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とぅもろぉ
しおりを挟む「お姉さん、死ぬの?」
少し高めの声が聞こえ、
後ろを振り向くと、
男の子が1人、
私を見ていた
『どうして?』
顔を前に戻し、
彼の質問に答えた
「だって足ブラブラしてるし」
足ブラブラ…
私の足元に地面はない
その代わりと言ってはなんだけど、
数十メートル下では、
車が行き交っている
『今は、座ってるだけ』
真っ青の空を見上げた
「今は?
じゃあ、もうすぐ死ぬの?」
彼は歳に似合わない言葉を並べ続ける
『なに?
そんなに私に死んでほしいの?』
私は相変わらず、
こんな口の利き方しかできない
「ううん、そんなこと言ってないよ」
彼は平然と答えた
『そう
じゃあ、ほっといてくれる?』
わざと素っ気ない言い方をした
「それは、できないよ」
彼の声のトーンが下がった
『どうして?』
さほど興味はなかった
ただ、彼を試したかった
「目の前にいる人が死ぬのは、もう嫌だから」
すごく大人びた声に聞こえた
『…前にもこんな場面あったの?』
これ以上、聞く必要はなかった
単に私が気になっただけの話
「…うん」
『そう…』
一瞬、ここら一帯の空気が無くなった
そんな気がした
「だからね、もし死ぬんだったら
僕がいないところにしてよ」
彼はあるわがままを言った
『そんなこと、
君が決める権利はないじゃん
それに、
どこで何しようが私の勝手でしょ?』
彼に指図される覚えは全くない
「じゃあ、僕の人権はどうなるの?」
彼の容姿に、そんな言葉は似合わない
『それは…』
下手なことは言えないと悟り、
次の言葉を濁した
「ふふ、僕のかちー!」
再度、後ろを見ると、
彼は私に向かって笑っていた
「でもね、僕は絶対に君を死なせないよ」
『え?』
彼が何を言ったのか分からず、
聞き返した
「ううん、なんにもなーい!」
無邪気だと思った
そして、彼はまだ子どもなんだと、
初めて感じた
「ねぇ」
彼が私に向かってそう言った時、
「(ぐぅ~っ)」
彼は自身のお腹に手を当て、
下を向いていた
『…こっちおいで』
私の横へ来るよう言った
彼は赤い耳を隠すように
下を向きながら、
ゆっくりと歩き、
私の隣に腰掛けた
『はい
靴もお菓子も落とさないようにね』
パーカーのポケットから
チョコレートを取り出して、
彼に差し出した
「ありがと」
彼はさっそく袋を開け、
口の中へ放り込んだ
『おいし?』
「うん!」
彼が幸せそうな顔をした後、
少し寂しそうに笑ったことは、
気付かないふりをしてあげた
『さっき何を聞こうとしたの?』
ふと気になり、
彼の顔をのぞき込んだ
「あのね、
お姉さんのこと聞こうと思って」
少し恥ずかしそうにする彼
『私のこと?』
「うん!」
それでも、元気よく返事をしてくれる
『どんなこと?』
私が聞き返すと、
彼は勢いよく顔を上げた
「んーとね!
好きな食べ物!
あ、あと、好きな色も!
でねでね!
あとはー、
犬か猫、どっちが好きかとかー
あ、そうだ!
お姉さんのお名前を聞こうと思ったの!」
彼はどこか楽しそうで…
『ふふ、そっか
で、どれから答えればいい?』
私が答えてくれると分かると、
とても嬉しそうに顔を綻ばせた
「えっとね!
まずは、お名前!」
彼は私の名前を聞くのが楽しみなのか、
どこかソワソワしている
『名前ね、
私の名前は、藍。
黒木 藍。』
「あい?
愛してる、のあい?」
彼は意味をきちんと理解した上で
聞いているのだろうか
『ううん、そうじゃないよ
藍色の「藍」、
なんだけど、分かる?』
彼は分からないのか、
首を傾げた
「あいいろ?
あいいろって何?」
そっか
何かどうかすら分からないんだ
やっぱり彼はまだまだ子どもだ
『色の名前だよ
青色と黒色を混ぜたような色かな…
あ、ほら、
ちょうどこんな色』
私は彼が履いていた靴を指さした
彼の靴は少しボロボロだったけど、
色はまだ、ちゃんと残っていた
「へー、そーなんだ!
綺麗な色だね!」
彼は私を見上げて、
目をキラキラさせた
『綺麗?』
「うん!
お姉さんにぴったりな色だね!」
彼は無邪気に笑った
『あ、ありがと
ねぇ、君は好きな色ある?』
少し照れくさくなり、話を変えた
下を走る車達は先程より数を増し、
彼みたいな子ども達は
そろそろ家路につく時間
「んー、僕の好きな色はねー、
ふふ、あの色!」
彼が自慢げに胸を張って、
指を真っ直ぐ前に突き出した
彼の指した場所見て、
私の顔は簡単に綻んでしまった
『そっか、いい色だね
君にぴったり』
彼に目を向けると、
彼の好きな色に染まっている彼がいた
おそらく、私も染まってる
「えへへ、ありがとう!
ねぇ、お姉ちゃん、知ってる?」
『なに?』
彼の横顔は少し凛々しく見えた
「あの色はね、明日の色なんだって」
よくある、
子ども達だけに分かる何かなんだと
思っていた
『明日の色?』
「そう!
だって、
明日になるために必要な色でしょ?」
けど、違った
私にも、彼の言いたいことが伝わってきた
『明日になるために必要な色、
ふふ、なんかいいかも』
私がそう言うと、
彼は嬉しそうに顔を緩め、
そして、自慢げな顔をした
「へへ、でしょ!
明日はいい日になるね!」
彼は突拍子もないことを口にするから、
何度も驚かされる
『どうして?
何かいいことでもあるの?』
その度に、私は彼に聞き返してしまう
「ふふ、あのね、
いい日になるにはね、
まず、いるものがあるんだよ?」
『いるもの?』
ほら、また
「それはねー、
青空だよ!
青空はね、
見ているだけで心が広くなるんだって!
それにね、天気がいい日は
いっぱい遊べるもん!」
誰が彼に教えたのかは知らない
でも、きっといい人だったんだろう
『そっか、そうだね
明日は、外でいっぱい遊べるね』
「お姉ちゃんも明日、いい日になるね!」
彼は無意識なんだろう
私は、馬鹿みたいに
彼の言葉に左右されたいと思う
『…そうだね』
有言実行、
これは彼の能力かもしれない
「ね?
僕の言った通りでしょ?」
《おわり》
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