見れば服装違うね」
「気が付いてなかったのかよ」
「なんか違うとは思ってたよ。一応」

 そして一階にエレベーターが着きドアが開くと、意外にも向こう側にはアモが立っていた。まさかそんなところにアモが立っているとは思いもしなかった優也は不意を突かれエレベーターを降りようとしていた足を止める。それはレイも同じで優也同様に表情を変え足を止めていた。

「お待ちしておりました」
「何でここに? それより受付の子は?」

 会釈をするアモを見ながら止めていた足を再び動かしエレベーターを降りる二人。

「それがいませんでしたのでこちらでお待ちしておりました」
「いなかったって。どういうことだよ」

 声に出さなかったもののレイと同じようなことを思っていた優也は、疑問も抱えたまま他の二人と一緒に出入り口へ足を進める。その途中、受付を覗くがアモの言う通りそこにはあの受付嬢の姿はなく無人だった。

「受付に人が居ないことってあるの?」
「実際あるじゃねーか」

 レイは目の前の受付を指差した。

「よく分からないけどラッキーってことでいいのかな?」
「とりあえずこの間に外に出た方がよろしいかと」
「そーだな」

 そして疑問は残しつつも優也らはビルの外へ。そこには一台の黒い車が停まっていた。

「こちらにお乗りください」

 アモの声と手が指すその車へ乗り込む二人。そして全員が車に乗り込んだのを確認したアモは車を発進させた。
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