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19.復活
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「本当にすまなかった、ローゼ。すぐにでも離婚の手続きに入るから・・・」
え・・・? 離婚・・・?
「慰謝料もしっかり用意する」
「慰謝料・・・」
「貴女の立場が悪くならないよう最善を尽くすから心配しないでくれ」
「立場・・・」
「・・・今まで傍にいてくれて本当に感謝している。ありが・・・」
「ちょっと! ちょっと待ってください! アーサー様!!」
『離婚』という言葉に固まっていた頭がやっと動き出した。
「いきなり離婚と言われても納得いきませんわ! 一人で勝手に話を進めないで下さいな!」
馬車の中だというのに思わず立ち上がってしまった。
「それに『吸血鬼』などという、非現実的なものを引き合いに出されて離婚を迫られるなんて、納得できるわけないでしょう?!」
いきなり大声を出して立ち上がった私に、アーサーは驚いて目を丸めた。
「離婚? ええ、ええ、離婚はこっちだって考えていましたわよ! でも、それはアーサー様にひどく嫌われていると思っていたからですわ。それこそ、指一本触れるのも嫌なほど嫌われていると! だったら別れた方がお互いの為によっぽどいいと思っていたからです!」
私は驚いているアーサーなどお構いなしに、捲し立てた。
「でも、貴方のお話を聞いているとそうではないですよね? 私は嫌われてはいないようですわね? それなのになんで離婚なんてしなければいけないんですか?!」
「ローゼ! 落ち着いてくれ! 危ないから座って・・・」
「しかも吸血鬼って! 意味分からない! 何? 吸血鬼って?」
「信じてもらえなくても仕方がない。私の狂言と思ってくれても構わない。とにかく座って・・・」
「信じてないなんて言ってません!! 信じますわよ! それこそ狂言で離婚なんて冗談じゃないわ! わっ、きゃっ!」
石にでも躓いたのか。馬車がガクンと揺れた。
その拍子に私はアーサーの上に倒れ込んでしまった。咄嗟のことだったが、アーサーはしっかり私を支えてくれた。
顔を上げると間近にアーサーの顔がある。熱を帯びたその顔に私の顔も熱くなるのが分かった。
「っ!」
アーサーは慌てて顔を逸らすと、私の両肩を掴みグイっと押しやった。そして、顔を背けたまま、ゆっくりと私を前の席に座らせた。
「だから座れと・・・、危ないから・・・」
私の肩からそっと離れる彼の両腕を私はガシッと掴んだ。
「な・・・!」
こちらに振り向き目を丸めているアーサー。私は構わず掴んだ腕をさらに引き寄せた。
「アーサー様!」
私は力強くアーサーの顔を見つめた。
「こんな辛い秘密を打ち明けてくださってありがとうございます。とても勇気がいったでしょう? でも、上辺だけの告白では理解が追い付きませんわ。『吸血鬼だから離婚してくれ』という一言だけではとても納得できません」
アーサーの腕を掴む手に力が籠る。それに反応したようにアーサーの体がビクッと揺れた。
「お辛いと思いますが、もう少し深くきちんと1から説明して頂けませんか?」
私はアーサーの目をじっと覗いた。彼は動揺しているようだが、目を逸らさず私を見つめ返している。
「しっかり説明を聞いて話し合いをして納得できたなら、離婚に応じますわ」
私はアーサーの腕から手を放すと、今度は彼の手を取った。両手でその手を包む。
「ねえ、アーサー様。私を嫌ってはいないのでしょう? ならば、そんなに簡単に私を捨てないで下さいませ!」
「捨てるなんて・・・! そんな・・・」
アーサーは困ったように首を振った。
「いいえ。今のアーサー様の行動はそうですわよ。『吸血鬼だから離婚するね、黙っててごめんね。でも慰謝料あげるから許してね、バイバイ』っておっしゃっているのよ? 分かっていらっしゃる?」
「・・・」
「私だって、『そうかぁ、吸血鬼だったんだ、じゃあしょうがないね~』などと安易に納得するほど間抜けではございません」
「・・・」
「それに!!」
私は手にしているアーサーの手をギュッと握りしめた。
「今の私が・・・、アーサー様に嫌われていなかったと分かって私がどれだけホッとしているかお分かりですか? それなのに、離婚を突き付けられて・・・。また地獄へ突き落すなんてあんまりですわ」
「・・・ローゼ・・・、私は・・・化け物なんだよ・・・?」
「私にとっては、アーサー様が吸血鬼だという事実より、嫌われていなかったという事実の方が大きいのです!」
今、気が付いた。さっきから高鳴る胸の鼓動の意味。
今生の二割のローゼの想いが湧き上がってきている。冷めている前世の八割の私を押し返している。
消えたはずの恋心が戻ってきてしまったようだ。
え・・・? 離婚・・・?
「慰謝料もしっかり用意する」
「慰謝料・・・」
「貴女の立場が悪くならないよう最善を尽くすから心配しないでくれ」
「立場・・・」
「・・・今まで傍にいてくれて本当に感謝している。ありが・・・」
「ちょっと! ちょっと待ってください! アーサー様!!」
『離婚』という言葉に固まっていた頭がやっと動き出した。
「いきなり離婚と言われても納得いきませんわ! 一人で勝手に話を進めないで下さいな!」
馬車の中だというのに思わず立ち上がってしまった。
「それに『吸血鬼』などという、非現実的なものを引き合いに出されて離婚を迫られるなんて、納得できるわけないでしょう?!」
いきなり大声を出して立ち上がった私に、アーサーは驚いて目を丸めた。
「離婚? ええ、ええ、離婚はこっちだって考えていましたわよ! でも、それはアーサー様にひどく嫌われていると思っていたからですわ。それこそ、指一本触れるのも嫌なほど嫌われていると! だったら別れた方がお互いの為によっぽどいいと思っていたからです!」
私は驚いているアーサーなどお構いなしに、捲し立てた。
「でも、貴方のお話を聞いているとそうではないですよね? 私は嫌われてはいないようですわね? それなのになんで離婚なんてしなければいけないんですか?!」
「ローゼ! 落ち着いてくれ! 危ないから座って・・・」
「しかも吸血鬼って! 意味分からない! 何? 吸血鬼って?」
「信じてもらえなくても仕方がない。私の狂言と思ってくれても構わない。とにかく座って・・・」
「信じてないなんて言ってません!! 信じますわよ! それこそ狂言で離婚なんて冗談じゃないわ! わっ、きゃっ!」
石にでも躓いたのか。馬車がガクンと揺れた。
その拍子に私はアーサーの上に倒れ込んでしまった。咄嗟のことだったが、アーサーはしっかり私を支えてくれた。
顔を上げると間近にアーサーの顔がある。熱を帯びたその顔に私の顔も熱くなるのが分かった。
「っ!」
アーサーは慌てて顔を逸らすと、私の両肩を掴みグイっと押しやった。そして、顔を背けたまま、ゆっくりと私を前の席に座らせた。
「だから座れと・・・、危ないから・・・」
私の肩からそっと離れる彼の両腕を私はガシッと掴んだ。
「な・・・!」
こちらに振り向き目を丸めているアーサー。私は構わず掴んだ腕をさらに引き寄せた。
「アーサー様!」
私は力強くアーサーの顔を見つめた。
「こんな辛い秘密を打ち明けてくださってありがとうございます。とても勇気がいったでしょう? でも、上辺だけの告白では理解が追い付きませんわ。『吸血鬼だから離婚してくれ』という一言だけではとても納得できません」
アーサーの腕を掴む手に力が籠る。それに反応したようにアーサーの体がビクッと揺れた。
「お辛いと思いますが、もう少し深くきちんと1から説明して頂けませんか?」
私はアーサーの目をじっと覗いた。彼は動揺しているようだが、目を逸らさず私を見つめ返している。
「しっかり説明を聞いて話し合いをして納得できたなら、離婚に応じますわ」
私はアーサーの腕から手を放すと、今度は彼の手を取った。両手でその手を包む。
「ねえ、アーサー様。私を嫌ってはいないのでしょう? ならば、そんなに簡単に私を捨てないで下さいませ!」
「捨てるなんて・・・! そんな・・・」
アーサーは困ったように首を振った。
「いいえ。今のアーサー様の行動はそうですわよ。『吸血鬼だから離婚するね、黙っててごめんね。でも慰謝料あげるから許してね、バイバイ』っておっしゃっているのよ? 分かっていらっしゃる?」
「・・・」
「私だって、『そうかぁ、吸血鬼だったんだ、じゃあしょうがないね~』などと安易に納得するほど間抜けではございません」
「・・・」
「それに!!」
私は手にしているアーサーの手をギュッと握りしめた。
「今の私が・・・、アーサー様に嫌われていなかったと分かって私がどれだけホッとしているかお分かりですか? それなのに、離婚を突き付けられて・・・。また地獄へ突き落すなんてあんまりですわ」
「・・・ローゼ・・・、私は・・・化け物なんだよ・・・?」
「私にとっては、アーサー様が吸血鬼だという事実より、嫌われていなかったという事実の方が大きいのです!」
今、気が付いた。さっきから高鳴る胸の鼓動の意味。
今生の二割のローゼの想いが湧き上がってきている。冷めている前世の八割の私を押し返している。
消えたはずの恋心が戻ってきてしまったようだ。
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