御伽の住み人

佐武ろく

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第壱幕:人と御伽

【25+滴】フェーズ1(2)

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「前に少年から聞いた話からすると黒山は招き入れるはずよ」
「それで中に入れるわけだな」
「いえ別のIDカードが無いとその先のエレベーターとモノレールの使用ができないわ」

 マーリンは見取り図で大体の位置を指しながら説明していた。

「えっ!? モノレールなんてあるんですか?」
「えぇ、この本部と研究開発局を繋ぐものがあるの。本来なら研究開発局の一定階級者が発行した許可書を所持しているか一定の階級の者しか使用は出来ないわ。レイの表面上の階級では通れるけどそれはあくまで表面上のものだから使用は不可」
「正面から入るっていうぐらいだ、用意してあるんだろ?」
「もちろんよ。アモ」

 マーリンの呼びかけにアモが持ってきたIDカードがレイに差し出された。

「それは許可書よ。ただし、これが使えるのはエレベーターやモノレールなんかのレベルの低いところだけだからね」
「りょーかい」
「さて、それで研究局がある場所に向かってもらって黒山の元まで少年を届けてあげて」



 優也とレイがエレベーターを降りるとそこには本当に一両編成のモノレールが停車していた。半信半疑だった優也はその光景に思わず口を半開きにしてしまう。

「えぇー。東京の地下にそんなスペースあるの?」
「これが答えだろ。ほら行くぞ」

 そしてレイを先頭にモノレールへと乗り込んだ。中には長座席が向き合って設置されており運転席のようなところにはIDをタッチする場所と簡単な発進と停車のボタンがひとつずつ。レイが許可書のIDカードを取り出している間に、優也は窓から外を覗き隣に並んだもう一本の線路を眺めていた。

「出発するぞー」

 その声の後にモノレールはゆっくりと動き始める。
 それからどれくらい走ったのだろうかしばらくしてモノレールは目的の場所に到着した。ここにきてやっと隣には伸びていた線路の上に同じタイプのモノレールが姿を現し、乗客を待つように停車していた。二人が降りると背後ではドアが閉まりモノレールは来た線路を自動で戻り始める。それを見ると、もう一つが研究開発局から本部へ移動するためのモノだというのは想像に難くない。
 だがそんなことに目もくれず正面を見ていた二人の前方には最新鋭の研究所を感じさせる真っ白な自動ドアがあり、横には電子ロックが設置されていた。その電子ロックに許可書をタッチすると二枚ドアが横へと開き道が開けた。もちろん内部も見掛け倒しなどではなく何やらスゴイ研究が行われていそうな雰囲気を十二分に醸し出していた。
 だがそこで普段見ることのない光景に心を躍らせている訳にもいかない二人は、事前に確認していた局長室へ。
 そしてやっと目的の局長室に着くとレイがドアをノックした。

「どうぞ」

 黒山の返事が返ってくるとまずレイが中に入り敬礼。

「客人をお連れしました」

 レイに続き優也も中へ入った。

「これはこれは六条さん。まさかこんなに早くまたお会いするとは思いませんでしたよ」
「僕もです」
「こちらにどうぞ」

 黒山は手でソファへ誘導した。優也がソファに向かっている間に黒山はレイの方を向く。

「ご苦労様でした。あとは大丈夫ですよ。によろしく言っておいてください」
「はっ! それでは失礼します」

 再度敬礼をしてからレイは部屋を後にした。
 一方黒山はドアが閉まるのを見守ってからお茶を淹れ、優也の前に置くと向かいのソファへと腰を下ろした。

「さて、わざわざこちらにいらしたということは何かご用があるんですよね?」

『そこで少年はどうにかしてあの子と接触してちょうだい』

「はい。ですが、その前にひとつ伺いたいことがあります」
「お答えできる範囲なら何でもどうぞ」
「この前お話をしていた吸血鬼のことなんですが、もし確保したらどうするつもりなんですか?」

 その質問に黒山は背凭れに体を預け顎に手を当て始める。

「そうですねー。詳しいことはお話できませんが、上はこれ以上繁殖しなければ満足するので私の監視下の元で医学的観点から吸血鬼を研究します。吸血鬼の再生力を人間にも使えないかなどですかね」
「それは人体実験ってことですか?」
「別に拷問紛いのことをする予定はありませんよ」

 もし黒山が安心させようとして微笑みを浮かべたのだとしたらそれはあまり効果は無かった。
 だが優也はその笑みと言葉を信じるような素振りを見せる。

「じゃあ安全なんですよね?」
「百%安全とは断言できませんが、ある程度の脅威からなら確実にお守りできますね。それと衣食住はそれなりのものを与えられます」

 その言葉の後、俯いた優也は少し考る振りをしてから既に決まっている返事した。

「――分かりました。では僕も協力させてください」
「ほぅ。それはまた何故ですか?」

 当然というべきか黒山は訝しげな視線を向けた。

「詳しい理由は分からないんですが吸血鬼は、ノアは色んな種族に命を狙われているらしいんです。だから……心配なんですよ。吸血鬼は強力な力を持った存在だということは聞きました。ですがたった一人で襲いかかってくる全種族を相手にするのは無理じゃないですか。なのでこちらに居た方が安全だと思うんです。ここならちゃんと安全な生活が送れるんですよね?」

 この言葉の中にはいくつか本心も紛れていたが故にその演技は見事なものだった。

「もちろんです。要求も出来る限り呑むつもりですよ。もちろん、協力してくれるならばですが」
「良かった……。なら僕も力を貸します。それに……彼女にもう一度だけ会いたいんです」

 力強く想いの籠った最後の言葉を聞いた黒山は音を鳴らしながら手を合わせた。

「分かりました。では会わせてあげます」
「え?」
「実は、我々は既に確保に成功しているんですよ」
「本当ですか!?」

 それを知っていてここにいるのだが、今の彼は映画やドラマの中の演者を意識し自然に見えるように演技をしていた。

「えぇ。今は別の部屋にいます。会いたいですか?」
「はい!」

 だがその質問に対してのこの返事は、演技などではなかった。

「では行きましょう」

 そうして黒山が席を立ち上がると続いて優也も立ち上がり、黒山を先頭に二人は部屋を出た。
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