91 / 98
第三章
31.最後のリング
しおりを挟む
ノアは森の中の川辺に降り立った。さくらとリリーは転がるように地面に落ちた。さくらはすぐに立ち上がると、川のすぐそばに座ってこちらを見ているノアに駆け寄った。リリーは落ちた衝撃で意識を取り戻したが、ドラゴンを見ると悲鳴を上げて、再び意識を失った。
さくらは駆け寄った勢いそのまま、ノアの顔に抱きついた。そして泣きながら自分の顔をノアの顔に擦り付けた。ノアは一瞬目を丸めたが、すぐに目を細め、さくらのされるままにじっとしていた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 今まで気が付かなかったなんて! あんなに傍にいたのに!」
さくらは顔を上げると、今度はノアの首に抱きつき、顔を埋めた。
「なんて、バカなことしたんです! 何で・・・、何で指輪を外さなかったんですか? 人に戻れないのに・・・」
さくらは声が掠れて言葉が出てこなくなった。代わりにぎゅっとノアを抱きしめる力を強めた。
暫くノアを抱きしめて泣いていたが、少し気持ちが落ち着き、呼吸が整ってくると、そっとノアから離れようとした。その時、下の方に淡く光る青白い光が視界に入った。よく見ると、ノアの右足首のリングから青白い光が煙のように漂っていた。さくらはハッとした。イルハンが言っていたことを思い出したのだ。
(そうだ! 最後のリング!)
さくらはノアの右足に飛びつくと、躊躇せず、リングに手を掛けた。もともと細くヒビが入っていたことを思い出し、力任せにリングを捻ってみた。すると、メキメキッと軋む音がして、ヒビが大きくなった。
「外れるかも!」
さくらは目を輝かせて、ノアを見上げた。ノアも驚いてさくらを見ている。さくらは腕まくりをすると、両手で頬をピシャっと叩いて気合を入れた。
(よっしゃー!)
さくらはもう一度、リングに勝負を挑んだ。渾身の力を込めて、リングを捻った。
――ペキッ
さっきよりも大きな音がした。さくらは上がる息を整えながら、リングを見ると、もう少しで二つに割れそうなほどにヒビは広がっていた。あと一息だ!さくらは大きく深呼吸した。そしてまたリングに手を掛け、力いっぱい捻った。
何度も挑戦するさくらをノアは心配そうに覗いた。さくらの手は真っ赤になっていた。ノアはさくらの手元に顔を寄せた。さくらは驚いて手を止めるとノアを見上げた。ノアが心配そうに自分の手を見ているのに気が付き、さくらはにっこりと微笑んだ。
「こんなの大したことないです!」
そう笑うさくらの顔に、ノアは思わず顔を寄せた。その時だった。
ヒュッという音とともに、どこからか矢が飛んできた。その矢はノアの顔の横をかすめた。さくらは驚いて振り返った。兵士が三名、ノアに向かって矢を構えていた。
「さくら様!! 今お助けします!」
よく見ると、彼らはノアの近衛隊の兵士たちだった。ノアから命を受け、いざという時の為にこの付近で待機していたのだった。ノアはこの兵士たちに二人を託すつもりで、この川辺に降り立ったのだ。
しかし、そんなことを梅雨も知らない彼らには、今にもさくらがドラゴンに食われそうに見えたのだ。さくらを救おうと、ノアに向かって何本も矢を放ち、そのうちの一つが、ノアの肩の下を貫いた。ドラゴンの首から腹にかけては皮膚が比較的柔らかい。そこを狙われた。ノアは撃たれた衝撃でよろめいた。
「やめて! やめて! 撃たないで!」
さくらは必死に叫んだが、同じく必死な彼らにその声は届かなかった。すぐに一人の兵士が飛び出し、ドラゴンがよろめいたところを剣で切りつけた。さくらは悲鳴を上げた。ドラゴンの肩から緑の血液が噴出し、そのまま後ろに倒れていった。後ろは川だ。さくらはノアに抱きついた。川に落ちそうになるのを必死に支えようとするが、さくら一人の力ではどうにもならない。そのまま二人とも川に落ちていった。
泳げないさくらはノアにしがみ付いた。必死で目を開けると、青白く光っているリングが見えた。さくらはノアの体を伝うようにリングに近づくと、必死に手を伸ばし、リングを掴んだ。思いっきり捻ってみると、ベキベキッと軋む感覚が手に伝わってくる。さくらは歯を食いしばり、最後の力を振り絞って、思いっきり捻った。
パキンッという音とともにリングが二つに割れた。力を使い切ったと同時に、腹に溜めていた息を全部は吐いたため、無意識に息をしようと口を開けてしまった。途端に水が一気に口に流れ込んだ。
意識が遠のく中で、人の手がさくらに近づいてくるのが見えた気がした。
さくらは駆け寄った勢いそのまま、ノアの顔に抱きついた。そして泣きながら自分の顔をノアの顔に擦り付けた。ノアは一瞬目を丸めたが、すぐに目を細め、さくらのされるままにじっとしていた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 今まで気が付かなかったなんて! あんなに傍にいたのに!」
さくらは顔を上げると、今度はノアの首に抱きつき、顔を埋めた。
「なんて、バカなことしたんです! 何で・・・、何で指輪を外さなかったんですか? 人に戻れないのに・・・」
さくらは声が掠れて言葉が出てこなくなった。代わりにぎゅっとノアを抱きしめる力を強めた。
暫くノアを抱きしめて泣いていたが、少し気持ちが落ち着き、呼吸が整ってくると、そっとノアから離れようとした。その時、下の方に淡く光る青白い光が視界に入った。よく見ると、ノアの右足首のリングから青白い光が煙のように漂っていた。さくらはハッとした。イルハンが言っていたことを思い出したのだ。
(そうだ! 最後のリング!)
さくらはノアの右足に飛びつくと、躊躇せず、リングに手を掛けた。もともと細くヒビが入っていたことを思い出し、力任せにリングを捻ってみた。すると、メキメキッと軋む音がして、ヒビが大きくなった。
「外れるかも!」
さくらは目を輝かせて、ノアを見上げた。ノアも驚いてさくらを見ている。さくらは腕まくりをすると、両手で頬をピシャっと叩いて気合を入れた。
(よっしゃー!)
さくらはもう一度、リングに勝負を挑んだ。渾身の力を込めて、リングを捻った。
――ペキッ
さっきよりも大きな音がした。さくらは上がる息を整えながら、リングを見ると、もう少しで二つに割れそうなほどにヒビは広がっていた。あと一息だ!さくらは大きく深呼吸した。そしてまたリングに手を掛け、力いっぱい捻った。
何度も挑戦するさくらをノアは心配そうに覗いた。さくらの手は真っ赤になっていた。ノアはさくらの手元に顔を寄せた。さくらは驚いて手を止めるとノアを見上げた。ノアが心配そうに自分の手を見ているのに気が付き、さくらはにっこりと微笑んだ。
「こんなの大したことないです!」
そう笑うさくらの顔に、ノアは思わず顔を寄せた。その時だった。
ヒュッという音とともに、どこからか矢が飛んできた。その矢はノアの顔の横をかすめた。さくらは驚いて振り返った。兵士が三名、ノアに向かって矢を構えていた。
「さくら様!! 今お助けします!」
よく見ると、彼らはノアの近衛隊の兵士たちだった。ノアから命を受け、いざという時の為にこの付近で待機していたのだった。ノアはこの兵士たちに二人を託すつもりで、この川辺に降り立ったのだ。
しかし、そんなことを梅雨も知らない彼らには、今にもさくらがドラゴンに食われそうに見えたのだ。さくらを救おうと、ノアに向かって何本も矢を放ち、そのうちの一つが、ノアの肩の下を貫いた。ドラゴンの首から腹にかけては皮膚が比較的柔らかい。そこを狙われた。ノアは撃たれた衝撃でよろめいた。
「やめて! やめて! 撃たないで!」
さくらは必死に叫んだが、同じく必死な彼らにその声は届かなかった。すぐに一人の兵士が飛び出し、ドラゴンがよろめいたところを剣で切りつけた。さくらは悲鳴を上げた。ドラゴンの肩から緑の血液が噴出し、そのまま後ろに倒れていった。後ろは川だ。さくらはノアに抱きついた。川に落ちそうになるのを必死に支えようとするが、さくら一人の力ではどうにもならない。そのまま二人とも川に落ちていった。
泳げないさくらはノアにしがみ付いた。必死で目を開けると、青白く光っているリングが見えた。さくらはノアの体を伝うようにリングに近づくと、必死に手を伸ばし、リングを掴んだ。思いっきり捻ってみると、ベキベキッと軋む感覚が手に伝わってくる。さくらは歯を食いしばり、最後の力を振り絞って、思いっきり捻った。
パキンッという音とともにリングが二つに割れた。力を使い切ったと同時に、腹に溜めていた息を全部は吐いたため、無意識に息をしようと口を開けてしまった。途端に水が一気に口に流れ込んだ。
意識が遠のく中で、人の手がさくらに近づいてくるのが見えた気がした。
1
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
捨てられ令嬢は、異能の眼を持つ魔術師になる。私、溺愛されているみたいですよ?
miy
ファンタジー
アンデヴァイセン伯爵家の長女であるイルシスは、『魔眼』といわれる赤い瞳を持って生まれた。
魔眼は、眼を見た者に呪いをかけると言い伝えられ…昔から忌み嫌われる存在。
邸で、伯爵令嬢とは思えない扱いを受けるイルシス。でも…彼女は簡単にはへこたれない。
そんなイルシスを救おうと手を差し伸べたのは、ランチェスター侯爵家のフェルナンドだった。
前向きで逞しい精神を持つ彼女は、新しい家族に出会い…愛されていく。
そんなある日『帝国の砦』である危険な辺境の地へ…フェルナンドが出向くことに。
「私も一緒に行く!」
異能の能力を開花させ、魔術だって使いこなす最強の令嬢。
愛する人を守ってみせます!
※ご都合主義です。お許し下さい。
※ファンタジー要素多めですが、間違いなく溺愛されています。
※本編は全80話(閑話あり)です。
おまけ話を追加しました。(10/15完結)
※この作品は、ド素人が書いた2作目です。どうか…あたたかい目でご覧下さい。よろしくお願い致します。
ハイエルフの幼女は異世界をまったりと過ごしていく ~それを助ける過保護な転移者~
まぁ
ファンタジー
事故で亡くなった日本人、黒野大河はクロノとして異世界転移するはめに。
よし、神様からチートの力をもらって、無双だ!!!
ではなく、神様の世界で厳しい修行の末に力を手に入れやっとのことで異世界転移。
目的もない異世界生活だがすぐにハイエルフの幼女とであう。
なぜか、その子が気になり世話をすることに。
神様と修行した力でこっそり無双、もらった力で快適生活を。
邪神あり勇者あり冒険者あり迷宮もありの世界を幼女とポチ(犬?)で駆け抜けます。
PS
2/12 1章を書き上げました。あとは手直しをして終わりです。
とりあえず、この1章でメインストーリーはほぼ8割終わる予定です。
伸ばそうと思えば、5割程度終了といったとこでしょうか。
2章からはまったりと?、自由に異世界を生活していきます。
以前書いたことのある話で戦闘が面白かったと感想をもらいましたので、
1章最後は戦闘を長めに書いてみました。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない
猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました
2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました
※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です!
殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。
前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。
ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。
兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。
幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。
今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。
甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。
基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。
【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】
※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる