51 / 74
51.会長とヒロイン
しおりを挟む
武道大会での僕ら熱い抱擁の一件は学院中の話題を攫った。
その前にあった聖堂前でのビンセントの茶番劇―――もとい、リーリエ嬢への愛の告白よりもセンセーショナルな話題だったらしい。
まあ、僕としては二人の間に誰も入れる余地がないほど、僕らの絆が確固たるものだと周りに知らしめることができて満足なのだが、クラウディアの貞淑さが疑われるようなことは許されない。
クラウディアを妬む子女達から、彼女の軽率な行動を悪く言う輩がいてもおかしくは無い。少しでも変な噂が立とうものならすぐに揉み消すつもりで、目も耳も研ぎ澄ましていたが、僕の今までの溺愛ぶりが功を奏し、懸念は杞憂に終わった。
誰も公爵家を敵に回したくないようだ。そりゃそうだよね。
「殿下に花を持たせても良かったのではないですか? カイル様。しっかり優勝を勝ち取るなんて・・・」
回廊を並んで歩くアンドレがブチブチと小言を言ってくる。
彼は剣術で3位と健闘した。だが、優等生の彼は三番目と言うのは屈辱のようだ。
「剣術は騎士コースでは花形種目だからね。凄腕ばかりが出場する中で3位なんて大したものじゃないか。しかも一年生で。拗ねて僕に当たるのは止めておくれ」
僕はワザとらしく大げさに肩を竦めて見せた。
「そう言えば、セシリア嬢はカイル様が剣術の試合に出ると決め込んで会場に乗り込んでましたけど、彼女の周りにだけ情報操作でもしたのですか?」
「さあね。僕は何もしてないよ」
「カイル様を必死に探していたようですが、結局、生徒会長に捕まっていましたよ。試合直前、会場で声高らかに『君に勝利を捧げる』と叫んでいました。まあ、その試合で私と当たったんで、メッタメタにしてやりましたけど」
「あはは、それはお気の毒」
着々と会長とヒロインの距離が縮まってきているようだ。いいことだ。
★
僕がいつまでも振り向かないからなのか、とうとう生徒会長の猛アタックに観念したのか、ヒロインは会長―――アーネスト・ロンド伯爵令息とよく一緒にいるようになった。
二人の仲が睦まじいことは結構なことだ。
心から応援する。
だが、ここで新たな問題が発生した。
二人の仲が良くなったことで、セシリアがまた生徒会室に頻繁に出入りすることになったのだ。
生徒会室に来たところで仕事を手伝うわけでもなく、アーネストの席の隣に椅子を持ち込み、ペチャクチャとお喋りを楽しんでいる。
前のように、僕の傍に来ることは無い。だが、これ見よがしに仲良く喋っているように見えるのはきっと僕の自惚れではないと思う。
アンドレも眉を顰めている。
彼は僕の心配ではなく、ビンセントの心配をしているのだけどね。
用心していたが、僕にもビンセントにも色目を使ってくることは無かった。
暫くして、会長室に入り浸ることが日常化してくると、セシリアは生徒会会員に手作り菓子を振舞うようになった。更には一緒に紅茶も入れてくるようになった。
そのタイミングで、皆で一休みするという習慣が出来上がってしまった。
もちろん、ビンセントに一生徒が作った菓子を食べさせることなど有り得ない。
いつも密かに僕とビンセントの分はアンドレが没収していた
紅茶もアンドレ、そして僕が口を付けた後でなければ、ビンセントには飲ませなかった。
そんなある日のこと。
その日、ビンセントは私用で早めに帰城していた。
アンドレは最近、父君の補佐の仕事が忙しく登校していない。
僕は一人で生徒会室に向かった。
内心では、二人もいないことだし、サボっちゃおうかな~などと考えており、クラウディアを図書塔に待たせていた。
ただ、少し気になる資料があったので、それだけちょっと目を通してから、すぐに切り上げようと思っていたのだ。
会長室を開けると、そこにはアーネストだけが会長席に座っていた。
他のメンバーはまだ来ていない。
軽く挨拶すると、アーネストは会釈を返してきたが、チッと舌打ちしたのを僕は聞き逃さなかった。
君ね、この学院内だからその態度でも許されるけど、一歩でも外に出たら僕の方がどれだけ立場が上か分かってる? その態度、いつか後悔させてあげるから、覚えておいてね。
イラっとしながらもそれに気が付かないふりをして資料を棚から取出し、生徒会席前に設置している応接セットのソファに座った。
資料を広げたその時、扉が開いた。
「あら? 今日はまだ二人しかいないのですね」
ティーセットのワゴンを引いたセシリアがにっこりと微笑みながら入ってきた。
その前にあった聖堂前でのビンセントの茶番劇―――もとい、リーリエ嬢への愛の告白よりもセンセーショナルな話題だったらしい。
まあ、僕としては二人の間に誰も入れる余地がないほど、僕らの絆が確固たるものだと周りに知らしめることができて満足なのだが、クラウディアの貞淑さが疑われるようなことは許されない。
クラウディアを妬む子女達から、彼女の軽率な行動を悪く言う輩がいてもおかしくは無い。少しでも変な噂が立とうものならすぐに揉み消すつもりで、目も耳も研ぎ澄ましていたが、僕の今までの溺愛ぶりが功を奏し、懸念は杞憂に終わった。
誰も公爵家を敵に回したくないようだ。そりゃそうだよね。
「殿下に花を持たせても良かったのではないですか? カイル様。しっかり優勝を勝ち取るなんて・・・」
回廊を並んで歩くアンドレがブチブチと小言を言ってくる。
彼は剣術で3位と健闘した。だが、優等生の彼は三番目と言うのは屈辱のようだ。
「剣術は騎士コースでは花形種目だからね。凄腕ばかりが出場する中で3位なんて大したものじゃないか。しかも一年生で。拗ねて僕に当たるのは止めておくれ」
僕はワザとらしく大げさに肩を竦めて見せた。
「そう言えば、セシリア嬢はカイル様が剣術の試合に出ると決め込んで会場に乗り込んでましたけど、彼女の周りにだけ情報操作でもしたのですか?」
「さあね。僕は何もしてないよ」
「カイル様を必死に探していたようですが、結局、生徒会長に捕まっていましたよ。試合直前、会場で声高らかに『君に勝利を捧げる』と叫んでいました。まあ、その試合で私と当たったんで、メッタメタにしてやりましたけど」
「あはは、それはお気の毒」
着々と会長とヒロインの距離が縮まってきているようだ。いいことだ。
★
僕がいつまでも振り向かないからなのか、とうとう生徒会長の猛アタックに観念したのか、ヒロインは会長―――アーネスト・ロンド伯爵令息とよく一緒にいるようになった。
二人の仲が睦まじいことは結構なことだ。
心から応援する。
だが、ここで新たな問題が発生した。
二人の仲が良くなったことで、セシリアがまた生徒会室に頻繁に出入りすることになったのだ。
生徒会室に来たところで仕事を手伝うわけでもなく、アーネストの席の隣に椅子を持ち込み、ペチャクチャとお喋りを楽しんでいる。
前のように、僕の傍に来ることは無い。だが、これ見よがしに仲良く喋っているように見えるのはきっと僕の自惚れではないと思う。
アンドレも眉を顰めている。
彼は僕の心配ではなく、ビンセントの心配をしているのだけどね。
用心していたが、僕にもビンセントにも色目を使ってくることは無かった。
暫くして、会長室に入り浸ることが日常化してくると、セシリアは生徒会会員に手作り菓子を振舞うようになった。更には一緒に紅茶も入れてくるようになった。
そのタイミングで、皆で一休みするという習慣が出来上がってしまった。
もちろん、ビンセントに一生徒が作った菓子を食べさせることなど有り得ない。
いつも密かに僕とビンセントの分はアンドレが没収していた
紅茶もアンドレ、そして僕が口を付けた後でなければ、ビンセントには飲ませなかった。
そんなある日のこと。
その日、ビンセントは私用で早めに帰城していた。
アンドレは最近、父君の補佐の仕事が忙しく登校していない。
僕は一人で生徒会室に向かった。
内心では、二人もいないことだし、サボっちゃおうかな~などと考えており、クラウディアを図書塔に待たせていた。
ただ、少し気になる資料があったので、それだけちょっと目を通してから、すぐに切り上げようと思っていたのだ。
会長室を開けると、そこにはアーネストだけが会長席に座っていた。
他のメンバーはまだ来ていない。
軽く挨拶すると、アーネストは会釈を返してきたが、チッと舌打ちしたのを僕は聞き逃さなかった。
君ね、この学院内だからその態度でも許されるけど、一歩でも外に出たら僕の方がどれだけ立場が上か分かってる? その態度、いつか後悔させてあげるから、覚えておいてね。
イラっとしながらもそれに気が付かないふりをして資料を棚から取出し、生徒会席前に設置している応接セットのソファに座った。
資料を広げたその時、扉が開いた。
「あら? 今日はまだ二人しかいないのですね」
ティーセットのワゴンを引いたセシリアがにっこりと微笑みながら入ってきた。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!
甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。
その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。
その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。
前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。
父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。
そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。
組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。
この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。
その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。
──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。
昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。
原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。
それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。
小説家になろうでも連載してます。
※短編予定でしたが、長編に変更します。
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
アナスタシアお姉様にシンデレラの役を譲って王子様と幸せになっていただくつもりでしたのに、なぜかうまくいきませんわ。どうしてですの?
奏音 美都
恋愛
絵本を開くたびに始まる、女の子が憧れるシンデレラの物語。
ある日、アナスタシアお姉様がおっしゃいました。
「私だって一度はシンデレラになって、王子様と結婚してみたーい!!」
「あら、それでしたらお譲りいたしますわ。どうぞ、王子様とご結婚なさって幸せになられてください、お姉様。
わたくし、いちど『悪役令嬢』というものに、なってみたかったんですの」
取引が成立し、お姉様はシンデレラに。わたくしは、憧れだった悪役令嬢である意地悪なお姉様になったんですけれど……
なぜか、うまくいきませんわ。どうしてですの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる