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69.本当の姿
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「ま、待って! カイル様!」
その女と言うフレーズに慌てたように、セシリアがリードを押しのけるようにして窓から
顔を出した。
「わ、私は関係ない!」
「関係なくはないでしょう、そこにいるのだから。貴女でしょう? リード君を焚き付けたのは? 彼がランドルフ家を恨んでいるのを知って、クラウディアを襲わせたのでしょう?」
「ち、違う! 私は・・・!」
「リード君は比較的真っ直ぐな性格だと聞いてるよ。ランドルフ家に恨みがあるなら直接僕を狙うだろうね。まあ、それは推測だけど。それにこの馬車・・・」
僕は馬車に近づいて、扉にある紋章をコンコンと叩いてみせた。
「この紋章はロンド伯爵家のものだね、とても旧式だけど。普段は使って無さそうだ」
「・・・」
「お金のないリードに変わって、君が馬車を手配したんでしょう? アーネストに泣きついて」
「・・・」
「まさか、アーネストも人攫いに使われるとは思っていなかったろうね。でも、これでロンド伯爵家も共犯だ。君はどうやってアーネストに詫びるつもり?」
「・・・あんな男どうなってもいいわよ・・・」
セシリアの顔が急に険しくなった。
「あの男に・・・、あんな男に私の純潔は奪われたんだから・・・」
「君たちの情事の話なんて興味無いよ」
僕が肩を竦めると、セシリアはキッと睨みつけてきた。
「カイル様のせいよ! カイル様が私を選ばないから! 私がヒロインなのに、本当は私が貴方の運命の相手なのに! 貴方が間違えたのよ、相手を! そのせいで私はあんな男に媚を売る羽目に・・・」
「言いがかりも大概にしてくれないかな」
僕は呆れたようにセシリアを見返した。
「つまり君も僕に恨みがあるんだよね? だったら僕を狙えばよかったのに、クラウディアを狙うのは卑怯だ」
「なによ! 元はと言えばあの女がいるからいけないんでしょう?! 本当ならあの女は悪役令嬢なのよ! あの女さえいなければ私たちは幸せになれたのに!」
セシリアは窓から半分体を乗り出して、クラウディアに向かって指を差した。
「そうよ! あの女が邪魔だったのよ! どうせ幸せになれないなら、あの女も道連れよ! あの女だけが幸せになるなんて絶対に許せない!」
クラウディアは青い顔をしてセシリアを見つめている。
僕はクラウディアの視界にセシリアが入らないように彼女の前に立った。
「ずいぶん勝手な動機だ。擁護のしようがないね」
僕は影に向かって手を挙げた。
「僕が君たちを拘束してもいいのだけど、今日は忙しいんだ。他の人任すよ。それまでに逃げ切れたらいいね。それじゃあ、ごきげんよう。もう二度と会うことは無い」
言い終えた時、パシッパシッと大きな音がした。
影が馬の尻を鞭で叩いたのだ。
途端に馬が暴走し始めた。
「きゃああ!」
「わあああ!」
馬車の中から悲鳴が聞こえる。
御者のいない馬車は森の中の道を走っていった。
「大丈夫かい? クラウディア。怪我は?」
「カ、カイル様・・・、ば、馬車が・・・」
「ああ、君が気にすることはない。いつか停まるさ」
御者がいないんだ。そんなに時間が経たないうちに馬車は停まるだろう。
ただ、どう停まるかは分からない。
森の中の道は真っ直ぐとは限らない。御者もいなくて急カーブが無事に曲がれるとは思えないからね。
木々に突っ込むか、横倒しになるか・・・。
ただ、先の方に崖がある。そこに行きつく前に停まったらいいね。
「あ、あの先って・・・確か・・・」
「とにかく帰ろう。さあ、こっちの馬車に乗って」
僕は青い顔して震えながらも訴えるクラウディアの言葉を遮った。
無理やり手を取ると、彼女を馬車に乗せた。
★
伯爵家まで送り届ける間、馬車の中で僕らは一言も話さなかった。
クラウディアは微かに震えていたが、僕は彼女の肩を抱いたり、手を握ることをしなかった。
それに彼女からもそれを求めてくることは無かった。
震える手を必死で隠すように、膝の上でギュッと握り、ずっと外の景色を見ていた。
最後まで僕の方を見ることは無かった。
これでいい。
彼女の前で非道な姿を見せたけど、あれが本当の僕だ。
きっと僕に絶望しているに決まっている。
いや、絶望してくれた方がいい。
嫌われた方がいい。
そうでもないと、僕の踏ん切りがつかない。
数日後、正式にランドルフ公爵家からロイス伯爵家へ婚約解消を申し入れた。
その女と言うフレーズに慌てたように、セシリアがリードを押しのけるようにして窓から
顔を出した。
「わ、私は関係ない!」
「関係なくはないでしょう、そこにいるのだから。貴女でしょう? リード君を焚き付けたのは? 彼がランドルフ家を恨んでいるのを知って、クラウディアを襲わせたのでしょう?」
「ち、違う! 私は・・・!」
「リード君は比較的真っ直ぐな性格だと聞いてるよ。ランドルフ家に恨みがあるなら直接僕を狙うだろうね。まあ、それは推測だけど。それにこの馬車・・・」
僕は馬車に近づいて、扉にある紋章をコンコンと叩いてみせた。
「この紋章はロンド伯爵家のものだね、とても旧式だけど。普段は使って無さそうだ」
「・・・」
「お金のないリードに変わって、君が馬車を手配したんでしょう? アーネストに泣きついて」
「・・・」
「まさか、アーネストも人攫いに使われるとは思っていなかったろうね。でも、これでロンド伯爵家も共犯だ。君はどうやってアーネストに詫びるつもり?」
「・・・あんな男どうなってもいいわよ・・・」
セシリアの顔が急に険しくなった。
「あの男に・・・、あんな男に私の純潔は奪われたんだから・・・」
「君たちの情事の話なんて興味無いよ」
僕が肩を竦めると、セシリアはキッと睨みつけてきた。
「カイル様のせいよ! カイル様が私を選ばないから! 私がヒロインなのに、本当は私が貴方の運命の相手なのに! 貴方が間違えたのよ、相手を! そのせいで私はあんな男に媚を売る羽目に・・・」
「言いがかりも大概にしてくれないかな」
僕は呆れたようにセシリアを見返した。
「つまり君も僕に恨みがあるんだよね? だったら僕を狙えばよかったのに、クラウディアを狙うのは卑怯だ」
「なによ! 元はと言えばあの女がいるからいけないんでしょう?! 本当ならあの女は悪役令嬢なのよ! あの女さえいなければ私たちは幸せになれたのに!」
セシリアは窓から半分体を乗り出して、クラウディアに向かって指を差した。
「そうよ! あの女が邪魔だったのよ! どうせ幸せになれないなら、あの女も道連れよ! あの女だけが幸せになるなんて絶対に許せない!」
クラウディアは青い顔をしてセシリアを見つめている。
僕はクラウディアの視界にセシリアが入らないように彼女の前に立った。
「ずいぶん勝手な動機だ。擁護のしようがないね」
僕は影に向かって手を挙げた。
「僕が君たちを拘束してもいいのだけど、今日は忙しいんだ。他の人任すよ。それまでに逃げ切れたらいいね。それじゃあ、ごきげんよう。もう二度と会うことは無い」
言い終えた時、パシッパシッと大きな音がした。
影が馬の尻を鞭で叩いたのだ。
途端に馬が暴走し始めた。
「きゃああ!」
「わあああ!」
馬車の中から悲鳴が聞こえる。
御者のいない馬車は森の中の道を走っていった。
「大丈夫かい? クラウディア。怪我は?」
「カ、カイル様・・・、ば、馬車が・・・」
「ああ、君が気にすることはない。いつか停まるさ」
御者がいないんだ。そんなに時間が経たないうちに馬車は停まるだろう。
ただ、どう停まるかは分からない。
森の中の道は真っ直ぐとは限らない。御者もいなくて急カーブが無事に曲がれるとは思えないからね。
木々に突っ込むか、横倒しになるか・・・。
ただ、先の方に崖がある。そこに行きつく前に停まったらいいね。
「あ、あの先って・・・確か・・・」
「とにかく帰ろう。さあ、こっちの馬車に乗って」
僕は青い顔して震えながらも訴えるクラウディアの言葉を遮った。
無理やり手を取ると、彼女を馬車に乗せた。
★
伯爵家まで送り届ける間、馬車の中で僕らは一言も話さなかった。
クラウディアは微かに震えていたが、僕は彼女の肩を抱いたり、手を握ることをしなかった。
それに彼女からもそれを求めてくることは無かった。
震える手を必死で隠すように、膝の上でギュッと握り、ずっと外の景色を見ていた。
最後まで僕の方を見ることは無かった。
これでいい。
彼女の前で非道な姿を見せたけど、あれが本当の僕だ。
きっと僕に絶望しているに決まっている。
いや、絶望してくれた方がいい。
嫌われた方がいい。
そうでもないと、僕の踏ん切りがつかない。
数日後、正式にランドルフ公爵家からロイス伯爵家へ婚約解消を申し入れた。
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