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序章

老女の始まり

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 長閑のどかな田園風景が広がっていた。


 窓枠にもたれかかるようにして外を覗き込みながら、目を白黒させている老女を乗せた馬車は、老女の気持ちとは裏腹に軽快なリズムで馬蹄の音を響かせていた。
 車輪もまた砂埃を巻き上げながら、蹄と絶妙な調和ハーモニーを奏でている。


 馬車の前後は守るように騎士たちが隊列を組んでいた。
 時折出くわす村人たちは、場違いな圧倒感に押され、後ずさってはひれ伏してしまう。



(——なぜこうなってしまったのか)



 老女は頭を抱えると、人より尖った耳の先端をさすった。キュッと口を固く結ぶと、口元に刻まれた皺がさらに濃くなる。老女の困ったときの習慣だ。


 代わり映えのしない緑の景色は、つまらない絵巻でも見ているかのように、緩やかに続いていた。


 老女は大きなかぎ鼻の先を進行方向に向けて、静かに溜め息をついた。
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