41 / 74
41.実りの女神
しおりを挟む
夏が過ぎ、季節は秋になった。
さて、もうすぐ我がクラウン学院の学院祭が催される。
それ向けては専門準備委員の生徒たちがメインで頑張って働いているけれど、僕らも生徒会員として準備に明け暮れている。
そして、この学院祭も僕の魔の行事の一つになるわけだ。
クラウディアから聞いた話だと、ここで僕がやらかす失態は、祭り最後の舞踏会でファーストダンスをヒロインに申し込むことだ。
しかし、それは現実の僕ではあり得ないことなので、あまり心配していない。
それに、流石のセシリアも今の僕との関係性で、自分がダンスを申し込まれるなどとは思ってもいないだろう。
なので、それ以外のところで何か仕掛けてこないか・・・。そこが気がかりだ。と言うより、面倒だ。
秋は正に実りの季節。
その季節に相応しく、学院祭も収穫に感謝の思いを込めた催しになっている。
その最たるものが、「実りの女神」のパレードだ。
実りの女神は九月生まれのご令嬢。
彼女たちに「実りの女神に」扮してもらい、美しく飾った屋根なしの馬車に乗り、(無駄に)広い学院内の敷地をパレードするのだ。
女神は周りの生徒たちに向かってフラワーシャワーを浴びせながら進んで行く。
生徒たちはそんな女神たちに一輪の花を捧げる。女神たちは受け取ったその花々を生徒代表として、最終的に祭壇に捧げるのだ。
この実りの女神に圧倒的に相応しい令嬢が九月生まれにいた。
リーリエ嬢だ。
ビンセントは学院祭の数日前からソワソワして落ち着かない。
「リーリエの『実りの女神』の姿はどれだけ美しいだろう! きっと想像以上なはずだ! 彼女こそ女神に相応しいよ! ああ! 今から楽しみで仕方がない!」
ずっとこの言葉を繰り返している。
分かったからビンセント、仕事して。予算の書類にサッサと目を通して。
珍しくポンコツになっているビンセントに、さりげなく注意をするとハッと我に返り、すぐ書類に向かう。
僕も気持ちは分からなくはない。
なぜなら、僕のクラウディアも九月生まれなのだ。
よって、彼女も「実りの女神」。
ああ、僕の女神! 絶対、誰よりも可愛いはずだ!
内心、僕もビンセントと同じ気持ちを抱えながら、ウキウキと仕事をしていたわけで。
だが、一抹の不安もある。
それは、かのヒロインも九月生まれということだ。
★
学院祭の当日。
見事なまでの秋晴れだ。青い空が清々しく気持ちがいい。
今日一番のメインイベントの「実りの女神のパレード」は学院内の聖堂から始まる。
聖堂の前で美しく飾り立てられた馬車が数台待機し、御者は乗馬クラブの生徒達が担当する。彼らにとっても注目を浴びる晴れ舞台だ。緊張した面持ちで、聖堂から出てくる女神たちを待ち受けている。
僕らは聖堂に一番近い場所を陣取り、女神たちの登場を待っていた。
聖堂の重い扉が開かれた。
ウワーと言う歓声と共に、中から美しく着飾った令嬢たちが15人ほど出てきた。
花で出来た冠を被り、柔らかで優しい風合いのドレスにたくさんの花々が飾られ、まる妖精のようだ。
歓声と拍手の中を、リーリエ嬢を先頭にゆっくりと聖堂の階段を降りてくる。
彼女たちの中でもリーリエ嬢の美しさは際立っていた。
僕はチラリと横に並ぶビンセントを見た。
彼の目はリーリエ嬢に釘付けだった。頬を赤らめ目を輝かせている様子は、改めて恋に落ちた青年の顔だ。
僕は若干呆れながら、女神たちに視線を戻す。
だが、次の瞬間、ビンセントを小馬鹿にした自分を大いに反省した。
列の一番後ろを、小柄ながらも誇らしげに歩く僕の天使が目に入ったのだ。
今の僕は、ビンセントと全く同じ表情をしているに違いない。
他のすべての人々が霞んで見えた。彼女しか目に入らない。彼女だけに光が当たっている様に見える。
僕の天使はなんて可愛いんだ!
ポケーっと見惚れていると、
「美しいですわね、皆さま! リーリエ様は本当に女神のよう! クラウディア様も妖精のように可愛らしいですわ!」
アンドレの隣にいるアイリーン嬢の弾けるような言葉に、僕もビンセントも我に返った。
「・・・殿下もカイル様も、口が半開きになってますよ・・・」
アンドレに小声で注意され、僕らはすぐに顔を引き締めた。
女神たちは御者の生徒にエスコートされながら、五人ずつ一台の馬車に乗り込んだ。
無事に馬車に乗ったのを確認すると、代表の御者が聖堂に向かって大きく手を挙げた。
それを合図に聖堂の鐘が鳴る。
さあ、パレードの始まりだ。
さて、もうすぐ我がクラウン学院の学院祭が催される。
それ向けては専門準備委員の生徒たちがメインで頑張って働いているけれど、僕らも生徒会員として準備に明け暮れている。
そして、この学院祭も僕の魔の行事の一つになるわけだ。
クラウディアから聞いた話だと、ここで僕がやらかす失態は、祭り最後の舞踏会でファーストダンスをヒロインに申し込むことだ。
しかし、それは現実の僕ではあり得ないことなので、あまり心配していない。
それに、流石のセシリアも今の僕との関係性で、自分がダンスを申し込まれるなどとは思ってもいないだろう。
なので、それ以外のところで何か仕掛けてこないか・・・。そこが気がかりだ。と言うより、面倒だ。
秋は正に実りの季節。
その季節に相応しく、学院祭も収穫に感謝の思いを込めた催しになっている。
その最たるものが、「実りの女神」のパレードだ。
実りの女神は九月生まれのご令嬢。
彼女たちに「実りの女神に」扮してもらい、美しく飾った屋根なしの馬車に乗り、(無駄に)広い学院内の敷地をパレードするのだ。
女神は周りの生徒たちに向かってフラワーシャワーを浴びせながら進んで行く。
生徒たちはそんな女神たちに一輪の花を捧げる。女神たちは受け取ったその花々を生徒代表として、最終的に祭壇に捧げるのだ。
この実りの女神に圧倒的に相応しい令嬢が九月生まれにいた。
リーリエ嬢だ。
ビンセントは学院祭の数日前からソワソワして落ち着かない。
「リーリエの『実りの女神』の姿はどれだけ美しいだろう! きっと想像以上なはずだ! 彼女こそ女神に相応しいよ! ああ! 今から楽しみで仕方がない!」
ずっとこの言葉を繰り返している。
分かったからビンセント、仕事して。予算の書類にサッサと目を通して。
珍しくポンコツになっているビンセントに、さりげなく注意をするとハッと我に返り、すぐ書類に向かう。
僕も気持ちは分からなくはない。
なぜなら、僕のクラウディアも九月生まれなのだ。
よって、彼女も「実りの女神」。
ああ、僕の女神! 絶対、誰よりも可愛いはずだ!
内心、僕もビンセントと同じ気持ちを抱えながら、ウキウキと仕事をしていたわけで。
だが、一抹の不安もある。
それは、かのヒロインも九月生まれということだ。
★
学院祭の当日。
見事なまでの秋晴れだ。青い空が清々しく気持ちがいい。
今日一番のメインイベントの「実りの女神のパレード」は学院内の聖堂から始まる。
聖堂の前で美しく飾り立てられた馬車が数台待機し、御者は乗馬クラブの生徒達が担当する。彼らにとっても注目を浴びる晴れ舞台だ。緊張した面持ちで、聖堂から出てくる女神たちを待ち受けている。
僕らは聖堂に一番近い場所を陣取り、女神たちの登場を待っていた。
聖堂の重い扉が開かれた。
ウワーと言う歓声と共に、中から美しく着飾った令嬢たちが15人ほど出てきた。
花で出来た冠を被り、柔らかで優しい風合いのドレスにたくさんの花々が飾られ、まる妖精のようだ。
歓声と拍手の中を、リーリエ嬢を先頭にゆっくりと聖堂の階段を降りてくる。
彼女たちの中でもリーリエ嬢の美しさは際立っていた。
僕はチラリと横に並ぶビンセントを見た。
彼の目はリーリエ嬢に釘付けだった。頬を赤らめ目を輝かせている様子は、改めて恋に落ちた青年の顔だ。
僕は若干呆れながら、女神たちに視線を戻す。
だが、次の瞬間、ビンセントを小馬鹿にした自分を大いに反省した。
列の一番後ろを、小柄ながらも誇らしげに歩く僕の天使が目に入ったのだ。
今の僕は、ビンセントと全く同じ表情をしているに違いない。
他のすべての人々が霞んで見えた。彼女しか目に入らない。彼女だけに光が当たっている様に見える。
僕の天使はなんて可愛いんだ!
ポケーっと見惚れていると、
「美しいですわね、皆さま! リーリエ様は本当に女神のよう! クラウディア様も妖精のように可愛らしいですわ!」
アンドレの隣にいるアイリーン嬢の弾けるような言葉に、僕もビンセントも我に返った。
「・・・殿下もカイル様も、口が半開きになってますよ・・・」
アンドレに小声で注意され、僕らはすぐに顔を引き締めた。
女神たちは御者の生徒にエスコートされながら、五人ずつ一台の馬車に乗り込んだ。
無事に馬車に乗ったのを確認すると、代表の御者が聖堂に向かって大きく手を挙げた。
それを合図に聖堂の鐘が鳴る。
さあ、パレードの始まりだ。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!
甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。
その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。
その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。
前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。
父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。
そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。
組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。
この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。
その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。
──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。
昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。
原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。
それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。
小説家になろうでも連載してます。
※短編予定でしたが、長編に変更します。
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
アナスタシアお姉様にシンデレラの役を譲って王子様と幸せになっていただくつもりでしたのに、なぜかうまくいきませんわ。どうしてですの?
奏音 美都
恋愛
絵本を開くたびに始まる、女の子が憧れるシンデレラの物語。
ある日、アナスタシアお姉様がおっしゃいました。
「私だって一度はシンデレラになって、王子様と結婚してみたーい!!」
「あら、それでしたらお譲りいたしますわ。どうぞ、王子様とご結婚なさって幸せになられてください、お姉様。
わたくし、いちど『悪役令嬢』というものに、なってみたかったんですの」
取引が成立し、お姉様はシンデレラに。わたくしは、憧れだった悪役令嬢である意地悪なお姉様になったんですけれど……
なぜか、うまくいきませんわ。どうしてですの?
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる