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72.真実
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クラウディアは跪いて僕に懇願した。
僕を見上げる目からポロポロと涙が零れている。
「ディア! 何をしているの! 僕にこんなことしちゃいけない!」
僕は思わず彼女の傍に駆け寄ると、片膝を付き彼女の肩と抱いた。
「ごめんなさい、しつこくして・・・。こんな情けなく懇願して、ごめんなさい。でも・・・。でも、私、カイル様が大好きなんです・・・。本当に大好きなの。私に悪いところがあったら直しますから・・・!」
涙に濡れた顔で僕を見つめる。
僕は彼女を抱きしめたくなる衝動をグッと堪え、両手で彼女の手を握った。
「ディア、君には何の落ち度もない。直して欲しいところなんて一つも無いよ。今回の事の非はすべて僕にある。悪いのは全部僕の方だ」
僕は握っている手に力を込めた。
「ねえ、ディア。君も薄々気が付いているだろう? この間、ランドルフ領地で襲ってきたのは只の盗賊じゃない。我が家を狙った刺客だ」
「刺客・・・」
「あの時みたいに我が家は常に命の危険に晒されている。それは王家に次ぐ家柄でもあり、この家の失脚を望んでいる者が多くいるのも確かだよ。でも、それだけじゃない」
クラウディアは真っ直ぐ僕の目を見つめている。僕は思わず目を伏せた。
「それだけじゃないんだ・・・、狙われる理由は。もっと・・・。もっと後ろ暗い理由がある・・・」
真実を口にしようとして言葉が詰まる。
微かに震える僕の手。震えるな! しっかりしろ、僕!
「我が家は・・・、ランドルフ家は」
「王家の影でしょう? ランドルフ家の宿命。王家を守るための裏のお仕事を全て引き受ける」
一瞬時が止まった。
何て言った? クラウディア?
僕は目を丸めて彼女を見た。
「知らないとでも思ってましたか? 私は物語を読んでますのよ?」
クラウディアの表情が少し和らいだ。
優しく僕を見つめる。
「もちろん、詳しい事までは存じません。物語にはランドルフ家の所業について事細かに書かれていなかったから・・・。でも、カイル様がそのことでいつも心を悩ましていたことは知っています」
知っていたって・・・?
「やはり、本当の理由はそれなのですね? 婚約解消の理由・・・」
クラウディアは僕が握っている手をギュッと握り返して来た。
「私が狙われたから・・・。私が襲われたから、それを気に病んでいらっしゃるのね?」
知っていた? 知っていたのか?
じゃあ、僕のこの手がどれだけ血で汚れているのかも知っていたというのか?
僕の・・・、本当は腹黒い僕の本当の姿も・・・。
ずっと、ずっと知っていたのか・・・。
僕は咄嗟に彼女の手を振り払った。
「知っているなら話が早い! そう言うことだよ、クラウディア!」
僕は乱暴に立ち上がると、彼女から距離を取った。
「我が家は人殺し一家だ。僕もね。君も見ただろう? 僕がしたリードとセシリアへの仕打ち。僕はあの道の先に崖があるのを知っていた。落ちればいいと思ってわざと馬を走らせた。あれが僕の本性だ。ああ、物語を読んでるなら知っているか、僕の本性なんて」
僕は彼女から離れたところで振り向いた。
「そう。僕は国の為なら、ビンセントの為なら平気で人を殺せる」
そして、君の為でも・・・。
彼女はゆっくりと立ち上がった。そして真っ直ぐに僕を見つめた。
「カイル様・・・」
ゆっくり僕に近づいてくる。その歩調はどこか力強く、迷いがない。
逆に僕は後ずさりした。
トンっと、腰が執務机に触れた。これ以上下がれない。
そんな僕の顔に彼女の手が伸びる。
「触らないで、ディア! 僕は人殺しなんだよ! 君に触れてもらう価値などない!」
僕はクラウディアに向かって叫んだ。
「君を想う価値も無い人間なんだ。そんな男と一緒になった上に、そいつの家せいで命まで狙われる。前みたいにね。そんなこと君にさせられない!」
ディアの伸ばした手は途中でピタリと止まった。
「二度と君にあんな思いさせたくない・・・。君には安全な場所で、いつも幸せに笑っていて欲しいんだ・・・」
僕は項垂れるように目を伏せた。
「だから、ディア・・・。どうか解消を受け入れてほしい」
僕の最後の我儘。
どんなに僕が酷い男でも、君の幸せを願う事くらい許して欲しい。
僕は、君が生きてさえいてくれれば、それでいいんだ。
僕を見上げる目からポロポロと涙が零れている。
「ディア! 何をしているの! 僕にこんなことしちゃいけない!」
僕は思わず彼女の傍に駆け寄ると、片膝を付き彼女の肩と抱いた。
「ごめんなさい、しつこくして・・・。こんな情けなく懇願して、ごめんなさい。でも・・・。でも、私、カイル様が大好きなんです・・・。本当に大好きなの。私に悪いところがあったら直しますから・・・!」
涙に濡れた顔で僕を見つめる。
僕は彼女を抱きしめたくなる衝動をグッと堪え、両手で彼女の手を握った。
「ディア、君には何の落ち度もない。直して欲しいところなんて一つも無いよ。今回の事の非はすべて僕にある。悪いのは全部僕の方だ」
僕は握っている手に力を込めた。
「ねえ、ディア。君も薄々気が付いているだろう? この間、ランドルフ領地で襲ってきたのは只の盗賊じゃない。我が家を狙った刺客だ」
「刺客・・・」
「あの時みたいに我が家は常に命の危険に晒されている。それは王家に次ぐ家柄でもあり、この家の失脚を望んでいる者が多くいるのも確かだよ。でも、それだけじゃない」
クラウディアは真っ直ぐ僕の目を見つめている。僕は思わず目を伏せた。
「それだけじゃないんだ・・・、狙われる理由は。もっと・・・。もっと後ろ暗い理由がある・・・」
真実を口にしようとして言葉が詰まる。
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一瞬時が止まった。
何て言った? クラウディア?
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「知らないとでも思ってましたか? 私は物語を読んでますのよ?」
クラウディアの表情が少し和らいだ。
優しく僕を見つめる。
「もちろん、詳しい事までは存じません。物語にはランドルフ家の所業について事細かに書かれていなかったから・・・。でも、カイル様がそのことでいつも心を悩ましていたことは知っています」
知っていたって・・・?
「やはり、本当の理由はそれなのですね? 婚約解消の理由・・・」
クラウディアは僕が握っている手をギュッと握り返して来た。
「私が狙われたから・・・。私が襲われたから、それを気に病んでいらっしゃるのね?」
知っていた? 知っていたのか?
じゃあ、僕のこの手がどれだけ血で汚れているのかも知っていたというのか?
僕の・・・、本当は腹黒い僕の本当の姿も・・・。
ずっと、ずっと知っていたのか・・・。
僕は咄嗟に彼女の手を振り払った。
「知っているなら話が早い! そう言うことだよ、クラウディア!」
僕は乱暴に立ち上がると、彼女から距離を取った。
「我が家は人殺し一家だ。僕もね。君も見ただろう? 僕がしたリードとセシリアへの仕打ち。僕はあの道の先に崖があるのを知っていた。落ちればいいと思ってわざと馬を走らせた。あれが僕の本性だ。ああ、物語を読んでるなら知っているか、僕の本性なんて」
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「そう。僕は国の為なら、ビンセントの為なら平気で人を殺せる」
そして、君の為でも・・・。
彼女はゆっくりと立ち上がった。そして真っ直ぐに僕を見つめた。
「カイル様・・・」
ゆっくり僕に近づいてくる。その歩調はどこか力強く、迷いがない。
逆に僕は後ずさりした。
トンっと、腰が執務机に触れた。これ以上下がれない。
そんな僕の顔に彼女の手が伸びる。
「触らないで、ディア! 僕は人殺しなんだよ! 君に触れてもらう価値などない!」
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「君を想う価値も無い人間なんだ。そんな男と一緒になった上に、そいつの家せいで命まで狙われる。前みたいにね。そんなこと君にさせられない!」
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「二度と君にあんな思いさせたくない・・・。君には安全な場所で、いつも幸せに笑っていて欲しいんだ・・・」
僕は項垂れるように目を伏せた。
「だから、ディア・・・。どうか解消を受け入れてほしい」
僕の最後の我儘。
どんなに僕が酷い男でも、君の幸せを願う事くらい許して欲しい。
僕は、君が生きてさえいてくれれば、それでいいんだ。
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