44 / 98
第二章
15.手当
しおりを挟む
さくらが双子一緒に部屋に入ったときには、ドラゴンは既にベッドの下に身を隠していた。それに安心すると、さくらはすぐに双子を長椅子に座らせ、顔の傷の状態を見た。
目の下から頬にかけてくっきりと紫色のミミズ腫れができている。その周りは真っ赤に傷が腫れ上がっていた。アンナの顔に少し手を触れただけで、彼女は悲鳴を上げた。
「酷い・・・!」
女の子の顔になんてことを!
さくらは怒りで言葉が出てこなかった。とにかく手当てを急ごうと思い、浴室に飛び込んだ。そして清潔な手ぬぐいを温泉の湯に浸し、二人のもとに戻ってきた時、部屋をノックする音がした。
「はい?」
さくらが返事をすると、扉が開き、数名の侍女たちがわらわらと入ってきた。かと思うと、全員一斉にさくらに深々と頭を下げた。さくらは驚いて手ぬぐいを握り締めたまま、棒立ちになって彼女たちを見つめた。
一人の年配の侍女がスッと前に出てきた。
「私は侍女長のライラと申します」
彼女は改めて丁寧にお辞儀すると、
「さくら様のお手当てのために、すぐに医師が参ります。またお食事も用意いたします」
そう言い、なにやら他の侍女たちに合図を送った。
一人の侍女がさくらに近寄るとアンナとカンナの隣に座らせた。そして、さくらが握っていた手ぬぐいを取り上ると、それをさくらの掌の傷に当てた。残りの侍女たちは部屋にワゴンを運び入れ、食卓を整え始めた。
「いやいや、私の傷は大したことないので、二人の手当てを優先にしてください」
さくらは慌てて手を引っ込めようとした。だが、優しく抑えられ、
「すぐに医者が参ります。もちろんアンナとカンナの手当てもして頂きます」
「でも・・・」
さくらは困惑しているところに、一人の白衣を着た中年の男が飛び込んできた。
「ほら、参りました」
侍女はにっこり笑うと、さくらから手を放し、男のもとに向かった。男は走ってきたのか、ゼイゼイと肩で息をしている。
「イザベル様の扇が破られたと聞いたぞ!」
男は傍に来た侍女に食らいつくように尋ねた。そこへライラが近づき、
「先生、すぐにお手当てを」
静かだが、威厳のある声で男に言った。医者は慌てて白衣の襟を正し、さくらに向かって一礼をすると、すぐに傍にやってきた。そしてアンナとカンナの顔を見ると顔をしかめた。
「これは酷い・・・」
しかし、医者は先にさくらの傷を診ようと手を取ろうとした。さくらは慌てて両手を伸ばして、掌をブンブン振り、医者を制した。
「本当に私は大したことないです! それより早く二人を診てください!」
医者は自分の目の前に広げられたさくらの掌を見て、目を丸くした。
「本当だ・・・。ただのかすり傷だ・・・」
医者がそう呟くのを聞いて、さくらは前のめりになった。
「ね、そうでしょう?! だから先にアンナとカンナをお願いします!」
「分かりました。さくら様の優しいお言葉に甘えさせていただきましょう」
医者は頷くと、道具を広げ、てきぱきと双子の手当てを始めた。
一通り消毒した後、薬箱から一つの小瓶を取り出した。中には紫色の液体が入っており、うっすらと黄色い光を放っている、見るからに怪しげな液体だった。蓋を開けると瓶の口から黄色い煙がふわっと立ち上り、何とも言えない甘い香りが漂った。
医者は、それを数滴、アンナの傷の上に垂らした。
「・・・うっ・・・」
薬が沁みるのか、アンナは顔を歪めた。しかし次の瞬間、みるみる腫れが引いていき、大きかったミミズ腫れも、細い引っ掻き傷程度にまで小さくなっていった。
同じようにカンナにも数滴たらすと、彼女の傷もあっという間に小さくなった。医者は小さくなった傷に軟膏を塗ると、
「これでよし!」
と一息ついた。そして今度はさくらの方に振り向いた。さくらは口をあんぐり開け、目を丸くして双子を凝視していた。そんなさくらの様子を微笑ましく思い、思わず笑みになった。
「ささっ、お次はさくら様。傷を拝見します」
さくらは我に返り、慌てて右手を差し出した。医者は鮮やかにあっという間に手当てを終えてしまった。
目の下から頬にかけてくっきりと紫色のミミズ腫れができている。その周りは真っ赤に傷が腫れ上がっていた。アンナの顔に少し手を触れただけで、彼女は悲鳴を上げた。
「酷い・・・!」
女の子の顔になんてことを!
さくらは怒りで言葉が出てこなかった。とにかく手当てを急ごうと思い、浴室に飛び込んだ。そして清潔な手ぬぐいを温泉の湯に浸し、二人のもとに戻ってきた時、部屋をノックする音がした。
「はい?」
さくらが返事をすると、扉が開き、数名の侍女たちがわらわらと入ってきた。かと思うと、全員一斉にさくらに深々と頭を下げた。さくらは驚いて手ぬぐいを握り締めたまま、棒立ちになって彼女たちを見つめた。
一人の年配の侍女がスッと前に出てきた。
「私は侍女長のライラと申します」
彼女は改めて丁寧にお辞儀すると、
「さくら様のお手当てのために、すぐに医師が参ります。またお食事も用意いたします」
そう言い、なにやら他の侍女たちに合図を送った。
一人の侍女がさくらに近寄るとアンナとカンナの隣に座らせた。そして、さくらが握っていた手ぬぐいを取り上ると、それをさくらの掌の傷に当てた。残りの侍女たちは部屋にワゴンを運び入れ、食卓を整え始めた。
「いやいや、私の傷は大したことないので、二人の手当てを優先にしてください」
さくらは慌てて手を引っ込めようとした。だが、優しく抑えられ、
「すぐに医者が参ります。もちろんアンナとカンナの手当てもして頂きます」
「でも・・・」
さくらは困惑しているところに、一人の白衣を着た中年の男が飛び込んできた。
「ほら、参りました」
侍女はにっこり笑うと、さくらから手を放し、男のもとに向かった。男は走ってきたのか、ゼイゼイと肩で息をしている。
「イザベル様の扇が破られたと聞いたぞ!」
男は傍に来た侍女に食らいつくように尋ねた。そこへライラが近づき、
「先生、すぐにお手当てを」
静かだが、威厳のある声で男に言った。医者は慌てて白衣の襟を正し、さくらに向かって一礼をすると、すぐに傍にやってきた。そしてアンナとカンナの顔を見ると顔をしかめた。
「これは酷い・・・」
しかし、医者は先にさくらの傷を診ようと手を取ろうとした。さくらは慌てて両手を伸ばして、掌をブンブン振り、医者を制した。
「本当に私は大したことないです! それより早く二人を診てください!」
医者は自分の目の前に広げられたさくらの掌を見て、目を丸くした。
「本当だ・・・。ただのかすり傷だ・・・」
医者がそう呟くのを聞いて、さくらは前のめりになった。
「ね、そうでしょう?! だから先にアンナとカンナをお願いします!」
「分かりました。さくら様の優しいお言葉に甘えさせていただきましょう」
医者は頷くと、道具を広げ、てきぱきと双子の手当てを始めた。
一通り消毒した後、薬箱から一つの小瓶を取り出した。中には紫色の液体が入っており、うっすらと黄色い光を放っている、見るからに怪しげな液体だった。蓋を開けると瓶の口から黄色い煙がふわっと立ち上り、何とも言えない甘い香りが漂った。
医者は、それを数滴、アンナの傷の上に垂らした。
「・・・うっ・・・」
薬が沁みるのか、アンナは顔を歪めた。しかし次の瞬間、みるみる腫れが引いていき、大きかったミミズ腫れも、細い引っ掻き傷程度にまで小さくなっていった。
同じようにカンナにも数滴たらすと、彼女の傷もあっという間に小さくなった。医者は小さくなった傷に軟膏を塗ると、
「これでよし!」
と一息ついた。そして今度はさくらの方に振り向いた。さくらは口をあんぐり開け、目を丸くして双子を凝視していた。そんなさくらの様子を微笑ましく思い、思わず笑みになった。
「ささっ、お次はさくら様。傷を拝見します」
さくらは我に返り、慌てて右手を差し出した。医者は鮮やかにあっという間に手当てを終えてしまった。
12
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ピンクの髪のオバサン異世界に行く
拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。
このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。
呪われ姫の絶唱
朝露ココア
ファンタジー
――呪われ姫には近づくな。
伯爵令嬢のエレオノーラは、他人を恐怖させてしまう呪いを持っている。
『呪われ姫』と呼ばれて恐れられる彼女は、屋敷の離れでひっそりと人目につかないように暮らしていた。
ある日、エレオノーラのもとに一人の客人が訪れる。
なぜか呪いが効かない公爵令息と出会い、エレオノーラは呪いを抑える方法を発見。
そして彼に導かれ、屋敷の外へ飛び出す。
自らの呪いを解明するため、エレオノーラは貴族が通う学園へと入学するのだった。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる