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一章

一話 一重おばちゃん転生する。

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「う、うーん……」

 目が覚めて身体を伸ばす。何だか身体が軽い、若いころに戻ったようだ。
 手術成功したのね、もしかしたら二重になってたりして、とほのかな期待を抱いたけれどその期待はすぐにへし折られる。

「……えっ、ここ何処?」

 レンガ造りの温もりのある建物。私の住んでいた世界では見た事のない植物が飾られている。
 ベッドから身体を起こすと、大分年期の入ったくすんだ木製の床で何やらモフモフした生き物が右往左往していた。
 その生き物は、私の顔を見るなり飛びついてくる。

「きゃっ!? ちょっと何、どうしたのよあんた、うふふっ」

 ペロペロと顔を舐めてくる。小型犬のようにも見えなくはないけれど犬とは違って顔はまん丸だ。
 フワフワとしていて意外と軽い。ぺちゃっと潰れた鼻に、どんぐりのようにまん丸な瞳をテカテカと輝かせている。
 お尻についた尻尾を振っている様は犬のようなんだけど、どちらかというと顔は狸っぽい。
 その見知らぬ獣は興奮気味に私の膝の上で何やら鳴いている。

「ククククッー、クルックルッククー」

 聞いた事がない鳴き声だ、そして何処か野性的。
 ここは何処で、私は誰? 記憶喪失状態でぼんやりとしているとガバッと扉が開く。

「ラベル、いつまで寝てるんだい!! あんたって子は、薬師学校を卒業したと思ったら婆ちゃんの薬屋を継ぐんじゃなくて、フラフラ遊び歩いてばっかりで、今日もお得意のお昼迄寝かい!」

 威勢の良い白髪の女性が大声で私にそう言う。ラベル? 薬師学校? 何のことかしら、理解が追い付かない。

「あの、ここはどちらで?」

「こんの、馬鹿孫娘が!!」

 部屋に罵声が轟く。凄いパワフルなお婆さんだなとたじろいでしまう。

「あんた自分の部屋も解らないのかい! ったく、遊び歩いてばっかりいるもんで。ほらいつまでも寝てないで、とっとと起きな!」

 そう言ってお婆さんは掛布団をはぎ取ると、階段を駆け下りていく。
 一体何が起こったか解らない私は呆然としながら、謎のモフモフ生物の頭を撫でる。

「クククッ、キュククッ」

 と、嬉しそう? に鳴いている。ふと、ピピッと何かの効果音がなる。
 私の視界にステータスの文字が浮かび上がる。

 ――何これ、異世界転生みたい。

 私は好奇心で空間に浮いている"ステータス"の文字をタッチする。
 ピピッと効果音が鳴って画面が切り替わる。

 名前 ラベル・リリカル
 年齢 18歳
 職業 薬師(見習い)
 学歴 ムールンベルク薬師育成学校卒業
 
 ラベル・リリカル……。これが転生後の私の名前。しかも年齢は18歳、どうりで起きた時に身体が軽かったわけだわ。
 さらに、ステーテス画面をスクロールしていく。

 レベル1
 
 HP 12
 MP 10
 腕力 2
 守備力 3
 知性 50
 運 1

 この子、運と腕力と守備力は低いけれど、知性はかなり高い。
 確かこういう異世界物の薬師が薬の材料とする植物は数万と種類があるはずだから、知性は高いに越した事がない。
 私は、気分が高揚している事に気づく。まさか、自分が転生するなんて、しかも薬師として。
 そもそも私が薬剤師になったのは漢方マニアだったからだ。もう少し頭が良ければ本当は漢方専門の医者になりたかった。
 薬剤師でも漢方を扱う事があるのでそれはそれで楽しかったのだけれど……。
 しかし、薬師に転生するなんて私としてはかなりの幸運だ。
 これが女戦士とかに生まれ変わっても、前世の記憶と知識は全く役に立たなかっただろう。

 そして肝心のスキルね。私は更にステータス画面をスクロールしていく。

 創薬 LV1
 素材鑑定 LV1

 キター! 創薬スキル。これよこれ、やっぱ薬師には創薬ね。親切な事にスキルレベルの横に?マークがある。これは恐らくヘルプ機能だなと思い、目の前に浮かんでいる?を指でタッチする。
 ピピッ、と画面が切り替わって創薬スキルの詳細が表示される。

 ※創薬 この世界のあらゆる植物を用いて薬を作る事が出来るスキル。スキルレベルによって製造出来る薬が増えます。またスキルレベルによって未知の追加効果が! こちらは後程のお楽しみに! ちなみに、レベル1のあなたはまずレギュラーポーションから挑戦してみましょう!

 なるほど、私はまだレギュラーポーションしか製造出来ないんだ。それにしても未知の追加効果ってなんなのかしら、匂わせ女みたいな匂わせぶりね。気になるわ。
 そして気になっていた、素材鑑定のヘルプ画面を開いてみる。

 ※素材鑑定 この世界に存在するあらゆる植物の効果・効能を見極める事が出来る。またその植物が良質な素材なのかも一目で解る。加えて、その素材がどんな薬になるかの情報も知る事が出来ます。
 更にスキルレベルが上がる事で未知の追加効果が増えていきます。こちらは後程のお楽しみに!
 
 やはり匂わせ女解説なのね。まぁお楽しみはとっとく派だから、こういうノリは嫌いではないけれど。
 それにしても、めっちゃ良スキルじゃない。一重おばちゃん大勝利ね。

「ふふふふっ」

 思わず笑いが漏れる。めでたいではないか。いや、でも転生したって事は私死んでるのか……。それは決してめでたくはないな。
 それにしてもあのイケメン医師め、手術を失敗したって事だな。

「ラベル!! あんたいい加減に降りてきなさい!」

 お祖母さんの怒声が下から聞こえてくる。

「はーい!」

 私は膝の上でウトウトしていたモフモフ生物を床に降ろすと、階段を駆け下りたのだった。
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