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89.証言
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「どうなんだ? オリビア?」
セオドアにそう問われ、オリビアはピクッと肩を揺らした。そして、顔を上げてセオドアを見つめた。その目から涙がポロポロと零れていた。
「ひどい・・・。セオドアが・・・私を信じてくれないなんて・・・。その女やダリア様のいうことを信じるなんて・・・」
セオドアは顔を顰めた。
少し前だったら多少の矛盾があっても、この涙にほだされていた。しかし、今はこの涙は通じない。それどころか、こんなにも矛盾や証拠を並べても、涙で窮地を脱しようとする彼女の姿勢に激しい苛立ちを覚える。
「オリビア・・・君は・・・」
「セオドア・・・、セオドアだけは・・・、貴方だけは信じて欲しかったのに・・・」
相変わらず、それらしく訴えてくオリビアに、セオドアは溜息をついた。
「まだ、証言が足りないようだな。仕方がない」
セオドアはダリアの方を見ると小さく頷いた。ダリアはそれを合図と受け取り、部屋の扉を開け、廊下に顔を出した。誰かを呼んでいるようだ。
ダリアに呼ばれ、一人の男子生徒が入ってきた。
「よう! オリビア嬢!」
「!!!」
その生徒の呼びかけに、オリビアは固まってしまった。
「彼を知っているだろう? オリビア」
セオドアはそう言うと、やっとオリビアから手を離した。
「セオドア、廊下で待ちくたびれたよ。お役御免かなのかって、もう帰ろうかと思ってたんだぞー」
「すまない、ラリー」
お道化たように笑うラリーと呼ばれた生徒に、セオドアも少し笑って謝った。
オリビアはラリーをまるで幽霊でも見るような目で見ている。驚き過ぎて言葉を発せられないようだ。
「驚いたようだな、オリビア。俺とラリーが知合いだって」
「・・・」
オリビアは黙ったままだ。
「だよな! 優等生で侯爵様のセオドアと男爵家三男落ちこぼれの俺じゃ、接点ないからなあ! 実際、ほんの最近だし、友達になったのは。もう卒業だってのさ! もっと前から友達になりたかったよ!」
ラリーは愉快そうに笑う。そうだなとセオドアも頷いた。
「オリビア、彼に頼み事をしただろう?」
セオドアはオリビアに振り向いた。その目は鋭く光っている。
「彼にオフィーリアを人目の付かない場所に呼び出すように」
「な・・・んだって・・・?」
セオドアの言葉にジャックが目を見張った。問われた本人であるオリビアは黙ったまま何も答えない。セオドアはチラッとジャックを見た。
「オフィーリアのアリバイを消すためさ。いつどこにいてもオフィーリアには常に人目がある。彼女の行動を証言できる人物は多い。だから肝心な階段から落ちる時には誰にも見られない場所にいてもらわないといけなかった」
「な・・・」
ジャックは呆然とセオドアを見つめた。オリビアは相変わらず黙ったまま俯いている。ダリアはそんなオリビアに厳しい視線を送っている。
「それには足が付かないように、俺たちと関わりのある者とは極力疎遠の人物を選ばないといけない。オフィーリアの呼び出されたという証言も『自分は知らない』の一言で片付くほど疎遠な人物をね」
「それに白羽の矢が当たったのが俺ってこと」
ラリーはニッと笑って話に入ってきた。セオドアは頷いた。
「ラリーに頼んだのは、彼が俺たちとは何の接点もない生徒だったからだ。本当に数日前まで、俺はラリーの顔さえも知らなかったほどだ。ジャックだってそうだろう?」
ジャックは小さく頷く。
「酷いなぁ、セオドア。俺は君を知っていたのにさー、顔だけは」
ラリーはワザと拗ねたように口を尖らせて小さく呟いた。
「わたくしも貴方を存じ上げませんでした。ラリー様」
「うん。俺も君を知らなかったよ、ダリア嬢。初めまして」
「初めまして。でも明日でさようなら」
「わ~、冷たいね~、ダリア嬢は。折角だからボクたち恋人に」
「なりません」
「早っ」
そんなふざけた調子のまま、ラリーはオリビアに近づいた。
「オリビア嬢。悪かったね、君に頼まれた『オフィーリア嬢を連れ出すこと』そして、その後、何か聞かれたら『何も知らないと』と証言すること、これが出来なくてさ」
オリビアはゆっくり顔を上げた。そして、チラリとラリーを見るとプイっと顔を背けた。
「私は貴方なんて知らない!」
「わ~、酷いなあ! ダリア嬢だけじゃなくって君も冷たいね~」
ラリーは肩を竦めて見せた。
「君の記憶力が悪くて覚えていないのか、それとも俺と会ったことだけ記憶喪失になっているのか知らないけど、頼まれたのは事実だ。だからこれ」
ラリーはポケットから何かを取り出すと、オリビアの前で手を広げて見せた。
「君から貰った金。契約不履行ってことで返金するよ。成果も上げていないどころか、実際動いてないしね。それなのに金をもらうなんて詐欺行為だ。いくら貧乏男爵家で金が欲しいって思っても貴族としての自負はあるんだよ」
セオドアにそう問われ、オリビアはピクッと肩を揺らした。そして、顔を上げてセオドアを見つめた。その目から涙がポロポロと零れていた。
「ひどい・・・。セオドアが・・・私を信じてくれないなんて・・・。その女やダリア様のいうことを信じるなんて・・・」
セオドアは顔を顰めた。
少し前だったら多少の矛盾があっても、この涙にほだされていた。しかし、今はこの涙は通じない。それどころか、こんなにも矛盾や証拠を並べても、涙で窮地を脱しようとする彼女の姿勢に激しい苛立ちを覚える。
「オリビア・・・君は・・・」
「セオドア・・・、セオドアだけは・・・、貴方だけは信じて欲しかったのに・・・」
相変わらず、それらしく訴えてくオリビアに、セオドアは溜息をついた。
「まだ、証言が足りないようだな。仕方がない」
セオドアはダリアの方を見ると小さく頷いた。ダリアはそれを合図と受け取り、部屋の扉を開け、廊下に顔を出した。誰かを呼んでいるようだ。
ダリアに呼ばれ、一人の男子生徒が入ってきた。
「よう! オリビア嬢!」
「!!!」
その生徒の呼びかけに、オリビアは固まってしまった。
「彼を知っているだろう? オリビア」
セオドアはそう言うと、やっとオリビアから手を離した。
「セオドア、廊下で待ちくたびれたよ。お役御免かなのかって、もう帰ろうかと思ってたんだぞー」
「すまない、ラリー」
お道化たように笑うラリーと呼ばれた生徒に、セオドアも少し笑って謝った。
オリビアはラリーをまるで幽霊でも見るような目で見ている。驚き過ぎて言葉を発せられないようだ。
「驚いたようだな、オリビア。俺とラリーが知合いだって」
「・・・」
オリビアは黙ったままだ。
「だよな! 優等生で侯爵様のセオドアと男爵家三男落ちこぼれの俺じゃ、接点ないからなあ! 実際、ほんの最近だし、友達になったのは。もう卒業だってのさ! もっと前から友達になりたかったよ!」
ラリーは愉快そうに笑う。そうだなとセオドアも頷いた。
「オリビア、彼に頼み事をしただろう?」
セオドアはオリビアに振り向いた。その目は鋭く光っている。
「彼にオフィーリアを人目の付かない場所に呼び出すように」
「な・・・んだって・・・?」
セオドアの言葉にジャックが目を見張った。問われた本人であるオリビアは黙ったまま何も答えない。セオドアはチラッとジャックを見た。
「オフィーリアのアリバイを消すためさ。いつどこにいてもオフィーリアには常に人目がある。彼女の行動を証言できる人物は多い。だから肝心な階段から落ちる時には誰にも見られない場所にいてもらわないといけなかった」
「な・・・」
ジャックは呆然とセオドアを見つめた。オリビアは相変わらず黙ったまま俯いている。ダリアはそんなオリビアに厳しい視線を送っている。
「それには足が付かないように、俺たちと関わりのある者とは極力疎遠の人物を選ばないといけない。オフィーリアの呼び出されたという証言も『自分は知らない』の一言で片付くほど疎遠な人物をね」
「それに白羽の矢が当たったのが俺ってこと」
ラリーはニッと笑って話に入ってきた。セオドアは頷いた。
「ラリーに頼んだのは、彼が俺たちとは何の接点もない生徒だったからだ。本当に数日前まで、俺はラリーの顔さえも知らなかったほどだ。ジャックだってそうだろう?」
ジャックは小さく頷く。
「酷いなぁ、セオドア。俺は君を知っていたのにさー、顔だけは」
ラリーはワザと拗ねたように口を尖らせて小さく呟いた。
「わたくしも貴方を存じ上げませんでした。ラリー様」
「うん。俺も君を知らなかったよ、ダリア嬢。初めまして」
「初めまして。でも明日でさようなら」
「わ~、冷たいね~、ダリア嬢は。折角だからボクたち恋人に」
「なりません」
「早っ」
そんなふざけた調子のまま、ラリーはオリビアに近づいた。
「オリビア嬢。悪かったね、君に頼まれた『オフィーリア嬢を連れ出すこと』そして、その後、何か聞かれたら『何も知らないと』と証言すること、これが出来なくてさ」
オリビアはゆっくり顔を上げた。そして、チラリとラリーを見るとプイっと顔を背けた。
「私は貴方なんて知らない!」
「わ~、酷いなあ! ダリア嬢だけじゃなくって君も冷たいね~」
ラリーは肩を竦めて見せた。
「君の記憶力が悪くて覚えていないのか、それとも俺と会ったことだけ記憶喪失になっているのか知らないけど、頼まれたのは事実だ。だからこれ」
ラリーはポケットから何かを取り出すと、オリビアの前で手を広げて見せた。
「君から貰った金。契約不履行ってことで返金するよ。成果も上げていないどころか、実際動いてないしね。それなのに金をもらうなんて詐欺行為だ。いくら貧乏男爵家で金が欲しいって思っても貴族としての自負はあるんだよ」
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