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第三章

7.お忍びデート

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 第二の宮殿に出ると、ノアは慣れた様子で誰も通らない抜け道をどんどん進んでいく。普段も、堂々と正門から外出するより隠れて抜け出すことの方が多いのかと疑いたくなるほど無駄なく進んでいき、あっという間に外に出ることに成功した。

 それからは、さくらにとって夢のような時間だった。
 しっかりと舗装された石畳の道が広がり、どこか西洋を思わせる石造りの建物が並んでいる。街は商店やカフェテリア風な飲食店が並び、活気に満ちていた。さくらはノアに手を引かれながら、夢中になって周りを見渡した。

 途中、一軒の果物屋が目に入った。たくさんの柑橘類が並んでいる。さくらはその店の前に立ち止まり、一つの果物を探した。だが、あのグレープフルーツを巨大化したような果物は見当たらなかった。

「何か欲しいのか?」

そう聞くノアに、さくらは一つ柑橘系を指差すと、

「これに似た、ものすごーく大きな果物ってありますよね?」

と尋ねた。すると、ノアではなく果物屋の店主が代わりに答えた。

「あれは春から初夏にかけての果物だからね。今はないよ」

 あー、そうなんですね~と笑いながら店主に答えるさくらに、ノアは思わず、空いている手の甲でさくらの頬を優しく撫でた。どうしてその果物を気にかけたのか分かったからだ。あれは自分の好物だ。ドラゴンであった自分のために、重いとか皮が固いなどと文句を言いながらも、毎回持ってきては剥いて与えてくれた。きっと今、彼女もその時のことを思い出しているのだろう。そう思うと、何とも言えない嬉しさと愛しさが込み上げてきた。

 突然頬を撫でられてビックリしたさくらはノアに振り向いた。すると、熱い眼差しで自分を見つめているノアの目とかち合った。さくらは真っ赤になりながら、恥ずかしそうにノアの手を頬から離すと、果物屋の店主に会釈して、ノアを引っ張るようにその店から離れた。


☆彡


 いろいろな店を見ながらさらに街中を進むと、今度は広場に出た。真ん中には大きな噴水があり、周りは街の人々で賑わっていた。
 噴水の前に来ると、二人は噴水の端に腰かけた。さくらは相変わらず目をキラキラさせながら、広場を見渡している。

「足は大丈夫か?」

「はい!」

 さくらはにっこり答えた。その微笑みは、今朝、自分を見送った時の微笑みとは全く違う。ノアは可笑しくて、つい吹き出した。キョトンとしているさくらの頭に手を置くと、

「残念だが、ここまでだ」

 そう言って立ち上がった。そして、さくらを立ち上がらせると、両肩を掴み、なだめるように顔を覗き込んだ。

「悪いが、これ以上時間的に無理だ。抜け出したことがばれる前に城にもどらないと」

 まだ帰りたくないと駄々をこねると思っていたのに、さくらから帰ってきたのは、自分の額へのキスだった。

「今日はもう十分です! とっても楽しかったです!」

 そう言うと、満面の笑みをノアに向けた。そして可愛らしく首をかしげると、

「だって、また来られるでしょう?」

と、悪戯っぽく笑った。
 ノアは額に手を当てて、は~~っと肩を落とした。なんという交渉術だ。

(本当に、完敗だ・・・)

 さくらは相変わらずにこにことノアを見ている。ノアはもう一度溜息をつくと、さくらの頬を両手で挟み、グイっと自分の顔に引き寄せた。

(全く敵わない)

 そして、今度はかわされないように、しっかりと自分の唇をさくらの唇に押し当てた。

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