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第4話 少年騎士団……ですわ。

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「なるほど、そうゆう理由があったのか。モンスターを呼び寄せる加護……なかなかに興味深い」

 アルガス様は納得したように頷き、マスターから出された感謝の葡萄酒に口をつけます。

「本来ですと加護は、モンスターを遠ざけるものなんですけれどね」

 と、わたくしは苦笑する。

「でも助かったわぁ~さっすがアルガスちゃん」

 マスターがアルガス様に向かって拍手する。

「で、お嬢ちゃん……」

 マスターの猫なで声が豹変する。
 
「これはどうしてくれるのかしら?」

 マスターが向けた視線の先にはモンスター達が破壊したテーブルと椅子が散乱している。

「うふふ」

 笑ってごまかすけれど、マスターは見逃してはくれなかった。

「弁償してもらうわよ! 言わせてもらうけど、この椅子とテーブルは特注で安い物じゃないのよ。ざっと見積もっても5万ベルは支払ってもらうわよ!」

「えぇー!!」

「えぇー!! じゃないわよ!」

「ううう……。仰る通りですけれど5万ベルだなんて、わたくしは修行中の身でして、収入を得る先もなく……」

「そんなのあたしの知った事じゃないわよ! あんたが撒いた種でしょう? 一応成人してるんだから自分のケツぐらい自分で拭いなさいよ」

 厳しいように聞こえるけれど本当の事だわ。
 わたくしの頭に大神官のお父様の姿がよぎる。
 寡黙だけれど、仕事熱心な父。
 数多の国を巡礼しそれぞれの国の平和と繁栄、国民の健康を祈る日々。
 決して大きなお布施を受ける事なく、贅沢ではないけれど貧しくもない日々を送らせてくれた父。
 そんな父に5万ベルだなんて大金借りる事は出来ないわ。

「さぁ、今すぐに払えないっていうんなら、払い終わるまでここでただ働きしてもらうわよ!」

 ガーン。
 ただ働き。
 何年で返せるのかしら。

「まぁ、まぁ、カイロス。彼女だってわざとやったわけではないのだろう。許してやってくれ」

「そうは言ってもよーアルガス。俺だって脱冒険者して、しこたま貯めた金でこの店をOPENさせたんだぜ。俺にとっちゃあこの店は宝なんだ。だから娘には脱いでもらってでも金は返してもらうぜ」

 マスターがいきなり男口調になっていてびっくりしました。
 そして更なる事実が明るみになるのです。

「昔は一緒にパーティーを組んでいた仲じゃないかカイロス」

「まぁ、そうだけどよー」

 アルガス様もカイロスさんも元冒険者……。
 優秀な冒険者がスカウトされて、城の近衛騎士団に入団する話は聞いた事がある。
 勿論誰でもなれるわけではなく、Sランク冒険者である事は大前提だけれど、確か血筋や素性等も調べられるとか。

「まぁ、カイロスの気持ちも解るしな。よしっ、その5万ベルわたしが肩代わりしよう」

 え? 今なんて?
 わたくしは驚きアルガス様を見やる。

「本当ですか!?」

「ただし……」

 アルガス様はニコッとほほ笑み

「私達バブルブルグ騎士団の専属聖女になってもらう」


  ¥


「サフィア・エメラルド。汝に本日付けで、我がバブルブルグ騎士団専属の聖女になる事を命ずる。異論はないな」

「は、はい勿論でございます!」

 金色の王家の紋章が刺繍された豪華な赤絨毯。その赤絨毯が敷き詰められた先には王座が3つ。
 
 ――きっと王様と王妃、それから王子、または王女の王座ね。

 夢のような展開だわ。
 わたくしは今国王より、専属聖女になる命を受けたのです。
 そして国王の目前に跪くのは……。

「異論はないな騎士団長アルガスよ」 

「はっ、勿論でございます!」

「サフィアよ、我が国の更なる繁栄、そして国民の平和を守る為にそなたの加護の力期待しておるぞ」

「ありがとうございます! 国王様」

 わたくしは深々と頭を下げる。

「アルガス、サフィアを部屋へ案内してやりなさい」

「はっ!」

 アルガス様が直立して頭を深く下げると、わたくしを先導します。

「サフィア参るぞ」

「は、はいっ!」

 サフィアだなんて、うふふ。
 たまらないわ、もう名前で呼ばれちゃった、うふっ。
 実はアルガス様に専属聖女にって口説かれた時に思ったのだけれど、もしかしたらわたくしに惚の字なのかしら?
 ぐふふっ、ダメだわ、妄想が止まらないわ。
 騎士団長アルガスが聖女サフィアの部屋を訪れる。それも城の関係者が寝静まった真夜中……。
 どうゆう事!? サフィアは抑えきれない胸の鼓動を止める為、小さなお胸の前で手を合わせ、サフィアは考える。
 アルガス様ったら、こんな夜中にわたくしの部屋を訪れて、どうされたの?
 もしや夜這い!? だめよっ、アルガス様聖女は純潔を保たなければいけないの、だめったらだめよ、なーんてね。ぐふふっ。

「どうしたサフィア? なにやら思いつめた顔をして」

「い、いえ何でもないですわ」

 わたくしは笑顔で将来の旦那様である事が確定している、アルガス様に話かけます。

「どんなお部屋なのかしら、お城はとても広くてサフィア迷ってしまいます」

 自分の事を名前で言ってみて、ちょっとかわい子ぶってみる。
 うふふ、ぶりっ子作戦開始よ。
 アルガス様はなんだかんだ言ってわたくしにメロメロなのよ、けれど表情一つ変えずにクールだわ。
 大人のオ・ト・コって感じね、ぐふっ。
 でも、夜のご馳走はサフィアだよなんて言うのね。ぐふふふっ。

「ここがサフィアの部屋だよ」

「まぁ!」

 わたくしは驚いて開いた口が閉じられませんでした。
 お花が刺繍された薄ピンクのカーテン、4箇所もある出窓からは外からの眩い光が差し込んでいます。
 出窓には色とりどりの素敵な花が飾ってあり、お部屋の中央にあるキングサイズのベッドには天蓋が取り付けられていて、その天蓋には淡いブルーのカーテンが吊るされていました。
 なんて素敵な部屋なのかしら。あの天蓋ベッドに取り付けられているカーテンは夜の情事秘め事カモフラージュ雲隠れするもの(確定)なのね、ぐふふ。

「どうだい、気に入ったかい」

 ニッコリと微笑むアルガス様に向けて

「はい! とても」

 とても気に入りましたわ。
 ここが、わたくしとアルガス様二人の新居なのね(確定)。
 子宝に恵まれ、そして子供達も騎士に。
 名前はアルフィア。アルガス様とわたくしサフィアの名前を足した、いいとこどりの立派な子供騎士。
 そして女の子を授かったら、名前はルフィア。これもアルガス様のル、とサフィアの、フィアを足してみたいいとこどりの小さき少女聖女。
 素敵ね。家族って素晴らしいわ。
 どう転んでも素敵な人生にしかならないじゃない。
 きゃっ、どうしましょう。
 幸せすぎるわ。ぐふふ。
 もはやパーティー追放とか、ざまぁwとか、むしろどうでもよくなってきましたわ。
 神様がきっと、ちっぱいで苦労したわたくしに、そろそろ幸せになりなさいと言っているんだわ。
 ありがとうございます神様。サフィア全身全霊幸せになりまっす☆

「サフィア、私の愛する騎士団員達に挨拶に行くぞ」

「はい、アルガス(旦那)様」

 愛するという言葉は出来ればわたくしだけに言ってほしい言葉ではありましたが、騎士団員達にも無償の愛を捧げる、ラブ野郎なアルガス様もス・テ・キ。
 アルガス様は誰からも好かれる方だから多くの女性ファンがいて、きっと数多の女性に嫉妬されていじめられる未来が想定されるけれど、ラブパワーで乗り切ってみせるわ。
誰も愛の前では無力。でも愛の力で人は幸せになれるのよ。これを愛の法則とわたくしは名づける。

「皆、丁度訓練所で剣の稽古に励んでいる所なのだ。サフィアの力が必用になる」

「まぁ! そんなわたくしごときが、力になれるのですか?」

 勿論アルガス様の為なら一肌と言わず何肌でも脱いで、すっぽんぽんになるまで頑張りますわ。
 これが結婚前(確定)初の共同作業なのね。
 ここで、わたくしがどういう行動に出るかで、今後の二人のラブストーリーに変化が生じる。
 サフィア、お前を嫁にもらって本当に良かった。抱きしめ合う二人。これはかなりのハッピーエンドね。
 尚バッドエンドは……サフィア幻滅した俺と別れよう……。
 NO! それだけはダメだわ! なんとしても避けなければ。

「ここが訓練所だ」

 2階の中庭を回り混んだ先に、お城に沿うようにして塔が建っていました。
 塔と城が石段で繋がっており、わたくしはアルガス様の後を不器用な女の子風に着いていきました。
 きゃっ、足くじいちゃいそう。
 サフィア、大丈夫か。おんぶするかい?
 え、ええ。よろしいですの? なんてグフフ。

「マイスイートハニーボーイ達。お疲れちゃん」

「え……」

 アルガス様が開けた鉄扉の中にいたのは14,5才くらいの少年達で模造の剣らしきものをふるっていました。
 そして何より驚いたのは、アルガス様のキャラが急にチャラくなった事でした。

「よく頑張ったねーバスター。いい子ちゃんだぞぅ」

「へへっ、ありがとう! 騎士団長」

「大胸筋が発達してきたんじゃないか?」

「うん、喋れるようになったよ見てて。ほらっ」

 少年がそう言って上半身裸になると、ぴくんぴくんっと大胸筋を痙攣させる。

「騎士団長いつもありがとうだって!」

「激カワッ! なにそれ嬉しすぎー」

 え……、ちょっとどういう事なのかしら……。
 アルガス様はこんなチャラい人じゃなかったはず……。
 はっ!? そうね、そういう事ね。
 子供目線に立っているのね。
 お父さんという事ね。
 素晴らしいわアルガス様、自分を捨てて少年達に合わせているのね。

「団長その誰っすか」

 生意気そうな顔を張り付けた金髪小僧がわたくしを指差す。

「しかもだし」

 殴りてぇー、そう思いましたが笑顔で言う。

「こんにちは。可愛いのねー。お姉さんは今日からバブルブルグ騎士団専属聖女になったサフィアって言います。みんなにとってお母さんのような、お姉さんのような存在になれるよう頑張るからよろしくね!」

 好感度抜群のお姉さんスマイルを浮かべると少年が

「なんか笑顔キモい」

 殺してぇー。でもダメだわ、子供の言う事だもん、そしてわたくしは聖女、旦那様の部下達を命をはって守る存在でなければだわ。

「本当に口が達者で可愛いわ。わたくしこんな弟が欲しいと思っていた所なの」

「おお! 解ってくれるのか、さすがサフィアだ! 騎士団一番の問題児だが、そのひねくれた性格とツンデレ感から孤高の少年騎士と言われているモスクの良さが解るとはさすが専属聖女だ」

 やっぱり問題児だったのかてめぇーは! そう思いましたが、笑顔で答えます。

「そんなに褒められると照れますわ。やっぱりアルガス様とわたくしは考え方が瓜二つなのですね」

 いい家庭が築けそうですわ、と微笑んでいると

「実はモスクは元孤児でね。村で行われた武術大会で優勝した実績があり、わたしがスカウトしたんだ」

 余計な事をしやがりましたわね、とは口に出せずわたくしは笑顔で
 
「そうなのですね! 凄いわモスクくん!」

 と、糞餓鬼の頭を撫でます。

「まぁ、ただ相手ぶん殴っただけだよ。それよりちぃせえ胸。お前、本当女?」

 ――本当可愛くねぇー、吊るしてぇー、魔物のエサに丁度いいんじゃねぇのこのクソ餓鬼。

「サフィアがモスクを気に入ってくれて良かった。他の騎士団員達もまだ未成年だから家から通っているんだが、モスクは家族がいないから訓練所に寝床を作らせてもらっていてね。住み込みで騎士を目指しているんだ。手が空いた時でいいのだがたまにモスクの様子を見に来て欲しいんだ」

「えぇー!?」

 無理です、という言葉が出てきませんでした。
 愛の共同作業の出鼻は見事に挫かれてしまいましたが、それも人生なのだと割り切る事にします。
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