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82.もどかしい思い

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「セオドアはアホ・・・」

ダリアはメモに書かれていた文字を呟くと、プッと噴き出した。だが、すぐに慌てて口元を押さえた。

「し、失礼しました!」

「・・・」

自分で書いたことになっているセオドアは言い返すこともできず、小さく溜息をついた。

「とにかく、このメモの通りアリバイを見つけよう。そして赤毛の女子生徒も」

セオドアはメモを畳むと胸ポケットにしまった。

「真犯人が誰なのか突き止めないと。オフィーリアや君たちの名誉を回復しないといけない。それにオリビアが酷い嫌がらせを受けて傷つけられたのは事実だ。犯人にはオリビアにきちんと謝罪をさせたい」

「ええ、そうですわね」

ダリアも真顔で頷いた。

「それと、覚えていらっしゃらないと思いますが、セオドア様は卒業式までにまた酷い嫌がらせが起こるかもしれないっておっしゃってましたわ。例えば階段から突き落とすとかって」

「・・・階段・・・から・・・?」

セオドアの顔が険しくなった。

「わたくしは、流石にそんな大それたこと犯人がするとは思えないのですけれど。あくまでも例えばっておっしゃっていました。だから犯人扱いされないように、オフィーリア様をオリビア様に近づけるなと。確かに、オリビア様が嫌がらせを受けてしまう可能性は否定できませんものね」

「・・・ああ、確かにそうだな・・・。まだ卒業式まで日があるし、その可能性はある・・・」

セオドアは頷いた。

「できるだけオフィーリアを一人にしないでくれ。一緒にいて欲しい」

「もちろんです。クラリス様とアニー様が常に傍にいてくれますわ」

「ありがとう。俺は・・・、俺はオリビアに気を配るよ」

「え・・・?」

ダリアは驚いたようにセオドアを見た。

「オリビアが誰からも嫌がらせを受けないように・・・。受けなけば、オフィーリアが疑われることはないし、オリビアも怪我をすることはない」

「それは・・・そうですが・・・」

やはり記憶が戻った今、セオドアの大切な人はオリビアなのか。オフィーリアを信じていると言ったが、所詮想い人はオリビアに変わりないのか。
ダリアの中に無念さと悔しさが広がる。思わず唇をグッと噛んだ。

「俺はこれから友人に当たってみるよ」

セオドアが立ち上がると、ダリアに微笑んだ。
その笑顔が切なそうに見えたのは気のせいだろうか。オリビアのことなど放っておいてオフィーリアを気にかけてくれと言いたいのだが、悔悟の思いが込められたようなその笑顔を前に何も言えなくなってしまった。
ダリアも立ち上がった。

「ダリア嬢。今日は休みだというのにありがとう。これからもよろしく頼む」

二人は挨拶すると、それぞれの寮へ戻って行った。


☆彡


男子寮へ続く扉を出た後、セオドアは立ち止まりもう一度メモを取り出した。そして広げて裏を見た。そこにも柳の殴り書きがあった。
ダリアには見せなかった裏に書かれた殴り書き。

『階段事件あるかも?! 要注意! オフィーリアを一人にするな!』

(階段事件って・・・、オリビアが階段から突き落とされるのか・・・? 健一は何でそんなことを知っているんだ?)

セオドアはメモを握る手に力が籠った。

(オリビアがそんな目に遭う前に犯人を見つけないといけない。そうすればオフィーリアだって・・・。いいや、そうじゃない! 階段から突き落とされるだなんて! オリビアが大怪我したらどうすんだ!)

セオドアはフルフルと頭を振った。
今、自分が守るべき人は誰だ? オリビアだろう! 恋人なのだから!
オリビアを守ることで、オフィーリアの疑惑も晴れるのだ。結果、オフィーリアを守ることにもなる。それで十分なはずだ。

それなのに、何故こんなにもどかしい思いをしているのだろう?
直接オフィーリアを守れないことに、どうしてこんなに苛立ちを覚えるのか。

セオドアはギュッとメモを握りしめた。

「犯人を絶対に見つける・・・!」

犯人を見つけないと。絶対に。
絶対にいるはずだ。いるはずなんだ―――!

セオドアは自分に言い聞かせた。
もどかしい気持ちや苛立ちだけではない。実は彼を不安にさせるもう一つの殴り書きがあったのだ。

『本当にロン毛の赤毛女はいるのか? オリビアの自作自演か?』
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