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7.オリビアとセオドア

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早めに寮を出たことも幸いし、登校中の道に生徒はほとんどいなかった。お陰で誰にも声を掛けられることもなく無事に学院に到着した。
マリーに教えてもらったクラスに入る。まだ一人二人しかいない。
席は決まっていないらしいので、いそいそと一番後ろの隅の席を陣取った。

ドキドキする鼓動が止まらない。落ち着かせようと教材を出してパラパラとめくってみる。

(良かった! 文字が読める。チート? 何て素晴らしい!)

ホッとして一時限目の歴史の教科書を読み始めた。

徐々に人が多くなる。それに比例し少し落ち着いた心臓がまたドキドキし始めた。
顔を教科書に隠すように少し下げ、チラチラと周りの様子を伺う。

誰も自分に気が付きませんように!
ここでこそ発揮しなければ! 今まで培った喪女力! とことん自分の気配を消すのは喪女の得意技だ。

「セオドア、前の方に座りましょう!」

セオドア!

その言葉に驚き、バッと顔を教科書で隠した。
ドドドっと心臓が波打つ。

それでも怖いもの見たさ。少しだけ教科書をずらし、声がする方を見た。

(オリビアだ! 本当にオリビアだ! そしてあれが・・・)

オリビアに手を引かれて歩く男子。

(セオドア様!)

うほほほおぉ~、本物のオリビアとセオドア!!
小説の中の人物が目の前にいる! さして推しではない二人だが、実際目の前にしてみるとテンションが上がる。サインをもらいたいくらいだ。

そう興奮するも、どこか違和感を覚えるのも確かで。

(いくら好き合っていたとしても、オフィーリアも同じクラスなのに堂々と手を繋いで教室に入って来るって・・・。それってどうなんでしょうか、セオドア様?)

こんなラブラブしたところ見せつけるなんてちょっと意地悪じゃないだろうか?
これではオフィーリアが怒り狂ったって仕方がない気がする。

(でももう物語も後半だし、このくらい二人の仲は出来上がっていて当たり前なんだろうな)

教科書に四分の三顔を隠した状態で二人を観察する。相変わらずどこか違和感が・・・。

満面な笑みのオリビアに対し、セオドアは笑っていない。
真っ青な顔で困惑した表情。子供のように手を引かれている。

「ここに座りましょう、セオドア」

オリビアに促され、前の方の席に座る。
隣に座ったオリビアは、

「安心してね、セオドア。私が付いるから」

そう言ってにっこりと微笑んだが、それに対してセオドアはオドオドと頷くだけだ。

(セオドア様ってあんなに弱々しいキャラだった? 違うよね? もっと堂々としていて、バッサリとオフィーリアを斬るタイプ)

じーっと観察していると、二人の傍に女子生徒が三人が近くの席に座った。

「信じられませんわ、オフィーリア様を差し置いて」
「本当! 手を繋いで教室に入って来られるなんて!」

聞こえるようにキーキー騒ぎ出した。
非常に感じが悪いが、あれはオフィーリアの取り巻きだ。きっとそうだ。

「セオドアは今日少し具合が悪かったから・・・」

オリビアが困ったような顔でその集団に答える。

「だからって堂々と手を取るって! セオドア様もどうなのですか?」
「具合が悪いとおっしゃるなら、オフィーリア様だって昨日具合を悪くしてお休みしたというのに、セオドア様はオフィーリア様を放っておかれるのですか?」

オフィーリアの名前が上がって、椿はビクッと震えた。

「そう言えば、オフィーリア様は? 今日はいらしているのかしら? 大丈夫かしら?」

一人の女子生徒が教室をキョロキョロ見回す
椿はバッと教科書の中に顔を隠した。

(気付きませんように! 気付きませんように!)

必死に祈る。嫌な汗が体中から吹き出すのを止められない。

「今日もいらしてないわ・・・。大丈夫かしら?」
「大丈夫ではないわよ、きっと。心労から体調を崩されているんだわ」
「本当よ、オリビア様のせいだわ!」

(ぎゃあ~、止めてください! 確かに昨日は心労からぶっ倒れましたが、ヒロインが原因ではないんです~)

椿は教科書で顔を隠したまま心の中で必死に訴える。

「そ、そんな・・・、私・・・」

責め立てるオフィーリアガールズに困ったように俯くオリビア。
その間、セオドアは何も言わない。

「セオドア・・・」

オリビアは助けを求めるようにセオドアを見るが、セオドアは困った顔をしたまま固まっている。

(セオドア様~、何で何も言わないの! ここはオリビアを助けるところでは~~?)

椿は心の中で叫ぶが、セオドアに届くわけもなく。

そこに歴史の教員が入ってきた。
言い争いは打ち止めとなり、授業に入った。


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