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10.夜会

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当日、一階のホールで既に用意を済ませたアーサーが私を待っていた。
私は彼から贈られたドレスを着て階段を降りる。
アーサーはそんな私を見上げてホッとした顔をした。

「お待たせいたしました」

「・・・よかった・・・。着てくれたのだね。今朝も朝食に来なかったから、気に入ってくれたか気になっていた」

本当なら今朝の朝食くらい同席してお礼を言えば良かったと思う。だが、もう一緒に食事はしないと決めていたから行かなかった。

「ありがとうございます。私には勿体ないほど素晴らしいドレスですわ」

ここは素直にお礼を言った。

「いや、良く似合っている・・・」

そう言うものの、アーサーはすぐに顔を逸らした。
おいおい・・・、どの口が言ってんだ? よく見もしないくせに、軽口叩くなっての。
思わずシラケた目で彼を見てしまう。

まったく、どういうつもりなんだろう? 無理して歩み寄ろうとしているのだろうか?
それとも、今回だけはラッセン侯爵家に対して体面を保つ為、私の機嫌を取っているのか?
どうも考えが読めない。

折角、自分の好みのドレスで可愛らしく着飾って気分が上がっていたのに、一気に萎えてしまった。それでも、ここまで支度しておいて「やっぱり辞めた」は通用しないし、それ以前に大人気ない。
私は軽く溜息を付いて、アーサーの後に続いた。

アーサーにエスコートされ、馬車に乗り込む。いつもなら彼は私とはす向かいに座り、狭い車内の中、出来る限り私と距離を取るのだが、なんと、今日は目の前に座った。
私は驚いて彼をじっと見つめてしまった。

もしかして本当に歩み寄ろうとしている?

しかし、アーサーはそんな私を一瞥すると、プイっと顔を逸らした。その後はずっと外の景色に見入っている。もう私の方を見ようともしない。

やっぱり気のせいか・・・? 
いや、歩み寄ろうとしているのかもしれないけど、めちゃめちゃ無理してます感が出過ぎて、逆に感じ悪いんですけど・・・。
もう、ホント・・・、シラケ過ぎて言葉が出ない。

私の装いについても、さっき碌に見もせずに褒めたあの一言のみ。
折角15歳の時―――二度目に会った時に初めてもらったプレゼントの髪飾りを付けてきたのに・・・。
そして、この髪飾りがどんなにお気に入りか知っているはずなのに、アーサーは何も言ってくれない。

無意識にこの髪飾りを選んだ自分に呆れる。ドレスを貰って浮かれていたのだろう。
やはりまだ心のどこかにアーサーを慕う気持ちが残っているようだ。

彼の素っ気ない態度にキリッと胸が痛むのと同時に、ムカッという腹立たしさも湧き上がる。
私は平静を装うふりをして、アーサーとは反対側の窓の外を眺めていた。





吐きそうになるほど気まずい空気の中、もう限界と思った頃にやっとラッセン家に到着した。
先に馬車を降りたアーサーの差し出した手を取り、私も馬車を降りる。そのままそっと腕に手を添えるが、自ら出来る限り距離を取って歩いた。

ラッセン侯爵家の邸宅に上がると、すぐに公爵夫妻が出迎えてくれた。

「ようこそお越し下さいました。レイモンド侯爵様、ご夫人も!」

人の良さそうな優しい笑顔に迎えられ、私も自然に笑顔になる。

「こちらこそご招待いただき、ありがとうございます」

アーサーがお礼を言う横で、私も恭しく頭を下げた。

「17歳の誕生日おめでとう。クロード」

ラッセン夫妻の横に立っている青年にアーサーは祝いの言葉を述べた。

「ありがとうございます。アーサー様」

青年は礼儀正しくアーサーに礼を述べる。
そんな本日の主役に私もお祝いの言葉を伝えるべく、頭を上げた。

「おめでとうございます。クロード様」

にっこりと微笑んで心からお祝いを伝えた。それなのに・・・。

「・・・っ!」

彼は一瞬息を詰まらせたと思うと、私から顔を逸らしたのだ。

私は目を丸めた。

嘘・・・。私、この人にも嫌われてる・・・?
ってか、別に大して面識無かったと思うんだけど・・・。

しかし、すぐにクロードは私に振り向いてにっこりと笑った。

「ありがとうございます。夫人」

何事も無かったかのような彼の完璧営業スマイルに私は言葉が出てこなかった。

あれ・・・?
もしかして、私ってアーサーだけでなく、男性陣全般から嫌われるタイプなの?
そんなに不細工? 自分では普通と思っていたし、前世の私から見てもローゼは可愛い顔立ちと思っていたのだけれど勘違い? 私の美的感覚はこの世界では相当ズレてるの?

脱力感に襲われながらも、アーサーと共にホスト以外の目ぼしい人たちへの挨拶をして回る。その度に、

「今日の夫人はいつもと雰囲気が違いますが、変わらず美しいですね」

そう褒められるが、すべて嘘くさく聞こえて、愛想笑いで返すのがだんだんアホらしくなってきた。

一通り挨拶を終えると、いつもならそそくさとアーサーは私の傍から離れていくのだが、今回は私の方が先に逃げ出した。

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