37 / 105
37.わたし達は誰?
しおりを挟む
男はふんぞり返ったオフィーリアをポカンと見上げている。
自分の嘘がバレて動揺し過ぎたのだろうと思ったオフィーリアは勝気な笑みを浮かべ、男を見下ろした。
しかし、男はそんなオフィーリアと目が合うと、我に返ったのかハッと息を呑み、ブルブルっと頭を振った。そしてキッと顔を上げるとオフィーリアを睨みつけた。
「貴女こそ何を言っているんだ? 貴女がエルドランド人だって? そんなはずはないだろう!」
男の意外な反応にオフィーリアは目を丸めた。てっきり虚言を取り繕おうと慌てると思っていたのに。それどころか認めない上に自分を疑う始末。
オフィーリアはこの男の態度に怒りが倍増した。こちらを睨みつける瞳よりも遥か上を行く凄みで睨み返した。
「ふざけたことを! わたくしは正真正銘のエルドランド人です! それだけではございませんわ。セオドア・グレイ様はわたくしの婚約者ですのよ。残念でしたわね、嘘が通じなくって」
そう言い返すと、フンっと大げさにそっぽを向いて見せた。
「はあ? 婚約者だと? 俺は貴女なんて知らないぞ!」
男はガバッと立ち上がり、オフィーリアを指差した。
「そうでしょうね! わたくしも貴方を存じ上げませんわ。だって貴方はセオドア・グレイ様ではないもの!」
オフィーリアは憤慨する男の態度に臆せず、横目で冷たい視線を送った。
「貴女こそ異国人じゃないか! どこがエルドランド人なんだ!」
「は? なんですって? そんなことをおっしゃるなんて、貴方、もしかして本当はエルドランド人を見たことがないのでは? 嘘を付くならもっと下調べなさってからの方がよろしくてよ? まったく・・・」
呆れ切った顔を見せると、男は顔を真っ赤にしてフルフルと震えている。
「貴女・・・! 俺の婚約者って言ったな? じゃあ、名前は何て言う?」
震えながら自分を睨む男。怒りを必死に押さえているようだ。しかし、オフィーリアにとってはその態度自体も下手な三文芝居を見せられているようで、臆するどころか怒りが増すだけだ。こんな男に自分の名を名乗るのも腹立たしい。
それでもこんな茶番はさっさと終わらせたいと思い、
「本当なら貴方のような人に名乗る名前などを無いですが」
プイっと顔を背けた。
「オフィーリア・ラガンと申します」
「・・・っ!」
ツンと顔を背けていたので、男が息を呑んだことに気が付かなかった。
「な、な、なんだ・・・と・・・?」
男が小さく呟いている声が聞こえる。酷く動揺しているようだ。
やっと自分の嘘が付き通せないと気が付いたのだろうか? セオドア・グレイの婚約者がオフィーリア・ラガンという事までは知っていたのようだ。
(それなりに下調べはしていたのかしら? でも詰めが甘いわね)
まさか目の前の女が当の本人とは思っていなかったのだろう。愚か者め。
ツンとそっぽを向きつつも、心の中で勝ったと思い、ふっと口元が緩む。しかし、次の瞬間、男は大声を上げた。
「そんなわけあるわけないだろうっ!! オフィーリアなわけない! どこがオフィーリアだ!!」
勝利を確信し、少し気の緩んだところに男の罵声を受け、さすがのオフィーリアもビックリして肩が揺れた。
「貴女のどこがオフィーリアなんだ! オフィーリアはもっと・・・。いいや、とにかくっ! 貴女は全然違う人ではないか! 肌も顔形も髪の色もすべて違う!! 嘘を付いているのは貴女の方だ!!」
「何をおっしゃって・・・」
男の勢いにオフィーリアは狼狽え、無意識に誰かに助けを乞うように周りを見渡した。
その時、棚のガラスに映った自分の姿が目に入った。途端に今の恐怖が吹き飛んだ。
「え・・・?」
オフィーリアは片目を擦って、もう一度ガラスを見た。
「???」
今度は両目をグリグリ擦り、もう一回ガラス戸を見る。
もう一回、もう一回・・・。二三回目を擦ってからガラス戸を見直す。
突然不可解な行動を始めたオフィーリアに男は不思議そうに首を傾げた。オフィーリアの目線を追ってみるが、何に驚いているのか分からない。
そのうちに、オフィーリアは何かを探すように部屋中を見渡し始めた。その目はどこか虚ろだ。
目的の物を見つけたのか、フラフラっと歩き出した。見守っていると、彼女は壁に掛けてある鏡の前で立ち止まった。
「ひ・・・・っ!!」
自分の姿を見た途端、悲鳴にならない叫び声を上げて、その場に尻もちを付いてしまった。
男は驚いてオフィーリアのもとに駆け寄った。
助け起こそうと隣にしゃがみ込み、彼女の顔を覗き込んだ。その顔はひどく驚愕している。その時、男もオフィーリアの言葉を思い出した。
『異国の方ではないですか!』
男は立ち上がると、恐る恐る鏡を見た。途端に血の気が引いた。
「誰だ?! これは!」
自分の嘘がバレて動揺し過ぎたのだろうと思ったオフィーリアは勝気な笑みを浮かべ、男を見下ろした。
しかし、男はそんなオフィーリアと目が合うと、我に返ったのかハッと息を呑み、ブルブルっと頭を振った。そしてキッと顔を上げるとオフィーリアを睨みつけた。
「貴女こそ何を言っているんだ? 貴女がエルドランド人だって? そんなはずはないだろう!」
男の意外な反応にオフィーリアは目を丸めた。てっきり虚言を取り繕おうと慌てると思っていたのに。それどころか認めない上に自分を疑う始末。
オフィーリアはこの男の態度に怒りが倍増した。こちらを睨みつける瞳よりも遥か上を行く凄みで睨み返した。
「ふざけたことを! わたくしは正真正銘のエルドランド人です! それだけではございませんわ。セオドア・グレイ様はわたくしの婚約者ですのよ。残念でしたわね、嘘が通じなくって」
そう言い返すと、フンっと大げさにそっぽを向いて見せた。
「はあ? 婚約者だと? 俺は貴女なんて知らないぞ!」
男はガバッと立ち上がり、オフィーリアを指差した。
「そうでしょうね! わたくしも貴方を存じ上げませんわ。だって貴方はセオドア・グレイ様ではないもの!」
オフィーリアは憤慨する男の態度に臆せず、横目で冷たい視線を送った。
「貴女こそ異国人じゃないか! どこがエルドランド人なんだ!」
「は? なんですって? そんなことをおっしゃるなんて、貴方、もしかして本当はエルドランド人を見たことがないのでは? 嘘を付くならもっと下調べなさってからの方がよろしくてよ? まったく・・・」
呆れ切った顔を見せると、男は顔を真っ赤にしてフルフルと震えている。
「貴女・・・! 俺の婚約者って言ったな? じゃあ、名前は何て言う?」
震えながら自分を睨む男。怒りを必死に押さえているようだ。しかし、オフィーリアにとってはその態度自体も下手な三文芝居を見せられているようで、臆するどころか怒りが増すだけだ。こんな男に自分の名を名乗るのも腹立たしい。
それでもこんな茶番はさっさと終わらせたいと思い、
「本当なら貴方のような人に名乗る名前などを無いですが」
プイっと顔を背けた。
「オフィーリア・ラガンと申します」
「・・・っ!」
ツンと顔を背けていたので、男が息を呑んだことに気が付かなかった。
「な、な、なんだ・・・と・・・?」
男が小さく呟いている声が聞こえる。酷く動揺しているようだ。
やっと自分の嘘が付き通せないと気が付いたのだろうか? セオドア・グレイの婚約者がオフィーリア・ラガンという事までは知っていたのようだ。
(それなりに下調べはしていたのかしら? でも詰めが甘いわね)
まさか目の前の女が当の本人とは思っていなかったのだろう。愚か者め。
ツンとそっぽを向きつつも、心の中で勝ったと思い、ふっと口元が緩む。しかし、次の瞬間、男は大声を上げた。
「そんなわけあるわけないだろうっ!! オフィーリアなわけない! どこがオフィーリアだ!!」
勝利を確信し、少し気の緩んだところに男の罵声を受け、さすがのオフィーリアもビックリして肩が揺れた。
「貴女のどこがオフィーリアなんだ! オフィーリアはもっと・・・。いいや、とにかくっ! 貴女は全然違う人ではないか! 肌も顔形も髪の色もすべて違う!! 嘘を付いているのは貴女の方だ!!」
「何をおっしゃって・・・」
男の勢いにオフィーリアは狼狽え、無意識に誰かに助けを乞うように周りを見渡した。
その時、棚のガラスに映った自分の姿が目に入った。途端に今の恐怖が吹き飛んだ。
「え・・・?」
オフィーリアは片目を擦って、もう一度ガラスを見た。
「???」
今度は両目をグリグリ擦り、もう一回ガラス戸を見る。
もう一回、もう一回・・・。二三回目を擦ってからガラス戸を見直す。
突然不可解な行動を始めたオフィーリアに男は不思議そうに首を傾げた。オフィーリアの目線を追ってみるが、何に驚いているのか分からない。
そのうちに、オフィーリアは何かを探すように部屋中を見渡し始めた。その目はどこか虚ろだ。
目的の物を見つけたのか、フラフラっと歩き出した。見守っていると、彼女は壁に掛けてある鏡の前で立ち止まった。
「ひ・・・・っ!!」
自分の姿を見た途端、悲鳴にならない叫び声を上げて、その場に尻もちを付いてしまった。
男は驚いてオフィーリアのもとに駆け寄った。
助け起こそうと隣にしゃがみ込み、彼女の顔を覗き込んだ。その顔はひどく驚愕している。その時、男もオフィーリアの言葉を思い出した。
『異国の方ではないですか!』
男は立ち上がると、恐る恐る鏡を見た。途端に血の気が引いた。
「誰だ?! これは!」
17
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
完 モブ専転生悪役令嬢は婚約を破棄したい!!
水鳥楓椛
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢、ベアトリス・ブラックウェルに転生したのは、なんと前世モブ専の女子高生だった!?
「イケメン断絶!!優男断絶!!キザなクソボケも断絶!!来い!平々凡々なモブ顔男!!」
天才で天災な破天荒主人公は、転生ヒロインと協力して、イケメン婚約者と婚約破棄を目指す!!
「さあこい!攻略対象!!婚約破棄してやるわー!!」
~~~これは、王子を誤って攻略してしまったことに気がついていない、モブ専転生悪役令嬢が、諦めて王子のものになるまでのお話であり、王子が最オシ転生ヒロインとモブ専悪役令嬢が一生懸命共同前線を張って見事に敗北する、そんなお話でもある。~~~
イラストは友人のしーなさんに描いていただきました!!
リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~
汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。
――というのは表向きの話。
婚約破棄大成功! 追放万歳!!
辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19)
第四王子の元許嫁で転生者。
悪女のうわさを流されて、王都から去る
×
アル(24)
街でリリィを助けてくれたなぞの剣士
三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
「さすが稀代の悪女様だな」
「手玉に取ってもらおうか」
「お手並み拝見だな」
「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」
**********
※他サイトからの転載。
※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
ヒロインに悪役令嬢呼ばわりされた聖女は、婚約破棄を喜ぶ ~婚約破棄後の人生、貴方に出会えて幸せです!~
飛鳥井 真理
恋愛
それは、第一王子ロバートとの正式な婚約式の前夜に行われた舞踏会でのこと。公爵令嬢アンドレアは、その華やかな祝いの場で王子から一方的に婚約を解消すると告げられてしまう……。しかし婚約破棄後の彼女には、思っても見なかった幸運が次々と訪れることになるのだった……。 『婚約破棄後の人生……貴方に出会て幸せです!』 ※溺愛要素は後半の、第62話目辺りからになります。
※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。よろしくお願い致します。
※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ
結城芙由奈
恋愛
< 誰かの犠牲が必要ならば、私が罪を被って終わりにします >
<泥棒猫と呼ばれて 〜 婚約破棄しましょう。もう二度と私に構わないで下さい>
― 誤解から招いた少年、少女の切ない恋の物語 :壮絶な過去を背負い、感情を失った2人は幸せになることが出来るのか? ―
辺境の地に暮らす伯爵令嬢ヒルダ・フィールズは爵位を持たない同い年の少年ルドルフに好意を寄せていた。ある日、ヒルダはルドルフに思いを寄せる少女の陰謀で左足に一生治る事の無い大怪我を負ってしまうが、責任はすぐ傍にいたルドルフに押し付けられた。貴族社会では傷を負った貴族令嬢は一生誰にも嫁ぐことが出来ない。そこでヒルダの両親は彼女に内緒でルドルフを脅迫し、ヒルダとの婚約を強引に結ばせたが、ルドルフの恋人を名乗る少女が目の前に現れ、ヒルダを泥棒猫呼ばわりし、ルドルフを返すように迫ってきた。そしてルドルフはヒルダに怪我を負わせた責任を取る為に婚約した事実を知らされる。そこでヒルダは愛するルドルフを自由にしてあげる為にわざと冷たい態度を取り、ついに2人の婚約を破棄にする。さらにその後に起きる大事件でヒルダはある人物を庇う為に自ら罪を被り、生まれ育った故郷を追われた。
そしてヒルダの新たな人生が始まる―。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【第4部に入ります。第4部で完結です】
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる