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61.自転車

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(まあ! 自転車がいっぱい!)

セオドアに連れて来られたのは学校の駐輪場だった。

「もしかして、セオドア様、自転車に乗れるのですか!?」

駐輪場から自分の―――柳の物だが―――自転車を引いてきたセオドアに、オフィーリアは興奮気味に尋ねた。

「ああ。自転車で学校まで通っている。歩きでは少し距離があるから」

「すごい! すごいですわ! セオドア様!」

オフィーリアはパチパチと手を叩き、セオドアを称賛した。

「え・・・っと、それほど・・・?」

「椿様の家ではお父様もお母様もお乗りにならないの。だから触ったことがなくて! 触れてもよろしくって?!」

「あ、ああ・・・」

セオドアは若干引き気味にオフィーリアを見たが、オフィーリアはそんなことなど気にせず、興奮気味に自転車を触りだした。

「いつの間に乗れるようになりましたの?! やはり乗り方はむずかしいのですか?! 怖くありませんか?!」

「・・・」

「でも、子供でも乗っているくらいですものね! きっとそんなに難しくも怖くもないのでしょうね!」

「・・・」

「スピードは? 速さはどれくらい出るものなのですか? 馬とどちらが早いの?」

「・・・馬・・・って・・・」

「細い車輪ですわね~。ここに座るのでしょう? これは・・・まあ、鏡が付いてるわ! この前に付いている丸いものは何ですの? 以前から目みたいだわって思っていたのですけど」

「アーハハハハハッ!!」

突然、セオドアが笑い出した。
興奮気味に自転車を観察しているオフィーリアの姿と発言に耐えきれなくなったのだ。

「!?」

急に大笑いし始めたセオドアにオフィーリアは驚き、一瞬キョトンとしたが、だんだん笑われているのが自分だと分かり、頬が熱くなってきた。

「ひ、ひどいですわ! そんなに笑うなんて! わたくし、何か変な事を言いましたかしら!?」

「い、いや・・・ははは! だって・・! 馬よりって! は、腹が痛い・・・」

「~~~~!!」

自転車のハンドルを持ったまま、体をくの字に曲げて文字通りクククっと笑い続けているセオドアを、オフィーリアは真っ赤になって睨みつけた。

「ご、ごめん! オフィーリア・・・! そうだな、確かに似たような乗り物で馬くらい早く走るものもあるから・・・あははは!」

「いつまで笑っていらっしゃるのっ!」

「ごめん、ごめん! 君がこの自転車にこんなにはしゃぐなんて思わなくって」

「悪かったですわね!」

オフィーリアは耐えきれず、プイっと大げさに顔を背けた。

「乗ってみるかい?」

「え!?」

セオドアの言葉に驚いて振り向いた。

「乗ってみる?」

信じられないと言わんばかりの目を丸めているオフィーリアに、セオドアはもう一度言った。

「いいのですか?」

「ああ」

「難しくないのですか?」

「コツを掴めば難しくはない。駐輪場ここを見ても分かるだろう? この学校にはこんなに自転車で通っている生徒がいるんだから」

周りを見渡す。
それもそうだ。

「じゃあ、近くの公園に行こう」

「ええ!!」

オフィーリアは興奮気味に頷いた。


☆彡


近くの公園まで来ると、セオドアはまずオフィーリアをベンチに座らせ、手本として自転車に乗って見せた。
彼女の目の前で、キキキーっとブレーキをかけて止まる。

「すごいっ! すごいですわ! セオドア様!」

パチパチパチと絶賛の嵐。大したことでもないのにここまで褒められてセオドアは苦笑いした。

「さあ、今度はオフィーリアだ」

「え? もう?」

セオドアは頷くと、オフィーリアを手招きした。

まずはサドルの位置を合わせてみる。
山田椿の背はどちらかというと低い。一番低くしてみる。

「足がつま先しか着きませんわ・・・。椿様って足が短いのね」

次に、ハンドルの持ち方ブレーキのかけ方を教えた。そして、最後に右足をペダルに掛けた。

「右足のペダルに力を入れて、進んだと同時に左足をペダルに乗せるんだ。じゃあ、勢いよく漕いでみてごらん」

「・・・この状態で左足を地面から離す・・・って、無理ですわ・・・」

「大丈夫、押さえているから」

「で、でも・・・っ」

足を離すどころか、踏ん張ってしまう。
しかし、フーっと大きく息を吐くと、意を決して左足を地面から離した。途端に自転車が傾く。

「きゃ!!」

すぐにセオドアがハンドルを押さえ、倒れるのを防いだ。

「右足を動かさないうちに左足をペダルに乗せようとするから倒れそうになるんだ。右足を踏み込んでごらん。前に進むから」

「み、右足ね・・・右・・・、そして、左あ・・・しって・・・、わわわわっ! 倒れるっ!」

ヨロヨロっと自転車が傾くが、セオドアがしっかり支えてくれる。

「大丈夫! ハンドルをしっかり握って前を見て」

「はい!」

セオドアに言われた通り、右足でペダルを踏み込むでみる。

「み、右足を踏み込んでも進みませんわよ?!」

「ブレーキまで一緒に握ってるからだ」

「だって! だって! フラフラするんですものっ!!」

「うん。分かるが、とりあえずブレーキから手を離そうか?」

「手を離すですって?! そんなの無理に決まっているでしょう!!」

「・・・いや、ハンドルから離すんじゃなくって、ブレーキだけ」

軽くパニックになっているオフィーリアに、セオドアは辛抱強く付き合い続けた。

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