ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼

文字の大きさ
上 下
77 / 98
第三章

17.苦い思い出

しおりを挟む
 午後になり、リリーと会う約束の時間が近づくと、ノアは質素な平民の服装に着替え、自分の箱庭から、第二の宮殿の庭園に出た。そして、いつもの密会場所でリリーを待っていた。

 リリーと知り合ったのは、まさしくここだった。若くして国王になったばかりのノアが、仕事をサボり、木の上で居眠りをしていた時、父親の付き添いで宮殿を訪れていたリリーが、ふらりとやって来たのだった。

 物珍しそうに辺りを見渡しながら歩く彼女に目を止めた。そして自分が、箱庭と繋がる扉を開けっ放しだということ思い出した。リリーは箱庭の方へどんどん歩いていく。ノアは慌てて木から降りるとリリー追いかけ、彼女の腕を掴んだ。驚いて振り向いたリリーの美しい顔にノアは息を呑んだ。ノアの一目惚れだった。

 二人はすぐに親しくなったが、第一王妃が決まるまでは二人の仲を公にすることは禁じられた。当時のノアはそれが気に入らなかった。自分の中では第一王妃はリリーと決めていたのだ。

 そんなノアをよそに、元老院では今回こそ『異世界の王妃』を迎えることに躍起になっていた。百年に一人と言われるほどの逸材である魔術師ダロスに元老院はすべてを賭けていた。

 慣れない仕事、自由にならない恋愛、別世界の人間で、どのような馬の骨かもわからない女を第一王妃にしなければいけないという不満から、若いノアは自暴自棄になっていった。

 ある日、気晴らしにイルハンを伴って狩りに出かけた。そして二日掛けて深い森を抜け、隣国―――とは言っても、ローランドの属国だが―――との境にある聖なる山にやって来た。ここには昔からドラゴンが住み着いている。

 イルハンは反対したがノアは構わず進んでいった。もちろんドラゴンを狩ることが目的ではなかった。ドラゴンは滅多に出会える生き物でもないし、魔術を操り危険だ。一方、邪悪な生き物でもある。なので、もしも見つけたらついでに退治してもいい。そんな程度に考えていた。

 気持ちが荒れているノアは、必要以上に動物を襲った。そしてどんどん奥に入り、いつの間にかドラゴンの巣まで来てしまい、ドラゴンの怒りを買ってしまったのだ。
子供のドラゴンを見つけ、剣を振り下ろした時、親が飛んできた。そしてノアに向かい、口から青い光を放った。その光はノアの首元、両手両足に飛び移り、焼けるような痛みに叫び声を上げた。

 ドラゴンは口から火を吐きながら、ノアを睨みつけ、

『醜いと思っている姿になってみるがいい。そして我らがお前を殺す前に、仲間である人間に忌み嫌われて殺されるがいい』

 そう言い残すと、その場から飛び立った。
 青い光は徐々に金色の光に変わり、消えたかと思うと、太い金のリングに変わっていた。そして、次の瞬間、ノアは人ではなくなっていた。

 そんなことを思い出していると、リリーがやって来た。


☆彡


 街の様子は普段の様子と全く違っていた。華やかに飾り付けが施され、人通りも多く、活気に満ちていた。
 ノアとリリーはその人混みに紛れ、街中を散策していた。はぐれないようにリリーの手を引きながら、ノアは人酔いしそうな街中をゆっくり歩いた。

 リリーを見ると、とても楽しそうに出店を眺めながら歩いている。ふと、その横顔が別の人物の横顔と重なった。初めて城を抜け出して一緒に街に出た時のさくらの横顔。同じように手を引かれ、きょろきょろと楽しそうに周りを見渡していた。

 リリーは自分を見ているノアに気が付き、嬉しそうに笑うと、繋いでいる手に力を込めた。ノアはハッと我に返り、前を向いた。
 目を逸らされてリリーは不思議に思ったが、あまり深く考えなかった。ノアと会えない時間が長かったので、内心は不安で仕方なかったが、今こうして、国王という立場でありながらも、自分の我儘を聞いてくれたことに、改めてノアの優しさを感じていた。

 二人はマーケットを巡ったり、広場で道化師のショーを見たり、ちょっとしたゲームに参加したりと、フェスタの催し物を一通り楽しんだ。
 リリーは心から楽しんでいたが、ノアはさくらが気になってそれどころではなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

処理中です...