104 / 105
104.それぞれのエピローグ(オフィーリア&セオドア)
しおりを挟む
「いかかでしょうか? オフィーリアお嬢様」
卒業パーティーに向けて美しく着飾ったオフィーリアの横で、マリーが控えめだがどこか得意気顔で尋ねた。
「ええ。素敵だわ」
鏡に映る自分の姿をオフィーリアは満足気に見つめた。
淡い黄色を基調にしたドレスに白と水色のレースがふんだんにあしらわれ、とても可憐だ。
ハーフアップにした艶やかな赤毛には同じ黄色と水色のリボンがとても可愛らしい。
可愛らしいというよりは美人なタイプのオフィーリアは自慢の赤髪に合わせた赤や黒などを使ったシックで大人びたドレスがとてもよく似合う。自分でもそれは分かっており、夜会やお茶会ではそういったドレスを着用することが多かった。
しかし、今日は自分の好きな色を着ると決めていた。それはずっと前から・・・。
もし、寂しい卒業パーティーを迎えることになっていたとしても、きっとこのドレスを着ていた。
オフィーリアは部屋を出る前に自分の机に置いてある一冊のノートを手に取った。それは椿がこの世界で予習復習に使っていたノートだ。
オフィーリアはゆっくりページを捲ると、途中のページで手を留めた。
「オフィーリア様には幸せになって欲しい!! 絶対、断罪回避!! 私にできることは何か?」
そこには、そんな走り書きがある。
オフィーリアは嬉しそうにそれを指でなぞった。そして、ふぅと息を吐くと、ノートを閉じた。
「さあ、行きましょう、マリー」
「はい。お嬢様。門までお送りいたします」
キリッと姿勢を正すと、マリーを伴って部屋から出て行った。
☆彡
女子寮の入り口には自分のパートナーをエスコートしようという男子生徒で溢れていた。
その中に、もちろんセオドアもいる。ソワソワと待ちきれない様子でオフィーリアを待っていた。
「お待たせしました。セオドア様」
やっと来た―――決して遅れてはいないが―――オフィーリアを前に、セオドアは一瞬心臓が止まった。
「セオドア様・・・?」
目を丸め、声を失っているセオドアに、オフィーリアは首を傾げた。
セオドアはハッと我に返り、恥ずかしそうに目を伏せた。
「あまりにも綺麗で・・・」
その言葉にオフィーリアはカーっと頬が熱くなった。慌ててツンとそっぽを向く。
「黄色のドレスを選んだんだね。そして水色も・・・。とてもよく似合っているよ」
「まあ、ありがとうございますっ」
褒め言葉にドキドキしながらも、ツンとした態度を崩さない。急いで扇で顔を隠すが遅かったようだ。セオドアには真っ赤な顔がしっかり見られてしまった。
「俺の色を身に付けてくれたと思っていいのかな?」
黄色と青。金髪碧眼のセオドア。きっと自惚れではないだろう。
「そ、そ、そういうわけではありませんわよ! たまたまわたくしの好きな色というだけですわ!」
ツンと答えるオフィーリアに、セオドアはクスッと笑うと、
「たまたま君の好きな色を俺自身が持っていたなんて光栄だ」
そう言って手を差し伸べた。
彼女はよくこの色のリボンを身に付けていた。ずっと前から身に付けていた。
そんなに前から自分は想われていたのに・・・。本当に自分は何を見ていたのか。
改めて今までの自分が悔やまれる。
「今度こそ・・・、今度こそ絶対に君を大切にする」
手に取ったオフィーリアの指先にそっと唇を寄せた。
「ま、まだ、気が早いですわよ!」
「ああ、そうだな。でも・・・」
でも・・・。実は彼にはアドバンテージがある。
なぜなら、二人は侯爵家同士が決めた婚約関係であり、それは解消されていないのだ。この世界に帰ってきてから、セオドア自身も家に何も伝えていないが、特にラガン家からの何のお達しもない。恐らく、オフィーリアも何も伝えていないはず。
このまま行けば、近いうちに二人は婚姻するだろう。
だが、それに胡坐をかく気はないし、切り札として使うつもりもない。
婚姻までの短い間に、オフィーリア自身に婚約者と認めてもらわないといけないのだ。
万が一にも認めてもらえない場合は、自分が悪者なってでも彼女の意思を尊重し、婚約を解消するだけの気概を持って臨むつもりだ。
「でも、他の奴らに君を奪われないように牽制しないと」
オフィーリアの手を持ち直すと、今度は甲にキスを落とした。
真っ赤な顔で自分を見つめるオフィーリア。
「さあ、行きましょう。お姫様」
セオドアはオフィーリアを優しく引き寄せると、自分の腕に彼女の手を添えさせた。
ゆっくりと学院に向かって歩く。
途中、生け垣の薔薇が目に入った。
可憐というより大人っぽく少し妖艶さも備える美人な彼女には薔薇の花がよく似合う。真っ赤なドレスに真っ赤な薔薇がとてもお似合いだと誰もが思うだろう。
(いいや。彼女は薔薇よりガーベラがよく似合う。本当の彼女はガーベラのように明るくて無邪気な人なんだから)
セオドアは自分に寄り添い歩く愛しい人を見た。
早くこの人に100本のガーベラの花束を渡したい。そして、今度こそ大切に幸せにしたい。
そう強く思いながら、学院までゆっくりと歩いて行った。
卒業パーティーに向けて美しく着飾ったオフィーリアの横で、マリーが控えめだがどこか得意気顔で尋ねた。
「ええ。素敵だわ」
鏡に映る自分の姿をオフィーリアは満足気に見つめた。
淡い黄色を基調にしたドレスに白と水色のレースがふんだんにあしらわれ、とても可憐だ。
ハーフアップにした艶やかな赤毛には同じ黄色と水色のリボンがとても可愛らしい。
可愛らしいというよりは美人なタイプのオフィーリアは自慢の赤髪に合わせた赤や黒などを使ったシックで大人びたドレスがとてもよく似合う。自分でもそれは分かっており、夜会やお茶会ではそういったドレスを着用することが多かった。
しかし、今日は自分の好きな色を着ると決めていた。それはずっと前から・・・。
もし、寂しい卒業パーティーを迎えることになっていたとしても、きっとこのドレスを着ていた。
オフィーリアは部屋を出る前に自分の机に置いてある一冊のノートを手に取った。それは椿がこの世界で予習復習に使っていたノートだ。
オフィーリアはゆっくりページを捲ると、途中のページで手を留めた。
「オフィーリア様には幸せになって欲しい!! 絶対、断罪回避!! 私にできることは何か?」
そこには、そんな走り書きがある。
オフィーリアは嬉しそうにそれを指でなぞった。そして、ふぅと息を吐くと、ノートを閉じた。
「さあ、行きましょう、マリー」
「はい。お嬢様。門までお送りいたします」
キリッと姿勢を正すと、マリーを伴って部屋から出て行った。
☆彡
女子寮の入り口には自分のパートナーをエスコートしようという男子生徒で溢れていた。
その中に、もちろんセオドアもいる。ソワソワと待ちきれない様子でオフィーリアを待っていた。
「お待たせしました。セオドア様」
やっと来た―――決して遅れてはいないが―――オフィーリアを前に、セオドアは一瞬心臓が止まった。
「セオドア様・・・?」
目を丸め、声を失っているセオドアに、オフィーリアは首を傾げた。
セオドアはハッと我に返り、恥ずかしそうに目を伏せた。
「あまりにも綺麗で・・・」
その言葉にオフィーリアはカーっと頬が熱くなった。慌ててツンとそっぽを向く。
「黄色のドレスを選んだんだね。そして水色も・・・。とてもよく似合っているよ」
「まあ、ありがとうございますっ」
褒め言葉にドキドキしながらも、ツンとした態度を崩さない。急いで扇で顔を隠すが遅かったようだ。セオドアには真っ赤な顔がしっかり見られてしまった。
「俺の色を身に付けてくれたと思っていいのかな?」
黄色と青。金髪碧眼のセオドア。きっと自惚れではないだろう。
「そ、そ、そういうわけではありませんわよ! たまたまわたくしの好きな色というだけですわ!」
ツンと答えるオフィーリアに、セオドアはクスッと笑うと、
「たまたま君の好きな色を俺自身が持っていたなんて光栄だ」
そう言って手を差し伸べた。
彼女はよくこの色のリボンを身に付けていた。ずっと前から身に付けていた。
そんなに前から自分は想われていたのに・・・。本当に自分は何を見ていたのか。
改めて今までの自分が悔やまれる。
「今度こそ・・・、今度こそ絶対に君を大切にする」
手に取ったオフィーリアの指先にそっと唇を寄せた。
「ま、まだ、気が早いですわよ!」
「ああ、そうだな。でも・・・」
でも・・・。実は彼にはアドバンテージがある。
なぜなら、二人は侯爵家同士が決めた婚約関係であり、それは解消されていないのだ。この世界に帰ってきてから、セオドア自身も家に何も伝えていないが、特にラガン家からの何のお達しもない。恐らく、オフィーリアも何も伝えていないはず。
このまま行けば、近いうちに二人は婚姻するだろう。
だが、それに胡坐をかく気はないし、切り札として使うつもりもない。
婚姻までの短い間に、オフィーリア自身に婚約者と認めてもらわないといけないのだ。
万が一にも認めてもらえない場合は、自分が悪者なってでも彼女の意思を尊重し、婚約を解消するだけの気概を持って臨むつもりだ。
「でも、他の奴らに君を奪われないように牽制しないと」
オフィーリアの手を持ち直すと、今度は甲にキスを落とした。
真っ赤な顔で自分を見つめるオフィーリア。
「さあ、行きましょう。お姫様」
セオドアはオフィーリアを優しく引き寄せると、自分の腕に彼女の手を添えさせた。
ゆっくりと学院に向かって歩く。
途中、生け垣の薔薇が目に入った。
可憐というより大人っぽく少し妖艶さも備える美人な彼女には薔薇の花がよく似合う。真っ赤なドレスに真っ赤な薔薇がとてもお似合いだと誰もが思うだろう。
(いいや。彼女は薔薇よりガーベラがよく似合う。本当の彼女はガーベラのように明るくて無邪気な人なんだから)
セオドアは自分に寄り添い歩く愛しい人を見た。
早くこの人に100本のガーベラの花束を渡したい。そして、今度こそ大切に幸せにしたい。
そう強く思いながら、学院までゆっくりと歩いて行った。
31
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
目覚めたら妊婦だった私のお相手が残酷皇帝で吐きそう
カギカッコ「」
恋愛
以前書いた作品「目覚めたら妊婦だった俺の人生がBLになりそう」を主人公が女子として書き直してみたものです。名前なども一部変更しました。
他サイト様にも同じのあります。以前のは小説家になろう様にあります。
【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆
白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』
女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。
それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、
愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ!
彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます!
異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆
《完結しました》
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです
エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」
塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。
平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。
だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。
お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。
著者:藤本透
原案:エルトリア
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
一途な令嬢は悪役になり王子の幸福を望む
紫月
恋愛
似たタイトルがあったため、ご迷惑にならないよう「悪役令嬢はじめました」からタイトルを変更しました。
お気に入り登録をされてる方はご了承ください。
奇跡の血を持つ公爵令嬢、アリア・マクシミリア。
彼女はただ一途に婚約者の王太子セフィル・ブランドルを思う。
愛しているからこそ他の女性に好意を寄せるセフィルのために悪役令嬢を演じ始める。
婚約破棄をし、好きな女性と結ばれてもらうために……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる