上 下
98 / 105

98.久しぶりの登校

しおりを挟む
翌日の日曜日。椿は眠い目を擦りながらベッドから起き上がった。もう朝の10時を回っていた。

「寝過ぎちゃった・・・」

昨日の夜の10時にオフィーリアと話そうと鏡の前で待っていたが、いつまで経っても鏡は向こうの世界を映さなかった。

椿は微かな希望を抱いで12時を回っても鏡の前で待っていた。意地になっていたと言ってもいい。
恐らく、二人の共通点であるミサンガ切れたことで二人の繋がりも切れたのだ。そしてそれだけがお互いを繋いでいたのだろう。いつまで経っても向こうの世界を映さない鏡を見て、そのことを頭の中で理解し始めても、鏡の前から去ることが出来なかった。
きっと、オフィーリアも向こうの世界の鏡の前で待っているに違いない。そう思うと切なくなり、益々去ることが出来なかった。

「最後にガーベラを見せたかったな・・・」

本当は持って帰りたかったであろう黄色い可憐な花。この部屋に置いてあるのが申し訳ない。せめて、一日でも長く花を咲かせていられるように心を込めてお世話しよう。

椿はガーベラの水を替えようとベッドから這い出た。


☆彡


月曜日。山田椿に戻って久々の登校だ。
学校に着いたら、相当お世話になったという担任の竹田先生と保健室の伊藤先生に挨拶するように母に言われている。

学校に着いた椿は一番に職員室へ向かった。

緊張しながら職員室の扉の前に立つ。おはようございますと言いながら扉を開けると、近くにいた教員がすぐに声を掛けてくれ、竹田に取り次いでくれた。

「おお、山田。おはよう!」

竹田は自席に座りながら椿を手招きした。椿は腰を低くしながら竹田の元に向かった。
竹田は空いている椅子と引っ張ってくると、自分の隣に椿を座らせた。

「どうした、山田? 何か困ったことがあったか? まあ、困ったことだらけだと思うけどな。先生でよければ相談に乗るぞ。遠慮せずに話してくれ」

「あ、あの・・・。竹田先生・・・。実は、山田は元に戻りまして・・・」

「は・・・?」

「その節は大変ご迷惑をおかけしました、先生。もう大丈夫です」

ポカンとしている竹田に向かって、椿はペコリと頭を下げた。

「あ・・・、でも別人格だった間の記憶が全然なくてですね。その、授業の方が不安でして・・・」

「も、元に戻った・・・?」

「え? あ、はい」

「じゃあ、聞くが、君の名前は?」

「山田椿です」

「正解!! 大正解!!」

竹田は椅子から飛び上がるように立ち上がった。

「よかった! よかったなあ! 山田ぁ!」

「は、はい。ありがとうございます」

あまりの竹田のテンションの高さに、椿は驚き、少し身を引いてしまった。
そこに、

「おはよーっすー! 竹田せんせー!!」

勢いよく職員室の扉が開かれると、柳が入ってきた。

「あー、いたいた! 竹田せんせー! おー! 山田もいたんだ? おはよう、山田!」

手を振りながら竹田の席に向かって歩いてくる。

「やや、柳! もしかして、お前も記憶が戻ったか!?」

「うーっす! 戻りましたぁ! 迷惑かけてサーセンでしたぁ!」

「よかった! よかったなあ! 柳に山田! 先生、ホント、どうしようかと思っちゃったよ~、あの時~! ああ、よかったぁ!」

竹田は腕で目を拭きながら、くぅーっと男泣きしている。

「あはは! 泣くなよ~、竹田ぁ!」

柳はポンポンと竹田の肩を叩いた。

「く~、お前は前の人格の方が礼儀正しかったなあ~~」
「あー、あれ、俺じゃねーし」
「少しはその人格残ってないのか?」
「全然! ってか、覚えてねー、あはは!」
「じゃあ、教えてやるからちょっとは見習え!」
「お断り~~!」

椿はパチパチと瞬きしながら二人のやり取りを見ていた。
ケラケラと笑う柳は、向こうの世界の柳と同じだ。白い肌の金髪碧眼だろうが、肌色黒髪黒瞳だろうが柳は柳だった。


☆彡


本物の柳に戻ってから、クラスは一気に騒がしくなった。
佐々木も田中も後藤もとても喜んで一緒にはしゃいでいた。セオドアの紳士的で真面目な性格が憑依していた柳はどこか近寄り難い存在だったのか、距離を置いていた女子たち今まで通り柳の周りに集まってくるようになった。

一日目は柳の周り人だかりで、喪女の椿はまったく近寄ることはできない。
向こうの世界との繋がりが完全に切れてしまったことを報告しようと思っていたが、そんな機会は訪れなかった。

二日目も三日目も常に柳の周りには人がいる。ケラケラ笑って佐々木たちと頭を小突き合ったりしてとても楽しそうだ。彼の視界には椿など全く入っていない。

休み時間、チラリと柳の方を見る。だが、座っている柳の周りには数人の友達が集まっていて壁となり、椿には柳の姿さえ見えなかった。

(本当なら、今までお世話になったお礼をしなきゃいけないんだけど・・・)

お礼をするどころか逆にお礼と称して花までもらってしまった始末。
そんな柳に何とか感謝の意を伝えたいと思っていたのだが・・・。

それは口実だった。
感謝の意を伝えたいのではなくて、今までのように話す機会が欲しいのだ。
たった二週間ほどだったけれど常に一緒にいたのに、急に相手にされなくなって寂しいのだ。分かっている。

(でも、そんなの烏滸がましいな・・・)

四日目になると、椿も柳に話しかけることは諦めた。
所詮、リア充陽キャの柳と、陰キャ喪女の椿とは生きる世界が違うのだ。椿とオフィーリアのような異世界と同じくらい違うのだ。
ひょんなことから一時仲良くしていたが、あれはあくまでも緊急事態だったから仲良くしてもらっていただけなのだ。

喪女の自分に話しかけられることは人気者の彼には迷惑だろう。話しかけない方が柳のためだ。それこそ感謝の代替になるはずだ。

そう思い、柳の様子を伺うのは止めることにした。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい

砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。 風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。 イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。 一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。 強欲悪役令嬢ストーリー(笑) 二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります

みゅー
恋愛
 私このシーンや会話の内容を知っている。でも何故? と、思い出そうとするが目眩がし気分が悪くなってしまった、そして前世で読んだ小説の世界に転生したと気づく主人公のサファイア。ところが最推しの公爵令息には最愛の女性がいて、自分とは結ばれないと知り……  それでも主人公は健気には推しの幸せを願う。そんな切ない話を書きたくて書きました。 ハッピーエンドです。

処理中です...