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第三章

4.芽生えた恋心

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 帰還から二週間以上経つと、さくらはノアに対して大分フランクに話せるようになった。何よりもノアがそれを望んでいたし、彼の積極的なアピールが、さくらの緊張感や警戒心を解していった。

 さくらはノアとの距離がどんどん縮まるのを感じ、もしかしたら、彼の好意は『異世界の王妃』ではなく、自分自身に向いているのではないかと期待し始めた。そう思い始めたら、さくらがノアに恋に落ちるのはあっという間だった。

 ある日、庭園を散歩していると、ノアがやってきた。まだ杖を付いて歩いているさくらに、必ず二人以上で散歩するようにしろ、転んだらどうすると説教した。

「心配性ですね」

さくらは笑った。ノアはそんなさくらの手を取ると、

「こっちに行こう」

と一緒に歩き出した。

ノアに突然手を繋がれ、さくらの鼓動は急に早くなった。ドキドキしながらも嬉しくて、繋がれた手をぎゅっと握った。ちらっとノアを盗み見たが、ノアは顔色一つ変えず、澄まして歩いている。少しがっかりして目線を前に戻すと、ノアの手がさくらの手をぎゅっと握り返してきた。
 たったそれだけのことだが、恋する乙女には天にも昇る思いだった。

 ノアが向かったのは第一の宮殿と第二の宮殿を繋ぐ中庭の回廊だった。そしてその回廊の隅にある一つの廊下に入った。さくらはこの薄暗い廊下に見覚えがあった。

(そうだ! イルハンさんに怒られた、あの箱庭に続く廊下だ)

 さくらは黙ってついて行くと、案の定、ちいさな扉に辿り着いた。ノアは躊躇なくその扉を開けると、さくらの手を引き、中に入った。

 やはり、そこには見たことがある景色が広がっていた。手入れが行き届いていない木々に、真ん中にある可愛らしい噴水、そして端の方にある月見台・・・。

「あの・・・。陛下、ここは・・・」

 さくらは恐る恐る訪ねた。イルハンに絶対に来るなと言われた場所だ。それを自由に出入りできるとは、国王だから?・・・つまり?

「ここは俺だけの庭だ」

(やっぱりー!!)

 さくらは、冷や汗が流れた。

「他に入れる人は・・・?」

「誰も入ることを許していない」

(だからか・・・)

 イルハンが頭を抱えるわけだ。自分はとんでもないところに入り込んだのだ。今度はさくらが頭を抱えた。

「・・・? どうした? 足が痛むのか?」
  
 さくらが青くなっていることに気付いたノアは、さくらの前にしゃがみ、怪我している左足を見ようとした。

「違います! 違います!」

 さくらは慌ててノアを立たせた。そして、意を決したように、

「ごめんなさい!」

と勢いよく頭を下げた。急に謝られたノアは驚いてさくらを見つめた。さくらは顔を上げると、

「実は・・・」

 自分はここに来たのが初めてではないことを正直に話した。勝手に忍び込んだこと、もう一つの扉を抜けて、第二の宮殿まで行ったこと、そこでイルハンに捕まり、大目玉を食らったこと、すべて隠さずに告白した。

 ノアは、最初は目を丸くして聞いていたが、途中から、ククッと必死で笑いを嚙み殺しながら聞いていた。いかにもさくららしい行動だと思った。ドラゴンの洞窟までやってくるような女だ。宮殿内など探索しつくしていてもおかしくない。

 さくらは自分の告白に、怒るどころか肩を震わせて必死に笑いを堪えているノアをポカンと眺めた。

「いや、笑ってすまん・・・」

 ノアはまだクスクスと笑いながら、もう一度、さくらの手を取った。

「お前は特別だ。いつでもここに来て構わない」

 そう言って、箱庭の奥までさくらを誘った。

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