上 下
10 / 12

第10話 おどしですわ。

しおりを挟む
 アルガス様が連れていた白馬は毛並みが素晴らしく美しく、本当にお利口なお馬さんでした。

「この子は、人の感情を読み取るのが得意でね、急いでいる時には蹴らずとも早く走ってくれるんだ。サフィアは馬に乗るのは初めてかい?」

「え、ええ。乗り合い馬車ぐらいしか乗った事がないのです。直接馬に乗る訳ではなく荷車に乗っているので、体感がこんなにも違うのですね」

 思ったよりも揺れて強い振動がある。原生林を駆け抜ける白馬から落ちないようにアルガス様のフルメイルが装着された背中にひっしと抱き着く。
 とても近い距離に鼓動が早くなる。アルガス様はとても良い匂いがする、お花のような密のような甘い匂いだ。
 普段なら妄想が止まらないわたくしですが、今は妄想している場合ではないので意識をしっかりと保つ。

「間もなく、森を抜ける。村も近いぞ」

 アルガス様の勇ましい声がそう告げる。

 ¥

「いんや~そうは言われてもねぇー。部外者には売るなって村長が決めてるもんでなー」

 モックの村に着き、駆け込むように調合士が経営する毒消しポーション専門店に入る。
 店内の棚には様々な毒に対応出来る、毒消しポーションがずらーっと並んでいた。
 ダイダラスネークの毒に聞くポーションを発見して喜び勇んでカウンターに持っていった所、そう言われた。

「いや、しかし、急を要しているのだ。わたしはバブルブルグ騎士団、騎士団長のアルガスと申す。何とか売ってもらえないだろうか」

 アルガス様が頭を下げる。

「パプルプルル? 聞いた事ねぇーなぁー。まぁいずれにしても売れねぇもんは売れねぇから、諦めておくんなす」

 キレそうになりました。アルガス様が頭を下げて頼んでいるというのに。
 そして田舎過ぎる為に、バブルブルグの事を知らないという驚きぶり。空いた口が塞がりませんわ。

「村長さんにお話しをつけてきます!」

 カウンターに両手を叩きつけて凄むと、調合士のお婆さんは「ほえー」と気の抜けた返事を返す。
 わたくしは踵を返して村長の家に向かいます。

「しかし、頭の固い人だな。田舎は閉鎖的だと聞いていたが……」

「大丈夫ですわ、アルガス様。わたくしに考えがございます」

 村長の家の木戸を勢い良く開く。

「たのもー!」

 わたくしは声を張り上げて村長を呼ぶ。

「何事じゃ」

 いかにも頭の固そうな、古臭い考えに取りつかれていそうな顔をした、白髪の老人が出てきます。

「あの、こちらの村では部外者にはポーションを売らないという裏ルールがあるようなのですが本当でしょうか?」

「本当じゃ」

「それは何故ですか」

「部外者をこの村に呼び込みたくないからじゃ。人が集まれば災いが起きるからのぅ」

 何て古い考えなのかしら。

「災いなんて、起きません。人間はモンスターではないですから理性があります。ポーションが売れればこの村だって繁盛して繁栄します。そんな古い考えは捨ててわたくしどもに毒消しポーションを売ってもらえないでしょうか?」

「無理じゃ」

 カチン。
 押してだめなら引いてみろですわ。

「村長さんは災いを恐れているのですね?」

「そうじゃな、災いとモンスターはワシの天敵じゃ」

 なるほど、ならば。

「わたくしがそのモンスターを呼び寄せる事を得意とする人物だとしたらどうしますか。村をいくつも壊滅に追い込んでいます。もし毒消しポーションを売ってくれなければこの村を滅ぼします」

「ふんっ、小娘風情が脅しなどワシには通じんぞ。諦めて帰るんじゃな」

「ビーストソング!」

「さ、サフィア!」

 アルガス様が驚いた声を上げる。その声に続くように

「はぅあーっ!」

 ゴブリンに囲まれた村長が腰を抜かして尻餅をつく。

「どうです。売ってくれますよね」

「わ、解った! いくらでも売ろう。じゃから、頼むからこのゴブリンをなんとかしてくれ!」

 ¥

「まぁー、あの頭の固い村長が許可を出すなんて、あんた達どんな恐ろしい手を使ったんだね」

「特には何もしていませんよ。しいて言えば可愛さアピールぐらいです。その点、女の子は得ですね」

「ほえー、そうかい。でもあんたで魅力にかけるけんども」

 カチン。
 でも特製の毒消しポーションを売ってもらえる事になったので穏便にすませます。

「これがダイダラスネークの毒に聞く、毒消しポーションだ。1日3回、朝・昼・晩とこの専用の吸出しでお口に入れてやっておくんなまし」

「ありがとうございます調合士さん!」

「恩に着ます」

「気ぃーつけてなー、お若いお二人さん」

 わたくしとアルガス様は満面の笑みで毒消し専門のポーションショップを出ます。
 毒が回り切るまで残り2日。
 お利口なあの白馬にとってはいとも容易い時間でしょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...