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第6話 お食事ですわ。

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「モンスター製造機のお姉さん、ここら辺に2、3体出してー」

「はい喜んで! ビーストソング!」

「製造機のお姉さん、ボクの所にもお願いします!」

「はい喜んで! ビーストソング!」

 少年騎士見習いの皆にはモンスター製造機というあだ名をつけられました。
 もはや、聖女とは何なのだろうという状態なのですが、この力を使う事でアルガス様が喜ぶのならそれは素晴らしい事なのです。

「ふぁー今日も疲れたー」

「製造機のお姉さんもお疲れ様ー」

 アルムくんとアラムくん双子の少年騎士見習いが、わたくしの側でぐったりと横になる。
 うふふ、この子達はまだ可愛げがあるわね。あいつとはえらい違いだわ。

「アルムくん、アラムくんお疲れ様です。良く頑張ったわね」

「うぃー。あんがと」

「今日の夜ご飯なんだろ?」

「うーん、アルガス様なんでしたっけ?」

 少年騎士達の訓練を恍惚とした表情で見守っていたアルガス様が、ハッと表情を引き締める。

「今日は肉だよん☆」

「お肉ですって!」

 アルムくんとアラムくんに報告します。

「わーい、お肉ー!」

「肉、肉、肉ー!」

 うふふっ。年頃の男の子だからお肉が好きなのね。

「サフィア、わたしは調理場を手伝ってくる。マイスイートハニーボーイ達を頼んだぞ」

「ええ、かしこまりました」

 こんな感じで、沢山の子供をアルガス様と育てている気分も味わえて、サフィア絶好調状態なのです。
 あいつがいなければですが……。

「いいよな意識低い奴らは、食う事と休む事しか考えてないんだな」

 石畳みの床で涼をとっていた、アルムくんとアラムくんが起き上がって、モスクに抗議します。

「なんだよその言い方!」

「そうだよ! そんな言い方しなくたっていいだろ!」

「まぁ怒んなよ、事実だけど。単純にお気楽で羨ましいなって思ったんだよ」

 モスクが鼻で笑います。
 まーた捻くれが始まったのかー、とわたくしは溜息交じりにアルムくんとアラムくんに耳打ちします。

「気にしちゃだめよ。モスクは口が悪いから」

 わたくしの耳打ちに、アルムくんとアラムくんが首を傾げます。

「モスクは口は悪くないよ。ね?」

 アルムくんがアラムくんに同意を求めます。

「うん、それは確かにそう。嘘はつかないし言ってる事も悔しいけど正しいんだよね。モンスター製造機のお姉さんが来る前は野外訓練があって、アルムとはぐれちゃってボクモンスターに囲まれちゃった事があるんだ。モスクがすぐに気づいて助けてくれたんだけどね」

「へぇーそうなのー」

 モスクの意外な一面を知る。

「もしかしたらなんだけど……」

 アラムくんが眉をひそめて、わたくしに耳打ちをします。

「多分モンスター製造機のお姉さんの事が、好きなんだと思う」

「ヒェッ?」

 驚いて喉から変な声が出てしまう。

「良くいるでしょ、好きな女の子いじめる子。モスクはそのタイプなんだと思う。普段は仲間に嫌味言うタイプじゃないんだ。ボク達がお姉さんと話してたから嫉妬したんだと思う」

「ホエッッ! そ、そうなの!?」

「うん、間違いないよ」

 アラムくんが真剣に頷く。
 なるほどね、アルガス様に続いて、モスクまでもがわたくしの虜というわけね。
 モテル聖女は辛いわー。
 さっそくモスクをからかいにいかなくては。

「モスクちゃん、ちょっといいかしら?」

 皆が休憩している中、一人素振りの練習をするモスクの隣に怪しげな笑みを浮かべながら近寄ります。

「なんだよ、気持ちの悪い声だして」

 うふふ、素直じゃないのねモスク。
 まだまだお子ちゃま。大人の女の魅力を知らないのね。

「ふーなんだか、暑いわー。ちょっと脱いじゃおう」

「わっ、太っとい二の腕」

 カチンときたけど、わたくしは気にせずに続ける。

「モスクちゃんも素振りしてないで、わたくしの隣で休憩したらどうかしら? この美しい美脚の上で膝枕ぐらいさせてあげてもよろしくてよ」

「だれがそんな臭そうな膝の上で休憩なんかするかよ。稽古の邪魔だからあっちいってろよ」

 チッ、引っかからなかったわね。
 それにしても何が臭そうよ失礼ね。
 アラムくんが言った事は本当なのかしら? わたくしは段々と半信半疑になってくる。

「モスク、今日の夜ご飯はお肉だって」

 一心不乱に素振りをするモスクの耳元で呟くと、ビクッとモスクが身体を硬直させる。恥ずかしそうにそっぽを向くと

「そ、そんな事耳元でささやくなよ!」

 と怒る。

 ――そんな怒る事でもないのに、どうしたのかしら?

 まぁ、いいわ。
 今頃アルガス様は調理場であの白くて美しい指先で調理を手伝っているのね。
 そんな想像にうっとりしてしまう。
 料理が出来る旦那様も素敵だわ。
 もうすぐ夕食、お城での生活にも少しずつ慣れ始めていた。

 ¥

「はーい、それじゃあ、いただきます!」
 
 いただきます! 少年騎士見習いの皆が、声を揃えてアルガス様に続く。
 お楽しみのお食事タイム♪ 何よりもタダ飯だというのが嬉しいわ。
 高貴な白いお皿に盛られたお肉は分厚くて、とても艶やか新鮮そのもだわ。お肉には甘い香りのするソースがかかっていて思わずヨダレが垂れそうになるわ。
 その横には調理長こだわりの手作りパンと、お豆のサラダ。デザートはスライムの形をしたケーキ。
 わたくしは上品な手つきで、お皿の脇に添えられた半分に折られた羊皮紙を開いて本日のメニューを確認する。

 本日のお品書き
 ●ヤマテコウサギのソテー(ハニーソース添え)
 ●シェフのこだわり異世界酵母パン
 ●テグテグ(山豆)のサラダ
 ●スライムケーキ・バブルブルグ風味
 ●葡萄酒(飲み放題・大人限定)

 お品書きの最後の葡萄酒という欄に釘付けになる。
 うふふ、なんと嬉しい事に葡萄酒が飲み放題なんですの!
 これはわたくしにとっては最高の幸せ。
 
「ちょっと、席を外しますわ」

 飲みすぎている事がバレないようにそっと席を外す。
 それに目ざとく気づいたモスクが驚愕の表情を浮かべる。

「え、またいきなり葡萄酒を飲むのかよ! まず食ってからじゃないのかよ」

 ――チッ、目ざとく気づきやがりましたわね。

 アルガス様の様子をチラッと窺う。
 アルガス様は、見習い少年騎士達との会話に夢中でこちらの様子は微塵も気にしていない様子だった。

 ――ほっと一安心ですわ。でも、動向を全く気にされていないのもそれはそれでショックですが……。

「お子ちゃまだから知らないと思うけれど、食前酒というものがあるの。大人のたしなみよ」

 わたくしはグラスを片手に立ち上がろうとする。

「とか、なんとか言いながら、いっつも5杯ぐらい飲むじゃん」

 と呆れたようにモスクが笑う。

「うるさいわね。実家にいた頃は食前酒は10杯は飲んでたのよ、これでも控えてるの」

「10杯!? 完全にアル中じゃん。団長に報告しちゃおっ」

「ちょまっ!? モスクちゃんそれだけは勘弁して、ほらお姉さんのスライムケーキあげるから!」

 モスクにスライムケーキをあげる。

「へへっ、ラッキー」

 それを目ざとく見ていた他の団員が「あー! モスクだけずるいっ!」と頬を膨らませる。
 あれはちょっとぽっちゃりしていかにも食べる事が好きそうな、名前は確かハロルド。

「そうね贔屓は良くないわね。ハロルドもこれ食べていいわよ」

 ヤマテコウサギのソテーをハロルドにあげる。

「わーいあんがと!」

 へへへっ、ハロルドが肉を頬張る様はとても絵になっていました。
 ふと、目の前に座っていた少年と目が合います。
 あれは確か……、肉が苦手な草食系少年騎士見習いの……。

「メリックです……」

 わたくしの心を見透かしたようにそう呟く。

「あ、ああ。メリック、そうだったわ。名前を忘れていたわけじゃないのよ」

 うふふ、と取り繕って笑う。

「どうしたの、じっとこちらを見て」

「ボク野菜しか食べられないんです、あとは豆とか」

 ――それは遠回しにテグテグのサラダをよこせという事なのね……。

「よ、よかったらお姉さんのサラダどうぞ」

 テグテグのサラダをメリックにあげる。

「……ありがとうございます」

 ちょっと暗いけど礼儀の正しい子ね。
 さっ、葡萄酒を……。

 ――はっ!?

 またもや目が合った子は、パン好きの少年騎士見習い、確か名前は……。

「ミルです」

 またもや見透かしたかのように名前を伝えてくる。

「ボク、ご存じの通りパンが好きなんです。特に異世界酵母パンはこの城でしか食べられないんです。異世界酵母はどうやら城のシェフの自家製らしくどこに行っても手に入らないんですよ。ボクはこのパンが食べたくてバブルブルグの見習い騎士に志願したくらいですから」

 ――素直に欲しいといえんのかーい!

「良かったらお姉さんの異世界酵母パン上げるわ」

「ほ、本当ですか!?」
 
 メリックに異世界酵母パンをあげる。
 やっぱりまだ子供ね。皆食べる事が大好き。
 そりゃー、食べる事はわたくしも好きだけれど大人だし譲らないわけにはいかないわ。
 自分のテーブルの手元には空のグラスだけが残っている。
 そういえば城に来てからいつもこの光景だわ。
 夜は葡萄酒オンリーの日々が続いている。
 でも、ダイエットにもなるし、昼はがっつり食べているからいいわ。
 わたくしはグラス片手に立ち上がり葡萄酒コーナーに向かう。

「あら、サフィアちゃん本日1杯目の葡萄酒?」

 とメイドのメシアさんに微笑まれる。

「うふっ、いつものお願いしますわ」

「はいはい、ちょっと待っててね」

 葡萄酒樽の蓋を開けて、わたくしのグラスに葡萄酒を注いでくれる。

「はい、お待ちどうさま。バブルブルグ5年熟成葡萄酒よ」

「はわっメシアさんそんな、なみなみと、ありがとうございます!」

 メシアさんはわたくしがかなり飲む事を知っていていつも、なみなみと注いでくださる。
 しかも飲み放題の葡萄酒は5年熟成もの、葡萄酒は熟成期間が長ければ長いほどお高くなる。
 良くある飲み放題の葡萄酒は半年~1年熟成のものが多いので、5年熟成が飲み放題なんて嬉しすぎます。
 葡萄酒は熟成期間が長い程渋みも増すけれど、その分甘みとアルコール度数も増す。
 アルコール度数が高い方が好みなので嬉しいですわ。
 わたくしはその場で一気に飲み干す。

 ――くぅー、疲れた体に染み渡る味ですわ。

「あはははっ、サフィアちゃん今日もいい飲みっぷりねー」

 お代わりにくるのが面倒くさい事もあって、いつも一杯目は立ち飲みで飲み干す。
 そんなわたくしを行儀が悪いと叱る事もなく、笑って褒めてくれるメシアさんがわたくしはとても好きだ。

「はい、おかわりね。ちょっと待っててね」

 そう言って、メシアさんはわたくしからグラスを受け取ると、お代わりの葡萄酒を注いでくれる。

「飲み放題だから何杯でもお代わりしにきて頂戴ね」

「ありがとうございます! メシアさん」 

 わたくしはメシアさんにお礼を言って、なみなみと葡萄酒が注がれたグラスを片手にテーブルに戻る。

「すげぇーな立ち飲みって、ここは酒場じゃなくて城だぞw」

 モスクが早速茶々を入れてくる。

「ふんっ、知ってるわよそんな事。何度も往復するのが面倒だから一杯目は立ち飲みする事に決めてるの大人の知恵よ」

「ただの、だろ」

「うっ……」

 的を得ているので言い返す言葉が出てこない。

「あんた、わたくしが美味しそうに葡萄酒を飲んでいるのが羨ましいんでしょう? 大丈夫よ成人すれば嫌ってほど飲めるわ」

 くいっとグラスを傾けて一気飲みする。
 
 ――くぁーっ、この喉が焼ける感覚たまらないですわ。

「俺は……酒とか飲みたくない」

 珍しく勢いのない返答が返ってくる。

「あら、どうして?」

「嫌いだから」

「嫌い? お酒が嫌いなの?」

「違う、酒飲む人が」

 モスクがそう言って黙りこむ。

「それは遠回しにわたくしの事が嫌いと言いたいのかしら?」

 いつも通りの嫌味なんだと思って、冗談めかして聞いてみる。

別に嫌いじゃない」

 意外な返答でした。

「あら、そうなの」

 ふーん、可愛い所もあるんじゃないと思って葡萄酒のお代わりに行こうと思った所で

「ご馳走様でした」

 とアルガス様の声が聞こえてきました。
 え、ちょ、まっ、どういう事ですの!?
 まだわたくし2杯しか葡萄酒を飲んでいないのに。これからが本番なのに……。

「どうしたサフィア驚いた顔をして」

 アルガス様が心配そうに声をかけてくる。

「なんだかいつもより、お食事(飲酒)の時間が短い気がして……」

「そうだよ、説明してあっただろう。今日は特別強化訓練日だって」

「はっ!? そう言えば今朝自室にアルガス様が迎えにきた時に」

 『サフィア、今日はマイスイートハニボーイ達の特別強化訓練日だから夕食の時間が短いんだ。いつも葡萄酒のお代わりを沢山しているようだけど、夕食時間が短いから今日は早めに飲んだ方がいいよ』って爽やかな笑顔で言われたんでしたわ!
 大失態ですわ。わたくしとした事が、たったの2杯で幕を閉じるとは……。

「まぁ、たまには禁酒も必要だろ」

 とモスクが呆れたように呟いたのでした。

 ¥

「モンスター製造機のお姉さん、さようならー」

「モンスター製造機のお姉さん、ボク達帰りまーす」

「モンスター製造機のお姉さん、今日は葡萄酒あんまり飲めなくて残念だったねー」

「はーい、さようならー皆気を付けてねー」

 ううう……。少年達に飲酒量を心配されるわたしって……。
 見習い騎士の少年達はなんだかんだで擦れた所がなく可愛い。
 食事も共にしているせいか、心なしか家族のような絆がはぐくまれてきている。
 わたくしには姉がいるけれど、兄弟が多い子達が羨ましかった事がある。
 だからなのか、城での生活はなんだかんだとても楽しくて充実している。

 ――さ、アイツの相手でもしてやりますわ。

 城の2階の中庭を回り込んで、城の裏側の石畳みを歩く。
 外の風は少しヒンヤリとしていて、何処からか野鳥の鳴き声が聞こえてくる。
 わたくしは躓かないようにローブの裾を持ち上げて、石段を上り鉄扉を開く。
 ギィーっと重い音を立てて扉が開く。
 松明が炊かれた訓練所に一心不乱に素振りをする少年がわたくしに気づいて

「ちっ、また邪魔しに来たのかよ」

 と悪態をつく。
 でも知っている、誰よりも練習熱心な事。そこだけは本当に評価している。

「えらいわね、こんな遅い時間に自主的に訓練して」

 ブンッ、ブンッ、と規則的に模造の剣が空を切る音が聞こえてくる。

「全然偉くなんかねぇよ、自分の為だしな。俺はあいつ等みたいにねぇーし」

 ブンッ、ブンッ、と模造の剣を振りながらモスクが答える。

『実はモスクは元孤児でね。村で行われた武術大会で優勝した実績がありわたしがスカウトしたんだよ』アルガス様の言葉が頭をよぎる。

 ――ああ、そう言えばこの子には帰る場所なかったわね……。

 不憫に思うのは違う気がしました。親がいない子は他にもいるし、巡礼先で反逆ギルドに目の前で親を殺された経験を持つ子供の、体験談を聞いた事もある。
 不幸な子供は沢山見てきた、必然的にそういった子達と関わらなければいけないのが聖職者なのだとも思う。
 だから、わたくしは臆する事なく聞く。

「モスクのお母様とお父様はどんな人だったの?」

「!?」

 意表を突かれたような表情のモスクは、素振りの手をとめてこちらを向く。

「普通、そんな事聞くかよ」

「どうして、聞いてはいけないの。知っておきたいと思ったのよ。あなたも私にとっては家族同然だから」

「知るかっ」

 モスクがそっぽを向く。
 しばらく黙り込んでいたけれど、小さな声で話し出す。

「親父は元冒険者。母親は聖女」

「まぁ、そうなの!」

 意外な事実だった。父親が冒険者である事はありがちな事だけれど母親がレアジョブである聖女である事は本当に珍しい。
 特に最近は考え方が変わってきたけれど、少し前は聖職についている身で結婚なんて不謹慎だと言われていた。
 神に命も身体も捧げるのが聖女だと声高に信じられていたのだから正直ゾッとする。

「聖女って言っても母ちゃんは神殿から追放されたんだ……」

「どうして?」

「父ちゃんと駆け落ちしたから」

「まぁ、素敵じゃない」

「素敵な訳あるかよ、普通の聖職者はそんな事しねぇよ」

「そうかしら」

 わたくしは自分の今の状況に当てはめる。
 神殿を継ぐ為に修行の旅をしているけれど、アルガス様との結婚をお父様に反対されたら間違いなく駆け落ちすると思った。

「さっき酒は嫌いだって言っただろ」

「ええ、言ってたわね」

「父ちゃんは……」

 モスクが黙り込む、言いずらそうにしばらく黙り込んだあと、ポツっと

「酒に酔った状態でクエストに挑んで死んだ……」

「……」

 かける言葉が見つかりませんでした。
 それはお酒が嫌いになっても仕方ないわ。
 しかもあんなに喜々として葡萄酒を飲もうとしていたわたくしに対してモスクは笑っていたけれど……。
 モスクの気持ちを考えると禁酒をした方が良いのではないかという気持ちになる。

「母ちゃんは父ちゃんが死んだ後、自暴自棄になって俺を捨てて反逆ギルドに入った」

「!?」

 反逆ギルドは、裏では闇ギルドとも言われている。
 普通の冒険者では絶対引き受けないような仕事。暗殺・復讐なんかも喜んで引き受けるから一部の富裕層に重宝されている。

「だから、俺強くなって反逆ギルドから母ちゃんを取り戻したいんだ」

 再び素振りの練習を始めるモスク。
 その懸命な姿にわたくしは何と声をかけていいのか解らなくなってしまいました。

 ――この子には目標があるんだわ。

 だからこそ、そのひと振りに並々ならぬ思いが込められているんだ。
 わたくしは胸の前で手を組むと、モスクに気づかれないようにモスクの幸せを祈ったのでした。
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