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64.ピクニック

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夏季休暇もそろそろ終わり。
あと数日したら王都に向けて出発しなければならない。

最後の一週間になると、祖父も祖母も時間を巻くようにクラウディアを構い倒し始めた。
孫の僕なんて蚊帳の外状態だ。

この頃には僕も考え方を改めた。
これほどまでにクラウディアが気に入られたことはいいことだ。彼女がこの地に馴染み、この地を好きになってくれるきっかけの一つにでもなってくれればいい。

それに王都に帰れば、一緒にいられるのは僕の方。
特に、帰りの五日間は馬車の中では二人きり。確実に独占できるしね。

僕は諦めの境地で、祖父母とディアの三人が楽し気に過ごしている姿を横目で眺めながら、溜め込んでいた領地の仕事を片付けていた。

そして、最後の日。
とてもいい天気だったので、祖父母と共にさほど遠くない森に乗馬も兼ねてピクニックに行くことになった。
祖母だけは使用人と共に馬車だ。

クラウディアは以前落馬したことがある。まあ、その時に頭を打ったことで前世の記憶が蘇ったわけだが。
結果が良い事か悪い事かは分からない。しかし、僕はあの時のことが今でも忘れられない。意識を失ったクラウディアを見て心臓が凍り付きそうなほどの衝撃を受けたのだ。

なのであれ以来、出来るだけ彼女には乗馬はさせていないかった。
今回も出来たら一人で馬に乗せたくなくて、僕と一緒に乗ることを勧めてみた。

「ご安心ください、カイル様! 一人でも大丈夫ですわ! 久々で緊張しますけど、それ以上に楽しみですわ!」

目をキラキラさせて興奮気味に言われるとそれ以上は何も言えない。

「フラてやんの、ざまぁないのう~、ケケケ」

僕の横で小声で笑う祖父。
ちょっと、殴りますよ? お祖父様。

ギロリと睨む僕に、わざとらしく首を竦めると、

「おー、怖っ! ささ、クラウディア、こんな過保護馬鹿は放っておいて、乗ってごらん。気性の優しい馬を選んだから問題ないじゃろ」

クラウディアに手を貸し、馬に乗せた。

「本当! いい子ですわね!! 今日はよろしくね~~」

クラウディアは楽しそうに馬上から馬の首筋を優しく摩った。

こうして、僕の「ラブラブ二人乗り」の野望・・・もとい、「心配だから二人で一緒に」という要望は受け入れらず、森に向かって歩き出したのだった。





森に辿り着いた時はちょうど昼頃だった。
少し、森の中を散策している間に、使用人たちがピクニックの準備を終えていた。

クラウディアは興奮気味に駆け寄ると、敷物の中央に置かれている大きなバスケットの前に座り、中を覗き込んだ。

「カイル様! お祖父様、お祖母様! 早くいらしてくださいな! このお弁当、私が作ったのですの!」

ゆっくりと歩いてくる僕らに向かって笑顔で手招きする。

「まあ、クラウディアが?」

祖母は驚いたように目を丸めた。

「ええ。我儘を言って厨房をお借りしましたの」

僕らはバスケットの中を覗き込んだ。
そこには色々具材が挟まれたサンドイッチと何やら薄い紙に包まれた丸いものが四つある。

クラウディアはその一つを僕に差し出した。
・・・何? 重っ。ずっしりしてる・・・。

「丸いパンにハンバーグとチーズとレタスなどの野菜を挟んでますのよ。片手で食べられますわ」

片手ってわけにはいかなそうだよ?

「早朝の三時起きして、パンから作りましたの! サンドイッチ用のパンも!」

三時?! それは早朝ではなくて夜中って言うんだよ?!

「あ、こっちのバスケットにはアップルパイもありますわ! こっちはお弁当の定番、から揚げとタコさんウインナー・・・」

ディアは続々と別のバスケットを開けてみせた。
そんな彼女を、祖父も祖母も目を丸めて見つめている。
だが、突然祖父が大笑いしだした。

「ワハハハ! どおりで朝から姿を見んと思っていたら、厨房に居ったのか! それもこんなに大量に昼飯を作っていたとは! 本当に面白い子じゃの!」

祖父は笑いながら紙に包まれたパンを二つ取ると、一つは祖母に渡した。

「早速頂くとするかの。なあ、お前」

「ええ。旦那様。頂きますね。クラウディア」

祖父は豪快に紙を広げて、中のパンにかぶり付いた。祖母は丁寧に紙を剝いている。

僕も開けてみると、中には丸いパンを半分に切ってその間に大きなハンバーグとチーズと野菜がはみ出るように挟まれている。

ガブっ!

祖父に負けないほど大きな口でかぶり付いた。

何これ? めちゃくちゃ美味しいんだけど!


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