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22.お仕事と惚気と

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「この度はご愁傷様、カイル。クラウディア嬢は大丈夫かな?」

会長のいない生徒会室でビンセント殿下が僕に労いの言葉を掛けてくれた。
応接用のソファに腰かけ、アンドレと三人で生徒会の書類に目を通していた。

次期生徒会長は王太子であるビンセントに決まっており、現会長は王子様が生徒会室にいることに居心地の悪さを感じているようで、ビンセントが来ると逃げるように席を外してしまう。
王太子を前にして、会長席にドンっと座る度胸がないのだろう。ましてや指示を出すなんて恐れ多いと思っているのかもしれない。
こっちとしてもそんなヘタレは要らないし、将来的にもそんな奴に王宮の仕事は任せられないね。いいところのボンボンで成績も良いし、期待してたんだけどな。

それより、逃げることで指示を出す以前に仕事丸投げしてるって分かってんのかな?
アンドレなんて切れそうなんだけど。

「恐れ入ります、殿下。お陰様でクラウディアは元気です。もちろんショックは受けたようですが、もう気にしてはいないようです」

「そうか。それは良かった」

礼を言う僕に、ビンセントはホッとしたように微笑んだ。

「これもリーリエ嬢の機転のお陰です。彼女のお陰でクラウディアの面目が保たれましたよ。素晴らしい女性ですね、リーリエ嬢は」

僕がにっこり笑って言うと、ビンセントはぱあっと顔を輝かせた。

「そうだろう! 素晴らしい女性だろう? リーリエ嬢は! 冷たそうな瞳をしているけれど、あの瞳で冷静沈着に周りを観察している。そして、正しいと判断すれば、弱いものに少しも臆せず手を差し伸べることが出来るんだ!」

饒舌に自分の愛しい人を語りだすビンセント。
キラキラした今の顔をクラウディアが見たら倒れちゃうな。

「手を差し伸べながらも、ツンとした顔を崩さない・・・。優しい顔を見せないから誤解を招くことが多いんだよ。でも、僕的にはあの澄まし顔が堪らないんだよね! ツンとしてるくせに、行動はチグハグで・・・」

「分かりましたから、殿下。手を動かしてください。チェックが進みません」

アンドレがプチ切れする。

「いいじゃないか~。少しは友人の惚気に付き合ってくれたまえよ」

「私にはそんな時間はありません」

バッサリと斬られ、ビンセントは呆れたように軽く肩を竦めて見せた。
ここで僕も一緒になってディアの惚気話を始めたらホントに切れそう。面白そうだな。

「私は一時間後には戻らないといけませんので。終わらなかった場合、残りはお二人でお願いしますよ」

・・・仕事するか。





あの後、アンドレは本当にきっちり一時間後に帰りやがり、残りの仕事はビンセント二人で片付けた。

「こんなもんでしょ? あとは先輩方に任せましょう」

ある程度目途が付いた時点で、僕はうーんと伸びをした。
ビンセントも軽く伸びをし、書類を片付け始めた。

「残りを任せて大丈夫だろうか?」

真面目なビンセントは少々不安顔だ。

「正直心配なんだ。今の生徒会は少し管理が杜撰なようだし。先輩方も・・・特に会長はちょっと頼りないと思う。申し訳ないが・・・」

「申し訳ないと思うことは無いですよ。僕も全然ダメダメだと思いますので。もう殿下があの席に座っていいと思ってますよ?」

僕は生徒会長の席を親指で指した。

「降ろしましょうか? 現会長あの男

「言い方! カイル!」

優しいんだから、ビンセントは。

「とにかく、今日はもう帰りましょう。リーリエ嬢がお待ちなのでは?」

「そうなんだ。図書塔で待っているはずだ。彼女は勉強家だからね。僕を待っている間はいつも自習している。一人が好きというのもあるのだろうけど」

リーリエ嬢の話になると優しい笑顔が1.5割増しになる。
本当に彼女のことを気に入っているようだ。

「では、図書塔までお送りします」

二人連れ立って図書塔に向かった。





図書塔に着くと、早速一人誰も寄せ付けないオーラを放ちながら勉強に勤しんでいるリーリエ嬢を見つけた。
僕でさえ近づくのに躊躇するオーラの中を、ビンセントはまったく気にせず、ズカズカ入っていく。

「待たせたね、リーリエ嬢」

「・・・いいえ」

勉強の波に乗っていたのか、もう来たのかという顔でビンセントを迎えるリーリエ嬢。
仮にも自分の婚約者を迎えるのにその顔ってどうなんだろう? それ以前に、一国の王子様ですよ、彼は。

彼女は軽く溜息を付くと、すぐに勉強道具を片付けだした。

「リーリエ嬢。先日はどうもありがとう」

僕も近寄って挨拶をした。
すると、彼女はもう一度溜息を付いて僕を見た。

「何度も結構でございますわ、カイル様。翌日にすぐご挨拶頂けたではございませんか。それに、わざわざ贈り物まで我が家に送ってくださって。有難く頂戴いたしましたけど」

「それだけ、クラウディア嬢がカイルにとって大切なご令嬢という事だよ、リーリエ嬢。」

ニコニコとビンセントがフォローを入れる。

「クラウディア様もクラウディア様ですのよ。お礼はもう十分ですのに。今日などは手作りのクッキーを頂戴しましたわ」

え・・・? 手作りお菓子? 侯爵令嬢に?

「それは・・・、ちょっと行き過ぎかもしれないね。ごめん、リーリエ嬢。でも、彼女はお菓子作りが好きなんだ。貰ってくれるかな?」

「誰も嫌だなど申しておりませんでしょう? 嬉しいのは確かですわ。ですが、過剰な礼は受ける側は負担ですのよ。カイル様からもこれ以上は結構と伝えて頂けますかしら?」

ズバッと言うね、この人。

「うん、分かったよ」

「クラウディア嬢はお菓子作りが好きなんだね?」

ビンセントはホクホクと嬉しそうに笑っている。
これは何かに乗っかろうとしている顔だな。

「ええ。僕にもよく作ってくれます。そりゃ、プロのお菓子には敵わないけど。でも、素朴で美味しいんです」

「手作りって特別感があっていいよね!」

「ええ、貰うと嬉しいですよ」

「いいなあ。羨ましいよ、カイル。ね? リーリエ嬢」

「・・・私に期待なさらないで下さいませ、殿下」

リーリエ嬢はツンとそっぽを向く。
良かったね、ビンセント。多分、彼女はすぐに作ってくれるよ。

そんな風に楽しく話している僕らの背後に、ピンクブロンドの髪がチョロチョロとしていたのは気が付かなかったことにしよう。
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