95 / 98
第三章
35.誓い
しおりを挟む
ノアがさくらを連れてやって来たのは海辺だった。
(わぁ、海だ!)
さくらは胸が弾んだ。周りを見渡すと、ちょうど干潮時で潮がかなり引いている。その中を、潮干狩りだろうか、数人がしゃがみ込んで砂を掘っている。そしてその奥に古い灯台が建っているのが見えた。
「あの灯台って・・・」
さくらはノアに振り向いた。ノアは頷くと、
「潮が引いている時間帯は歩いてもあの灯台に行ける」
そう言って、そのまま干潮の海に進んでいった。
「うわぁぁ!」
灯台について、馬から降ろしてもらうと、さくらは街の方を眺めて叫んだ。
初めて連れてきてもらった時は夜だった。幻想的な夜景も美しかったが、街の全体像は見えなかった。でも、昼間である今は、すべてがよく見渡せる。さくらは目の前に広がる美しい街並みに目を奪われた。この王都が決して小さい街ではないことがよく分かる。
「塔に登ってもいいですか!?」
さくらは目を輝かせてノアに聞いた。ノアはふっと笑うと、無言で灯台の入り口の扉を開けた。さくらは中に飛び込むと、螺旋階段をどんどん登って行った。
「うわぁぁぁ! すごーい!」
一番上の踊場に出ると、さくらはさらに大きな叫び声を上げた。目の前に一面の海が広がっている。波も穏やかに、太陽の光を反射してキラキラ輝いていた。水平線には船が何隻か見える。さくらがその景色に見惚れていると、ノアがさくらの隣に立った。そっとさくらの手を取ると、反対側に連れて行った。
「わぁ!!」
さくらは手を叩いて、目の前に広がる街の景色に見入った。灯台の上からだと、さっきよりもずっとよく見える。
「綺麗ですね~! 本当に素敵な街!」
さくらはうっとりと街を眺めた。そんなさくらをノアは背中から包むように抱きしめた。
「ふふっ」
「なにが可笑しい?」
嬉しそうに笑うさくらを、愛おしそうに眺めながら、ノアが尋ねると、
「あの時も、陛下が抱きしめてくれましたね、翼で」
さくらはそう言うと、ノアにもたれかかった。ノアはさくらの頬にキスを落とすと、抱きしめる腕に力を込めた。
「白状すると、あの時だ。お前に心を奪われたのは」
さくらは驚いてノアの方に顔を向けた。
「その前から、俺の周りから離れないお前のことを可愛いと思っていた。だがあの時、自分の未来を案じて泣いているのに、この国のことを思ってくれたお前に、すべてを持って行かれたんだ」
目が潤んでくるさくらの顔を覗き込みながら、ノアは続けた。
「残念だが、この国は貧富の差がかなりある。お前が心配していた、道端で生活している者たちがいるのは確かだ。だから、お前の願いを聞いたときハッとした。その通りだと思った」
ノアはさくらの体を離すと、自分の方に向かせた。しっかりさくらの両腕を掴むと、真っ直ぐ目を見つめた。
「さくら、お前の望むような国にしてみせる。だから俺の傍で力を貸してくれ。絶対に俺の傍を離れるな。お前さえいれば俺は何でもできる気がする」
さくらは目を潤ませたまま、何度も頷いた。ノアは自分の額をさくらの額に合わせると、さくらの潤んだ瞳をじっと見つめた。
「・・・世継ぎのことを気にしているのだろう?」
さくらは瞬きした。そして気まずそうに目を伏せた。ノアはさくらの頬を両手で包むと、
「そんなことは気にしなくていい。子に恵まれなくても、お前以外妻は取らない。改めて誓う」
そう言った。さくらの瞳は一瞬輝いたが、すぐに切なそうな色に変わった。
「でも、国王様なのだから、そんなこと周りが許さないと思います・・・」
「俺が気にしなくていいと言ったら、気にしなくていい!」
「でも・・・、んっ・・・」
ノアはムッとした様子で、反論しかけたさくらの唇を口づけで強引にふさいだ。長い口づけの後、ゆっくり唇を離すと、こつんと額を合わせ、熱を帯びた目でさくらを見つめた。
「わかったな? 俺を信じろ」
無言で頷くさくらを見て、満足したように笑うと、さくらを胸に抱きしめた。
「それに、もし子ができたとしても、それが王位を継ぐとは限らん」
「・・・へ?」
さくらはノアの胸の中で素っ頓狂な声を上げて、思わずノアを見上げた。ノアはさくらの髪を撫でながら、
「俺の下には優秀な弟が二人もいるからな。なにも俺だけの子孫がローランド王国を繋いでいくわけではない」
ノアはニッと口角を上げて、さくらの顔を覗き込んだ。
「ローランド一族の歴史は長い。その分裾野は広い。この一族の血はそうそう簡単に耐えることはないぞ」
ノアの自信たっぷりな笑みに、さくらは安心すると同時に、また涙が込み上げてきた。その涙を隠すように、ノアの胸に顔を押し当て、背中に手をまわすとぎゅっと力強く抱きしめた。
「さくら、愛している」
ノアはそう囁くと、力強くさくらを抱きしめ返した。
(わぁ、海だ!)
さくらは胸が弾んだ。周りを見渡すと、ちょうど干潮時で潮がかなり引いている。その中を、潮干狩りだろうか、数人がしゃがみ込んで砂を掘っている。そしてその奥に古い灯台が建っているのが見えた。
「あの灯台って・・・」
さくらはノアに振り向いた。ノアは頷くと、
「潮が引いている時間帯は歩いてもあの灯台に行ける」
そう言って、そのまま干潮の海に進んでいった。
「うわぁぁ!」
灯台について、馬から降ろしてもらうと、さくらは街の方を眺めて叫んだ。
初めて連れてきてもらった時は夜だった。幻想的な夜景も美しかったが、街の全体像は見えなかった。でも、昼間である今は、すべてがよく見渡せる。さくらは目の前に広がる美しい街並みに目を奪われた。この王都が決して小さい街ではないことがよく分かる。
「塔に登ってもいいですか!?」
さくらは目を輝かせてノアに聞いた。ノアはふっと笑うと、無言で灯台の入り口の扉を開けた。さくらは中に飛び込むと、螺旋階段をどんどん登って行った。
「うわぁぁぁ! すごーい!」
一番上の踊場に出ると、さくらはさらに大きな叫び声を上げた。目の前に一面の海が広がっている。波も穏やかに、太陽の光を反射してキラキラ輝いていた。水平線には船が何隻か見える。さくらがその景色に見惚れていると、ノアがさくらの隣に立った。そっとさくらの手を取ると、反対側に連れて行った。
「わぁ!!」
さくらは手を叩いて、目の前に広がる街の景色に見入った。灯台の上からだと、さっきよりもずっとよく見える。
「綺麗ですね~! 本当に素敵な街!」
さくらはうっとりと街を眺めた。そんなさくらをノアは背中から包むように抱きしめた。
「ふふっ」
「なにが可笑しい?」
嬉しそうに笑うさくらを、愛おしそうに眺めながら、ノアが尋ねると、
「あの時も、陛下が抱きしめてくれましたね、翼で」
さくらはそう言うと、ノアにもたれかかった。ノアはさくらの頬にキスを落とすと、抱きしめる腕に力を込めた。
「白状すると、あの時だ。お前に心を奪われたのは」
さくらは驚いてノアの方に顔を向けた。
「その前から、俺の周りから離れないお前のことを可愛いと思っていた。だがあの時、自分の未来を案じて泣いているのに、この国のことを思ってくれたお前に、すべてを持って行かれたんだ」
目が潤んでくるさくらの顔を覗き込みながら、ノアは続けた。
「残念だが、この国は貧富の差がかなりある。お前が心配していた、道端で生活している者たちがいるのは確かだ。だから、お前の願いを聞いたときハッとした。その通りだと思った」
ノアはさくらの体を離すと、自分の方に向かせた。しっかりさくらの両腕を掴むと、真っ直ぐ目を見つめた。
「さくら、お前の望むような国にしてみせる。だから俺の傍で力を貸してくれ。絶対に俺の傍を離れるな。お前さえいれば俺は何でもできる気がする」
さくらは目を潤ませたまま、何度も頷いた。ノアは自分の額をさくらの額に合わせると、さくらの潤んだ瞳をじっと見つめた。
「・・・世継ぎのことを気にしているのだろう?」
さくらは瞬きした。そして気まずそうに目を伏せた。ノアはさくらの頬を両手で包むと、
「そんなことは気にしなくていい。子に恵まれなくても、お前以外妻は取らない。改めて誓う」
そう言った。さくらの瞳は一瞬輝いたが、すぐに切なそうな色に変わった。
「でも、国王様なのだから、そんなこと周りが許さないと思います・・・」
「俺が気にしなくていいと言ったら、気にしなくていい!」
「でも・・・、んっ・・・」
ノアはムッとした様子で、反論しかけたさくらの唇を口づけで強引にふさいだ。長い口づけの後、ゆっくり唇を離すと、こつんと額を合わせ、熱を帯びた目でさくらを見つめた。
「わかったな? 俺を信じろ」
無言で頷くさくらを見て、満足したように笑うと、さくらを胸に抱きしめた。
「それに、もし子ができたとしても、それが王位を継ぐとは限らん」
「・・・へ?」
さくらはノアの胸の中で素っ頓狂な声を上げて、思わずノアを見上げた。ノアはさくらの髪を撫でながら、
「俺の下には優秀な弟が二人もいるからな。なにも俺だけの子孫がローランド王国を繋いでいくわけではない」
ノアはニッと口角を上げて、さくらの顔を覗き込んだ。
「ローランド一族の歴史は長い。その分裾野は広い。この一族の血はそうそう簡単に耐えることはないぞ」
ノアの自信たっぷりな笑みに、さくらは安心すると同時に、また涙が込み上げてきた。その涙を隠すように、ノアの胸に顔を押し当て、背中に手をまわすとぎゅっと力強く抱きしめた。
「さくら、愛している」
ノアはそう囁くと、力強くさくらを抱きしめ返した。
1
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
主人公は高みの見物していたい
ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。
※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます
※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。
貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。
その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。
ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。
それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。
そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。
※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。
ピンクの髪のオバサン異世界に行く
拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。
このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。
元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました
きゅちゃん
ファンタジー
元エリート (?)銀行員の高山左近が異世界に転生し、コンサルタントとしてがんばるお話です。武器屋の経営を改善したり、王国軍の人事制度を改定していったりして、異世界でビジネススキルを磨きつつ、まったり立身出世していく予定です。
元エリートではないものの銀行員、現小売で働く意識高い系の筆者が実体験や付け焼き刃の知識を元に書いていますので、ツッコミどころが多々あるかもしれません。
もしかしたらひょっとすると仕事で役に立つかもしれない…そんな気軽な気持ちで読んで頂ければと思います。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる