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98.久しぶりの登校
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翌日の日曜日。椿は眠い目を擦りながらベッドから起き上がった。もう朝の10時を回っていた。
「寝過ぎちゃった・・・」
昨日の夜の10時にオフィーリアと話そうと鏡の前で待っていたが、いつまで経っても鏡は向こうの世界を映さなかった。
椿は微かな希望を抱いで12時を回っても鏡の前で待っていた。意地になっていたと言ってもいい。
恐らく、二人の共通点であるミサンガ切れたことで二人の繋がりも切れたのだ。そしてそれだけがお互いを繋いでいたのだろう。いつまで経っても向こうの世界を映さない鏡を見て、そのことを頭の中で理解し始めても、鏡の前から去ることが出来なかった。
きっと、オフィーリアも向こうの世界の鏡の前で待っているに違いない。そう思うと切なくなり、益々去ることが出来なかった。
「最後にガーベラを見せたかったな・・・」
本当は持って帰りたかったであろう黄色い可憐な花。この部屋に置いてあるのが申し訳ない。せめて、一日でも長く花を咲かせていられるように心を込めてお世話しよう。
椿はガーベラの水を替えようとベッドから這い出た。
☆彡
月曜日。山田椿に戻って久々の登校だ。
学校に着いたら、相当お世話になったという担任の竹田先生と保健室の伊藤先生に挨拶するように母に言われている。
学校に着いた椿は一番に職員室へ向かった。
緊張しながら職員室の扉の前に立つ。おはようございますと言いながら扉を開けると、近くにいた教員がすぐに声を掛けてくれ、竹田に取り次いでくれた。
「おお、山田。おはよう!」
竹田は自席に座りながら椿を手招きした。椿は腰を低くしながら竹田の元に向かった。
竹田は空いている椅子と引っ張ってくると、自分の隣に椿を座らせた。
「どうした、山田? 何か困ったことがあったか? まあ、困ったことだらけだと思うけどな。先生でよければ相談に乗るぞ。遠慮せずに話してくれ」
「あ、あの・・・。竹田先生・・・。実は、山田は元に戻りまして・・・」
「は・・・?」
「その節は大変ご迷惑をおかけしました、先生。もう大丈夫です」
ポカンとしている竹田に向かって、椿はペコリと頭を下げた。
「あ・・・、でも別人格だった間の記憶が全然なくてですね。その、授業の方が不安でして・・・」
「も、元に戻った・・・?」
「え? あ、はい」
「じゃあ、聞くが、君の名前は?」
「山田椿です」
「正解!! 大正解!!」
竹田は椅子から飛び上がるように立ち上がった。
「よかった! よかったなあ! 山田ぁ!」
「は、はい。ありがとうございます」
あまりの竹田のテンションの高さに、椿は驚き、少し身を引いてしまった。
そこに、
「おはよーっすー! 竹田せんせー!!」
勢いよく職員室の扉が開かれると、柳が入ってきた。
「あー、いたいた! 竹田せんせー! おー! 山田もいたんだ? おはよう、山田!」
手を振りながら竹田の席に向かって歩いてくる。
「やや、柳! もしかして、お前も記憶が戻ったか!?」
「うーっす! 戻りましたぁ! 迷惑かけてサーセンでしたぁ!」
「よかった! よかったなあ! 柳に山田! 先生、ホント、どうしようかと思っちゃったよ~、あの時~! ああ、よかったぁ!」
竹田は腕で目を拭きながら、くぅーっと男泣きしている。
「あはは! 泣くなよ~、竹田ぁ!」
柳はポンポンと竹田の肩を叩いた。
「く~、お前は前の人格の方が礼儀正しかったなあ~~」
「あー、あれ、俺じゃねーし」
「少しはその人格残ってないのか?」
「全然! ってか、覚えてねー、あはは!」
「じゃあ、教えてやるからちょっとは見習え!」
「お断り~~!」
椿はパチパチと瞬きしながら二人のやり取りを見ていた。
ケラケラと笑う柳は、向こうの世界の柳と同じだ。白い肌の金髪碧眼だろうが、肌色黒髪黒瞳だろうが柳は柳だった。
☆彡
本物の柳に戻ってから、クラスは一気に騒がしくなった。
佐々木も田中も後藤もとても喜んで一緒にはしゃいでいた。セオドアの紳士的で真面目な性格が憑依していた柳はどこか近寄り難い存在だったのか、距離を置いていた女子たち今まで通り柳の周りに集まってくるようになった。
一日目は柳の周り人だかりで、喪女の椿はまったく近寄ることはできない。
向こうの世界との繋がりが完全に切れてしまったことを報告しようと思っていたが、そんな機会は訪れなかった。
二日目も三日目も常に柳の周りには人がいる。ケラケラ笑って佐々木たちと頭を小突き合ったりしてとても楽しそうだ。彼の視界には椿など全く入っていない。
休み時間、チラリと柳の方を見る。だが、座っている柳の周りには数人の友達が集まっていて壁となり、椿には柳の姿さえ見えなかった。
(本当なら、今までお世話になったお礼をしなきゃいけないんだけど・・・)
お礼をするどころか逆にお礼と称して花までもらってしまった始末。
そんな柳に何とか感謝の意を伝えたいと思っていたのだが・・・。
それは口実だった。
感謝の意を伝えたいのではなくて、今までのように話す機会が欲しいのだ。
たった二週間ほどだったけれど常に一緒にいたのに、急に相手にされなくなって寂しいのだ。分かっている。
(でも、そんなの烏滸がましいな・・・)
四日目になると、椿も柳に話しかけることは諦めた。
所詮、リア充陽キャの柳と、陰キャ喪女の椿とは生きる世界が違うのだ。椿とオフィーリアのような異世界と同じくらい違うのだ。
ひょんなことから一時仲良くしていたが、あれはあくまでも緊急事態だったから仲良くしてもらっていただけなのだ。
喪女の自分に話しかけられることは人気者の彼には迷惑だろう。話しかけない方が柳のためだ。それこそ感謝の代替になるはずだ。
そう思い、柳の様子を伺うのは止めることにした。
「寝過ぎちゃった・・・」
昨日の夜の10時にオフィーリアと話そうと鏡の前で待っていたが、いつまで経っても鏡は向こうの世界を映さなかった。
椿は微かな希望を抱いで12時を回っても鏡の前で待っていた。意地になっていたと言ってもいい。
恐らく、二人の共通点であるミサンガ切れたことで二人の繋がりも切れたのだ。そしてそれだけがお互いを繋いでいたのだろう。いつまで経っても向こうの世界を映さない鏡を見て、そのことを頭の中で理解し始めても、鏡の前から去ることが出来なかった。
きっと、オフィーリアも向こうの世界の鏡の前で待っているに違いない。そう思うと切なくなり、益々去ることが出来なかった。
「最後にガーベラを見せたかったな・・・」
本当は持って帰りたかったであろう黄色い可憐な花。この部屋に置いてあるのが申し訳ない。せめて、一日でも長く花を咲かせていられるように心を込めてお世話しよう。
椿はガーベラの水を替えようとベッドから這い出た。
☆彡
月曜日。山田椿に戻って久々の登校だ。
学校に着いたら、相当お世話になったという担任の竹田先生と保健室の伊藤先生に挨拶するように母に言われている。
学校に着いた椿は一番に職員室へ向かった。
緊張しながら職員室の扉の前に立つ。おはようございますと言いながら扉を開けると、近くにいた教員がすぐに声を掛けてくれ、竹田に取り次いでくれた。
「おお、山田。おはよう!」
竹田は自席に座りながら椿を手招きした。椿は腰を低くしながら竹田の元に向かった。
竹田は空いている椅子と引っ張ってくると、自分の隣に椿を座らせた。
「どうした、山田? 何か困ったことがあったか? まあ、困ったことだらけだと思うけどな。先生でよければ相談に乗るぞ。遠慮せずに話してくれ」
「あ、あの・・・。竹田先生・・・。実は、山田は元に戻りまして・・・」
「は・・・?」
「その節は大変ご迷惑をおかけしました、先生。もう大丈夫です」
ポカンとしている竹田に向かって、椿はペコリと頭を下げた。
「あ・・・、でも別人格だった間の記憶が全然なくてですね。その、授業の方が不安でして・・・」
「も、元に戻った・・・?」
「え? あ、はい」
「じゃあ、聞くが、君の名前は?」
「山田椿です」
「正解!! 大正解!!」
竹田は椅子から飛び上がるように立ち上がった。
「よかった! よかったなあ! 山田ぁ!」
「は、はい。ありがとうございます」
あまりの竹田のテンションの高さに、椿は驚き、少し身を引いてしまった。
そこに、
「おはよーっすー! 竹田せんせー!!」
勢いよく職員室の扉が開かれると、柳が入ってきた。
「あー、いたいた! 竹田せんせー! おー! 山田もいたんだ? おはよう、山田!」
手を振りながら竹田の席に向かって歩いてくる。
「やや、柳! もしかして、お前も記憶が戻ったか!?」
「うーっす! 戻りましたぁ! 迷惑かけてサーセンでしたぁ!」
「よかった! よかったなあ! 柳に山田! 先生、ホント、どうしようかと思っちゃったよ~、あの時~! ああ、よかったぁ!」
竹田は腕で目を拭きながら、くぅーっと男泣きしている。
「あはは! 泣くなよ~、竹田ぁ!」
柳はポンポンと竹田の肩を叩いた。
「く~、お前は前の人格の方が礼儀正しかったなあ~~」
「あー、あれ、俺じゃねーし」
「少しはその人格残ってないのか?」
「全然! ってか、覚えてねー、あはは!」
「じゃあ、教えてやるからちょっとは見習え!」
「お断り~~!」
椿はパチパチと瞬きしながら二人のやり取りを見ていた。
ケラケラと笑う柳は、向こうの世界の柳と同じだ。白い肌の金髪碧眼だろうが、肌色黒髪黒瞳だろうが柳は柳だった。
☆彡
本物の柳に戻ってから、クラスは一気に騒がしくなった。
佐々木も田中も後藤もとても喜んで一緒にはしゃいでいた。セオドアの紳士的で真面目な性格が憑依していた柳はどこか近寄り難い存在だったのか、距離を置いていた女子たち今まで通り柳の周りに集まってくるようになった。
一日目は柳の周り人だかりで、喪女の椿はまったく近寄ることはできない。
向こうの世界との繋がりが完全に切れてしまったことを報告しようと思っていたが、そんな機会は訪れなかった。
二日目も三日目も常に柳の周りには人がいる。ケラケラ笑って佐々木たちと頭を小突き合ったりしてとても楽しそうだ。彼の視界には椿など全く入っていない。
休み時間、チラリと柳の方を見る。だが、座っている柳の周りには数人の友達が集まっていて壁となり、椿には柳の姿さえ見えなかった。
(本当なら、今までお世話になったお礼をしなきゃいけないんだけど・・・)
お礼をするどころか逆にお礼と称して花までもらってしまった始末。
そんな柳に何とか感謝の意を伝えたいと思っていたのだが・・・。
それは口実だった。
感謝の意を伝えたいのではなくて、今までのように話す機会が欲しいのだ。
たった二週間ほどだったけれど常に一緒にいたのに、急に相手にされなくなって寂しいのだ。分かっている。
(でも、そんなの烏滸がましいな・・・)
四日目になると、椿も柳に話しかけることは諦めた。
所詮、リア充陽キャの柳と、陰キャ喪女の椿とは生きる世界が違うのだ。椿とオフィーリアのような異世界と同じくらい違うのだ。
ひょんなことから一時仲良くしていたが、あれはあくまでも緊急事態だったから仲良くしてもらっていただけなのだ。
喪女の自分に話しかけられることは人気者の彼には迷惑だろう。話しかけない方が柳のためだ。それこそ感謝の代替になるはずだ。
そう思い、柳の様子を伺うのは止めることにした。
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