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59.自由
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「オリビア・・・様と・・・セオドア様で・・・話していた・・・?」
「違うのか・・・?」
血の気の無い顔で瞬きせずに自分を見ているオフィーリアに、セオドアは少し驚いた顔をしている。
「じゃあ、誰がそんなことを君に話したんだ? 一体誰から聞いた? 誰が言ったんだ、そんなこと!」
「オリビア様と・・・セオドア様で・・・話してた・・・」
セオドアの怒りを含んだ言葉など聞こえていないのか、オフィーリアは上の空で同じ言葉を繰り返した。
「オフィーリア・・・」
「ああ・・・、やっぱり、そうなのね・・・。お二人でわたくしを修道院へ送ろうと・・・お決めになっていたのね・・・、お二人で・・・一緒に・・・」
オフィーリアの目は虚ろでどこを見ているか定まっていなようだ。
「違う、それは違う! 決めてなんていない!」
「もう、とうに話は進んでいたのですね・・・。知らないのはわたくしだけで・・・」
「違う! 違うんだ! オフィーリア!」
セオドアはガッとオフィーリアの両肩を掴んだ。
オフィーリアはやっと焦点があったようにセオドアを見つめた。
「わたくしだけが知らなくて・・・、ふふ、まるでピエロですわね・・・」
オフィーリアの瞳と唇が柔らかく弧を描いた。セオドアを見つめるその瞳から大粒の涙がポロリと流れ落ちた。
その涙を見て、セオドアの心臓に何かがグサリと突き刺さった。
「違うんだ、オフィーリア! 君を修道院へ送ろうなんて思っていない! それに、そんなことをできる権利など俺にあるわけないだろう?」
セオドアは必死に訴える。
オフィーリアは目を伏せた。その瞳からまた涙の雫が落ちた。
「いいえ、できますわ、きっと・・・。オリビア様のためなら、やってのけますわ・・・」
「オフィーリア・・・」
「でも・・・、でもね・・・。本当にわたくし、卑劣な行為はしておりませんのよ・・・。信じてくださいませ・・・」
「・・・」
言葉に詰まったセオドアを見て、オフィーリアの全身に絶望が走った。
「ふふ・・・。やっぱり無理ですわよね・・・。わかっておりますわ」
耐えきれず目を伏せる。
さっきから自分は何を笑っているのだろう? 失望し過ぎると人は笑いしか出てこないのか?
「いいや・・・。信じてみたいと・・・、信じてみようと思う・・・」
「え・・・?」
オフィーリアは顔を伏せたまま瞬きした。
「俺も悪かった・・・」
辛そうなセオドアの声が聞こえる。
「すまない・・・。昨日、君が言ったように、本当は婚約解消することを前から考えていたんだ。いつか話し合いをしなければと思っていた。どうかオリビアを選んだことを許して欲しい」
オフィーリアはゆっくり顔を上げた。じっとセオドアの目を見つめた。その瞳は切なそうに揺らいでいる。
「ただ、俺も・・・これだけは信じてほしい。君を修道院に送るなんてことは考えていない。それだけは絶対にしないと誓う!」
オフィーリアの両肩を掴むセオドアの手に力が籠った。
「それどころかラガン家からの婚約解消として受け入れる。君に非は無い」
「ありがとうございます・・・。セオドア様・・・。それで十分ですわ・・・」
オフィーリアは微笑んだ。
「もっと早くこうするべきでした・・・。家同士を繋ぐ大切な婚約だから簡単に解消はできないのだと、それを言い訳に逃げ道を作っていたのです。でも、本当はわたくしが貴方にしがみ付いていただけなの・・・」
自分の両肩を掴んでいるセオドアの手を優しく取ると、それを両手で包んだ。
「セオドア様、わたくし達、婚約者を辞めて、お友達になりましょう」
真っ直ぐセオドアを見つめた。彼の手を包む自分の両手に力を込めた。
「もう自由ですわ! わたくし達!」
愛情ではなく友情を込めてセオドアの手を固く握りしめた。
☆彡
その日の放課後、オフィーリアは美化委員の活動のために校庭の隅にある倉庫前に来ていた。
今日は花壇に肥料を撒くと聞いている。それなのに人数が5、6人しか集まらない。もともと美化委員の生徒は集まりが悪いらしい。用務員の斉藤と美化委員長らしき男子生徒の顔が残念そうに曇っている。
「まあ、いつまで待っていてもこれ以上集まらないと思うから、作業を始めましょう」
委員長の号令で作業がスタートした。
5キロもある肥料の袋が二袋。これが山田椿に与えられた作業量。
オフィーリアは足元に置かれたそれをじっと見つめた。まずはこれを運ばないと。
一つずつ運ぶ? それは非効率? じゃあ一度に運ぶ? 重そうだけどいける?
少しの間そんなことに頭を捻る。とりあえず、二つ一度に運ぼうと試してみた。
「う・・・、無理・・・」
俗に言う箸より重いものを持たない系のお嬢様であるオフィーリアには到底無理な話。持てることは持てるにしても、これは重過ぎる!
「俺も手伝うよ」
そんな声と共に急に軽くなったと思ったら、袋が宙に浮いた。
自分の目の前にセオドアが立っており、彼が二袋抱えていた。
「セオドア様!?」
オフィーリアは瞬きしながら彼を見た。
「俺が運ぶから、オフィーリアはシャベルと軍手を持ってきて」
「よろしいのですか? セオドア様」
「ああ。場所は?」
「中庭ですわ」
「分かった。早く行こう」
歩き出したセオドアの背中をオフィーリアはポケッと見送ってしまった。だが、すぐに我に返り、慌てて二人分のシャベルと軍手を掴むと、小走りで後を追いかけた。
「違うのか・・・?」
血の気の無い顔で瞬きせずに自分を見ているオフィーリアに、セオドアは少し驚いた顔をしている。
「じゃあ、誰がそんなことを君に話したんだ? 一体誰から聞いた? 誰が言ったんだ、そんなこと!」
「オリビア様と・・・セオドア様で・・・話してた・・・」
セオドアの怒りを含んだ言葉など聞こえていないのか、オフィーリアは上の空で同じ言葉を繰り返した。
「オフィーリア・・・」
「ああ・・・、やっぱり、そうなのね・・・。お二人でわたくしを修道院へ送ろうと・・・お決めになっていたのね・・・、お二人で・・・一緒に・・・」
オフィーリアの目は虚ろでどこを見ているか定まっていなようだ。
「違う、それは違う! 決めてなんていない!」
「もう、とうに話は進んでいたのですね・・・。知らないのはわたくしだけで・・・」
「違う! 違うんだ! オフィーリア!」
セオドアはガッとオフィーリアの両肩を掴んだ。
オフィーリアはやっと焦点があったようにセオドアを見つめた。
「わたくしだけが知らなくて・・・、ふふ、まるでピエロですわね・・・」
オフィーリアの瞳と唇が柔らかく弧を描いた。セオドアを見つめるその瞳から大粒の涙がポロリと流れ落ちた。
その涙を見て、セオドアの心臓に何かがグサリと突き刺さった。
「違うんだ、オフィーリア! 君を修道院へ送ろうなんて思っていない! それに、そんなことをできる権利など俺にあるわけないだろう?」
セオドアは必死に訴える。
オフィーリアは目を伏せた。その瞳からまた涙の雫が落ちた。
「いいえ、できますわ、きっと・・・。オリビア様のためなら、やってのけますわ・・・」
「オフィーリア・・・」
「でも・・・、でもね・・・。本当にわたくし、卑劣な行為はしておりませんのよ・・・。信じてくださいませ・・・」
「・・・」
言葉に詰まったセオドアを見て、オフィーリアの全身に絶望が走った。
「ふふ・・・。やっぱり無理ですわよね・・・。わかっておりますわ」
耐えきれず目を伏せる。
さっきから自分は何を笑っているのだろう? 失望し過ぎると人は笑いしか出てこないのか?
「いいや・・・。信じてみたいと・・・、信じてみようと思う・・・」
「え・・・?」
オフィーリアは顔を伏せたまま瞬きした。
「俺も悪かった・・・」
辛そうなセオドアの声が聞こえる。
「すまない・・・。昨日、君が言ったように、本当は婚約解消することを前から考えていたんだ。いつか話し合いをしなければと思っていた。どうかオリビアを選んだことを許して欲しい」
オフィーリアはゆっくり顔を上げた。じっとセオドアの目を見つめた。その瞳は切なそうに揺らいでいる。
「ただ、俺も・・・これだけは信じてほしい。君を修道院に送るなんてことは考えていない。それだけは絶対にしないと誓う!」
オフィーリアの両肩を掴むセオドアの手に力が籠った。
「それどころかラガン家からの婚約解消として受け入れる。君に非は無い」
「ありがとうございます・・・。セオドア様・・・。それで十分ですわ・・・」
オフィーリアは微笑んだ。
「もっと早くこうするべきでした・・・。家同士を繋ぐ大切な婚約だから簡単に解消はできないのだと、それを言い訳に逃げ道を作っていたのです。でも、本当はわたくしが貴方にしがみ付いていただけなの・・・」
自分の両肩を掴んでいるセオドアの手を優しく取ると、それを両手で包んだ。
「セオドア様、わたくし達、婚約者を辞めて、お友達になりましょう」
真っ直ぐセオドアを見つめた。彼の手を包む自分の両手に力を込めた。
「もう自由ですわ! わたくし達!」
愛情ではなく友情を込めてセオドアの手を固く握りしめた。
☆彡
その日の放課後、オフィーリアは美化委員の活動のために校庭の隅にある倉庫前に来ていた。
今日は花壇に肥料を撒くと聞いている。それなのに人数が5、6人しか集まらない。もともと美化委員の生徒は集まりが悪いらしい。用務員の斉藤と美化委員長らしき男子生徒の顔が残念そうに曇っている。
「まあ、いつまで待っていてもこれ以上集まらないと思うから、作業を始めましょう」
委員長の号令で作業がスタートした。
5キロもある肥料の袋が二袋。これが山田椿に与えられた作業量。
オフィーリアは足元に置かれたそれをじっと見つめた。まずはこれを運ばないと。
一つずつ運ぶ? それは非効率? じゃあ一度に運ぶ? 重そうだけどいける?
少しの間そんなことに頭を捻る。とりあえず、二つ一度に運ぼうと試してみた。
「う・・・、無理・・・」
俗に言う箸より重いものを持たない系のお嬢様であるオフィーリアには到底無理な話。持てることは持てるにしても、これは重過ぎる!
「俺も手伝うよ」
そんな声と共に急に軽くなったと思ったら、袋が宙に浮いた。
自分の目の前にセオドアが立っており、彼が二袋抱えていた。
「セオドア様!?」
オフィーリアは瞬きしながら彼を見た。
「俺が運ぶから、オフィーリアはシャベルと軍手を持ってきて」
「よろしいのですか? セオドア様」
「ああ。場所は?」
「中庭ですわ」
「分かった。早く行こう」
歩き出したセオドアの背中をオフィーリアはポケッと見送ってしまった。だが、すぐに我に返り、慌てて二人分のシャベルと軍手を掴むと、小走りで後を追いかけた。
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