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70.婚約解消
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クラウディアを伯爵邸まで送り、学院に戻った時には、既にビンセントが色々と動いてくれていた。
僕が会長室を飛び出した後、彼も僕の後を追ったらしい。
僕が子爵家の馬車を奪取してところを見て、ただ事ではないとすぐに城に連絡を入れたようだ。
ビンセントには軽く事情を話し、後は騎士団に任せることにした。
騎士団はすぐに森の中で横倒れになっている馬車を見つけた。
中には若い男女が二人、大怪我で動けずにいたそうだ。
すぐに拘束され、城内の牢で手当てを受けているという。
馬車の持ち主であるロンド伯爵は寝耳に水で相当困惑しているらしい。それはそうだ。伯爵家の馬車が犯罪に使われるなんて不名誉極まりない。
息子のアーネストは、馬車は盗まれたのだと言い張っているようだが、果たしてどこまで通用するか。
まさか誘拐に使われるとは思っていなかっただろうが、自分だけ逃げるのはセシリアが許さないだろう。
リードは拘束されたことによって、暗殺者からの手から逃れられたと言っていい。
しかし、伯爵令嬢の誘拐は重罪だから、どちらが良かったかは分からない。
ただ、牢で父親に再会できたことは喜ばしいことなのかな。
バーンズ子爵の馬車については、重々に詫びを申し上げ、傷つけてしまった箇所は全てこちらで修理することで合意して頂いた。
★
「良かったのですか? カイル様」
僕の書斎で、ジョセフが心配そうに訪ねてきた。
「あれほどまでにクラウディア様をお気に召していたのに・・・」
「しつこいよ、ジョセフ。決めたことだ。蒸し返さないでくれ」
「・・・申し訳ありません」
ジョセフはテーブルにお茶とお菓子を置くと、そっと部屋から出て行った。
僕は父に自分の思いの丈を全て話し、クラウディアとの婚約を白紙に戻してもらう事を願い出た。
もちろん、父は難色を示していたが、自分も妻が同じように生死をさまよった経験があるため、最終的に僕の気持ちに寄り添ってくれた。
「お前はクラウディアを気に入り過ぎたからな。私のように結婚してから愛するようになったならば、後には引けずにひたすら守り通すだけと割り切れるのだがな」
「そうですね・・・。僕だって、もしここまで彼女の事を想っていなかったら、大して気にせずに結婚していたと思います」
僕は目を伏せた。
「でも、僕らはまだ結婚していない。だからまだ間に合う・・・。間に合うから・・・、ならば、彼女の幸せを願っても問題ないでしょう? 僕は彼女にはいつも幸せそうに笑ってもらいたいんです」
「どうしてその役目を自分で引き受けると言えんのだ?」
「目の前で殺されかけてどの口が言えますか!? 僕のせいで不幸になるって分かってるのに!」
はあ~と父が深く溜息を付いた。
「・・・お前の気持ちは分かった。検討しよう。言っておくが、資産家であるロイス伯爵家との婚約解消は我が家にとって大きな痛手だぞ」
「ええ。分かっています」
「どんなに呪っても、我が家の忌まわしい歴史は消えん。そしてこの家に生まれた以上、この歴史を紡いて行かねばならん、国の為にな。今回はお前の我儘を聞くが、次は無いぞ」
「ええ。分かっています」
「同じほどの資産家の令嬢を見つけるのは至難だ・・・」
「でしょうね」
父は僕を軽く睨んだ。
「他人事のように言うな。お前のことだぞ」
「クラウディアと結婚できないなら、正直、誰でもいいんです」
「だったらクラウディアでいいだろうが・・・」
父はまた深く溜息を付いた。
「もういい・・・。そう話しても堂々巡りだからな・・・。伯爵家には正式に解消を申し入れる。もう部屋へ戻れ」
「はい・・・。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。よろしくお願いします」
こうして父は納得してくれたのだ。
そして、昨日、正式にロイス伯爵家に婚約解消を申し入れる手紙を送ったのだった。
それなのに、なぜかその手紙が、今、僕の目の前にある。
力一杯クシャクシャに握り潰されて。
ここは僕の家の僕の執務室。
目の前に今までに見たことのない怒りの形相のクラウディアが、手紙を握りしめて僕の目の前に仁王立ちしていた。
僕が会長室を飛び出した後、彼も僕の後を追ったらしい。
僕が子爵家の馬車を奪取してところを見て、ただ事ではないとすぐに城に連絡を入れたようだ。
ビンセントには軽く事情を話し、後は騎士団に任せることにした。
騎士団はすぐに森の中で横倒れになっている馬車を見つけた。
中には若い男女が二人、大怪我で動けずにいたそうだ。
すぐに拘束され、城内の牢で手当てを受けているという。
馬車の持ち主であるロンド伯爵は寝耳に水で相当困惑しているらしい。それはそうだ。伯爵家の馬車が犯罪に使われるなんて不名誉極まりない。
息子のアーネストは、馬車は盗まれたのだと言い張っているようだが、果たしてどこまで通用するか。
まさか誘拐に使われるとは思っていなかっただろうが、自分だけ逃げるのはセシリアが許さないだろう。
リードは拘束されたことによって、暗殺者からの手から逃れられたと言っていい。
しかし、伯爵令嬢の誘拐は重罪だから、どちらが良かったかは分からない。
ただ、牢で父親に再会できたことは喜ばしいことなのかな。
バーンズ子爵の馬車については、重々に詫びを申し上げ、傷つけてしまった箇所は全てこちらで修理することで合意して頂いた。
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「良かったのですか? カイル様」
僕の書斎で、ジョセフが心配そうに訪ねてきた。
「あれほどまでにクラウディア様をお気に召していたのに・・・」
「しつこいよ、ジョセフ。決めたことだ。蒸し返さないでくれ」
「・・・申し訳ありません」
ジョセフはテーブルにお茶とお菓子を置くと、そっと部屋から出て行った。
僕は父に自分の思いの丈を全て話し、クラウディアとの婚約を白紙に戻してもらう事を願い出た。
もちろん、父は難色を示していたが、自分も妻が同じように生死をさまよった経験があるため、最終的に僕の気持ちに寄り添ってくれた。
「お前はクラウディアを気に入り過ぎたからな。私のように結婚してから愛するようになったならば、後には引けずにひたすら守り通すだけと割り切れるのだがな」
「そうですね・・・。僕だって、もしここまで彼女の事を想っていなかったら、大して気にせずに結婚していたと思います」
僕は目を伏せた。
「でも、僕らはまだ結婚していない。だからまだ間に合う・・・。間に合うから・・・、ならば、彼女の幸せを願っても問題ないでしょう? 僕は彼女にはいつも幸せそうに笑ってもらいたいんです」
「どうしてその役目を自分で引き受けると言えんのだ?」
「目の前で殺されかけてどの口が言えますか!? 僕のせいで不幸になるって分かってるのに!」
はあ~と父が深く溜息を付いた。
「・・・お前の気持ちは分かった。検討しよう。言っておくが、資産家であるロイス伯爵家との婚約解消は我が家にとって大きな痛手だぞ」
「ええ。分かっています」
「どんなに呪っても、我が家の忌まわしい歴史は消えん。そしてこの家に生まれた以上、この歴史を紡いて行かねばならん、国の為にな。今回はお前の我儘を聞くが、次は無いぞ」
「ええ。分かっています」
「同じほどの資産家の令嬢を見つけるのは至難だ・・・」
「でしょうね」
父は僕を軽く睨んだ。
「他人事のように言うな。お前のことだぞ」
「クラウディアと結婚できないなら、正直、誰でもいいんです」
「だったらクラウディアでいいだろうが・・・」
父はまた深く溜息を付いた。
「もういい・・・。そう話しても堂々巡りだからな・・・。伯爵家には正式に解消を申し入れる。もう部屋へ戻れ」
「はい・・・。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。よろしくお願いします」
こうして父は納得してくれたのだ。
そして、昨日、正式にロイス伯爵家に婚約解消を申し入れる手紙を送ったのだった。
それなのに、なぜかその手紙が、今、僕の目の前にある。
力一杯クシャクシャに握り潰されて。
ここは僕の家の僕の執務室。
目の前に今までに見たことのない怒りの形相のクラウディアが、手紙を握りしめて僕の目の前に仁王立ちしていた。
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