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第壱幕:人と御伽
【12+滴】悲鳴の指揮者2
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すると女性は傷の無い方の腿にハサミを置いて優也の口からメスを取ると刃を喉元にそっと触れさせた。
「ちょっとでも動いたら切っちゃうからね」
警告にしては明るい声の後に片手で左腕のベルトを外し残った袖を引き抜きまたベルトをキツく締める。メスを持ち替えると反対側も。それが終わると再びメスを咥えさせ肌着もYシャツ同様に切って引き剥がす。
これで優也は上半身に限り一糸まとわぬ姿になった。そして口からメスを取るとそれを持ったまま指で鍛え上げられたとは言えないが、無駄な贅肉も少ない体を上から下に撫で始める。
「ん~ん、悪くない体」
ゆっくりと撫でていき腹筋辺りで指を離したかと思うと、唐突にメスを一振り。優也の体に出来た赤い線は浅く出血も少なかった。だが痛みは確実に存在し切られた瞬間、反射的に腹筋に力が入るが口は強く噤んだまま声を堪える。
女性は叫び声が聞けなかった所為か、若干顔を顰めるとそこから一気に十の切り傷を増やした。しかし優也は抵抗するように声を堪え続ける。痛いのは確かだったが腿の痛みに比べれば堪えるのは容易かった。
そして更に五本の赤線が涙のように血を流し始めたところでメスの手が止まる。
「ねー、我慢しないでよ」
駄々を捏ねるような声の後、女性はメスを肩下辺りへと突き刺さした。
するとあろうことかそのメスを抜かず左右へ何度も回し始めた。血液のくちゅくちゅという嫌な音を立てながら無理やり広げるように傷口をほじくられるその痛みは計り知れない。優也は血液の音を掻き消す程の――枯れる程の大声で叫んだ。叫びながらもすぐにでもその痛みから逃れようと暴れるがガタガタと揺れる椅子が優也を逃がさない。そしてあまりの苦痛に頬には汗かも涙かも分からない雫が絶え間なく流れる。
だが一方で彼女はその声にまた恍惚としたあの表情を浮かべあの声を漏らしていた。
それはほんの数秒間だけだったが、その痛みは想像を絶しあと数秒続けられていたら気を失っていたかもしれない。それ程までに優也は消耗していた。
そして血がべっとりと付いたメスを抜いた女性は、荒れた息と共に力無く俯いた優也をじぃっと顔を赤らめ見つめていた。その視線は、愛しい人を見つめるそれだった。
だがそんな視線を感じる余裕のない優也の頭を埋め尽くしていたのは、悲鳴の疲れと痛みだけ。
「もうずっっっと聞いてたい」
すると女性は熱い眼差しを向けたまま、優也に触れながら背後へ時間をかけて回り始めた。真後ろまで行くと汗をかいた体に手を沿わせながらゆっくりと両腕を回していき抱き締める。
そして鼻先と唇を微かに首筋へ触れさせ、そのままそおっと耳まで移動させた。耳まで達すると離した口を耳元へ。
「迷うことなくきみが今までで一番」
囁き声で一言一言ハッキリと丁寧に伝えると一旦間を空けて続けた。
「きみのこと大好きだよ」
すると女性は愛の告白のような甘い声と共に先ほどの傷口まで這わせた指を、言葉の終りと同時に傷口へ無理やり捻じ込んだ。第一関節に達しないほどの指に押し出され溢れる鮮血。
その瞬間、全てを忘れれる程の痛みが一気に意識を独占し嫌でも叫ばざるを得なかった。その上げられた悲鳴を楽しんでいた彼女だったが今回もすぐに指を抜いた。それは優也が気絶しないギリギリを把握してるかのようなタイミング。そのせいで飛びそうだった意識は鷲掴みされ引き戻された。
「……んで……」
息を切らし痛みに耐えながらも優也の絞り出したような声の断片が彼女の耳に届く。
「ん? なに?」
だがその断片的な言葉では意味を理解することができないのは当然で、無視することも出来たが女性は優しく訊き返した。
「何で……こんな……こと……を?」
「何でって……。――忘れてた」
もっともな問いかけで我に返った様子の彼女は優也から離れると机まで戻った。そしてメスを置くと腕を組み、指で腕を足で地面を急かすようなテンポで叩く。
「それはあれだよ。あれ。。アレ」
口からは思い出したいが思い出せないときの代名詞であるあの単語が元気に飛び出す。思い出そうと必死に記憶の収納箱を探っているのか黙り始めてから約十秒後、閃きのライトの代わりに指が鳴った。
「思い出した! これほんとはお楽しみの前に訊くんだけど、久しぶりのお仕事で忘れちゃってた。ごめんねっ!」
それは大抵の事は許してしまいそうなほど可愛げのある謝罪だった。もちろん普通の状況ならばの話だが。
「それで、なんでかっていうと。確か、きみと一緒にいる女の子を捕まえるのに協力するかを訊いて断られたら脅せって依頼だったんだよね」
「女……の子……?――ノ……ア?」
「さぁー? 名前は分からないけど、多分その子。で! どう?」
女性は一気に優也へ近づくと迫るように尋ねた。
「いや……だ」
その答えを聞くや否や気合の入ったガッツポーズ。それと同時に小声で言った「よしっ!」という言葉は優也の耳にも届いてはいた。
「ありがとっ! これで続きができるし、なにより先にしちゃった分がセーフ」
陽気にも言葉と共に両手を翼のように横へ広げるジェスチャーをする女性。
「それじゃ、続きしよっか!」
「もう。いや……だ」
「ほんとこっからが楽しいんだって」
優也の言葉など聞く気が微塵も感じられない女性は最初に歌ったPOPな洋楽を口ずさみながら机まで行くとペンチを手に取り戻ってきた。
「次は敏感な指先ね」
満面の笑顔の横にペンチを添え声は弾んでいた。
「まずは数枚だけにして残りは後半のお楽しみにとっておこうか」
そう言いつつペンチをカチカチと鳴らしながら近づいて来ると開いたペンチで左人差し指の爪を挟んだ。直後、何の言葉もなく間も置かず、
――ベリッ!
聞いただけで指が痛くなりそうな音が響くがそんな音など気にならないほどの悲鳴が部屋中に響き渡った。その大きさはスピーカーから流れているのではと思わせるほど。
「あと数枚だけいくよー」
その声の後にまたしてもあの音と優也の叫び声が部屋中を駆け巡った。
「ちょっとでも動いたら切っちゃうからね」
警告にしては明るい声の後に片手で左腕のベルトを外し残った袖を引き抜きまたベルトをキツく締める。メスを持ち替えると反対側も。それが終わると再びメスを咥えさせ肌着もYシャツ同様に切って引き剥がす。
これで優也は上半身に限り一糸まとわぬ姿になった。そして口からメスを取るとそれを持ったまま指で鍛え上げられたとは言えないが、無駄な贅肉も少ない体を上から下に撫で始める。
「ん~ん、悪くない体」
ゆっくりと撫でていき腹筋辺りで指を離したかと思うと、唐突にメスを一振り。優也の体に出来た赤い線は浅く出血も少なかった。だが痛みは確実に存在し切られた瞬間、反射的に腹筋に力が入るが口は強く噤んだまま声を堪える。
女性は叫び声が聞けなかった所為か、若干顔を顰めるとそこから一気に十の切り傷を増やした。しかし優也は抵抗するように声を堪え続ける。痛いのは確かだったが腿の痛みに比べれば堪えるのは容易かった。
そして更に五本の赤線が涙のように血を流し始めたところでメスの手が止まる。
「ねー、我慢しないでよ」
駄々を捏ねるような声の後、女性はメスを肩下辺りへと突き刺さした。
するとあろうことかそのメスを抜かず左右へ何度も回し始めた。血液のくちゅくちゅという嫌な音を立てながら無理やり広げるように傷口をほじくられるその痛みは計り知れない。優也は血液の音を掻き消す程の――枯れる程の大声で叫んだ。叫びながらもすぐにでもその痛みから逃れようと暴れるがガタガタと揺れる椅子が優也を逃がさない。そしてあまりの苦痛に頬には汗かも涙かも分からない雫が絶え間なく流れる。
だが一方で彼女はその声にまた恍惚としたあの表情を浮かべあの声を漏らしていた。
それはほんの数秒間だけだったが、その痛みは想像を絶しあと数秒続けられていたら気を失っていたかもしれない。それ程までに優也は消耗していた。
そして血がべっとりと付いたメスを抜いた女性は、荒れた息と共に力無く俯いた優也をじぃっと顔を赤らめ見つめていた。その視線は、愛しい人を見つめるそれだった。
だがそんな視線を感じる余裕のない優也の頭を埋め尽くしていたのは、悲鳴の疲れと痛みだけ。
「もうずっっっと聞いてたい」
すると女性は熱い眼差しを向けたまま、優也に触れながら背後へ時間をかけて回り始めた。真後ろまで行くと汗をかいた体に手を沿わせながらゆっくりと両腕を回していき抱き締める。
そして鼻先と唇を微かに首筋へ触れさせ、そのままそおっと耳まで移動させた。耳まで達すると離した口を耳元へ。
「迷うことなくきみが今までで一番」
囁き声で一言一言ハッキリと丁寧に伝えると一旦間を空けて続けた。
「きみのこと大好きだよ」
すると女性は愛の告白のような甘い声と共に先ほどの傷口まで這わせた指を、言葉の終りと同時に傷口へ無理やり捻じ込んだ。第一関節に達しないほどの指に押し出され溢れる鮮血。
その瞬間、全てを忘れれる程の痛みが一気に意識を独占し嫌でも叫ばざるを得なかった。その上げられた悲鳴を楽しんでいた彼女だったが今回もすぐに指を抜いた。それは優也が気絶しないギリギリを把握してるかのようなタイミング。そのせいで飛びそうだった意識は鷲掴みされ引き戻された。
「……んで……」
息を切らし痛みに耐えながらも優也の絞り出したような声の断片が彼女の耳に届く。
「ん? なに?」
だがその断片的な言葉では意味を理解することができないのは当然で、無視することも出来たが女性は優しく訊き返した。
「何で……こんな……こと……を?」
「何でって……。――忘れてた」
もっともな問いかけで我に返った様子の彼女は優也から離れると机まで戻った。そしてメスを置くと腕を組み、指で腕を足で地面を急かすようなテンポで叩く。
「それはあれだよ。あれ。。アレ」
口からは思い出したいが思い出せないときの代名詞であるあの単語が元気に飛び出す。思い出そうと必死に記憶の収納箱を探っているのか黙り始めてから約十秒後、閃きのライトの代わりに指が鳴った。
「思い出した! これほんとはお楽しみの前に訊くんだけど、久しぶりのお仕事で忘れちゃってた。ごめんねっ!」
それは大抵の事は許してしまいそうなほど可愛げのある謝罪だった。もちろん普通の状況ならばの話だが。
「それで、なんでかっていうと。確か、きみと一緒にいる女の子を捕まえるのに協力するかを訊いて断られたら脅せって依頼だったんだよね」
「女……の子……?――ノ……ア?」
「さぁー? 名前は分からないけど、多分その子。で! どう?」
女性は一気に優也へ近づくと迫るように尋ねた。
「いや……だ」
その答えを聞くや否や気合の入ったガッツポーズ。それと同時に小声で言った「よしっ!」という言葉は優也の耳にも届いてはいた。
「ありがとっ! これで続きができるし、なにより先にしちゃった分がセーフ」
陽気にも言葉と共に両手を翼のように横へ広げるジェスチャーをする女性。
「それじゃ、続きしよっか!」
「もう。いや……だ」
「ほんとこっからが楽しいんだって」
優也の言葉など聞く気が微塵も感じられない女性は最初に歌ったPOPな洋楽を口ずさみながら机まで行くとペンチを手に取り戻ってきた。
「次は敏感な指先ね」
満面の笑顔の横にペンチを添え声は弾んでいた。
「まずは数枚だけにして残りは後半のお楽しみにとっておこうか」
そう言いつつペンチをカチカチと鳴らしながら近づいて来ると開いたペンチで左人差し指の爪を挟んだ。直後、何の言葉もなく間も置かず、
――ベリッ!
聞いただけで指が痛くなりそうな音が響くがそんな音など気にならないほどの悲鳴が部屋中に響き渡った。その大きさはスピーカーから流れているのではと思わせるほど。
「あと数枚だけいくよー」
その声の後にまたしてもあの音と優也の叫び声が部屋中を駆け巡った。
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