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101.椿の願い
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その日、家に帰ると、小さい従妹が来ていた。
「椿お姉ちゃ~ん!!」
玄関に入った途端、従妹の千鶴がリビングから飛び出して来て椿に抱き付いた。
「お帰り! 椿お姉ちゃん」
「ただいま。千鶴ちゃん、来てたんだ?」
「うん、ママ、今日会社ののみかいで遅くなるんだってー。いっつも言ってるよ、『のみかいのみかいめんどくさい』って。会社の人とご飯食べることなんでしょ? 面倒くさいなら行かなきゃいいのにね?」
「そうだね」
椿は抱きついている千鶴の頭を優しく撫でた。
「お夕飯まで遊ぼー! お風呂一緒に入ろー!」
「うん、分かった。遊ぼうね。制服着替えてくるね。居間で待っててね」
千鶴は椿に頭を撫でられて満足したのか、言う通りにリビングに戻って行った。
千鶴の両親は共働きで、どちらの帰りも遅い時は椿の家で預かることが常だ。そして、千鶴はまだ小学生の低学年で幼いことと、椿のことが大好きでとても懐いていることから椿の両親の受けもいい。この家ではまるで全員から孫のように可愛がられている存在だった。
椿が部屋着に着替えてリビングに入ってくると、早速千鶴はゲーム機を持って椿に抱き付いた。しかし、そのゲーム機は椿の母に取り上げられ、代わりに「さんすうドリル」を手渡された。
「はい、ご飯までこれで遊んで。椿、ちゃんと遊んであげるのよ」
「え~~! ヤダぁ~!」
「はいはい。じゃあ、これで遊ぼう、千鶴ちゃん」
「わーん! お姉ちゃんまで~~!」
「宿題はどこまで?」
「ううう・・・。ここまで・・・」
千鶴は観念したようにドリルのページを捲った。
☆彡
夕食前までは「さんすうドリル」で遊んだが、食後の一時間は念願のゲーム機で遊ぶことを許された。
その後、千鶴を伴って一緒に風呂に入った。
風呂に入っている時、千鶴は椿の左手に自分が贈ったミサンガが付いていないことに気が付いたようだ。
「ねえ、椿お姉ちゃん。千鶴があげたミサンガは?」
「!」
椿はドキリとした。あのミサンガは自分が切ったわけでもない。勝手に切れたのだ。更にはミサンガたるもの切れることが悪いものではない。それどころか切れる方が良い代物。それでも、身に付けていないことに罪悪感を覚える。
それだけではない。あのミサンガには色々な因縁があるのだ。
自分が体験した不思議な現象は、偶然とはいえ、この目の前の小学生が作ったミサンガと謎のお婆さんが作ったミサンガ一致したことで起こりえたことなのだ。このことをこんな小さい子に話すには重過ぎる。
それにしても・・・本当に偶然・・・?
「椿お姉ちゃん・・・?」
一緒に湯舟に浸かっている千鶴に声を掛けられ、椿はハッと我に返ると、
「え、えっとね、あのミサンガ、切れちゃったんだ。ごめんね! せっかく作ってくれたのに!」
アワアワしながら謝った。
「切れたの? なんだ! いいんだよ、切れて! 切れると願いが叶うんだよ! 椿お姉ちゃん、知らなかったの?」
「えっと・・・」
もちろん、知っていました。
と、言っていいものか・・・。目をキラキラさせている少女を前に頭を悩ます。
「よかったねぇ! 椿お姉ちゃん、これで願いが叶うよ!」
「願い・・・?」
ああ、そうだ。確かに願いは叶った。この世界に帰って来られたのだから。
自分の願いなんてそれくらいだったのだから。
椿は何も付いていない左手首を見た。
「椿お姉ちゃんの願い、叶うといいねぇ!! お友達たくさんできるといいねぇ!」
「え・・・?」
椿は驚いてパチクリと瞬きして千鶴を見た。千鶴は興奮気味にキャッキャッと笑っている。
「だってお姉ちゃん、お友達欲しがっていたもんね~!」
そんなこと言った覚えも無いし、思ったこともない。
思ったこともない・・・はず・・・。
なぜなら自分は喪女でコミュ障で一人が好きで・・・だから敢えて一人でいて・・・決して寂しくなんてなくて・・・。
女子生徒が楽しそうに数人で集まっておしゃべりしている様子が眩しく見えていたのは単純に憧れであって、羨ましいと思っていたわけではなくて・・・。だってそれは自分には到底できない芸当だから・・・、だから・・・
(本当に単純に憧れだけ・・・?)
必死に自分に対し言い訳している状況に気が付き、一つの疑問が頭に浮かんだ。
本当はその中に入ってみたいと思ったことはなかったか?
本当に一人ぼっちは寂しくなかったのか?
本当は・・・?
「それにさぁ~」
千鶴の言葉に椿はハッと我に返った。
「椿お姉ちゃんにお友達いないのって変だよ~~。だって、千鶴は椿お姉ちゃん大好きなのにさぁ!」
「あはは・・・、ありがとう、千鶴ちゃん」
椿は小さな従妹の気遣いを嬉しく思い、彼女の頭を撫でた。
「だがねぇ」
「?」
急に千鶴の口調が小学生と思えないものに変わった気がして、椿は首を傾げた。千鶴はニッと口角を上げて鋭い目で椿を見つめた。
「自分だって努力しなきゃダメだ。自分だって心を開かなきゃ、相手だって開かない。当然だろう?」
「!」
椿は思わず千鶴の頭から手を離した。
だが次の瞬間、
「あ~、のぼせちゃうよぉ! もうお風呂出てもいい?」
千鶴が椿に懇願して来た。いつもの可愛い従妹の顔だ。
椿は両目を擦って千鶴を見た。
「ねえ、椿お姉ちゃんってば~」
マジマジと自分の事を見つめる椿に千鶴は首を傾げた。
「早く出よー。出たらママが迎えに来るまでもう一回ゲームしよー!」
「う、うん、うん! 出よう出よう!」
椿は慌てて頷いた。すると千鶴は湯舟から飛び出し、さっさと浴室から出て行った。
(な、何だったんだろう、今の・・・。見間違い? 錯覚?)
椿は暫くボーっと一人湯舟に浸かったまま動けなかった。
「椿お姉ちゃ~ん!!」
玄関に入った途端、従妹の千鶴がリビングから飛び出して来て椿に抱き付いた。
「お帰り! 椿お姉ちゃん」
「ただいま。千鶴ちゃん、来てたんだ?」
「うん、ママ、今日会社ののみかいで遅くなるんだってー。いっつも言ってるよ、『のみかいのみかいめんどくさい』って。会社の人とご飯食べることなんでしょ? 面倒くさいなら行かなきゃいいのにね?」
「そうだね」
椿は抱きついている千鶴の頭を優しく撫でた。
「お夕飯まで遊ぼー! お風呂一緒に入ろー!」
「うん、分かった。遊ぼうね。制服着替えてくるね。居間で待っててね」
千鶴は椿に頭を撫でられて満足したのか、言う通りにリビングに戻って行った。
千鶴の両親は共働きで、どちらの帰りも遅い時は椿の家で預かることが常だ。そして、千鶴はまだ小学生の低学年で幼いことと、椿のことが大好きでとても懐いていることから椿の両親の受けもいい。この家ではまるで全員から孫のように可愛がられている存在だった。
椿が部屋着に着替えてリビングに入ってくると、早速千鶴はゲーム機を持って椿に抱き付いた。しかし、そのゲーム機は椿の母に取り上げられ、代わりに「さんすうドリル」を手渡された。
「はい、ご飯までこれで遊んで。椿、ちゃんと遊んであげるのよ」
「え~~! ヤダぁ~!」
「はいはい。じゃあ、これで遊ぼう、千鶴ちゃん」
「わーん! お姉ちゃんまで~~!」
「宿題はどこまで?」
「ううう・・・。ここまで・・・」
千鶴は観念したようにドリルのページを捲った。
☆彡
夕食前までは「さんすうドリル」で遊んだが、食後の一時間は念願のゲーム機で遊ぶことを許された。
その後、千鶴を伴って一緒に風呂に入った。
風呂に入っている時、千鶴は椿の左手に自分が贈ったミサンガが付いていないことに気が付いたようだ。
「ねえ、椿お姉ちゃん。千鶴があげたミサンガは?」
「!」
椿はドキリとした。あのミサンガは自分が切ったわけでもない。勝手に切れたのだ。更にはミサンガたるもの切れることが悪いものではない。それどころか切れる方が良い代物。それでも、身に付けていないことに罪悪感を覚える。
それだけではない。あのミサンガには色々な因縁があるのだ。
自分が体験した不思議な現象は、偶然とはいえ、この目の前の小学生が作ったミサンガと謎のお婆さんが作ったミサンガ一致したことで起こりえたことなのだ。このことをこんな小さい子に話すには重過ぎる。
それにしても・・・本当に偶然・・・?
「椿お姉ちゃん・・・?」
一緒に湯舟に浸かっている千鶴に声を掛けられ、椿はハッと我に返ると、
「え、えっとね、あのミサンガ、切れちゃったんだ。ごめんね! せっかく作ってくれたのに!」
アワアワしながら謝った。
「切れたの? なんだ! いいんだよ、切れて! 切れると願いが叶うんだよ! 椿お姉ちゃん、知らなかったの?」
「えっと・・・」
もちろん、知っていました。
と、言っていいものか・・・。目をキラキラさせている少女を前に頭を悩ます。
「よかったねぇ! 椿お姉ちゃん、これで願いが叶うよ!」
「願い・・・?」
ああ、そうだ。確かに願いは叶った。この世界に帰って来られたのだから。
自分の願いなんてそれくらいだったのだから。
椿は何も付いていない左手首を見た。
「椿お姉ちゃんの願い、叶うといいねぇ!! お友達たくさんできるといいねぇ!」
「え・・・?」
椿は驚いてパチクリと瞬きして千鶴を見た。千鶴は興奮気味にキャッキャッと笑っている。
「だってお姉ちゃん、お友達欲しがっていたもんね~!」
そんなこと言った覚えも無いし、思ったこともない。
思ったこともない・・・はず・・・。
なぜなら自分は喪女でコミュ障で一人が好きで・・・だから敢えて一人でいて・・・決して寂しくなんてなくて・・・。
女子生徒が楽しそうに数人で集まっておしゃべりしている様子が眩しく見えていたのは単純に憧れであって、羨ましいと思っていたわけではなくて・・・。だってそれは自分には到底できない芸当だから・・・、だから・・・
(本当に単純に憧れだけ・・・?)
必死に自分に対し言い訳している状況に気が付き、一つの疑問が頭に浮かんだ。
本当はその中に入ってみたいと思ったことはなかったか?
本当に一人ぼっちは寂しくなかったのか?
本当は・・・?
「それにさぁ~」
千鶴の言葉に椿はハッと我に返った。
「椿お姉ちゃんにお友達いないのって変だよ~~。だって、千鶴は椿お姉ちゃん大好きなのにさぁ!」
「あはは・・・、ありがとう、千鶴ちゃん」
椿は小さな従妹の気遣いを嬉しく思い、彼女の頭を撫でた。
「だがねぇ」
「?」
急に千鶴の口調が小学生と思えないものに変わった気がして、椿は首を傾げた。千鶴はニッと口角を上げて鋭い目で椿を見つめた。
「自分だって努力しなきゃダメだ。自分だって心を開かなきゃ、相手だって開かない。当然だろう?」
「!」
椿は思わず千鶴の頭から手を離した。
だが次の瞬間、
「あ~、のぼせちゃうよぉ! もうお風呂出てもいい?」
千鶴が椿に懇願して来た。いつもの可愛い従妹の顔だ。
椿は両目を擦って千鶴を見た。
「ねえ、椿お姉ちゃんってば~」
マジマジと自分の事を見つめる椿に千鶴は首を傾げた。
「早く出よー。出たらママが迎えに来るまでもう一回ゲームしよー!」
「う、うん、うん! 出よう出よう!」
椿は慌てて頷いた。すると千鶴は湯舟から飛び出し、さっさと浴室から出て行った。
(な、何だったんだろう、今の・・・。見間違い? 錯覚?)
椿は暫くボーっと一人湯舟に浸かったまま動けなかった。
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