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28.笑うと可愛い
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「や、柳君! 気晴らしになるか分かりませんが、花壇の水やりを一緒にやりませんか?」
椿は何とか柳を元気づけようと無理やり声を弾ませた。
「水やり?」
柳は気落ちした状態で顔を上げた。
「はい! どうでしょう?」
「水やりか・・・」
柳はそう呟くと、はぁ~と怠そうに溜息を付くとまた顔を伏せた。
「い、嫌ならいいんですっ。そうですよね、面倒臭いですよね! ごめんなさいっ!」
椿は慌てて立ち上がった。
「柳君はベンチで休んでてください! 碌に寝てないのに早起きして眠いでしょう? 少しの間寝ていたらどうですか? その間、山田は水やりしてますので!」
「いや、いいよ・・・」
「大丈夫ですよ。ちゃんと起こしてあげますから」
「マジでいいよ。俺も水やりする」
よいしょっと言いながら柳は立ち上がると、グーンと両手を挙げて伸びをした。
「いいんですか?」
「おー、くさってても仕方ねーもんな。俺も一緒に水やりする! それにさ」
柳は椿に振り向いてニカッ笑うと、
「もしかしてこれで俺も美化委員デビュー? ご指導宜しくお願いしまーす、山田センパーイ!」
山田に向かって腰をほぼ90度曲げて頭を下げた。
そんな柳のお道化た態度に、椿は小さく声をあげて笑ってしまった。
「わ! 山田が声出して笑うの初めて見た!」
柳は嬉しそうに眼を丸めた。椿はそんな柳に驚いて笑いが止まった。急に恥ずかしくなり誤魔化そうとワタワタし始めた。
「え、え、えっと・・・、す、すいま・・・」
「だってさ、今まであんま笑ったことなかったじゃん? まー、こんな状況じゃ、しゃーねっちゃしゃーねーけどさ」
柳は両手を頭の上に組んだ。
「笑った方がいいぜ。笑うと可愛いよ、山田」
「っ!!」
いきなりの爆弾発言に椿は心臓が止まりそうになった。
「それにさ、『笑うところに福来る』て言うじゃん。笑うと福来るんだぜ、福。こんなときだから笑わねーと」
「そそそ、そ、そうですね!」
当の柳は全く動じていない。深い意味などまったく無さそうだ。
椿は自分だけがドキマキしているのを悟られないように必死に頷いた。
「どうやって来るのか知らねーけどな。歩いて来るのか走って来るのか、それともスキップとか・・・、できたら走ってきて欲しいよなぁ~、福の奴」
「ははは、匍匐前進かもしれませんよ」
「あははっ! やべ~! それ遅ぇ~! 超遅ぇ~!」
椿が動揺を誤魔化すために咄嗟に言った冗談に、柳は手を叩きながら爆笑した。
そして二人で笑いながら、道具が置いてある倉庫に向かって歩き出した。
☆彡
倉庫に行くと、そこにはこの学院の庭を管理している庭師の老人が二人、朝の仕事の準備をしているところだった。
「おはようございます。今日もお手伝いしていいでしょうか?」
「おはようございます。ラガンお嬢様。もちろんですよ。」
「おはようございます。おや、今日はお一人じゃないんですな」
すでにこの二人の庭師と顔なじみの椿は慣れたように挨拶を交わした。
「へえ、コミュ障の山田にしちゃスゲーじゃん。自力で知り合い作るなんて」
椿の後ろで柳が感心したように言った。
「はい。最初に話しかけるのは勇気が入りましたが、じょうろを借りるには致し方なく。でも、話してみたら優しいお爺さん達で助かりました」
じょうろはこっちです、水はこっちですと勝手知ったる我が家のごとく、椿は柳を誘導する。
へーいと返事をしながら柳がその後を付いていく。
「では、柳君。山田は先に行ってますね」
柳を待って一緒に行けばいいのに、椿は水を汲み終わると先に花壇に戻って行った。
実はさっきから心臓がうるさくて、それが静まらないのだ。頬にも熱を感じる。無理やり平静を装っているものの、柳の顔がまともに見ることが出来ない。それだけなく、自分が赤くなっている顔を見られることも避けたくて、その意味からも柳と顔を合わせられない。
少しでも落ち着かせようと、逃げるように先に花壇に向かったのだ。
「落ち着け、私・・・」
椿は一人花壇の前で大きく深呼吸をした。
『笑うと可愛いよ、山田』
柳の声が頭の中でリフレインする。
可愛い・・・。
(そんなこと・・・、男の子から初めて言われた・・・)
椿はまたポーっと顔が赤くなった。
「ハッ! 何て勘違いを! 私のバカ!」
ポーッとなった自分の頬を片手でパチパチと叩いた。
(可愛いに決まってる! だって、今の私はオフィーリア様なんだから!)
オフィーリアの容姿はヒロインのオリビアよりも美しい設定。そんな美人が笑えば綺麗で可愛いのは当然ではないか!
(山田椿を可愛いって言ったわけじゃないんだから!)
椿はブルブルっ頭を振った。そして、もう一度大きく深呼吸をすると花壇に水をやり始めた。
椿は何とか柳を元気づけようと無理やり声を弾ませた。
「水やり?」
柳は気落ちした状態で顔を上げた。
「はい! どうでしょう?」
「水やりか・・・」
柳はそう呟くと、はぁ~と怠そうに溜息を付くとまた顔を伏せた。
「い、嫌ならいいんですっ。そうですよね、面倒臭いですよね! ごめんなさいっ!」
椿は慌てて立ち上がった。
「柳君はベンチで休んでてください! 碌に寝てないのに早起きして眠いでしょう? 少しの間寝ていたらどうですか? その間、山田は水やりしてますので!」
「いや、いいよ・・・」
「大丈夫ですよ。ちゃんと起こしてあげますから」
「マジでいいよ。俺も水やりする」
よいしょっと言いながら柳は立ち上がると、グーンと両手を挙げて伸びをした。
「いいんですか?」
「おー、くさってても仕方ねーもんな。俺も一緒に水やりする! それにさ」
柳は椿に振り向いてニカッ笑うと、
「もしかしてこれで俺も美化委員デビュー? ご指導宜しくお願いしまーす、山田センパーイ!」
山田に向かって腰をほぼ90度曲げて頭を下げた。
そんな柳のお道化た態度に、椿は小さく声をあげて笑ってしまった。
「わ! 山田が声出して笑うの初めて見た!」
柳は嬉しそうに眼を丸めた。椿はそんな柳に驚いて笑いが止まった。急に恥ずかしくなり誤魔化そうとワタワタし始めた。
「え、え、えっと・・・、す、すいま・・・」
「だってさ、今まであんま笑ったことなかったじゃん? まー、こんな状況じゃ、しゃーねっちゃしゃーねーけどさ」
柳は両手を頭の上に組んだ。
「笑った方がいいぜ。笑うと可愛いよ、山田」
「っ!!」
いきなりの爆弾発言に椿は心臓が止まりそうになった。
「それにさ、『笑うところに福来る』て言うじゃん。笑うと福来るんだぜ、福。こんなときだから笑わねーと」
「そそそ、そ、そうですね!」
当の柳は全く動じていない。深い意味などまったく無さそうだ。
椿は自分だけがドキマキしているのを悟られないように必死に頷いた。
「どうやって来るのか知らねーけどな。歩いて来るのか走って来るのか、それともスキップとか・・・、できたら走ってきて欲しいよなぁ~、福の奴」
「ははは、匍匐前進かもしれませんよ」
「あははっ! やべ~! それ遅ぇ~! 超遅ぇ~!」
椿が動揺を誤魔化すために咄嗟に言った冗談に、柳は手を叩きながら爆笑した。
そして二人で笑いながら、道具が置いてある倉庫に向かって歩き出した。
☆彡
倉庫に行くと、そこにはこの学院の庭を管理している庭師の老人が二人、朝の仕事の準備をしているところだった。
「おはようございます。今日もお手伝いしていいでしょうか?」
「おはようございます。ラガンお嬢様。もちろんですよ。」
「おはようございます。おや、今日はお一人じゃないんですな」
すでにこの二人の庭師と顔なじみの椿は慣れたように挨拶を交わした。
「へえ、コミュ障の山田にしちゃスゲーじゃん。自力で知り合い作るなんて」
椿の後ろで柳が感心したように言った。
「はい。最初に話しかけるのは勇気が入りましたが、じょうろを借りるには致し方なく。でも、話してみたら優しいお爺さん達で助かりました」
じょうろはこっちです、水はこっちですと勝手知ったる我が家のごとく、椿は柳を誘導する。
へーいと返事をしながら柳がその後を付いていく。
「では、柳君。山田は先に行ってますね」
柳を待って一緒に行けばいいのに、椿は水を汲み終わると先に花壇に戻って行った。
実はさっきから心臓がうるさくて、それが静まらないのだ。頬にも熱を感じる。無理やり平静を装っているものの、柳の顔がまともに見ることが出来ない。それだけなく、自分が赤くなっている顔を見られることも避けたくて、その意味からも柳と顔を合わせられない。
少しでも落ち着かせようと、逃げるように先に花壇に向かったのだ。
「落ち着け、私・・・」
椿は一人花壇の前で大きく深呼吸をした。
『笑うと可愛いよ、山田』
柳の声が頭の中でリフレインする。
可愛い・・・。
(そんなこと・・・、男の子から初めて言われた・・・)
椿はまたポーっと顔が赤くなった。
「ハッ! 何て勘違いを! 私のバカ!」
ポーッとなった自分の頬を片手でパチパチと叩いた。
(可愛いに決まってる! だって、今の私はオフィーリア様なんだから!)
オフィーリアの容姿はヒロインのオリビアよりも美しい設定。そんな美人が笑えば綺麗で可愛いのは当然ではないか!
(山田椿を可愛いって言ったわけじゃないんだから!)
椿はブルブルっ頭を振った。そして、もう一度大きく深呼吸をすると花壇に水をやり始めた。
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