21 / 74
21.処分
しおりを挟む
「・・・」
「・・・」
「~~~~!!!」
ちょっとした沈黙の後、クラウディアは声にならない悲鳴を上げると、額を両手で押さえて飛び上がった。
「な、な、な、何を・・・!」
真っ赤な顔で僕を見る。
再び涙は吹き飛んだようだ。
「何って、キスだけど」
僕は悪びれなくにっこりと笑った。
「そ、そ、それくらい、わ、わかりますわ! けど、い、いきなり・・・!」
彼女の頭からシュンシュンと湯気が立っている。
「どうして? これぐらいいいでしょ? 僕たちは婚約者同士なんだから」
本当ならその可愛い唇にしたいところなんだけど。
それこそ、そろそろ16歳になろうという男がこれまでよく我慢していたと褒めてほしい。今までずーっと手の甲で我慢していたのは、いつか手放すことになる天使に手を出してはいけないとひたすら抑えていたからだ。
でも、もう手放さないと決めたのだから我慢しなくていいものね。
「で、で、で、でも! 不意打ちは!」
「不意打ちじゃなければいいの? じゃあ、『今からキスするね』って言えばいい?」
僕はゆっくり立ち上がると、額を押さえている彼女の横に座った。
「ディア、もう一度キスし・・・」
「ひゃあああ!!!」
彼女は飛び上がるように立ち上がると、ダダダッと僕から離れてしまった。
そして、真っ赤な顔してこちらに向かって手をクロスしている。
「ま、ま、待って! 待ってください! し、心臓が!」
照れてるのは分かるけど、あそこまで逃げられると軽くショックだよ、ディア。
丁度そこに馬車の到着が伝えられた。
「ディア。帰ろうか」
僕はソファから立ち上がると、遠くのディアに向かっておいでとばかりに手を伸ばした。
だが、彼女は顔を真っ赤にしたまま動かない。
「お、お、同じ馬車ですの・・・?」
「当然だよ、我が家の馬車だもの」
「・・・!」
あはは、警戒しちゃったかな。
僕はワザとらしくしょんぼりと肩を窄めて見せた。
「ディア、ごめん。もう、あんなことしないよ・・・」
「え・・・?」
「君が嫌がるなら、もうキスなんてしないから・・・」
「え? え? そ、そういうわけじゃ・・・!」
「二度とキスなんてしないよ・・・」
「違っ! あの、違いますわ・・・! その・・・」
「だから大丈夫だよ。おいで、ディア」
僕はもう一度、彼女に手を差し伸べた。
彼女の真っ赤だった顔が、逆に少し青くなりながら、オロオロと僕に近寄ってきた。
僕は彼女の腕をそっと取ると、
「さあ、帰ろう。大丈夫、二度とあんなことしない」
寂しそうな顔を彼女に向けた。すると、
「そ、それは、その・・・、そんなのはダメです・・・」
クラウディアはまた少し顔を赤くして俯いた。
「やっぱりダメなんだね、キスしたら・・・」
「ち、違いますわ! 逆です、逆! 逆ですってば! いいんです~~!」
よし、言質取った。
ごめんね、ディア。揶揄い過ぎちゃった。
でも、これでさっきの恐怖はすっかり消え去ったようだ。
★
翌日、僕のやる事は決まっていた。
クラウディアを犯人扱いした生徒二人の謝罪要求と処分。
バナナの皮をポイ捨てした生徒の厳重注意と被害者への謝罪と処分。
ヒロインのクラウディアに対しての暴言の謝罪。
教育指導担当の教員と生徒会長に昨日の事件についての報告書を提出し、相応の処分を仰いだ。
事実無根の罪を公衆の面前で叫び、一人の生徒の尊厳を傷つけた上に、周りの混乱を招いたこと罪は重いこと。
軽い気持ちのポイ捨てのせいで、一人の生徒が多大な被害―――下手をすれば大怪我に繋がりかねない―――を被ったことは見逃せないこと。
被害に遭った生徒も、無実な生徒を犯人扱いし名誉を傷つけ、周りを混乱させたことは、被害者と言え、反省と謝罪をするべきであること。
教員も生徒会長も僕からの報告を受けた段階では厳重注意で終わらせるつもりだったようだ。事なかれ主義の彼らは出来るだけ物事を大きくしたくないのだ。
そして僕は生徒会会員であっても所詮一年生。そんな僕の指図通りに動く必要などないと思ったのだろう。
もちろん、そんなことを僕が許すわけはない。
当然、裏から圧力を掛け、生徒たちの処分が決まった。
令嬢二人は三日間の謹慎処分。ポイ捨て男は二週間の中庭の清掃。
僕のこの学院での力は一部の人間しか知らないからね。
教員も生徒会長も上から下りてきた処分内容に驚いていた。
本当なら令嬢二人は退学にしてやりたかったが、それはやり過ぎだと上から却下された。
しかも一週間の謹慎予定が三日になってたし・・・。甘いよ、学院長。
それでも、この学院で不祥事による謹慎など不名誉極まりない。ましてや名門貴族の令嬢など。これから彼女たちはよっぽど頑張らないとこの不名誉は払拭できないね。将来の婚姻にも関わるから大変だ。
セシリアに関しては、一番の被害者という事でクラウディアへの謝罪だけになった。
噴水に落ちて相当混乱していたはずで、助けようとした人を犯人と思ってしまっても無理はないとされた。
確かに、わざと落ちたわけでは無さそうだった。
それに、セシリアが「物語のヒロインだから退学させたい」なんて言って、僕の正気を疑われたら、僕のすべての立場が危うくなるのでここは目を瞑ることにした。
本当なら、反省文くらい書かせてやりたかったんだが・・・。
「・・・」
「~~~~!!!」
ちょっとした沈黙の後、クラウディアは声にならない悲鳴を上げると、額を両手で押さえて飛び上がった。
「な、な、な、何を・・・!」
真っ赤な顔で僕を見る。
再び涙は吹き飛んだようだ。
「何って、キスだけど」
僕は悪びれなくにっこりと笑った。
「そ、そ、それくらい、わ、わかりますわ! けど、い、いきなり・・・!」
彼女の頭からシュンシュンと湯気が立っている。
「どうして? これぐらいいいでしょ? 僕たちは婚約者同士なんだから」
本当ならその可愛い唇にしたいところなんだけど。
それこそ、そろそろ16歳になろうという男がこれまでよく我慢していたと褒めてほしい。今までずーっと手の甲で我慢していたのは、いつか手放すことになる天使に手を出してはいけないとひたすら抑えていたからだ。
でも、もう手放さないと決めたのだから我慢しなくていいものね。
「で、で、で、でも! 不意打ちは!」
「不意打ちじゃなければいいの? じゃあ、『今からキスするね』って言えばいい?」
僕はゆっくり立ち上がると、額を押さえている彼女の横に座った。
「ディア、もう一度キスし・・・」
「ひゃあああ!!!」
彼女は飛び上がるように立ち上がると、ダダダッと僕から離れてしまった。
そして、真っ赤な顔してこちらに向かって手をクロスしている。
「ま、ま、待って! 待ってください! し、心臓が!」
照れてるのは分かるけど、あそこまで逃げられると軽くショックだよ、ディア。
丁度そこに馬車の到着が伝えられた。
「ディア。帰ろうか」
僕はソファから立ち上がると、遠くのディアに向かっておいでとばかりに手を伸ばした。
だが、彼女は顔を真っ赤にしたまま動かない。
「お、お、同じ馬車ですの・・・?」
「当然だよ、我が家の馬車だもの」
「・・・!」
あはは、警戒しちゃったかな。
僕はワザとらしくしょんぼりと肩を窄めて見せた。
「ディア、ごめん。もう、あんなことしないよ・・・」
「え・・・?」
「君が嫌がるなら、もうキスなんてしないから・・・」
「え? え? そ、そういうわけじゃ・・・!」
「二度とキスなんてしないよ・・・」
「違っ! あの、違いますわ・・・! その・・・」
「だから大丈夫だよ。おいで、ディア」
僕はもう一度、彼女に手を差し伸べた。
彼女の真っ赤だった顔が、逆に少し青くなりながら、オロオロと僕に近寄ってきた。
僕は彼女の腕をそっと取ると、
「さあ、帰ろう。大丈夫、二度とあんなことしない」
寂しそうな顔を彼女に向けた。すると、
「そ、それは、その・・・、そんなのはダメです・・・」
クラウディアはまた少し顔を赤くして俯いた。
「やっぱりダメなんだね、キスしたら・・・」
「ち、違いますわ! 逆です、逆! 逆ですってば! いいんです~~!」
よし、言質取った。
ごめんね、ディア。揶揄い過ぎちゃった。
でも、これでさっきの恐怖はすっかり消え去ったようだ。
★
翌日、僕のやる事は決まっていた。
クラウディアを犯人扱いした生徒二人の謝罪要求と処分。
バナナの皮をポイ捨てした生徒の厳重注意と被害者への謝罪と処分。
ヒロインのクラウディアに対しての暴言の謝罪。
教育指導担当の教員と生徒会長に昨日の事件についての報告書を提出し、相応の処分を仰いだ。
事実無根の罪を公衆の面前で叫び、一人の生徒の尊厳を傷つけた上に、周りの混乱を招いたこと罪は重いこと。
軽い気持ちのポイ捨てのせいで、一人の生徒が多大な被害―――下手をすれば大怪我に繋がりかねない―――を被ったことは見逃せないこと。
被害に遭った生徒も、無実な生徒を犯人扱いし名誉を傷つけ、周りを混乱させたことは、被害者と言え、反省と謝罪をするべきであること。
教員も生徒会長も僕からの報告を受けた段階では厳重注意で終わらせるつもりだったようだ。事なかれ主義の彼らは出来るだけ物事を大きくしたくないのだ。
そして僕は生徒会会員であっても所詮一年生。そんな僕の指図通りに動く必要などないと思ったのだろう。
もちろん、そんなことを僕が許すわけはない。
当然、裏から圧力を掛け、生徒たちの処分が決まった。
令嬢二人は三日間の謹慎処分。ポイ捨て男は二週間の中庭の清掃。
僕のこの学院での力は一部の人間しか知らないからね。
教員も生徒会長も上から下りてきた処分内容に驚いていた。
本当なら令嬢二人は退学にしてやりたかったが、それはやり過ぎだと上から却下された。
しかも一週間の謹慎予定が三日になってたし・・・。甘いよ、学院長。
それでも、この学院で不祥事による謹慎など不名誉極まりない。ましてや名門貴族の令嬢など。これから彼女たちはよっぽど頑張らないとこの不名誉は払拭できないね。将来の婚姻にも関わるから大変だ。
セシリアに関しては、一番の被害者という事でクラウディアへの謝罪だけになった。
噴水に落ちて相当混乱していたはずで、助けようとした人を犯人と思ってしまっても無理はないとされた。
確かに、わざと落ちたわけでは無さそうだった。
それに、セシリアが「物語のヒロインだから退学させたい」なんて言って、僕の正気を疑われたら、僕のすべての立場が危うくなるのでここは目を瞑ることにした。
本当なら、反省文くらい書かせてやりたかったんだが・・・。
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
婚約破棄されたので、意中の人を落とすことにします
瑞多美音
恋愛
「俺は真実の愛を見つけたっ!セレスティーヌ、お前との婚約は破棄させてもらう!!俺はマリッサと結婚する!!」
婚約破棄された彼女は……これで、わたくしが誰を選んでも文句は言わせませんわっ!だって、皆さまが認めた婚約者がアレですから……ふっふっふっ……早速根回しせませんとね。と喜んでいた。
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
【完結】どうやら、乙女ゲームのヒロインに転生したようなので。逆ざまぁが多いい、昨今。慎ましく生きて行こうと思います。
❄️冬は つとめて
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生した私。昨今、悪役令嬢人気で、逆ざまぁが多いいので。慎ましく、生きて行こうと思います。
作者から(あれ、何でこうなった? )
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。
困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。
さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず……
────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの?
────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……?
などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。
そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……?
ついには、主人公を溺愛するように!
────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる