実話怪談「鳴いた猫」

赤鈴

文字の大きさ
上 下
5 / 6

5

しおりを挟む
 二、三分ほど歩くと、一際大きな墓石のようなものが深い暗闇のからその姿を現した。それは他の墓石とは明らかに様子が違っていた。道は真っ直ぐ、そこへと続いている。

 大きな墓石の前にも、猫の姿はなかった。墓石の両脇には何本もの卒塔婆そとばが立てかけられ、その前には真新しいお花も供えられている。
暗くて読みにくいが、墓石には何やら文字が刻まれている。さらに近づいて目を凝らし、その文字を読み取った。



そこには"昇魂之碑"と、深く刻まれていた。
その大きな墓石は、合同慰霊碑だった。



それを見た刹那、Kさんのなかを嫌な予感が電撃のように駆け巡った。

――逃げろ、今すぐここから逃げろ!

もう一人の自分が叫んだ。しかし、慰霊碑から視線を外すことができない。

――もし、今振り返って誰かいたら

そう考えると、怖くてすぐに振り返ることなどできなかった。手に汗が滲み、息が白煙となって夜暗に溶ける。永遠のように長い時間だけがゆっくりと過ぎていった――。



 どれくらいの時間が経っただろう。実際には5分ほどだったかもしれないが、Kさんにはそれが30分にも、1時間にも感じられた。

意を決し、一歩、後ずさると、勢いよく振り向いた。そこには誰の姿もなく、ただ深い暗闇があるだけだった。

 その時、また近くで線香の匂いがした。それも、最初感じた時よりも匂いが強い。Kさんはその場で動けなくなり、声も出せなくなった。それは、俗にいう"金縛り"というやつだった。

 すると、不意に何者かの気配を感じた。それも一人、二人ではなく、大勢の気配。それらに暗闇の向こうからじっと見られているような、そんな視線を感じる。その気配はKさんに向かって少しずつ、しかし確実に、真っ直ぐ近づいてくる。人のうめき声や、様々な動物の鳴き声のようなものも微かに聞こえた、という。気配が近づくにつれ、その声も徐々に大きくなっていく。

この時、Kさんは生命の危機を感じていた。目に見えない何者かに殺される、そんな恐怖を現実のものとして感じた、と後に、Kさんは語った。

――もうだめだ……。やられる!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

受け継がれるローファー

ハヤサカツカサ
ホラー
「校舎にある片方だけのローファーの噂のこと知ってる?」 高校説明会後の自由時間。図書室で一冊の本を開いた少女の頭の中に、その言葉を皮切りに一人の女子高校生の記憶が流れ込んでくる。それはその高校のとある場所に新しいままであり続けるローファーに関するものだった。ローファーはなぜ新しくなり続けるのか? その理由を知って、本を閉じた時何かが起こる! *心臓が弱い方はあらかじめご遠慮ください

カゲムシ

倉澤 環(タマッキン)
ホラー
幼いころ、陰口を言う母の口から不気味な蟲が這い出てくるのを見た男。 それから男はその蟲におびえながら生きていく。 そんな中、偶然出会った女性は、男が唯一心を許せる「蟲を吐かない女性」だった。 徐々に親しくなり、心を奪われていく男。 しかし、清らかな女性にも蟲は襲いかかる。

COME COME CAME

昔懐かし怖いハナシ
ホラー
 ある部屋へと引っ越した、大学生。しかし、数ヶ月前失踪した女が住んでいた部屋の隣だった。  何故か赤い壁。何があるのだろうか。  そして、笑い声は誰のだろうか。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

【短編】親子のバトン

吉岡有隆
ホラー
 ー母親は俺に小説を書いて欲しいと言ったー  「俺の母親は昔、小説家になりたかったらしい」この言葉から始まる、小説書きの苦悩を書き綴った物語。  ※この作品は犯罪描写を含みますが、犯罪を助長する物ではございません。

処理中です...