上 下
94 / 105

94.選ぶのは君

しおりを挟む
「もちろん、友達から始めるので構わない。君は美しいし、他の良家の子息から人気があることも知っている。選ぶのは君だ。でも、俺もその男たちと同じスタートラインに立つことを許してくれないだろうか?」

セオドアは跪いたまま、真剣にオフィーリアを見つめている。

「お友達から・・・?」

「ああ」

「選ぶのはわたくし・・・?」

「ああ。君だ」

「・・・」

オフィーリアは相変わらず目を丸めたまま、信じられないものでも見ている様にセオドアを見つめた。セオドアはその視線を逸らさない。熱い眼差しでジッと自分を見つめ返してくる。オフィーリアは自分の胸がじわじわと熱くなってくるのが分かった。

「お願いだ。オフィーリア」

「・・・分かりましたわ」

オフィーリアは小さく頷くと、ガーベラを受け取った。
優しい顔でガーベラを見つめ、そっと顔に近づけ香りを嗅いだ。

「ありがとう! オフィーリア!」

「ただし!」

オフィーリアは、破顔して喜び立ち上がろうとしたセオドアを手で制すると、彼の顔の前に人差し指を立てた。

「お友達からですわ! よろしくて?」

「ああ! 構わない!」

セオドアは立ち上がった。立ち上がったせいで跪いている時より顔が近くなり、オフィーリアはドキッと心臓が跳ねた。慌ててプイっと大げさに顔を背けた。

「選ぶのはわたくしでいいとおっしゃいましたわね。ではそうさせていただきます」

チラッとセオドアを見ると、またプイっと顔を逸らした。

「だから、スタートラインに立ったのであればお急ぎなさいませ。わたくしが他の殿方の手を取ってしまわぬように!」

背けてしまった顔は見えないが耳が真っ赤だ。

「分かった! 誰よりも一番に君の元に辿り着くよ! 君の手を取るのは俺であるように誰よりも早く! それこそ自転車を飛ばすくらいの速さでね!」

「アハッ! 自転車っ!」

オフィーリアは思わず噴き出した。セオドアも笑っている。

「そして、君が俺の手を取ってくれた時、その時は100本のガーベラの花束を渡すから」

「まあ、100本?! それはそれは豪勢ですこと。ここは楽しみにしているとでも言っておきましょうか?」

「ハハハ! 楽しみにしてくれると嬉しいよ」

セオドアの嬉しそうな笑顔にオフィーリアの心臓の鼓動は少しずつ早くなる。動悸は早くなるのにほわぁっと幸せな気持ちに包まれ、体が浮いてしまいそうになる。

「じゃあ、手始めに。今日の卒業パーティーのエスコート役を引き受けさせてもらえないか?」

「エスコート? 早速ですのね」

浮きそうな体を押さえるようにしっかりと地面に足を着け、ほんわかした心を隠すように、ツンとして見せた。

「俺にとって真剣勝負だから。他の奴らより一歩でも早く君に近づかないと」

「仕方がないですわね。お受けしますわ」

「ありがとう! 身に余る光栄だ。オフィーリア・ラガン令嬢」

セオドアは再びオフィーリアの前に跪くと、恭しく手を取り、その指先に唇を寄せた。
そしてオフィーリアを見上げると、彼女は真っ赤になってプルプル震えていた。目が合うとプイっと顔を背けてしまった。

「可愛いな・・・。オフィーリアは」

セオドアの漏らした呟きはオフィーリアの耳にも届いたようだ。赤い顔はさらに赤くなり、パッとセオドアから手を離してしまった。

「も、も、もう寮に戻らないといけませんわ! マ、マリーが待っていますから。パーティーのじゅ、準備が・・・っ!」

アタフタと狼狽する彼女をセオドアは愛しそうに見つめた。
こんなに愛らしい女性だったのに、自分は一体彼女の何を見ていたのだろう?

「そうだな。もう帰ろう。寮まで送る」

セオドアは立ち上がった。オフィーリアは耳まで赤い顔で精一杯虚勢を張るようにツンと顔を逸らすと、胸を張って歩き始めた。セオドアは追いかけるようにその隣に並んだ。

「そ、そうだわ! セオドア様、お聞きたかったことが・・・! その、向こうの世界で授業って付いていけてましたか? わたくし、全然分かりませんでしたのよ」

オフィーリアは恥ずかしさを誤魔化すように話題を変えた。

「いいや。実は俺も全然分からなかった。とりあえず授業の内容をノートに取っていただけだ」

セオドアは肩を竦めて見せた。

「まあ、わたくしもですわ。わたくしが取ったノートで椿様は分かるかしら・・・? ノートと言えば、向こうの世界の紙は書きやすかったですわね。シャーペンという物も画期的でした! ボールペンも!」
「そうだな。俺は食べ物に驚いたよ。寿司とか言う、一口サイズの米に生魚を乗せた食べ物。生魚があんなに美味しいとは思わなかった。オフィーリアは食べた?」
「ええ! もちろん! わたくしも衝撃でしたわ! それより、もんじゃ焼きって召し上がった? あの一見、ぜったい食べ物とは思えないような・・・」
「たこ焼きっていうのも面白い食べ物だったな。田中がご馳走してくれて・・・」
「CT検査って、あれって一体なんだったのかしら?」
「オフィーリアはオートバイって言う乗り物は見た?」

いつの間にかオフィーリアは恥ずかしさが消えておしゃべりに夢中になった。
女子寮の門までのわずかな距離を二人はゆっくりゆっくりと時間をかけて歩いた。この後、また卒業パーティーで長い時間を一緒に過ごす事は決まっているのに、この今の僅かな時間さえも惜しいと感じていた。

気が付くと自然に二人は手を繋いで歩いていた。

この時点でオフィーリアはしっかりとセオドアに捕まってしまったわけだが、それを認めるかどうか決めるのはオフィーリア次第だ。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

目覚めたら妊婦だった私のお相手が残酷皇帝で吐きそう

カギカッコ「」
恋愛
以前書いた作品「目覚めたら妊婦だった俺の人生がBLになりそう」を主人公が女子として書き直してみたものです。名前なども一部変更しました。 他サイト様にも同じのあります。以前のは小説家になろう様にあります。

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』 女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。 それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、 愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ! 彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます! 異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆  《完結しました》

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい

砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。 風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。 イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。 一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。 強欲悪役令嬢ストーリー(笑) 二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

一途な令嬢は悪役になり王子の幸福を望む

紫月
恋愛
似たタイトルがあったため、ご迷惑にならないよう「悪役令嬢はじめました」からタイトルを変更しました。 お気に入り登録をされてる方はご了承ください。 奇跡の血を持つ公爵令嬢、アリア・マクシミリア。 彼女はただ一途に婚約者の王太子セフィル・ブランドルを思う。 愛しているからこそ他の女性に好意を寄せるセフィルのために悪役令嬢を演じ始める。 婚約破棄をし、好きな女性と結ばれてもらうために……。

処理中です...