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44.懺悔

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足取りも重く、祭壇の設けてある会場へ向かう。
祭壇のあるステージの前にはたくさんの生徒達で溢れていた。
ステージを見ると、既に祭壇前には15人の女神が並んでいる。

彼女たちは各々自分が預かった花を入れたバスケットを抱えていた。
その花を祭壇に捧げるのだ。

まず、最初にリーリエ嬢が祭壇に向かう。
溢れるほどの花の入ったバスケットを二つ持って祭壇に近づくと、恭しくバスケット事祭壇に捧げた。そして膝を付き、耳に飾っていた一輪の花―――ビンセントから受け取った花―――を抜き取り、それも捧げると、祈りのポーズと取った。

彼女に続き、他の女神たちも次々と祭壇に花を捧げると、膝を付き神に祈りを捧げた。

祈りを終えると彼女たちは立ち上がり、今度は生徒たちの方向かい、一斉に深々とお辞儀をした。
ワーッという歓声と拍手が巻き起こる。

これで実りのパレードは終了だ。

女神たちはもう一度馬車に乗り込み、聖堂に帰って行く。
聖堂に帰るまで彼女たちは女神だ。
馬車の上から生徒達に手を振って、みんなの歓声に答えている。

僕はクラウディアをずっと見ていた。
辛い思いをさせてしまったはずなのに、彼女は周りにずっと笑顔を振り撒いていた。





僕は聖堂の前で、女神の役目を終えて出てくるクラウディアを待ち構えていた。
もちろん、ビンセントも一緒だ。彼もリーリエ嬢が出てくるのを僕と同様、ソワソワしながら待っている。
彼は純粋に会いたくて会いたくてソワソワしているのだろうけど、僕は罪悪感からソワソワしている。今回のことでディアに呆れられたらどうしよう・・・。

僕ら以外にも、女神たちの知り合いや婚約者らしき令息らが、彼女たちが出てくるのを待っていた。

扉が開くと、そこからリーリエ嬢が出てきた。

「リーリエ!」

「あら、殿下。このようなところで何をなさっているのですか?」

心底驚いた様子でリーリエ嬢が目を丸めた。
いやいや、貴女を迎えに来たのに決まっているでしょう。
そんな彼女の塩対応に、ビンセントはまったく怯む様子など見せない。
リーリエ嬢の元に駆け寄ると、他の生徒がいるのにもかかわらず、彼女の手を取り跪いた。

「リーリエ、君の女神姿は本当に美しかった。星の輝きも月の艶やかさも敵わないほどに。本当の女神が舞い降りたのかと思った」

そう言うと、リーリエ嬢の指先に唇を当てた。

「ちょ、ちょっと、殿下! 大げさですわ」

流石のリーリエ嬢も、いきなりのビンセントの大胆な告白にたじろいだ。
周囲の目が気になるようだ。キョロキョロと周りを見る。
当然だが、みんな二人に釘付けだ。

「大げさなんかじゃない。僕の心臓は止まりそうになったよ!」

〔分かりましたから、殿下、お立ちになって! 王太子様ともあろう方が簡単に跪いてはなりませんわ〕

リーリエ嬢は小声で必死に話しかける。

「いいや、君は分かってない! 君がどんなに美しいか! 僕がどんなに君に恋焦がれているか!」

「なっ・・・!」

僕にとっては茶番劇だが、周りはその光景を色めきだって見守っている。
その中に、祈るように両手を前に組み、目をキラキラ輝かせて凝視しているクラウディアを見つけた。

僕はそっとクラウディアに近づいた。

「ディア」

「あ、カイル様!」

「僕らはあっちに行こう」

「ええ?! 今、いいところですわよ?!」

「うん、そうだね。でも、僕もディアに懺悔しないと」

僕こそ跪いて許しを請わねばならないのに、王子様に先にやられるとは思わなかった。

「え? ちょ、ちょっと、待ってください。もう少しだけ・・・! 殿下の愛の告白が・・・!」

僕は渋るディアを小脇に抱えるようにして、その場から連れ出した。





聖堂の裏手にまで来ると、そこでクラウディアを降ろした。

「どうしたのですか? カイル様」

「どうしたのって、ディア。僕は君に謝らないと・・・」

「謝る? 何をですか?」

クラウディアはキョトンとした顔で僕を見つめた。

「怒ってないの? 花をヒロインに渡したこと」

「あ!」

今思い出したかのように、クラウディアはポンと手を叩いた。
そして、にっこりと僕に微笑んだ。

「怒ってなんていませんわ。だって、あれは事故のようなものですもの」

「本当に?」

「確かにちょっと驚きましたけど・・・。でも、カイル様が真っ直ぐ私を見ながら傍に来てくれたのは分かっていましたから」

そう言うと、少し恥ずかしそうに俯いてしまった。
僕は安堵からはあ~と大きく溜息を付くと、その場に跪き、クラウディアの手を取った。

「事故だとしても、僕の甘さが招いたんだ。君とヒロインが同じ馬車に乗っていることに気が付かなかったなんて」

そうだ。そもそも同じ馬車に乗せないように配慮しなきゃいけなかったのに!

「本当にごめん。君に花を託したかったよ」

僕はそう言うと彼女に甲にキスをした。

「そ、そんな! 謝らないで下さい、カイル様! カイル様は悪くないもの!」

クラウディアは真っ赤な顔で、必死に否定してくれる。

「ありがとう。それと、他にも伝えないといけないことがあるんだ」

僕は立ち上がると、僕はゆっくり彼女の耳元に口を寄せた。
そして、そっと囁いた。

「女神たちの中で君が一番綺麗だったよ」

次の瞬間、クラウディアが視界から消えた。
僕の足元で顔を覆って蹲っていた。



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