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94.選ぶのは君
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「もちろん、友達から始めるので構わない。君は美しいし、他の良家の子息から人気があることも知っている。選ぶのは君だ。でも、俺もその男たちと同じスタートラインに立つことを許してくれないだろうか?」
セオドアは跪いたまま、真剣にオフィーリアを見つめている。
「お友達から・・・?」
「ああ」
「選ぶのはわたくし・・・?」
「ああ。君だ」
「・・・」
オフィーリアは相変わらず目を丸めたまま、信じられないものでも見ている様にセオドアを見つめた。セオドアはその視線を逸らさない。熱い眼差しでジッと自分を見つめ返してくる。オフィーリアは自分の胸がじわじわと熱くなってくるのが分かった。
「お願いだ。オフィーリア」
「・・・分かりましたわ」
オフィーリアは小さく頷くと、ガーベラを受け取った。
優しい顔でガーベラを見つめ、そっと顔に近づけ香りを嗅いだ。
「ありがとう! オフィーリア!」
「ただし!」
オフィーリアは、破顔して喜び立ち上がろうとしたセオドアを手で制すると、彼の顔の前に人差し指を立てた。
「お友達からですわ! よろしくて?」
「ああ! 構わない!」
セオドアは立ち上がった。立ち上がったせいで跪いている時より顔が近くなり、オフィーリアはドキッと心臓が跳ねた。慌ててプイっと大げさに顔を背けた。
「選ぶのはわたくしでいいとおっしゃいましたわね。ではそうさせていただきます」
チラッとセオドアを見ると、またプイっと顔を逸らした。
「だから、スタートラインに立ったのであればお急ぎなさいませ。わたくしが他の殿方の手を取ってしまわぬように!」
背けてしまった顔は見えないが耳が真っ赤だ。
「分かった! 誰よりも一番に君の元に辿り着くよ! 君の手を取るのは俺であるように誰よりも早く! それこそ自転車を飛ばすくらいの速さでね!」
「アハッ! 自転車っ!」
オフィーリアは思わず噴き出した。セオドアも笑っている。
「そして、君が俺の手を取ってくれた時、その時は100本のガーベラの花束を渡すから」
「まあ、100本?! それはそれは豪勢ですこと。ここは楽しみにしているとでも言っておきましょうか?」
「ハハハ! 楽しみにしてくれると嬉しいよ」
セオドアの嬉しそうな笑顔にオフィーリアの心臓の鼓動は少しずつ早くなる。動悸は早くなるのにほわぁっと幸せな気持ちに包まれ、体が浮いてしまいそうになる。
「じゃあ、手始めに。今日の卒業パーティーのエスコート役を引き受けさせてもらえないか?」
「エスコート? 早速ですのね」
浮きそうな体を押さえるようにしっかりと地面に足を着け、ほんわかした心を隠すように、ツンとして見せた。
「俺にとって真剣勝負だから。他の奴らより一歩でも早く君に近づかないと」
「仕方がないですわね。お受けしますわ」
「ありがとう! 身に余る光栄だ。オフィーリア・ラガン令嬢」
セオドアは再びオフィーリアの前に跪くと、恭しく手を取り、その指先に唇を寄せた。
そしてオフィーリアを見上げると、彼女は真っ赤になってプルプル震えていた。目が合うとプイっと顔を背けてしまった。
「可愛いな・・・。オフィーリアは」
セオドアの漏らした呟きはオフィーリアの耳にも届いたようだ。赤い顔はさらに赤くなり、パッとセオドアから手を離してしまった。
「も、も、もう寮に戻らないといけませんわ! マ、マリーが待っていますから。パーティーのじゅ、準備が・・・っ!」
アタフタと狼狽する彼女をセオドアは愛しそうに見つめた。
こんなに愛らしい女性だったのに、自分は一体彼女の何を見ていたのだろう?
「そうだな。もう帰ろう。寮まで送る」
セオドアは立ち上がった。オフィーリアは耳まで赤い顔で精一杯虚勢を張るようにツンと顔を逸らすと、胸を張って歩き始めた。セオドアは追いかけるようにその隣に並んだ。
「そ、そうだわ! セオドア様、お聞きたかったことが・・・! その、向こうの世界で授業って付いていけてましたか? わたくし、全然分かりませんでしたのよ」
オフィーリアは恥ずかしさを誤魔化すように話題を変えた。
「いいや。実は俺も全然分からなかった。とりあえず授業の内容をノートに取っていただけだ」
セオドアは肩を竦めて見せた。
「まあ、わたくしもですわ。わたくしが取ったノートで椿様は分かるかしら・・・? ノートと言えば、向こうの世界の紙は書きやすかったですわね。シャーペンという物も画期的でした! ボールペンも!」
「そうだな。俺は食べ物に驚いたよ。寿司とか言う、一口サイズの米に生魚を乗せた食べ物。生魚があんなに美味しいとは思わなかった。オフィーリアは食べた?」
「ええ! もちろん! わたくしも衝撃でしたわ! それより、もんじゃ焼きって召し上がった? あの一見、ぜったい食べ物とは思えないような・・・」
「たこ焼きっていうのも面白い食べ物だったな。田中がご馳走してくれて・・・」
「CT検査って、あれって一体なんだったのかしら?」
「オフィーリアはオートバイって言う乗り物は見た?」
いつの間にかオフィーリアは恥ずかしさが消えておしゃべりに夢中になった。
女子寮の門までのわずかな距離を二人はゆっくりゆっくりと時間をかけて歩いた。この後、また卒業パーティーで長い時間を一緒に過ごす事は決まっているのに、この今の僅かな時間さえも惜しいと感じていた。
気が付くと自然に二人は手を繋いで歩いていた。
この時点でオフィーリアはしっかりとセオドアに捕まってしまったわけだが、それを認めるかどうか決めるのはオフィーリア次第だ。
セオドアは跪いたまま、真剣にオフィーリアを見つめている。
「お友達から・・・?」
「ああ」
「選ぶのはわたくし・・・?」
「ああ。君だ」
「・・・」
オフィーリアは相変わらず目を丸めたまま、信じられないものでも見ている様にセオドアを見つめた。セオドアはその視線を逸らさない。熱い眼差しでジッと自分を見つめ返してくる。オフィーリアは自分の胸がじわじわと熱くなってくるのが分かった。
「お願いだ。オフィーリア」
「・・・分かりましたわ」
オフィーリアは小さく頷くと、ガーベラを受け取った。
優しい顔でガーベラを見つめ、そっと顔に近づけ香りを嗅いだ。
「ありがとう! オフィーリア!」
「ただし!」
オフィーリアは、破顔して喜び立ち上がろうとしたセオドアを手で制すると、彼の顔の前に人差し指を立てた。
「お友達からですわ! よろしくて?」
「ああ! 構わない!」
セオドアは立ち上がった。立ち上がったせいで跪いている時より顔が近くなり、オフィーリアはドキッと心臓が跳ねた。慌ててプイっと大げさに顔を背けた。
「選ぶのはわたくしでいいとおっしゃいましたわね。ではそうさせていただきます」
チラッとセオドアを見ると、またプイっと顔を逸らした。
「だから、スタートラインに立ったのであればお急ぎなさいませ。わたくしが他の殿方の手を取ってしまわぬように!」
背けてしまった顔は見えないが耳が真っ赤だ。
「分かった! 誰よりも一番に君の元に辿り着くよ! 君の手を取るのは俺であるように誰よりも早く! それこそ自転車を飛ばすくらいの速さでね!」
「アハッ! 自転車っ!」
オフィーリアは思わず噴き出した。セオドアも笑っている。
「そして、君が俺の手を取ってくれた時、その時は100本のガーベラの花束を渡すから」
「まあ、100本?! それはそれは豪勢ですこと。ここは楽しみにしているとでも言っておきましょうか?」
「ハハハ! 楽しみにしてくれると嬉しいよ」
セオドアの嬉しそうな笑顔にオフィーリアの心臓の鼓動は少しずつ早くなる。動悸は早くなるのにほわぁっと幸せな気持ちに包まれ、体が浮いてしまいそうになる。
「じゃあ、手始めに。今日の卒業パーティーのエスコート役を引き受けさせてもらえないか?」
「エスコート? 早速ですのね」
浮きそうな体を押さえるようにしっかりと地面に足を着け、ほんわかした心を隠すように、ツンとして見せた。
「俺にとって真剣勝負だから。他の奴らより一歩でも早く君に近づかないと」
「仕方がないですわね。お受けしますわ」
「ありがとう! 身に余る光栄だ。オフィーリア・ラガン令嬢」
セオドアは再びオフィーリアの前に跪くと、恭しく手を取り、その指先に唇を寄せた。
そしてオフィーリアを見上げると、彼女は真っ赤になってプルプル震えていた。目が合うとプイっと顔を背けてしまった。
「可愛いな・・・。オフィーリアは」
セオドアの漏らした呟きはオフィーリアの耳にも届いたようだ。赤い顔はさらに赤くなり、パッとセオドアから手を離してしまった。
「も、も、もう寮に戻らないといけませんわ! マ、マリーが待っていますから。パーティーのじゅ、準備が・・・っ!」
アタフタと狼狽する彼女をセオドアは愛しそうに見つめた。
こんなに愛らしい女性だったのに、自分は一体彼女の何を見ていたのだろう?
「そうだな。もう帰ろう。寮まで送る」
セオドアは立ち上がった。オフィーリアは耳まで赤い顔で精一杯虚勢を張るようにツンと顔を逸らすと、胸を張って歩き始めた。セオドアは追いかけるようにその隣に並んだ。
「そ、そうだわ! セオドア様、お聞きたかったことが・・・! その、向こうの世界で授業って付いていけてましたか? わたくし、全然分かりませんでしたのよ」
オフィーリアは恥ずかしさを誤魔化すように話題を変えた。
「いいや。実は俺も全然分からなかった。とりあえず授業の内容をノートに取っていただけだ」
セオドアは肩を竦めて見せた。
「まあ、わたくしもですわ。わたくしが取ったノートで椿様は分かるかしら・・・? ノートと言えば、向こうの世界の紙は書きやすかったですわね。シャーペンという物も画期的でした! ボールペンも!」
「そうだな。俺は食べ物に驚いたよ。寿司とか言う、一口サイズの米に生魚を乗せた食べ物。生魚があんなに美味しいとは思わなかった。オフィーリアは食べた?」
「ええ! もちろん! わたくしも衝撃でしたわ! それより、もんじゃ焼きって召し上がった? あの一見、ぜったい食べ物とは思えないような・・・」
「たこ焼きっていうのも面白い食べ物だったな。田中がご馳走してくれて・・・」
「CT検査って、あれって一体なんだったのかしら?」
「オフィーリアはオートバイって言う乗り物は見た?」
いつの間にかオフィーリアは恥ずかしさが消えておしゃべりに夢中になった。
女子寮の門までのわずかな距離を二人はゆっくりゆっくりと時間をかけて歩いた。この後、また卒業パーティーで長い時間を一緒に過ごす事は決まっているのに、この今の僅かな時間さえも惜しいと感じていた。
気が付くと自然に二人は手を繋いで歩いていた。
この時点でオフィーリアはしっかりとセオドアに捕まってしまったわけだが、それを認めるかどうか決めるのはオフィーリア次第だ。
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